[島根・JAしまね移動編集局] 技術・販路──農業法人が継承 未来に生かす 伝統のこうじ 島根県大田市

橋田さん(右)から、こうじの仕込み方を教わる吉田さん(島根県大田市で)

 地元で受け継がれる伝統のこうじを残すため、島根県大田市で米の生産や加工を手掛けるファーム浮布(株)は、廃業を考えていた市内唯一のこうじ製造業者から事業を継承することを決めた。しょうゆやみそ、日本酒など和食に欠かせない米こうじ。同社は、農閑期となる冬の仕事に充てて雇用を増やし、加工品の品ぞろえを充実させる考えで、技術や販路を引き継ぎ、世界遺産の石見銀山とも縁が深い伝統ある食文化を、次代につなぐ。(橋本陽平)
 

農閑期に収入 加工品充実も


 一段と冷え込んだ立冬の日の早朝、同市で40年以上米こうじを造ってきた橋田良文さん(74)が最後の仕込みに取り組んでいた。隣には、後継者となるファーム浮布の吉田隆博さん(46)。指導を仰ぎながら、真剣な表情で蒸した米に種こうじを混ぜ合わせていた。

 米こうじの原料は白米が一般的だが、橋田さんは玄米こうじの製造も手掛ける。ぬかをまとった米にこうじ菌が回りやすくなる技術や、雑菌を遮断するためのひと手間など、独自の製造方法を伝える。

 29歳で実家に戻り、本格的にこうじ造りを始めた橋田さん。「こうじがいかに元気に働ける環境をつくるか、突き詰めると奥深い」と情熱を注いできたが、肺と胃にがんを患い、体力の限界を感じた。親族に後継ぎはおらず、店を畳むつもりでいた。

 地元のこうじを絶やすまいと後継者として手を挙げたのが、JAしまね石見銀山地区本部管内で農業を営む同社だった。三瓶山の麓にある農地19ヘクタールの大半で特別栽培米「コシヒカリ」を手掛け、米粉や麺加工にも取り組む。

 同社代表の藤原眞章さん(72)は「人口減で米は余る時代。商品価値を高める新たな手法を模索していた」と話す。周年雇用に向け、農閑期の仕事と収入源ができる点も魅力だった。7月に事業継承の相談を始め、こうじ製造担当者として吉田さんを雇用。約530万円をかけ、蒸し器や保冷庫、発酵機など機械一式を、年内に整備する。地域資源を活用した6次産業化を支援する県の「島根型6次産業推進事業(新しまろく事業)」で、3分の1以内の助成を受ける。

 販路は橋田さんから引き継ぐ他、同社の米を扱う米卸などにも広げていく。「こうじがあればみそや漬物など加工品のバリエーションがぐんと広がる」と藤原さん。2019年度から製造を始め、5年後にはこうじ製造と米の生産拡大で、売上高を現在の2700万円から約800万円増を目指す。

 こうじ造りを受け継ぐ吉田さんは、関西で12年間ケーキ職人として働いた後、両親の実家がある大田市に帰郷。旧温泉津町役場に勤めた後、県内の大学の職員として、地域貢献活動などに携わっていた。「ものづくりの醍醐味(だいごみ)は知っているつもり。地域の伝統文化をどう継承するかという課題に向き合っていく中、今回の試みに関心を持った。橋田さんの技を自分なりに受け継いでいきたい」と意気込む。
 

止まらぬ廃業 救うモデルに


 後継者がおらず廃業を余儀なくされるのは、農業に限らない。同県によると、14年の県内の中小企業数は、10年前より約5000も減ったという。県西部農林振興センターは「異業種を含め、継承先を幅広く検討する必要がある。今回の例がモデルになってほしい」と話す。さらに「事業の観点だけではなく、米作りの歴史と共に培われた製造技術、食生活や文化も引き継いでほしい」と期待を寄せる。
 

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