農泊と豪華列車 関係人口 農村つなぐ 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 西日本豪雨の週末は大分県宇佐市にいました。現地の河川も増水しましたが大事には至らず、予定されていた大分・安心院グリーンツーリズム(GT)実践大学に参加してきました。安心院GT研究会は23年前に始まり、現在は近隣3市合わせて70戸の農家が修学旅行生を中心に年間1万人を受け入れる日本一の農泊先進地域です。 事例発表で興味深かったのは、農家のお母さんではなく、お父さん3人(全員70代)が「私のおもてなし」と題して登壇したことです。子どもの名前を覚えるのが大変なこと、いい人を印象付けようと笑顔に努めているなど、コミュニケーションに苦労しながらも楽しんでいる様子がうかがえました。子育てを終えて家の中が何となく寂しくなる時期に誰かのホストファミリーになることは、収入だけでなく、日々の暮らしに張り合いをもたらします。

 農泊体験は、食に対する責任感や当事者意識を育み、農業理解につながりますが、子どもだけでなく受け入れ側の心も活性化し、双方に“成長”をもたらしているのでした。

 ところで大分といえば、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」が世界農業遺産に認定されています。

 原木干しシイタケ日本一に加えて、もう一つの日本一は、国の「地理的表示(GI)保護制度」に登録されている「くにさき七島藺(しちとうい)表」です。七島藺の畳はイ草の5、6倍強度があり、前の東京オリンピックでは柔道畳に使用されました。当時は1500ヘクタールを誇る一大産業でしたが、現在生産者は7人。有志で振興会を立ち上げ、産地復活を図ります。この希少な地域の宝に注目したのは、JR九州の豪華列車「ななつ星」。七島藺作家による小物作りワークショップを車内で毎週開催し、国内外の富裕層の乗客が体験しています。懐かしい畳の匂いはアロマとなって車窓の田園風景の記憶と重なるでしょう。

 「ななつ星」が求めている価値と農泊には、どうやら共通点がありそうです。そこにしかない暮らしや文化、地域の個性といった価格競争とは異なる切り口の農業です。

 国土の脆弱(ぜいじゃく)な日本列島で、産地をのみ込む災害や農業被害は恐らく、これからも起こり得ますが、買い手と地域が体験を通して直接つながっていれば、応援や支援をしてくれる「関係人口」は残ります。都市と農村は物流だけではなく、人と人との交流があってこそ、強い農業になるのではないでしょうか。 
 

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