日米物品貿易協定 FTA「そのもの」だ 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 日米物品貿易協定(TAG)交渉の開始が決まったのを受けて、AP通信は「日米がFTA(自由貿易協定)交渉入りに合意」と正確に報じた。日本のメディアの「FTAに移行する可能性がある」は論外だが、「実質FTA」という以上に、「TAG」はFTAそのものである。

 筆者も「日米FTAはやらないと言ったわけでしょ。だから、日米FTAではないと言わないといけないから、稚拙な言葉のごまかしで、これは日米FTAなんです」(9月28日の朝のテレビ)とコメントした。 日米共同声明では「物品の関税撤廃交渉とともに、サービス分野などの自由化交渉も同時に開始する」としており、これは「特定の国・地域間で関税撤廃やサービス貿易の自由化をめざすFTAや物品・サービス分野だけでなく投資、知的財産権、競争政策など幅広い分野での制度の調和もめざすEPA(経済連携協定)」(荏開津典生・鈴木宣弘『農業経済学(第4版)』2015年、岩波書店)の定義からしても、紛れもないFTAである。

 世界貿易機関(WTO)の原則である最恵国待遇に反する特定国間での関税の引き下げは、FTAを結ばない限り不可能であるのに、米国から牛・豚肉の関税引き下げ要求を受けつつ、日米FTAは拒否すると言い続けているが、乗り切る方法などあるのかと思ったら、まさかの屁理屈である。

 あまりにも稚拙で、普通の神経なら恥ずかしくて、とても言えないはずだが、この国は見え透いた、うそがどこまでもまかり通り、さらに、まひしてきているようである。「今回はこれで乗り切りましょう」と進言した経済官庁の知性と良識を疑わざるを得ない。 しかも、米国は環太平洋連携協定(TPP)が不十分として2国間交渉を求めたのだから、TPP以上の譲歩を迫るのは間違いない。自動車を所管する官庁は何を犠牲にしてでも業界利益を守ろうとする。各省のパワーバランスが完全に崩れ、1省が「全権掌握」している今、自動車関税を「人質」にとられて、国民の命を守るための食料が格好の「いけにえ」にされていく「あり地獄」である。

 しかも、いくら農業を差し出しても、それが自動車への配慮につながることは、実はない。米国の自動車業界にとって日本の牛肉関税が削減されても、米国自動車の利益とは関係ないからである。本当は効果がないのに譲歩だけが永続する。

 「TPPを上回る譲歩はしない」と言っている政府が、最後はどんなあぜんとする言い訳を持ち出してくるのか。その前に、何度も何度もこんな見え透いたうそで「なし崩し」にされていくのを、ここまで愚弄(ぐろう)されても許容し続けるのかが、国民に問われている。

 また、WTOの最恵国待遇の原則を経済学的に是として、2000年ごろまではFTAを批判し、「中でも日米FTAが最悪」と論じていた日本の国際経済学者は日米FTA交渉入りをどう評価するのか。この期に及んで何も言わないなら、経済学者の存在意義がいよいよ問われる。
 

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