[あんぐる] 初夏の“雪”これからも 因島の除虫菊(広島県尾道市)

因島の北西部にある重井西港を見下ろす除虫菊畑。毎年5月上旬に満開を迎える(広島県尾道市で)

 広島県尾道市の因島。フェリーボートがゆったりと波の穏やかな瀬戸内海を進む。向かう先の重井西港を見下ろす丘の一面に、除虫菊が白色のじゅうたんのように広がる。蚊取り線香などの原料として盛んに栽培されていた作物だ。需要はなくなってしまったが、地元農家が島の農業を支えた花に感謝を込め、観光用に管理を続ける。

 除虫菊はキク科の多年草で、和名はシロバナムシヨケギク。地中海・中央アジアが原産といわれる。子房などに殺虫成分を含み、蚊取り線香や殺虫剤の原料となる。日本へは明治時代初期に持ち込まれた。

 因島は国内有数の産地で、最盛期の1940年には350ヘクタールの栽培面積を誇った。かつて除虫菊を栽培していた大出金三さん(77)は「山の頂まで除虫菊が植えられ、雪が積もったように見えた」と振り返る。
 
因島フラワーセンターで栽培される除虫菊の苗

 50年代後半から安価な海外産の台頭や殺虫成分の化学合成が可能になったことなどで需要が激減。経済栽培は姿を消した。

 地域で再び花が見られるようになったのは81年。地元農家が景観づくりのために栽培を復活させた。「御殿が建つほど島の農家は潤った。今では感謝を込めた栽培だ」と話す大出さんは現在、仲間と3アールで栽培している。この他にも島内では、栽培の取り組みが5カ所に広がっている。

 使い方を後世につなぐ取り組みも進む。地元農家らでつくる「因島除虫菊の里連絡協議会」は2015年に、線香の手作りキットを売り出した。島内産の除虫菊粉やタブノキの粉、説明書などがセットになっており、粉を水で練って乾燥させると昔ながらの線香ができる。

 除虫菊の試験場だった植物園「因島フラワーセンター」は、定期的に手作り線香教室を催している。同会事務局の岡野八千穂さん(46)は「刺激の少ない懐かしの香りが楽しめる。家族で線香を作ってほしい」と提案する。(富永健太郎)

「あんぐる」の写真(全3枚)は日本農業新聞の紙面とデータベースでご覧になれます
 

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