農高生奮闘 世界へ飛躍 金農刺激に 国際研究発表準グランプリ 発展途上国の課題解決へ 湖沼に作物浮かべて栽培 青森県立名久井農高 大平さん、坂本さん
2018年09月18日

ため池での水上栽培実験に取り組む農高生(名久井農業高校提供)

紋付きはかま姿で賞状を受け取り喜ぶ坂本さん(左)と大平さん(名久井農業高校提供)
農高生の活躍が止まらない。青森県立名久井農業高校3年の大平竜福さんと坂本成海さんが、スウェーデンで開かれた国際研究発表大会「ストックホルム青少年水大賞」で、準グランプリに輝いた。湖沼に作物を浮かべて育て、食料生産と水質浄化を同時に実現する研究を発表。金足農業高校(秋田)の甲子園での活躍を横目に英語を練習したという大平さんは「同じ農高生として励みになった。これまでで一番の発表ができた」。地道な実験と、100回以上の練習が実を結んでの受賞だった。
「NEW GREEN REVOLUTION(新・緑の革命)」と題して発表。生活排水などが流れ込んだ湖沼の水質改善のために、植物を使うシステムを提案した。
トウモロコシやサヤインゲン、花壇花のインパチェンスなどを、水面で水耕栽培のように育てて、水中の過剰な養分を吸収させる。有毒なアンモニアを硝酸態窒素に変える硝化菌、植物のリン吸収を助ける菌根菌を培地に加えることで、水中の窒素やリンの除去効率を、8割以上高められることを確かめた。「発展途上国で問題となっている、食料不足と水質汚染の課題を両方解決できる」と大平さんは話す。
同校では2013年から、授業の一環で研究を始め、今は大平さん、坂本さんを含む5人で「チームフローラフォトニクス」を結成して取り組む。同県の南部町や五戸町、八戸市の協力も得て、ため池や公園の池で現地試験も重ねた。
発表は英語。参加が決まった6月から8月26日の発表当日まで、2人で録音・再生を繰り返して、聞き取りやすく滑らかに話せるよう練習し続けた。「100回じゃきかない」。最新のデータを得るため、盆休みも返上して実験。テレビで連日報道される金足農高の姿に「僕たちも頑張らなければ。進む方向は違うが、同じ農高生として続きたい」と臨んだ。
表彰式で、準グランプリに「ジャパン」と読み上げられた時は「まずはうれしさよりも驚き。練習した中で一番良い発表ができた。やり切った」(大平さん)と胸を張る。坂本さんも「グランプリには届かなかったが力は出し切った。悔いはない」と笑顔を見せる。賞状は同国のヴィクトリア王女から授与された。グランプリはシンガポール代表が受賞した。
2人は共に農家出身。農業系の大学に進学予定の大平さんは、知識を積んでから実家の水稲とリンゴ経営に就きたいという。実家が水稲と酪農を営む坂本さんは、公務員として地域の農家をサポートする夢を描く。
受賞直後から友人、関係者から祝福のメッセージが相次いだ。2人は「全国の農高生、農家の励みになればうれしい」と口をそろえる。
<ことば> ストックホルム青少年水大賞
毎年8月にスウェーデンで開かれる、「水のノーベル賞」と呼ばれる「ストックホルム水大賞」の高校生部門。水質浄化や水圏生態学など、水に関係した優れた研究成果を挙げた高校生が発表する。22回目の今大会には1万件以上の応募があり、各地域の予選を通過した32校が参加。日本代表校の準グランプリ以上の獲得は、2006年の京都府立桂高校以来。
生産と水質浄化両立
「NEW GREEN REVOLUTION(新・緑の革命)」と題して発表。生活排水などが流れ込んだ湖沼の水質改善のために、植物を使うシステムを提案した。
