安倍政権の統治手法 敵性語乗っ取り“力” 経済評論家 内橋克人

内橋克人氏

 安倍晋三首相の2012年12月の再登板以降の連続在任日数が2000日を超えた。5月に小泉純一郎元首相(1980日)を抜き戦前を含めて歴代3位となり、秋の自民党総裁選の連続3選も視野に入れる。森友・加計問題などの一連の不祥事や疑惑でしばしば窮地に立たされながら、なぜ政権を維持できるのか。その統治手法の最たるものが、相手の言葉の真意を入れ替えて突き返す“敵性語”の乗っ取りだ。
 

「真意入れ替え」


 安倍首相は軽やかに「同一労働同一賃金」を口にし、「非正規という言葉を、この国から一掃してまいります」などと公言してはばからない。

 だが、同一労働同一賃金も正規・非正規雇用の問題も時の権力に対峙(たいじ)する“抵抗勢力”が長い時間をかけて勝ち取るべく闘う中で生まれたもので、しかも「いまだ果たせず」の歴史的課題ではなかったのか。いつの間にか、敵と味方、攻守が入れ替わってしまっている。

 権力者の対極に生きる人びとが目指す理想を自らの常套句(じょうとうく)として取り込み、真意を入れ替えて突き返す政治手法といえる。

 「働き方改革」「地方創生」などという珍妙な日本語が、あれよという間に日本全国でおうむ返しに大合唱されるようにもなった。それにつれて安倍氏支持層も厚みを増すという現象が生じた。
 

みせしめ効果も


 第二に、人間の「ソン・トク感情」への訴え掛けを挙げねばならない。例えば沖縄県において今年2月、名護市の市長選挙が行われ、基地反対の先陣を担ってきた3選を目指す稲嶺進氏が敗れ、自民、公明、維新推薦の渡具知武豊氏が勝利した。すると、政府はただちに「米軍再編交付金」の支給を再開し、名護市に対して約30億円の交付を通知した。米軍普天間飛行場の移設に反対する稲嶺市長時代には合計135億円もの支給が停止されたまま放置された。

 政権の意向に歯向かう自治体にはビタ一文カネは出さぬ、という「みせしめ」である。

 名護市辺野古の新基地建設埋め立て予定地に近い久辺3区(辺野古・豊原・久志)では、基地受け入れを巡り賛否が渦巻く。安倍政権は突如、それら自治区に直接、補助金を支給すると伝えた。同制度が急きょ創設されたのは15年末のことだ。政府による基地埋め立て実力行使と軌を一にする。

 町内会程度の小規模な集落に、県や市を飛び越しての直接支給が実現した。ただし、支給の対象は基地受け入れ賛成の2区のみであり、忌避されたのは反対の1区であった。“抵抗”の代償が補助金ゼロの報復である。

 名護市長選の選挙結果も「みせしめ効果」の一つではなかったか。以上は、安倍式統治手法の一つにすぎない。差別政治は何を生むのか──。

 「国を愛する態度を評価する道徳」の授業が中学、高校で始まる。他方で射幸心をあおるカジノ。安倍政権の正体を見抜く眼力はいまだ私たちに残されているだろうか。

<プロフィル> うちはし・かつと

 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。日本放送協会・放送文化賞など受賞。2012年国際協同組合年全国実行委員会代表。『匠の時代』『共生の大地』『共生経済が始まる』など著書多数。

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