[結んで開いて 第2部][ここで暮らす](3) 孤独救う 車内の会話 移送サービス 秋田県上小阿仁村

小林さん(右)を病院に送り届ける畠山さん(秋田県北秋田市で)

 山あいの秋田県上小阿仁村を、村民による移送サービスの車が走る。家の前から目的地まで、利用者の要望に応じて送り迎えする。独り暮らしの高齢者でも、いつでも気軽に出掛けられ、暮らしに潤いがあるように──。そう願って、運転手はハンドルを握る。2人に1人が高齢者という村。手助けする側も、いつかは手助けを必要とする側になる。お互いさまの思いを形にしたサービス。村の将来を託す。

 肺を患い、月に1度の通院が必要な小林隆助さん(78)。息苦しく、出掛ける時には酸素ボンベを持ち歩かなければならない。散歩に行くのもおっくうだ。

 通院の日。「有償運送車両」のステッカーを貼った乗用車が、自宅の玄関前に停まる。住民でつくるNPO法人・上小阿仁村移送サービス協会が配車した。いつも往復40分を頼む、運転手の畠山和美さん(66)が、後部座席のドアを開けた。

 独り暮らしで、一日中誰とも話さない日があるという小林さん。よく知る村民の畠山さんには、気兼ねなく話せる。「あっという間に冬。今年は雪が少ないといいな」。何気ない会話が、心を満たす。

 病院の帰り、スーパーに寄って買い物をする。重い袋を畠山さんがトランクに詰め、家まで運び入れてくれる。「バスだと荷物が重くて。甘えさせてもらっている」

 県内の都市部に娘がいる。だが、この村を離れるつもりはない。「生まれ育った村の、自宅で暮らせることがどんなに幸せなことか」。別れ際、来月の送迎を頼む。「人と会って話すのは楽しいよ。元気になる」と笑う。

 タクシー会社は村から撤退した。協会は2004年に発足し、秋田運輸支局から「自家用有償旅客運送者」の登録を受ける。住民主体の移送サービスは、06年から始まった。自動車や運転免許証を持たない“交通弱者”でも便利に暮らせる村にしたい。ボランティアの発想から生まれた。

 理事長の萩野芳紀さん(70)は57歳で早期退職したUターン組。年を取るにつれ、会社で活躍の場が減っていくように感じた。しかし「村ではまだ若手。頑張ってほしいと期待されて、居場所ができた」。

 村の65歳以上人口は1185人。高齢化率は54・4%と、同県内で最も高い。県は自殺率の高さでも問題になる。「冬の間は雪で外に出ず、気持ちがくよくよする。話をしないと。車内ではしゃべりっ放し」。会話が、お年寄りを孤独から救い出す。

 17年は延べ570人が移送サービスを利用した。8割以上が通院だ。村に診療所はあるが、専門的な診察や治療を受けるには、村外の病院に行く必要がある。その場合の往復費用は、タクシーを呼ぶと1万円以上かかる場合が多いが、同サービスなら秋田市でも5000円で済む。

 移送サービスには自家用車を使うため、維持費などを考えるとドライバーは無償奉仕に近い。それにもかかわらず、運転手には9人もの村民が名乗りを上げる。主婦や定年退職をした人など、時間に融通が利く50~70代たちだ。

 1日に2、3回は送迎を担う畠山さん。「頼りにされ、いろいろな悩み事を互いに話すことが楽しい」。移送サービスは運転手の生きがいにもなっている。

 敬老会など村の催しに行くために利用する人もいる。数人で相乗りし、温泉に行くこともあった。お年寄りの暮らしに、ちょっとした楽しみが加わった。そうした光景に萩野さんは「いずれ私たちも、お世話になるかもしれないからね」。利用者もドライバーも、それぞれが、この地での生きがいを見いだしている。(次回は16日付に掲載)

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