トウモロコシやサヤインゲン、花壇花のインパチェンスなどを、水面で水耕栽培のように育てて、水中の過剰な養分を吸収させる。有毒なアンモニアを硝酸態窒素に変える硝化菌、植物のリン吸収を助ける菌根菌を培地に加えることで、水中の窒素やリンの除去効率を、8割以上高められることを確かめた。「発展途上国で問題となっている、食料不足と水質汚染の課題を両方解決できる」と大平さんは話す。
同校では2013年から、授業の一環で研究を始め、今は大平さん、坂本さんを含む5人で「チームフローラフォトニクス」を結成して取り組む。同県の南部町や五戸町、八戸市の協力も得て、ため池や公園の池で現地試験も重ねた。
発表は英語。参加が決まった6月から8月26日の発表当日まで、2人で録音・再生を繰り返して、聞き取りやすく滑らかに話せるよう練習し続けた。「100回じゃきかない」。最新のデータを得るため、盆休みも返上して実験。テレビで連日報道される金足農高の姿に「僕たちも頑張らなければ。進む方向は違うが、同じ農高生として続きたい」と臨んだ。
表彰式で、準グランプリに「ジャパン」と読み上げられた時は「まずはうれしさよりも驚き。練習した中で一番良い発表ができた。やり切った」(大平さん)と胸を張る。坂本さんも「グランプリには届かなかったが力は出し切った。悔いはない」と笑顔を見せる。賞状は同国のヴィクトリア王女から授与された。グランプリはシンガポール代表が受賞した。
2人は共に農家出身。農業系の大学に進学予定の大平さんは、知識を積んでから実家の水稲とリンゴ経営に就きたいという。実家が水稲と酪農を営む坂本さんは、公務員として地域の農家をサポートする夢を描く。
受賞直後から友人、関係者から祝福のメッセージが相次いだ。2人は「全国の農高生、農家の励みになればうれしい」と口をそろえる。
<ことば> ストックホルム青少年水大賞
毎年8月にスウェーデンで開かれる、「水のノーベル賞」と呼ばれる「ストックホルム水大賞」の高校生部門。水質浄化や水圏生態学など、水に関係した優れた研究成果を挙げた高校生が発表する。22回目の今大会には1万件以上の応募があり、各地域の予選を通過した32校が参加。日本代表校の準グランプリ以上の獲得は、2006年の京都府立桂高校以来。
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豚コレラ 愛知2例目 監視対象から確認
愛知県は13日、田原市の養豚場で豚コレラの新たな発生を確認したと発表した。県内の豚での感染は6日の豊田、田原両市に次いで2例目。当該農場は、先行して発生が確認されていた田原市の農場と同じと畜場を使っており、監視対象農場となっていた。ただ、同県農政課によると、疑似患畜が確認される前の段階では異常がなかったため、当該農場は所定の手続きを経て、12日に豚をと畜場に出荷していた。
県は12日午後2時すぎ、同市の養豚場から豚に食欲不振などの症状が見られると報告を受けた。家畜保健衛生所による精密検査の結果、13日午前8時、疑似患畜を確認。当該養豚場の飼養頭数は1180頭。同日に殺処分を始め、18日をめどに防疫措置を完了させる予定だ。
今回の発生農場と、6日に疑似患畜が出た田原市の農場は、5キロ以内に位置する。両農場とも豊橋市のと畜場を使っていたため、県は9日、発生農場を監視対象農場に指定していた。
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農水省は「臨床検査や、体温検査など必要な対応をしっかりととっていたのであれば問題ない」(動物衛生課)としている。
現時点の監視対象農場は、愛知県内だけで107農場、全国では11府県、181農場に上る。
田原市の飼養頭数は2016年時点で10万5000頭。市町村別の豚の産出額は88億円で全国10位の産地となっている。
2019年02月14日
