コロナ禍で困難あらわ…訴訟も発生 介護事業人手は限界 現場奮闘も疲労ピーク
2020年10月29日

デイサービス利用者の検温を徹底する介護施設。できる限りの感染予防策を講じている(広島県三次市で)
広島県内の介護施設で4月、新型コロナウイルスに感染した80代女性が死亡し、遺族が施設側の責任を問う訴訟を起こした。訴訟は既に和解に至っているが、コロナ禍での介護の難しさが浮き彫りになった。人手不足が恒常化する中での感染対策の徹底で、介護従事者の疲労はピークに達している。関係者からは、事業を継続するためにも、人手不足を解消するよう求める声が上がる。
「自分の身は自分で守ろう」。広島県三次市の介護施設コージーガーデンで10月中旬、集まったデイサービス利用者に、介護福祉士が手洗いやうがいを呼び掛けた。
送迎車に乗る前には必ず検温し、利用者の健康観察も欠かさない。施設を経営する社会福祉法人優輝福祉会の熊原保理事長は「100点満点とは言えないかもしれないが感染対策をしっかりしている。これ以上どうしたらいいのか」とこぼす。
介護業界は人手が足りず、ぎりぎりの状態だ。訴訟問題を報道で知った熊原理事長は「人ごとではない」と不安を募らせる。コロナ禍で「県北部では、知っているだけで二つの事業所がデイサービスの中止を検討している」と明かす。
今回の訴訟問題に限らず、介護中の事故などを巡り訴訟は全国で起きている。同法人も経験した。遺族の気持ちに寄り添った上で熊原理事長は「介護・福祉現場の本当の実情を広く知ってほしい」と切実に訴える。
訪問や通所による介護サービスに従事する介護福祉士は、地域の高齢者が安心して暮らすためには必要な存在だ。だが、各地の介護関係者は「担い手がいなくなる恐れがある」と口をそろえる。
県内の別の施設関係者は「介護ヘルパーは、(感染の恐れがあり)危ないという目で見られる」という。今月も、介護福祉士の制服を着ていてスーパーに入り、周りの人から避けられる経験をした。このような問題が頻繁に起きれば「訪問介護は難しくなる」と不安を抱える。
サービス停止は利用者家族にも影響が大きい。県内に住む87歳の父母が介護施設を利用する東京都在住の50代男性は「薬の服用など訪問介護で助けてもらっている。サービスが途絶えてしまうと生活が成り立たない」と指摘する。
両親は認知症が進み、体の不自由もある。コロナ禍の緊急事態宣言以降、男性は帰省できていないが、継続した施設側の支援に救われている。「両親のことをよく理解し、手厚いサービスで、安心して任せられる」と話す。施設側との信頼関係も大事にする。
新型コロナ禍の介護事業について、全国1万1000の養護老人ホームなどでつくる全国老人福祉施設協議会は「各事業所は緊張感を持ち、万全の対策を取っている。利用者家族や事業者の協力があってこそだ」と指摘する。ただ、「コロナの影響にかかわらず人手不足の介護業界では、経営が厳しく、事業から撤退する所もある」という。
2021年度は3年に1度の介護報酬改定の年に当たる。感染症対策にかかる緊張状態も長期化する中、「事業継続と、サービス水準の底上げを両立できるプラス改定を実現いただきたい」と国に呼び掛ける。
広島県三次市の介護施設で4月、82歳の女性が新型コロナウイルスが原因の肺炎で亡くなった。遺族は、訪問介護で女性と接していたヘルパーから感染したとして、9月3日付で施設側に4400万円の損害賠償を求めて訴訟を起こした。10月12日に両者は和解した。
「自分の身は自分で守ろう」。広島県三次市の介護施設コージーガーデンで10月中旬、集まったデイサービス利用者に、介護福祉士が手洗いやうがいを呼び掛けた。
送迎車に乗る前には必ず検温し、利用者の健康観察も欠かさない。施設を経営する社会福祉法人優輝福祉会の熊原保理事長は「100点満点とは言えないかもしれないが感染対策をしっかりしている。これ以上どうしたらいいのか」とこぼす。
介護業界は人手が足りず、ぎりぎりの状態だ。訴訟問題を報道で知った熊原理事長は「人ごとではない」と不安を募らせる。コロナ禍で「県北部では、知っているだけで二つの事業所がデイサービスの中止を検討している」と明かす。
今回の訴訟問題に限らず、介護中の事故などを巡り訴訟は全国で起きている。同法人も経験した。遺族の気持ちに寄り添った上で熊原理事長は「介護・福祉現場の本当の実情を広く知ってほしい」と切実に訴える。
