豚熱感染イノシシ 「西進」阻止へ知恵絞れ

 豚熱に感染した野生イノシシの発見が西日本で相次ぎ、養豚産地が警戒感を強めている。感染拡大を防ぐため農水省は、経口ワクチン散布などの対策を進めるが、十分抑え込めているとは言い難い。現行対策を検証し、再検討する必要がある。

 飼養豚での豚熱は2018年9月、岐阜県で26年ぶりに発生した。その後、隣県や関東などに広がり、2年余りの間に全国で59例を確認。19年10月に豚へのワクチン接種を始めて以降は発生は大きく減り、今年度に入ってからは1件にとどまる。だが、油断はできない。ワクチン接種で十分な免疫を獲得できる豚は8割程度で、感染リスクは完全にはなくならない。豚熱の終息には、感染の温床となる野生イノシシ対策が欠かせない。

 野生イノシシの感染をどう封じ込めるか。捕獲の強化と同時に同省が進めてきたのが、経口ワクチンの散布である。野生イノシシが好む香りのするワクチン入りの餌を土中に埋め、食べさせて感染を防ぐ。

 同省によると、19年3月に岐阜、愛知両県で散布を開始。散布数は9月現在で23都府県約60万個に上る。同省が力を入れてきたのが、「ワクチンベルト」と呼ばれる方法だ。中部地方を取り囲むように、野生イノシシ向けに、経口ワクチンをベルト状に散布する。東日本と西日本の2本のベルトで東西から挟み込み、ベルトの外側に野生イノシシが移動し、豚熱ウイルスを拡散するのを防ぐ。「防疫帯」などとも呼ばれている。

 だが、野生イノシシの感染確認は今も続き、拡大に歯止めがかかったとは言えない。最近気掛かりなのが、近畿地方で発見が相次いでいることだ。10月14日の奈良を皮切りに、29日の大阪、30日の和歌山と、これまで確認されていなかった3府県で立て続けに見つかった。

 西日本では当初、三重、福井、滋賀の3県を貫くようにワクチンベルトを敷いた。だが、その外側で感染イノシシが見つかりベルトも西側へ移動。現在のベルトは、京都・大阪と兵庫との府県境まで後退している。

 現在のベルトも近いうちに後退を余儀なくされる──。そんな懸念が早くも出ている。新型コロナウイルスの影響で経口ワクチンの輸入が一時的に停止。ワクチン散布が遅れ、現在のベルトの完成が夏から秋にずれ込んだためだ。北海道大学大学院の迫田義博教授は日本農業新聞の取材に「(現在のベルトより)さらに西側で経口ワクチンを散布するなど対策の再検討が必要ではないか」と指摘する。

 飼養豚が感染すれば、農家はもちろん地域経済も大きな打撃を受ける。感染イノシシに限っても影響が出る。見つかっていない兵庫県ではボタン鍋が冬の名物。もし見つかれば風評を招き、観光の足かせにもなりかねない。感染イノシシのこれ以上の「西進」をどう食い止めるか。同省や自治体、専門家など関係者で知恵を絞ってほしい。
 

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