「父ちゃん、今年もきれいに咲いたよ」
「父ちゃん、今年もきれいに咲いたよ」。栃木県さくら市の相田ツギさんが、仏壇にそっと手を合わせた▼春の訪れを告げるフクジュソウの花が、今年もツギさんの庭で見頃を迎えた。よわい90。3年前の2月14日、夫の幸吉さんを見送った。親戚から株を分けてもらい、幸吉さんが農業をしながら大切に育ててきた。葬儀の時も、庭に咲く花を摘み、ひつぎの中にたくさんちりばめた▼「この花を見るたびに父ちゃんのことを思い出すよ。気持ちが和むね」とツギさん。太陽に向かって一斉に伸びをするように開く黄色い花たちは、まるで小さなパラボラアンテナ。このアンテナを介してツギさんは天国の幸吉さんと交信する。今では庭が一面黄色に染まるほど広がった。うわさを聞きつけ、市外から見に来る人もいるという▼フクジュソウはキンポウゲの仲間で多年草。葉が伸びるより先に直径4センチほどの光沢のある花を咲かせる。植物学者田中修さんの『植物のかしこい生き方』(SB新書)によると、虫を誘う香りや蜜を出すこともないという。持ち味は「ぬくもり」。太陽の熱を花が吸収し、温かさを求めて虫が集まり、花粉を運んでもらう▼きょうは二十四節気の「雨水(うすい)」。雪から雨に変わり、農耕の準備を始める目安となる。春はもうそこに。
2019年02月19日

[未来人材] 26歳。夫は農家、栄養士の資格生かす 料理で地域おこし 井澤綾華さん 北海道栗山町
北海道栗山町の井澤綾華さん(26)は、地域おこし協力隊で同町の農業振興に携わりながら、管理栄養士の資格を生かし料理研究家としても活動する。レシピ監修やイベントなどを通じ、家庭で簡単に作れる料理を提案。2年前に農家に嫁いでからは、地元JAと料理教室を開くなど、身近な食の専門家として活躍の場を広げる。
出身は札幌市。栄養学を学んだ大学時代、サークルで農家を訪ね、「食卓を支える農業の魅力に気付いた」。1年間休学し、島根県に滞在。6次産業化など農業の支援に携わり、地域おこしのやりがいを実感した。
2016年に同町に移住し、地域おこし協力隊員に就任。学生の農業体験などを支援する。17年には活動を通じて知り合った孝宏さん(30)と結婚。長女の乃々華ちゃんが生まれた。
孝宏さんは、約17ヘクタールで野菜などを栽培する井澤農園の後継者。綾華さんは農園を手伝いながら、料理や地域おこしの活動を続けている。1月にホクレンなどが開いた道産乳製品のイベントでは、チーズなどを使ったオリジナルの料理を披露するステージを担当。調理のこつや食材の栄養を解説し、連日人気を集めた。
地元のJAそらち南の相談を受け、JA特産のトウモロコシ粉「コーングリッツ」の地産地消も後押しする。欧州などでよく食べられているが日本ではなじみが薄いため、家庭料理のレシピを提案。町内で料理教室を開いた。
将来の夢は、農園直営のレストランを開き、地域に人を呼び込むこと。「娘には料理を手伝ってもらおうかと思って。それともトラクターに乗るのかな」。楽しみが増えていく。(石川知世)
2019年02月16日

18年産輸入量105万トン 安価に手当て、簡便性… 冷凍野菜が過去最多
2018年の冷凍野菜の輸入量が105万トンと過去最高を更新した。100万トン超えは2年連続。猛暑や台風などの影響から国産生鮮野菜の市場価格が不安定となる中、安価の輸入物で手当てする動きが強まった。調理の簡便性を求める消費者ニーズから市場が拡大している背景もある。国内の野菜産地は、輸入冷凍野菜の増加に危機感を募らせる。国産を求める声は多く、冷凍野菜市場の拡大に合わせた業務向け野菜の拡大など、国内産地の基盤強化策が重要になっている。
国産の不安定を反映
