我田引水
2021年02月28日
我田引水。官邸の政策会議の議事録で、一般企業の農地所有を解禁したい人たちの発言を読むと、そう思えてならない▼昨年末の国家戦略特区諮問会議では、兵庫県養父市で認めている農地所有特例の扱いを議論。竹中平蔵パソナグループ会長ら民間メンバーは全国展開を強硬に主張した。「大成功」というのが根拠である▼本当か。6社が農地を取得したが、経営面積のほとんどがリースで所有は7%。しかも1社は休業中だ。民間メンバーは耕作放棄や産廃置き場になっていないと強調するが、自ら望んだ特区なのだから、そうならないよう同市が最大限努力するのは当然であろう。管理された実験室と同じである▼特例は2年の延長で決着。主戦場は規制改革推進会議での農地所有適格法人の要件を巡る議論に移った。論点は一般企業による経営支配と株式上場を認めるか。農業関連法人からの意見聴取では慎重論が相次いだ。それでも農業分野の座長、佐久間総一郎日本製鉄顧問は、まとめの発言で株式上場の重要性を指摘した▼竹中氏は、昨年4月に出した共著『日本の宿題―令和時代に解決すべき17のテーマ』に「企業の農地所有を認める」と書き、前々から答案は作成済み。しかし正答を決めるのは政府である。菅首相のブレーンとされるが、忖度(そんたく)は御法度。
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左右とも底に穴が開いた革靴
左右とも底に穴が開いた革靴。あしなが育英会の昨年度の活動報告書に写真が載っていた。病気などで親を亡くした子どもたちを、奨学金で支える民間非営利団体である▼同会から緊急支援金を受け取った奨学生の親から届いた。添えられた手紙には、そのお金で靴を買ったとあり、それまでは「娘もわが家の家計を理解しているので(略)ガムテープを貼って履いていました」▼緊急支援金は全奨学生に、昨年2回給付した。コロナ禍で収入が減り、食費や光熱費も払えず、人生を悲観する保護者が出始めていた。経済格差は教育格差を生み、将来の所得格差をもたらす。菅首相は国民にまずは「自助」を求めたが、その条件を整えるのが政治の仕事である。街頭募金ができない中、同会は寄付を呼び掛け、総額が前年度を上回った。他にも各地で、食の支援を含め、多くの「共助」が生まれた▼ふたり親を含め、政府は低所得の子育て世帯に特別給付金を支給する。「命と暮らしを守り抜く」。首相はそう表明している。子どもの状況に応じて継続的に支援してほしい▼子どもの7人に1人が貧困状態にある。子どもたちが、衣食足りて、安心して勉学に励めるよう、もっと「公助」を、平時から。そう望みたい
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2021年04月14日

霞が関から新動画 農水省職員・人気ユーチューバー復活
動画投稿サイト・ユーチューブの農水省公式チャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で一番人気のコンビ「タガヤセキュウシュウ」が再始動する。九州農政局の若手2人で結成し、ばずまふ最多の再生回数を誇るが、1人が東京の本省に異動となり、離れ離れに。だが4月から“相方”も東京に異動。8日、活動再開を報告する動画を投稿した。
コンビは九州農政局で同僚だった野田広宣さん(27)と白石優生さん(24)が2020年1月に結成。同年3月、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ花きの消費拡大を呼び掛ける動画を投稿すると、時間がたつに連れて2人が花に埋もれていく演出が話題を呼んだ。再生回数は88万回で、ばずまふの400本超の動画の中で最も多い(21年4月現在)。
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2021年04月09日

[未来人材プラス] キュウリで独立1年 部会平均収量2倍 技術者の経験生かす 佐賀県武雄市 斉藤義和さん(38)
佐賀県武雄市の斉藤義和さん(38)、圭子さん(38)夫妻は、2019年に就農してキュウリ栽培を始めた。独立1年で収量は、部会平均の2倍に当たる10アール当たり40トンを実現。エンジニアだった経験を生かし、環境制御技術を積極的に導入している。若手農家との連携強化にも意欲的だ。
義和さんは福岡市出身。大学卒業後、福岡県でコンピューターソフトの開発・販売会社に就職した。
11年に圭子さんと結婚。エンジニアの知識を身に付け、車のディーラーに転職して愛知県などで働いた。「仕事を早く終えても、決まった時間は机の前にいなければならず、拘束されるストレスが強かった」と、働き方に疑問を強めていった。
そのころ武雄市でキュウリ農家を営む圭子さんの実家では、施設の老朽化が問題化していた。農作業の手伝いを重ねるうちに「目指す生き方に合うのは、農業ではないか」と思うようになった。