訪問や通所による介護サービスに従事する介護福祉士は、地域の高齢者が安心して暮らすためには必要な存在だ。だが、各地の介護関係者は「担い手がいなくなる恐れがある」と口をそろえる。
県内の別の施設関係者は「介護ヘルパーは、(感染の恐れがあり)危ないという目で見られる」という。今月も、介護福祉士の制服を着ていてスーパーに入り、周りの人から避けられる経験をした。このような問題が頻繁に起きれば「訪問介護は難しくなる」と不安を抱える。
サービス停止は利用者家族にも影響が大きい。県内に住む87歳の父母が介護施設を利用する東京都在住の50代男性は「薬の服用など訪問介護で助けてもらっている。サービスが途絶えてしまうと生活が成り立たない」と指摘する。
両親は認知症が進み、体の不自由もある。コロナ禍の緊急事態宣言以降、男性は帰省できていないが、継続した施設側の支援に救われている。「両親のことをよく理解し、手厚いサービスで、安心して任せられる」と話す。施設側との信頼関係も大事にする。
報酬改定は「切実」 全国老施協
新型コロナ禍の介護事業について、全国1万1000の養護老人ホームなどでつくる全国老人福祉施設協議会は「各事業所は緊張感を持ち、万全の対策を取っている。利用者家族や事業者の協力があってこそだ」と指摘する。ただ、「コロナの影響にかかわらず人手不足の介護業界では、経営が厳しく、事業から撤退する所もある」という。
2021年度は3年に1度の介護報酬改定の年に当たる。感染症対策にかかる緊張状態も長期化する中、「事業継続と、サービス水準の底上げを両立できるプラス改定を実現いただきたい」と国に呼び掛ける。
<メモ>
広島県三次市の介護施設で4月、82歳の女性が新型コロナウイルスが原因の肺炎で亡くなった。遺族は、訪問介護で女性と接していたヘルパーから感染したとして、9月3日付で施設側に4400万円の損害賠償を求めて訴訟を起こした。10月12日に両者は和解した。
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牛マルキン発動 大幅減-11月 内食好調、枝肉アップ 生産者負担金 再開は不透明
肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の昨年11月販売分の肉専用種の発動地域が10道県となり、前月分の38都道県から大幅に減ったことが農畜産業振興機構のまとめで分かった。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ枝肉価格が回復しているためで、1頭当たり交付単価も1000円台~5万円台と落ち着きを見せている。だが緊急事態宣言の再発令で今後の相場に不透明感があり、生産者負担金の納付再開時期は予断できない。
発動したのは北海道、茨城、栃木、神奈川、長野、兵庫、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の10道県。交付単価は最大の兵庫で5万4596円、沖縄と北海道がそれぞれ5万3282円、2万6851円で続き、その他の県は1万円を下回った。10月販売分は38都道県で発動し、交付単価は最大で10万5545円だった。
11月の枝肉価格は、農水省の食肉流通統計の食肉中央卸売市場価格(和牛去勢、全規格)で1キロ当たり2641円だった。この価格が、コロナ対策で免除されている生産者負担金の納付再開の判断基準となる。コロナの影響で大きく落ち込んだ4月と比べて41%高く、前年同月比でも2%高い。同省によると、内食傾向で 量販店の引き合いが強いことが要因だ。
生産者負担金の納付再開は、今年1月以降で「3カ月連続で1キロ当たり2300円以上」になった場合の3カ月後からで、最短で6月。同省は1月も「量販店 の需要は続く」(食肉鶏卵課)とみる一方、緊急事態宣言の再発令で「外食には厳しい部分がある。枝肉価格への影響は、様子を見る必要がある」(同)と指摘する。納付再開時期は見通せない状況だ。
交雑種(F1)と乳用種の交付単価は、国費分だけの場合で5万6524円、2万5609円だった。
牛マルキンは、標準販売価格(粗収益)が生産費を下回った場合、差額の9割を補填(ほてん)する。国、生産者が積み立てた基金から、3対1の割合で 交付。生産者積立金が不足する地域や納付が免除された牛は、交付が国費分だけになる。
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2021年01月11日