財務省の貿易統計によると、18年の冷凍野菜(調製品を含む)の輸入量は、前年比4%増の105万2076トン。品目別で増加が目立つのは葉茎菜類だ。ブロッコリーは18%増の5万7330トン、ホウレンソウも14%増の5万1796トンだった。全体の4割近くを占めるジャガイモは1%増の38万1634トン。主力の北海道産の生産量が回復した後も、輸入量は高水準が続いている。
国・地域別に見ると、中国からの伸びが目立ち、7%増の46万3251トンと3年連続で過去最高を更新。米国産は3%減の31万7506トン。市場関係者は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効を受け、「今後は欧州産フライドポテトの輸入が増える可能性がある」と話す。
日本冷凍食品協会は、冷凍野菜が増える要因を「年間を通じて安定価格で販売している点が評価されている」と分析。コンビニやドラッグストアでも扱う店舗が増えているという。「今後も市場拡大が続く」と見通す。
首都圏でスーパーを展開するライフコーポレーション(東京都台東区)も「昨年の(冷凍野菜の)売上高は前年を4%上回った」と話す。都内の別のスーパーでも「春先は10%以上伸びた」と説明する。
一方、国産の冷凍野菜に期待する声も高まっている。ライフは国産にこだわった冷凍野菜を販売している。安心感などから「売り上げは2割近くは伸びている」と手応えを語る。JA宮崎経済連の関連会社で、冷凍ホウレンソウなどを製造販売するジェイエイフーズみやざきの担当者は「天候不順などもあり、増える注文に応えられない状況」と原料野菜の調達に苦心しており、「チャンスを逃さないためにも生産体制の確立が急務」と課題を指摘する。
2019年02月18日
間がいいのか、悪いのか
間がいいのか、悪いのか。総務省が今月から、「統計の日」の標語を募集している。案の定、ネットはざわつく。「お役所が本気出して全力でボケてきたな」。そんなわけはないが、突っ込みどころは多い▼「統計の日」は10月18日。明治初期、農業生産調査などが定められた日にちなむ。1973年に制定され、以来、統計の大切さを標語で呼び掛けてきた。「統計は明るい暮らしの道しるべ」「論より数字 勘より統計」「統計の確かな情報 大きな安心」▼晴れやかな標語が、一連の統計不正で、すっかりくすんで見える。誠に罪深い。いま、ネットに相次ぐ投稿は、辛辣{{しんらつ}}極まりない。「合わぬなら作ってしまえ偽統計」「権力のためなら変えますその数字」「アベノミクス すべての統計自由自在」。大喜利なら「ざぶとん一枚」の声も掛かりそう▼役人の指先ひとつで好不況が操れるなら、これほど恐ろしいことはない。統計の英語訳は、ラテン語の「国家」に由来するという。統計とは一国の土台を成すものである。そこが不正や虚偽というシロアリにむしばまれていては、国という家は立ち行かない▼「正しい統計 間違い認める勇気から」。こんな投稿を採用するぐらいの本気度を政府には見せてほしい。標語は3月31日まで受け付けている。
2019年02月13日
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[活写] 伸ばせ金の芽 ライバルは世界
西洋野菜の一種、チコリの収穫が最盛期を迎えている。30年以上続く国内有数の産地、さいたま市では、浦和軟化蔬菜(そさい)出荷組合チコリー部会の農家3戸が共同で作業している。
キク科の多年性植物で芽を食べる。収穫期は1月下旬から4月上旬。今年は3万本の出荷を見込む。近年は埼玉県さいたま農林振興センターと組み、育て始めを遅くするなど夏の高温を避ける技術も試している。
チコリは輸入物が大部分といわれる。部会長の榎本昇さん(66)は「貿易自由化が進んでも国産の鮮度の良さは強み。違いを感じてほしい」と力を込める。(染谷臨太郎)