17年に夫妻はJAさがトレーニングファームに1期生で入校。圭子さんの父が「就農するなら環境制御などの新技術を学ぶべきだ」と後押しした。最先端の栽培方法を取り入れた模擬経営では、管理ミスで3分の1が枯れた。それでもキュウリで「8割ほど思い通りにできる」と実感するまで技術力を高めた。
卒業後、老朽化した施設に替えて10アールのハウスを建設した。研修時代に知り合った大分県の企業に依頼し、独自の環境制御システムを導入。温度や土中の窒素濃度など複数項目を端末一つで管理する。安定供給を続けて初年度の売り上げは、1000万円に達した。
所属するJAみどり地区施設きゅうり部会では新規就農者が増えている。義和さんは若手農家と勉強会を頻繁に開く。施設のトラブルも知識を生かして対応し、周囲から頼りにされている。
目標は雇用を伴う規模拡大だ。「田舎でも大きなビジネスができるのが農業の魅力」と語る。
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2021年04月15日

東日本各地で凍霜害 雌しべ枯死広範 山形・サクランボ
先週末の関東から東北にかけての広い範囲で発生した冷え込みの影響で、果樹を中心に各地で凍霜害が出ている。特に国内生産量の7割を誇る山形県のサクランボでは広い範囲で雌しべが枯死し、作柄への影響が懸念されている。
山形県天童市の大町さくらんぼ園では「紅秀峰」を中心に被害を受けた。武田章代表は「近年ない規模での凍霜害。生育が前進し、花が咲きかけていた」と話す。防霜ファンを回したが、氷点下4度近くまで冷え込み、被害が避けられなかった。「昨年はコロナ、今年は凍霜害と生産者にとっては厳しい年が続く」と嘆く。
十分な対策も…サクランボ直撃 想定外の低温 肩落とす
全国随一のサクランボ産地である山形県では、低温による凍霜害で、生産者が悲鳴を上げる。白い花の中、緑色に伸びているはずの雌しべが茶色に染まり、枯死が相次いで確認された。産地は残る雌しべを守り、確実に受粉できるように対策を呼び掛ける。(高内杏奈)
残った雌しべ「受粉確実に」
出荷量が上位の東根、天童、寒河江の各市では、3月から気温が高く降水も少なかったため、サクランボの発芽は平年より5日程度早まっていた。10日から11日未明にかけて最低気温がマイナス4度近くに下がり、長時間の低温が影響。開花直前という最も霜に弱い時期に低温・降霜が重なり、被害が相次ぐ事態となった。
JAさがえ西村山の秋場尚弘さくらんぼ部会長は「ここまで気温が下がるとは思わなかった」と肩を落とす。秋場部会長は、約50キロの収穫を見込む木で雌しべの枯死を確認。「収量は半分あるかどうか心配。ここしばらく日中の気温も低い。例年は15度程度だが、10度を下回る日が続いている。今夜も心配で眠れそうにない」と打ち明ける。 県全体の雌しべの枯死率は主力「佐藤錦」が20~60%、大粒の晩生「紅秀峰」は40~80%に達する。特に「紅秀峰」は晩生ながらも他品種より発芽が早いため、降霜の打撃を大きく受けている。
凍霜害対策として、樹上からマイクロスプリンクラーなどで連続散水し、凍るときに放出する熱を利用する散水氷結法がある。東根市で1・2ヘクタール栽培する岡崎貴嗣さん(47)はこの方法で対策を立てていたが、それを上回る低温で雌しべの枯死が確認された。
同市は昨年、新型コロナでサクランボ狩りに来る観光客が激減した。だが、ふるさと納税などで着実にファンを獲得してきた。岡崎さんは「来年も買うと言ってくれた消費者を裏切らないよう、残った雌しべの受粉を確実にしたい」と人工授粉の徹底で着果率を高めることを誓った。
JAさがえ西村山は14日に緊急会議を開いて被害状況を把握。生産者に、ちらしなどで凍霜害対策と人工授粉の徹底を呼び掛けることを確認した。
福島県では梨や桃などの果樹とアスパラガスで被害が出た。長野県では、11日現在で10市3町2村の農作物被害が、2億4220万円に上った。松本地域ではリンゴや梨などの果樹やアスパラガスに被害が出た。
栃木県によると、13日現在、梨で約5億4938万円の被害が発生。芳賀町や高根沢町など3市3町で花への低温障害が生じた。群馬県でも14日現在各地で梨、リンゴ、柿、サクランボの花が枯死する影響が出た。
新潟県内では新潟市など9市町で果樹の凍霜害が発生。13日現在、梨を中心に西洋梨や柿、桃など約400ヘクタールで花芽の褐変が確認されている。
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2021年04月15日