単式蒸留焼酎「1210」 滋賀・JAおうみ冨士
滋賀県のJAおうみ冨士が販売するオリジナル芋焼酎。原料にはJA管内産のサツマイモ「ベニアズマ」「鳴門金時」を使い、甘くフルーティーな香りが特徴だ。芋焼酎が初めてという人にも飲みやすく仕上がった。アルコール25度。草津市の太田酒造が製造を手掛ける。
原料芋は、JA農産物直売所・おうみんち出荷者の規格外品と、農作業体験「青空フィットネスクラブ」参加者が育てたものを使用。例年、6トンを蔵元に供給する。昨年は体験が中止となり、JA職員が育てたものも使った。商品名は、体験参加者と2012年10月に初めて仕込みを行ったことにちなんでいる。
1本1380円(税別)。JA農産物直売所・おうみんち守山本店で買うことができる。問い合わせは同店、(電)077(585)8318。
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2021年01月11日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
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2021年01月12日

富山で記録的大雪 安全確保し除雪を 施設被害懸念
富山県内は9日も雪が降り続き、富山地方気象台(富山市石坂)では1986年以来35年ぶりに1メートルを超える積雪を記録した。大雪となり、農家はハウスなど農業施設の被害に警戒を強めている。市内の用水路で死亡事故も発生し、関係機関は除雪中の安全確保を徹底するよう呼び掛けている。
同気象台によると、9日午後1時現在の積雪は富山120センチ、高岡伏木110センチなど。
葉物を中心としたハウスを7棟所有する富山市金屋の寺家久雄さん(72)は「こんなに降るとは思わず驚いている。ハウスがつぶれないか心配だ」と話し、周囲の除雪に余念がない。深い雪に覆われていることや交通障害もあり、県や関係機関も農業施設の被害を把握しにくい状況が続く。
県内では用水があふれて床下浸水するなど建物被害の他、雪かきに伴う人身事故が相次いだ。富山南警察署によると8日午後7時ごろ、富山市善名で80代男性が田んぼの間を流れる用水の集水ますで倒れているのを家族が見つけ、死亡が確認された。除雪作業中に転落した可能性がある。
県によると除雪機で指を切断する事故や、屋根からの転落などが各地で相次ぐ。除雪中の事故などに引き続き注意を呼び掛けている。
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2021年01月10日

農家に“ありがとう” みんなで伝えよう 全農 「食の応援団」 虹のコンキスタドール 的場華鈴さん
JA全農の「食の応援団」を務めるアイドルグループ、虹のコンキスタドールのリーダー、的場華鈴さん(20)が、日本農業新聞のインタビューに応じた。応援団の活動で国産農畜産物のおいしさを知る一方、農家が消費者の感謝の気持ちに触れる機会が少ないことに驚いたという。得意なインターネット交流サイト(SNS)を通じ「農家や食への『感謝』を盛り上げたい」と力を込める。
農業の経験はなく、小さい時の帰り道に畑で作業している農家に「こんにちは」と声を掛けたくらい。……
2021年01月15日
新型コロナの新着記事
[新型コロナ] 緊急事態追加発令 7府県、栃木・福岡も 政府決定
政府は13日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を追加することを決めた。発令済みの首都圏4都県と合わせ11都府県に拡大。発令地域の人口は7000万人超で、飲食店への営業時間短縮要請による農産物の需要減少などの影響が広がる可能性がある。
全国拡大には慎重
首都圏4都県以外の都市部でも感染拡大が止まらないことを踏まえた。……
2021年01月14日
[新型コロナ] 営業短縮飲食店の取引先 最大40万円支援
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令を受け、梶山弘志経済産業相は12日の閣議後記者会見で、営業時間の短縮要請に応じた飲食店の取引先に給付金を支給すると発表した。時短の影響などで1月か2月の売上高が前年同月比で半分以下に減った場合に、中堅・中小企業は40万円、個人は20万円を上限に支払う。JAや卸売業者などを通じて間接的に取引する農家も対象に想定する。……
2021年01月13日

緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省
農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。
ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。
ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。
作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。
感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。
感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。
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2021年01月09日

[新型コロナ] 緊急事態再宣言 1都3県、来月7日まで 飲食店午後8時まで一斉休校は要請せず
政府は7日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県を対象に、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決めた。期間は8日から2月7日までで、感染リスクが高いとされる飲食店などへの営業時間の短縮要請が柱。小中高校の一斉休校は求めないが、外食やイベント需要の減少などで農産物の価格に影響が出る可能性がある。
宣言発令は昨年4月以来2回目。首都圏の感染拡大が止まらず、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していることを踏まえた。菅義偉首相は対策本部後の記者会見で「何としても感染拡大を食い止め、減少傾向に転じさせるため、緊急事態宣言を決断した」と述べた。
コロナ対策の新たな基本的対処方針では、飲食店に対し、営業時間を午後8時までに短縮し、酒類の提供は午前11時から午後7時までとするよう要請。応じない場合は店名を公表する一方、応じた場合の協力金の上限は、現行の1日当たり4万円から6万円に引き上げる。宅配や持ち帰りは対象外とした。
大規模イベントの開催は「収容人数の50%」を上限に「最大5000人」とする。午後8時以降の不要不急の外出自粛も求める。出勤者数の7割削減を目指し、テレワークなどの推進を事業者らに働き掛ける。
宣言解除は、感染状況が4段階中2番目に深刻な「ステージ3」相当に下がったかなどを踏まえ「総合的に判断」するとした。西村康稔経済再生担当相は同日の衆院議院運営委員会で、東京に関しては、新規感染者数が1日当たり500人を下回ることなどが目安との認識を示した。
政府は対策本部に先立ち、専門家による基本的対処方針等諮問委員会を開き、西村氏が宣言の内容などを説明し、了承された。その後、西村氏は衆参両院の議院運営委員会で発令方針を事前報告した。
政府は昨年4月7日、東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日には全国に拡大した。5月25日に全面解除したが、農畜産物では、飲食店やイベントの需要の激減で、牛肉や果実、花などの価格が下落した。
政府は、コロナ対策を強化するため、特措法の改正案を18日召集の通常国会に提出する方針だ。
業務需要減加速の恐れ
緊急事態宣言が再発令されることを受け、流通業界や産地では農畜産物取引への影響が懸念されている。飲食店向けや高級商材はさらに苦戦する様相。一方、家庭消費へのシフトが進んでおり、対象地域が限られることから、前回宣言時ほどの打撃にはならないとの声もある。品目、売り先で影響の大きさが異なる展開になりそうだ。
米は、春先のようなスーパーでの買いだめは現状、起きていない。しかし、飲食店の営業縮小で業務用販売は厳しさが増す見通しで、JA関係者は「今も前年水準に戻り切れていない。在宅勤務が増え、米を多く使う飲食店の昼食需要までなくなる」と警戒する。
青果物は、飲食店の時短営業で仕入れに影響が出てきた。
東京都の仲卸業者は「7日から注文のキャンセルが出た。多くの店が休んだ前回の宣言時ほどでなくても、1件当たりの注文量はがくっと減る」と懸念する。果実は、大手百貨店が営業縮小する方針で、メロンなど高級商材を中心に販売が厳しくなるとの見方で出ている。
鶏卵は加工・業務需要が全体の5割を占めるため、飲食店の時短営業の拡大による販売環境の悪化が予想される。
切り花は、葬儀や婚礼の縮小、飲食店の休業や成人式などイベントの中止で業務需要が冷え込むため、「相場は弱もちあいの展開が避けられない」(花き卸)見通し。長引けばバレンタインデーの商戦に影響するとの懸念もある。
一方、牛乳・乳製品は家庭用牛乳類の販売好調が続く。緊急事態宣言再発令で業務需要はさらに減少する恐れがある。だだ、「前回のような全国一斉休校がなければ加工処理量の大幅な増加はない」(業界関係者)との観測も広がる。
食肉は各畜種ともに内食需要の好調が継続しそうだ。豚肉、鶏肉は前回の緊急事態宣言以降、価格が前年を上回って推移しており「国産は在庫も少なく、引き続きスーパー向け中心に引き合いが強まりそう」(市場関係者)。
和牛は外食から内食へのシフトが進んでおり、「外食向けの上位等級は鈍化するものの、3、4等級は前回のような大きな落ち込みはない」(都内の食肉卸)との見通しだ。
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2021年01月08日