2019年02月18日

豚コレラ 一般車両 消毒始まる 愛知
愛知県は豚コレラウイルスの封じ込めのため、田原市の発生農場から半径10キロの搬出制限区域の外でも、一般車両や畜産関係車両の消毒を始めた。県は「口蹄(こうてい)疫レベルの措置」で拡散を防ごうと必死だ。
田原市に隣接する豊橋市では、15日夜から①畜産関係車両の消毒②国道一帯に消毒液を散布③消石灰、または、消毒マットを敷設──を講じる。豊橋市の3カ所に設置した畜産関係車両の消毒ポイントは、24時間体制で稼働する。
作業員によると、週末のため関係車両の数は少ないものの「通過時には必ず立ち寄ってくれる。意識も高まっている」と話す。消毒後は証明書に、どこで何時に消毒したかを明記する。
幹線道路につながる道路6カ所にも、消石灰や消毒マットを設置し、消毒液の散水車も整備した。一般車両も消毒する。
県は16日、発生農場から半径3キロ未満の移動制限区域にある20農場について、立ち入り検査と血液検査の結果、異常はなかったことを確認した。同区域には発生農場を含めて35農場があり、15農場は関連農場として殺処分が進んでいる。
2019年02月17日
佐藤綾音さん(山形)大臣賞 農大校発表会
全国農業大学校協議会は16日、2018年度全国農業大学校等プロジェクト発表会・意見発表会の表彰式を東京都内で開いた。最高位の農水大臣賞に、山形県立農林大学校2年の佐藤綾音さんを選んだ。佐藤さんは「食品残さの飼料化で酪農経営の所得向上を目指す!」を発表。緑茶かすでベータカロテン補給飼料を開発し、乳牛の分娩(ぶんべん)間隔短縮につながったことを報告した。
2019年02月17日

[あんぐる] すき振るえ雨よ降れ 砂かけ祭(奈良県河合町)
奈良県河合町の廣瀬神社で毎年2月11日、農家役の「田人(たひと)」や参拝者が境内の砂を掛け合う、「砂かけ祭」が開かれる。砂は田畑を潤す水の象徴で、激しく飛び交うほど十分に雨が降り豊作になると伝わる。
祭りの当日、同神社の境内に、竹としめ縄で四方を仕切って水田を模した一角が現れる。広さ約60平方メートルの砂地で、砂の掛け合いに備え、世話役の農家がトラクターで軟らかく耕した。
祭りは米作りの所作を一通り行う「殿上の儀」から始まり、その後、境内に頭巾をかぶった白装束の田人が登場。砂の水田を耕しながら一周した後、手にしたすきで集まった人々に勢いよく砂を浴びせ始めた。
参拝者も田人に砂を掛け返すのが、この祭りの特徴だ。ゴーグルや雨がっぱを身に着け、手ですくい取った砂をぶつけて“応戦”。砂の応酬は休憩を挟んで1時間ほど続き、境内に人々の歓声や悲鳴が響いた。
同県橿原市から友人と訪れた吉田緑さん(60)は「見物客に砂を掛ける祭りなんて聞いたことない。逃げ回ったが砂だらけになった」と笑った。
廣瀬神社は紀元前89年創建と伝わり、日本書紀にも名が残る。675年には雨乞いや豊作祈願の祭りを行っていたとする記録もある。
宮司の樋口俊夫さん(71)は「この辺りは昔からは雨が少ない。水を求める農家の思いが祭りを生んだのだろう」と話す。
祭りの終盤には、地元産のもち米で作り、農家らが「田」の文字を押印した餅と、厄よけになる松葉をわらで巻いた松苗をやぐらからまき、五穀豊穣(ほうじょう)を願った。
世話役の一人で、稲作農家の山崎清兆さん(80)は「1000年以上受け継いだ祭りを次の世代に伝えるのが私たちの務め。砂に勢いがあったので、今年も豊作が期待できそうだ」と話した。(富永健太郎)
2019年02月17日

豚コレラ防疫 手尽くせども 疑心暗鬼 夜も眠れず 発生農家「経営再開、自力では・・・」