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉。女性参政権の必要性を訴える「婦選の歌」の一節である。与謝野晶子が作詞し、1930年に発表された▼女性を含む普通選挙の実施はその16年後、敗戦翌年4月10日の衆院選である。きょうで75周年。39人の女性議員が誕生した。紅露みつもその一人。学徒出陣で息子を失い、反戦への強い思いで立候補した。『新しき明日の来るを信ず―はじめての女性代議士たち』(岩尾光代著)で知る。「あとにつづくお母さんたちにこの悲しみをさせてはならない」。紅露の言葉だ▼榊原千代は女性差別に憤り「政界と家庭の浄化」を訴えた。暴力で家庭に君臨したり、愛人を妻と同居させたりする男性も少なくない状況に我慢ならなかった。同書にそうある。人口の半分は女性。その意見を政治に反映させる一歩だった▼その後の歩みは遅い。国会議員に占める女性の割合は、今年1月が日本は9・9%(衆院)で190カ国中166位。候補者男女均等法が3年前に施行され、男女数の「できる限り均等」を目指す▼「婦選の歌」には〈男子に偏る国の政治 久しき不正を洗い去らん〉との歌詞も。秋までに衆院選がある。「政治を洗濯」できるか。各党が問われる。
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2021年04月10日
四季の新着記事
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる▼「北の国から」(フジテレビ)で主役を演じ、先月88歳で亡くなった田中邦衛さんのせりふが、胸を打つ。「金なんか望むな。倖(しあわ)せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度には充分毎年喰(く)わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」(『北の国から2002遺言』)▼北海道勤務時代、舞台となった富良野市に何回足を運んだろう。東京が嫌になった男が故郷に帰って、自然の中で生きる。脚本を書いた倉本聰さんから、「一番情けない」印象だったことで主役の黒板五郎役に選ばれた。あまりにぴったりの役だった。今も憧れる▼昭和という時代がどんどん遠ざかる。大きな足跡を残し、訃報が続く。NHK連続テレビ小説「おしん」の脚本を書いた橋田寿賀子さんが、今月亡くなった。享年95。貧乏のどん底からはい上がる女性一代記の名は、「辛抱のしん」などから生まれたと聞く。両親と別れ、筏(いかだ)に乗って最上川を下る場面は、涙が止まらなかった▼きょうは遺言の日。どんな言葉を残そうかと考えながら、お二人のご冥福を祈る。
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2021年04月15日
左右とも底に穴が開いた革靴
左右とも底に穴が開いた革靴。あしなが育英会の昨年度の活動報告書に写真が載っていた。病気などで親を亡くした子どもたちを、奨学金で支える民間非営利団体である▼同会から緊急支援金を受け取った奨学生の親から届いた。添えられた手紙には、そのお金で靴を買ったとあり、それまでは「娘もわが家の家計を理解しているので(略)ガムテープを貼って履いていました」▼緊急支援金は全奨学生に、昨年2回給付した。コロナ禍で収入が減り、食費や光熱費も払えず、人生を悲観する保護者が出始めていた。経済格差は教育格差を生み、将来の所得格差をもたらす。菅首相は国民にまずは「自助」を求めたが、その条件を整えるのが政治の仕事である。街頭募金ができない中、同会は寄付を呼び掛け、総額が前年度を上回った。他にも各地で、食の支援を含め、多くの「共助」が生まれた▼ふたり親を含め、政府は低所得の子育て世帯に特別給付金を支給する。「命と暮らしを守り抜く」。首相はそう表明している。子どもの状況に応じて継続的に支援してほしい▼子どもの7人に1人が貧困状態にある。子どもたちが、衣食足りて、安心して勉学に励めるよう、もっと「公助」を、平時から。そう望みたい
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2021年04月14日
なんという精神力だろう
なんという精神力だろう。世界が見詰めるひのき舞台での堂々たる姿が、誇らしい▼米ジョージア州オーガスタで開かれた、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手である。日本男子のメジャー大会優勝は初めての偉業。優勝者のみに与えられるグリーンジャケットに袖を通した時の顔には、大仕事をやり遂げた満足感が満ちていた▼最終日首位でのスタートだったが、決して楽なゲームではなかった。勝負どころの15番ホール。当たりが良過ぎた1打は、無情にもグリーンを越えて池に。並の選手であれば、ずるずると後退する場面である。気持ちを切らさず踏ん張り、栄冠を手繰り寄せた。ハラハラドキドキの連続は、テレビ観戦しているこちらの眠気をも奪った▼松山市生まれの29歳。アマチュアだった東北福祉大学(仙台市)の学生の時に、初めて出場権を得たが、大会目前で東日本大震災が発生。迷った末に、被災者の声に押されて出場した。苦節10年。あの時背中を押してくれた、東北への感謝は忘れない▼コロナ感染が広まる中、高齢者へのワクチン接種が始まった。そんな初日の朗報は、沈みがちな心に勇気と感動をもたらす。おめでとう、そして、ありがとう。
