緊急事態宣言解除 ライフライン防衛を 立教大学経済学部特任教授 金子勝

金子勝氏

 5月25日、政府は全国的に緊急事態宣言を解除した。しかし、不安は解消されていない。

 この間、東京オリンピックの開催を巡り、新型コロナウイルスの対策が遅れ、後手に回った。その結果、国際的に見て、PCR検査が極めて不十分な状況を招き、「隠れ感染」を拡大させた。実際、人口当たりの検査数で見ると、日本はドイツの20分の1、韓国の約8分の1と圧倒的に少ない。

 結果として、欧米諸国より死者数が少ないのだから良かったのか。否だ。重症急性呼吸器症候群(SARS)などコロナウイルスの感染を繰り返し一定の免疫記憶があると推測されるため、東アジアは全般的に感染数が少ない。その中で日本は5月29日で900人を超え、100万人当たりの死亡率は7人。韓国の5人、中国の3人、香港0・5人、台湾0・3人と比べて最も高い。
 

乏しい「客観性」


 検査数があまりに少なく、緊急事態宣言解除の数値目標も客観性がない。東大先端科学研究センターが500人の精密抗体検査を実施したが、陽性者は3人で感染率は0・6%であった。これを東京都の人口推計(1398万人)で単純換算すると、約8万3880人。相当数の「隠れ感染」が存在していることが分かる。

 新型コロナウイルスは変異が速く、サイトカインストーム(免疫暴走)を引き起こして死をもたらし、ワクチンができるのに最低でも2年かかるといわれている。だとすると、仮に外出自粛を緩和しても、再び感染が広がれば、また外出自粛を繰り返す可能性が高い。それでは経済的に生きていけない。ジレンマである。
 

財政支出も限界


 いまや米国を中心に、失業率、原油先物価格、新規住宅着工数、企業の財務悪化など、1930年代の大恐慌並みの落ち込みを示している。日本も、今年の1~3月の実質国内総生産(GDP)が年率マイナス3・4%。4月のインバウンド(訪日外国人)が99・8%減、輸出額も21・9%も減った。このような経済状況では、持続化給付金、雇用調整助成金などの直接給付で支えざるを得ない。しかし、このままステイホームを続ける限りジレンマを解消できず、やがて政府の財政支出も限界に突き当たる。

 何をなすべきか。全員に抗体検査とPCR検査を行う徹底的な検査と、治療薬を使った治療法の確立が不可欠だ。そして、ライフラインの確保に注力すべきである。その際、病院、高齢者施設だけでなく、食料と物流が大事になる。そこで感染が拡大すると、社会に壊滅的な打撃を与えるからだ。

 アベノミクスで7年間も金融緩和を続けてきた結果、もし物やサービスが欠乏すると、余ったマネーが流れて一転してハイパーインフレのリスクが生じる。食料と物流があって初めて持久戦を戦えるのだ。

 かねこ・まさる 1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、18年4月から現職。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)。
 

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