感染が広がる豚コレラで、岐阜県や愛知県の養豚農家が恐怖感と闘いながら厳戒態勢で経営を続けている。徹底した防疫対策をしていた施設でも発生し、感染原因が解明されていないことから「全てに疑心暗鬼になる」(養豚農家)と悲痛な声が上がる。殺処分を余儀なくされた当該農場や仲間の農家からは、経営再開に向けた支えを求める切実な訴えも出ている。
2019年02月16日

世界農業遺産に申請 日本版認定も 農水省
農水省は15日、山梨県峡東地域のブドウ栽培と兵庫県兵庫美方地域の但馬牛飼養、滋賀県琵琶湖地域の伝統的漁業の三つを国連食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産」に申請すると決めた。秋ごろにも申請手続きを済ませ、受理後1年以内に結果が出る見込み。国内版の「日本農業遺産」として、7県7地域を認定した。
2019年02月16日

北海道 筆でレンズで 農の日々描く
日本の食を支え、俳句や写真などの創作活動で農業・農村の魅力を発信する。北海道にそんな農家がいる。題材は身近な農村の美しさや温かさ、厳しさなど、日々の営農で浮かぶ思い。多忙な作業の傍ら、作品のアイデアをつかむために周囲の観察を欠かさない。農家ならではの視点を生かした作品は、著名な俳句賞を受賞するなど高い評価を得ている。
俳句 “牛後”から表現豊かに 下川町・鈴木和夫さん
牛の尾を引き摺(ず)るやうに寒波来る
仔(こ)牛の寒衣(かんい)脱がせ裸と思ふ春
牛死せり片眼は蒲公英(たんぽぽ)に触れて
秋晴の定位置にあるトラクター
牛糞(ふん)を蹴ればほこんと春の土
トラクターに乗りたる火蛾(が)の死しても跳ね
角(つの)焼きを了(お)へて冷えゆく牛と我
(第64回角川俳句賞受賞作品より)
下川町で乳牛70頭を放牧などで飼う鈴木和夫さん(57)は、俳人としての顔も持つ。俳号は「鈴木牛後(ぎゅうご)」。「大きな組織の末端(牛後)でいるよりも小さな集団のトップ(鶏口=けいこう)になる方が良い」という意味の熟語「鶏口牛後」から、「末端(庶民)の視線を大事にしたい」とあえて「牛後」という言葉を借りた。
日頃の農作業や豊かな自然が題材だ。作品の一つ「美味(うま)き草不味(まず)き草あり草を刈る」。この作品を含む牛や風景をテーマにした50句は2018年、俳句の新人賞として名高い「角川俳句賞」に輝いた。牛や酪農を題材にした新鮮さと、確かな表現力が評価された。「牛を見ていると、おいしそうに食べる草と食べない草があることが分かってくるんです」と鈴木さん。
鈴木さんが俳句に出合ったのは10年ほど前。「酪農に従事しているからこそ、牛や風景など都会にはないものを詠める。季節や時期によってさまざまな顔を見せる自然や農業は題材に事欠かない」と話す。句集を作ることが目標だ。妻の淳子さん(55)も「これからも活躍してほしい」と活動を見守る。
鈴木さんが淳子さんに贈った句もある。「花を来し君と落花を見に行かむ」。若い頃から一緒に桜を見てきたあなたと、花が散るところまでを見たい──。新規参入で酪農経営を軌道に乗せるまで苦楽を共にした妻と、これからも2人で歩んでいきたいという気持ちを込めた。
写真 空と大地 一瞬狙う 芽室町・粟野秀明さん
芽室町で小麦やテンサイなど55ヘクタールで畑作を営む粟野秀明さん(55)は、十勝の広大な自然や生産現場の臨場感を写真で表現する。トラクターにカメラを積み、風景が美しいと感じたらすぐ作業を止めて撮影。地域の魅力を凝縮した一瞬を狙う。
写真は8年ほど前から本格的に始めた。一眼レフを買って半年後、地元の農業団体などが主催する「とかち農業・農村フォトコンテスト」に初めて応募。グランプリに選ばれ「写真熱が高まった」(粟野さん)。その後は独学で技術を磨いた。