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2021年04月13日
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝。その生涯を一人芝居で伝え続ける俳優の水澤心吾さんが、新作「賀川豊彦物語」を完成させた▼東京・新宿の淀橋教会で初披露の舞台を見た。新型コロナウイルス対策で限られた人だけの催しだったが、賀川の魂が乗り移ったかのような熱演に引き込まれた。この協同組合運動の巨人の根っこにはキリスト教の信仰があると改めて実感させられた▼水澤さんは2007年の初演以来、「決断・命のビザ~SEMPO杉原千畝物語」の公演を続けてきた。国家の命にそむいても、目の前で救いの手を伸ばす人々の命を優先した杉原は、日本よりも海外の方が「東洋のシンドラー」として知られる。米国や勤務したリトアニアなどで公演し深い感動を与えた▼賀川の存在を意識したのは3年ほど前という。「個の力ではなく、協同組合で理想社会を追求した。実践力がすごい。若い世代に知ってほしい」。賀川は「愛は私の一切である」との言葉を残している。朗読劇を見終わって、助け合いは〈助け愛〉と確信した▼協同組合に新人が仲間入り。百の座学より先達(せんだつ)の息吹に触れるのが響こう。コロナ禍が落ち着いたら、朗読劇を体感してはどうか。
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2021年04月11日
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉。女性参政権の必要性を訴える「婦選の歌」の一節である。与謝野晶子が作詞し、1930年に発表された▼女性を含む普通選挙の実施はその16年後、敗戦翌年4月10日の衆院選である。きょうで75周年。39人の女性議員が誕生した。紅露みつもその一人。学徒出陣で息子を失い、反戦への強い思いで立候補した。『新しき明日の来るを信ず―はじめての女性代議士たち』(岩尾光代著)で知る。「あとにつづくお母さんたちにこの悲しみをさせてはならない」。紅露の言葉だ▼榊原千代は女性差別に憤り「政界と家庭の浄化」を訴えた。暴力で家庭に君臨したり、愛人を妻と同居させたりする男性も少なくない状況に我慢ならなかった。同書にそうある。人口の半分は女性。その意見を政治に反映させる一歩だった▼その後の歩みは遅い。国会議員に占める女性の割合は、今年1月が日本は9・9%(衆院)で190カ国中166位。候補者男女均等法が3年前に施行され、男女数の「できる限り均等」を目指す▼「婦選の歌」には〈男子に偏る国の政治 久しき不正を洗い去らん〉との歌詞も。秋までに衆院選がある。「政治を洗濯」できるか。各党が問われる。
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2021年04月10日
時は、米自由化問題に揺れていた頃
時は、米自由化問題に揺れていた頃。その人の話を聞きたくて、舞台開演前の楽屋に押し掛けた▼劇作家で小説家として名をはせていたが、米問題の大家であった。しかも自由化反対の急先鋒(せんぽう)。ついでながら本紙の厳しい読者でもあった。約束の1時間、とにかく語る語る。その熱量と知識量に気おされた。きょうが忌日の井上ひさしさんである。没して11年。警告はいまに生きる▼創作の根っこに「米」や「農村」があった。『吉里吉里人』執筆の動機を「このままでは、日本の農村は壊滅してしまう」と考え、「現代版農民一揆を書いた」とある(『コメの話』)。筆先は、「大旦那アメリカからのご命令」をひたすら拝聴し、つき従う日本にも向けられた。「わたしたちは本当に自立しているのであろうか」と▼自ら考え、行動する力を磨くために日本語を鍛え直せとも言った。「日本語という思考の根拠地」をなくした国民に未来はないという警句を胸に置く。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに…」。井上文学の神髄である▼米と日本語を粗末にするこの国の行く末を案じた作家のことを思い起こす時代が、再び巡って来た。
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2021年04月09日