緊急事態宣言 再発令 感染防止徹底を 農作業 通常通り可 需要喚起の対策用意
東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県に緊急事態宣言が再発令された。農家は農作業を通常通りに行えるが、農水省は新型コロナウイルス感染防止のガイドラインの順守を呼び掛ける方針。一方、1都3県の人口は3600万人超で日本の3割を占め、政府は飲食を「急所」と指摘する。外食向けの農産物の需要減も懸念される中、同省は2020年度第3次補正予算などで対策を用意する。
1都3県を含め、農家は前回の発令時と同様、農作業を通常通りに継続できる。農家向けにコロナの感染防止や発生時も事業を継続するための対策をまとめたガイドラインは、大日本農会が定める。 同省は、これに従って3密の回避や手洗い、マスク着用などを徹底してもらいたい考えだ。
コロナ禍で売り上げが落ち込んだ農産物の販売促進のため、同省は3次補正予算で「国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業」に250億円を確保。販促キャンペーン時の食材を通常より安く仕入れられるように補助し、インターネット販売の送料も助成する。
同省は、国産農産物の需要を喚起する「#元気いただきますプロジェクト」「花いっぱいプロジェクト」も展開中だ。
一方、同省は飲食店支援策の「GoToイート」事業については一斉停止を求めず、①プレミアム付き食事券の新規販売の一時停止②食事券やオンライン予約で獲得したポイントの利用自粛の呼び掛け──を検討するよう、都道府県に要請している。6日時点で1都3県を含めて25都道府県が応じているが、期間は知事の判断となる。
前回の緊急事態宣言発令時には、外食での需要が多かった牛枝肉の価格が下落した。同省は3次補正予算で財源を確保し、経営体質の強化に取り組む肥育牛農家に出荷1頭当たり2万円の奨励金を交付する事業を21年度も当面継続する。3次補正予算では、在庫が増えている国産バターや脱脂粉乳の需要拡大に向けた緊急対策も講じる。
牛枝肉価格が再び落ち込めば、最短で6月だった肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の生産者負担金の納付再開がずれ込む可能性もある。コロナ禍を受けた資金繰り対策で昨年4月から免除しているが、今年1月以降、月平均の枝肉価格が3カ月連続で1キロ当たり2300円以上となった場合、3カ月後から再開するとしている。
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2021年01月08日

[新型コロナ] 技能実習生 再就労 7割食農分野 「コロナ解雇」受け皿に
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で解雇されるなどした外国人技能実習生を対象に一度限りの職種変更を認める「特定活動」の資格へ移行した約7割が、農業や食品製造業を新たな職種に選び、就労先を見つけていたことが分かった。法務省出入国在留管理庁が調べた。実習生の再就労の実態が明らかになるのは初めてで、世界的な社会・経済不安の中でも「食」を巡る産業が雇用の受け皿となっていることを裏付けた。
外国人技能実習機構によると、政府が緊急事態宣言を発令する直前の2020年3月時点で入国していた、もしくは入国予定だった実習生は計36万6167人。……
2020年12月30日