主な撮影場所は自分の畑。今年度の同コンテストでグランプリに輝いた「大地のウェーブ」では、傾斜地のテンサイ畑を撮影。線状に並んだ苗が、地形に沿って波打って見える様子を捉えた。
作品はブログや写真展などで発表する。1月下旬には2度目の個展を札幌市で開催。作品53点を展示し、6日間で約1500人が来場したという。市内から訪れた男性は「農業をしながら素晴らしい作品を撮っていることに感動した。畑の造形美が伝わってくる」と絶賛した。
写真を通じ、粟野さん自身も農村の見方が変わったと実感する。「普通だと思っていた紅葉も、レンズを通すと美しく見えた。わが家の畑の魅力を再発見できた」。今後は風景に加え、「人物を主体にした写真などにも挑戦したい」と意気込む。
2019年02月14日

手乗りハス「種」「苗」も アイデア商品続々と 大木園芸 千葉県東金市
千葉県東金市の大木園芸は、観賞用の花ハス「手乗りハス」の苗や鉢花、その種となる「レンコン丸」を生産、販売している。「レンコン丸」はポットで根域を制限し、輪っか状に育てたもの。丸いパックに詰めコンパクトな形で流通、販売できる。園芸店や通信販売で徐々に扱いを伸ばしている。
園主の大木正人さん(67)は、かつて植木を販売していた。現在は花ハスが専門で、趣味が高じて20年近く前から販売を始めた。小型の容器で咲かせるものを集め「手乗りハス」と名付け、茶わんバスなどの一般的な呼称と差別化している。
栽培は、夏から秋に肥大したレンコンを、1~3月に株分けして植え替える。「レンコン丸」の荷造りもこの時期で、出荷は2月から3月20日ごろまで続く。
「レンコン丸」は5年ほど前から取り組み始めた。底穴のない13・5センチのポットで育てると、レンコンは輪っか状になる。ポットから出して不要な部分を切り、食品などに使うクリーンカップに水と詰めて商品とする。ふたのラベルで品種ごとの花を紹介する。
透明な容器に入っているので、客は商品の状態を見て購入できる。店にとってはクレームやトラブルが少ないのが利点だ。
販売の主力は苗で、これまで総売り上げの約8割を占めている。「レンコン丸」は1割にも満たないが、大木さんは「だんだん認知され、扱うところが毎年1、2社、増えてきた」と話す。今期は園芸店6社、通販4社となった。
「手乗りハス」「レンコン丸」は大木園芸の登録商標。「レンコン丸」では作り方などで特許出願中だ。既に2品種が登録され、6品種を出願している。
2019年02月11日

大阪 殺処分できず 愛知の肥育豚 静岡も搬入、監視 豚コレラ
静岡県は7日、菊川市のと畜場に、愛知県で豚コレラの陽性となった農場から肥育豚が出荷されていたとして、同じと畜場を使っていた農家を監視することを決めた。出荷用の車両などに付着することで、ウイルスが別の農場に持ち込まれる恐れがあるためだ。また、豚コレラの発生が確認された大阪府東大阪市の当該農場では、殺処分などの防疫措置作業ができない異例の事態に陥った。
菊川市のと畜場には、6日に豚コレラが確定した愛知県豊田市の農場の関連農場(田原市)から4日までの計5日間で200頭が出荷された。
静岡県で監視対象となる農場は最大で16カ所。県はこれらの農場に対し、28日間、豚の異常と死亡を家畜保健衛生所に報告するよう要請。出荷以外の豚の移動を自粛するよう求めた。
また、陽性が確認された5府県の農場からも、肥育豚が各地のと畜場に出荷されている可能性があるとして、長野県などでも農場の監視を検討している。
防疫作業を進める大阪府東大阪市の農場は住宅街にあるため、殺処分ができなかった。その理由について府は、事前に想定していた焼却場が遠いことに加え、住民に配慮したことを理由に挙げる。