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた。ビギナーズラックは、訪れなかった▼当時、お世話になっていた日系2世のおばさんは、そのスロットマシンで遊ぶ休暇を楽しみに毎日農園で働いていた。ラッキー7を求め、全米、いや世界から観光客が押し寄せ、歓喜と落胆が不夜城の街を支配した。おけらになろうが、大金持ちになろうが運次第▼人間界はそれで済むが、ウイルス界となるとそうもいかない。ウイルスが生き延びるため変異を繰り返すことは、新型コロナで学習したばかり。ウイルスもまたスロットマシンのように、レバーを引くたびに遺伝子の配列が変わる。多くは「小当たり」「中当たり」だが、問題はいつ人類を危機に陥れる「大当たり」が出ても不思議でないこと▼そう警告したのは、8年前に刊行された『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル著)。同書は、「スーパーウイルス」を筆頭に「気候変動」や「食料危機」などを挙げ、「滅亡の淵」に立つ人類に最悪の事態に備えよと呼び掛けた▼変異を繰り返す新型コロナウイルスが「大当たり」を引き当てる前に、人類の英知は働くのだろうか。運を天に任せるギャンブラーの気分である。
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2021年04月08日
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」。新人の皆さんに掛ける言葉など持ち合わせていない▼新米時代の失敗談は数知れず。畜産の取材で繁殖農家の言う「子取り」が分からず、「小鳥を飼ってるんですか」と聞き直したり、国産レモンの栽培農家に「立派なレモンですね」と感心したら、「それは早生ミカンだ」とあきれられたり▼自戒を込めて言うが、「あいさつ」と「質問」は思いの外、君を高めてくれる。あいさつは、最も短く有効なコミュニケーション手段だ。タレントの松村邦洋さんの金言に「あいさつにスランプなし」がある。仕事はうまくいかなくても、気持ちを込めたあいさつはできる。いいあいさつには、人と運気を呼び込む力があると信じている▼質問力も侮れない。これができれば、仕事の質や人間関係は深まる。「見ることは愛情で、聞くことは敬いだ」とはコピーライター・糸井重里さんの言葉だ。「聞かれるだけで、相手はこころを開いていく」。その通りだ。フランスの哲学者ボルテールは、人の判断基準を「答え」より「問い」に置けと教えた▼元気よくあいさつして、分からないことは何でも聞こう。小学生並みと笑うなかれ。1年後にその成果は必ず出る。
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2021年04月07日
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし。いや、いました。麻生太郎副総理が▼よく失言でたたかれるが、自分に正直過ぎるからポロリと本音が漏れるのではないか。例えば、若者と新聞に関するこの発言。「10代、20代、30代というのは一番新聞を読まない世代だ。新聞を読まない人は全部自民党(支持)であり、新聞を取るのに協力しないほうがよい」。3年前、自派閥の会合でそう語った▼若者の保守化と新聞購読の相関関係は分からぬが、いまや新聞離れは若者に止まらない。10年で約1400万部、この1年だけで約270万部も減った。麻生理論でいけば、自民党の支持はいよいよ盤石であろう。だから数々の不祥事も余裕で受け流しているのか▼今日は日付に絡めて「新聞をヨム日」。紙離れの中、援軍もいる。昨年亡くなった英文学者の外山滋比古さんが提唱したのが「新聞大学」。以前、小欄で紹介すると、「ぜひ、入学したい」と問い合わせがあった。「新聞大学」とは、自宅にいながら毎日、最新情報が得られる新聞こそ最良の知のテキストだということ。いささかこそばゆいが、糧にしたい▼当欄も若者からご年配まで入学してもらえるような「コラム学科」でありたい。
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2021年04月06日
イソップ寓話に「ガチョウと黄金の卵」がある
イソップ寓話に「ガチョウと黄金の卵」がある。貧しい男の飼うガチョウがある日、金の卵を産む▼それから毎日1個ずつ産み、男は貧乏の身から脱出した。だが1日1個しか産まないのが物足りなくなる。腹の中に金塊があるに違いないと妄想が膨らみ、ついには腹を切り裂いてしまう。ガチョウは死に、男は元の貧乏に戻った▼欲張るとろくなことはないの教えはいくつもある。それでも抑えられないのが人のさがというものだ。立川談志さんは「落語とは人間の業の肯定である」との名言を残した。熊さん、八っつぁんの業なら許されても、新自由主義の格差拡大はさすがに抑制の空気が本家の米国にも生まれている▼この思想に染まった経済政策に欧米が転換し始めたころ、真逆の世界観を信条とした政治家が首相になった。岩手出身の鈴木善幸氏である。「足らざるを憂えるより、等しからざるを憂える」と就任直後の会見で述べた。新自由主義の大家ハイエクを教えていた某教授が「古いこと持ち出すなあ」とぼやいたのを思い出す。地味で根回しを得意とした。今、再評価されていい政治家の一人である▼こちらは渦中のオリンピアン。義母に「金の卵を産む鶏」と褒められたら、皆さんはどう思う。
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2021年04月05日