府は事前に、国が所有する「レンダリング装置」を使い、殺処分した家畜を破砕・加熱処理する方法を想定していた。ただ、今回は農場が都市中心部で、郊外の処理場所までの移動ができない事態となった。都市で家畜伝染病が発生した場合の対応の難しさが浮き彫りになった。
2019年02月08日

二人三脚 豪雨禍乗り越え 地鶏肉加工所来月完成へ 過疎集落住民23人 「ジロー」で守る 「ここで生きる」決意新た 高知県安芸市 小松さん夫妻
住民23人の高知県安芸市の山あいの集落・畑山で、地鶏「土佐ジロー」の新たな食肉加工所が来月に稼働する。小松圭子さん(35)が代表を務め、夫の靖一さん(60)と経営してきたが、念願の加工所建設に向けて動きだした矢先、西日本豪雨が襲った。集落に続く唯一の道路が土砂崩れや崩落で寸断するなど深刻な被害に遭った。多くの人の支えとともに、夫婦二人三脚で未来を描く。
かつては800人が暮らす集落だったが、人口は激減。急峻(きゅうしゅん)な山あいに位置し、市街地からは車で40分ほどかかり、携帯電話の電波も1社を除き、届かない。圭子さんは「過疎地の最先端」と表現する。
集落に生きる場所を求めて2010年、「土佐ジロー」を飼養する地元の農家、靖一さんと結婚した圭子さん。「1000年続いた村を、消滅させてしまって良いのか」と、2人の子どもを育てながら、はたやま夢楽の代表として奮闘。土佐ジローの飼養、加工・販売、ユズの栽培に加え、行政から指定管理を受ける温泉宿、食堂「はたやま憩(いこい)の家」の運営と、なりわいづくりに汗を流してきた。今では全国から土佐ジローの味を求めて集落に年間3000人が訪れる。
自然豊かな山里の暮らしには、同時に厳しさも付きまとう。市の指定管理者として運営してきた土佐ジローの加工場が、18年度中に取り壊されることが決定。昨年6月中旬から、新施設建設費用の一部をクラウドファンディング(CF)で集めている最中、西日本豪雨が集落を襲った。
集落に続く唯一の道路は土砂崩れや崩落で寸断。電話も通じず孤立した集落で、圭子さんと子ども、集落の住民は自衛隊のヘリコプターで救助された。靖一さんたちは土佐ジローの管理や住民の安否確認に駆け回り、道路は住民が自力で直した。そんな集落の姿に、圭子さんは「集落で生きるそれぞれが、生きる知恵を発揮した。ここで生きていきたいと改めて思った」と振り返る。
CFでは、全国の400人から温かい言葉とともに847万円が集まった。「私たちの活動への通知表のようなものに思える」と圭子さん。
小松さん夫妻の存在が、同じく中山間地での暮らしを模索する人の励みになっている。同県いの町から、はたやま憩の家を訪れた植田英さん(71)と尾崎敏明さん(64)。植田さんは高知市からいの町に移住し、もち米復活へ、同町にUターンした尾崎さんは地域の猟友会や仲間と地域づくりの方策を探っている。植田さんは「地域おこしは賛同が得られずに心が折れることがある。そんな時、小松さんの所に行くと元気をもらえる」と話す。
圭子さんはインターネット交流サイト(SNS)や、講演などを通じて「田舎でそれぞれの価値観が生かされる生き方」を発信する。そのためにも「なりわいを築くことが重要だ」と言う。
靖一さんは「地域おこしはイベントやハレの日をつくることではなく、軸になるのは1次産業だ」と強調する。ササミ、砂肝、トサカまで、一切れずつ靖一さんが客の前で焼いて提供する「土佐ジロー」が、全国からリピーターを呼び込む。
古里で暮らし続けていける産業をつくろうと飼養を始めて31年目、一緒にやりたいと圭子さんが言ってくれたことで「頑張ってきたことが報われた」と靖一さんは笑う。圭子さんは「楽しく暮らせる可能性がある。やれるところまでやっていきたい」。夫妻の二人三脚は続いていく。
2019年02月08日