「公園・緑地大切に」 コロナで都民の6割が実感
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、公園や緑地の重要性を感じるようになった人が6割に上ることが、東京都が都政への意見を聞くために行ったアンケートで分かった。家庭菜園や市民農園で野菜を育てることに興味を持つようになった人も2割を超えた。
調査は生物多様性への考えや新型コロナウイルス感染症拡大に伴う都民の意識の変化を知る目的で実施。都政モニター500人を対象に10月6日までの7日間、インターネットで行い、484人から回答を得た。
新型コロナの感染拡大に伴う自然環境に関する意識の変化を尋ねると、「公園や緑地の重要性を感じるようになった」が61%で最も多かった。次いで「人間と自然環境との適切な距離感を考えるようになった」(29%)、「家庭菜園や市民農園で野菜を育てることに興味を持つようになった」(24%)が続いた。
自然環境や生き物のために心掛けていることでは「マイバッグやマイボトルを利用しプラスチックごみを出さない、食品ロスを減らす」が67%で最多だった。「旬の食べ物や地元産農畜水産物などの食べ物を購入」(40%)する人も多かった。
都農業振興課は「新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増え、身の回りの家庭菜園などへの関心や、地元産野菜へのニーズが高まっていると感じている」と話す。
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2020年12月13日
6割コロナ患者対応 経営は依然厳しく 厚生連病院
新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、JA厚生連病院が地域医療で奮闘している。JA全厚連によると、1月~9月末までで全国59の厚生連病院が1072人の新型コロナ入院患者を受け入れた。11月からは連日、重症患者数が最多を更新。全厚連は「受け入れ入院患者数は調査時点より確実に増えているとみられ、職員が懸命に対応している」と訴える。
全国には105の厚生連病院があり、受け入れ実績がある病院は56%に上る。また、……
2020年12月04日

コロナ第3波 年末需要に暗雲 営業縮小で家庭向け拡大焦点
新型コロナウイルス感染拡大の「第3波」襲来で、農畜産物の販売動向は不透明感が強まっている。「GoTo」キャンペーン見直しや都市部で飲食店の営業縮小が広がり、業務用の販売は再び鈍化する気配だ。年末の需要期に向けて、堅調な家庭用で全体を補えるかが焦点となる。
米
米は業務需要の低迷が大きな課題だ……
2020年11月27日

コロナ感染急増の北海道 病院、福祉施設に緊張走る 地域のとりで守れ
11月に入り、新型コロナウイルスの感染拡大が急加速する北海道。地域の医療や福祉を守る最前線を担っているのが、医師や介護士らだ。感染者は札幌市だけでなく、道内の農山村地帯に広がりつつある。事態が緊迫する中、地域のとりでとして感染予防策の強化や病床確保など、懸命な対策を続けている。(洲見菜種、望月悠希)
予防対策、態勢整備急ぐ
道内では12日に1日当たりに報告された新規感染者が過去最多の236人を確認するなど、7日連続で150人を超え、感染拡大に歯止めがかからない。
道内で感染拡大が著しい札幌市のJA道厚生連札幌厚生病院共済クリニック。藤永明所長は「従業員はすさまじい緊張感の中で働いている」と話す。飛沫(ひまつ)感染を防ぐため診察室にパーテーションを設けたり、窓口にビニールシートを付けたりする。診察台や検査器具などは1日2回のアルコール消毒を徹底。従業員の会食制限もする。診療控えで3月以降、外来患者は3割ほど減り経営にも影響が出ている。藤永所長は「病院がパニックになり患者の不安をあおるわけにはいかない。冷静沈着に十分に感染対策をして必要な医療を提供したい」と話す。
札幌市の次に人口が多い旭川市。JA道厚生連旭川厚生病院は地域の他の病院と申し合わせ、重症・中症の患者を受け入れることになっている。同病院は「さらに感染者が増加した場合、軽症者を宿泊療養施設に移動させるなどの受け入れ病院の負担減や、個人防護服の不足に備えた支援が必要」とする。
酪農が盛んな釧路地方の弟子屈町。JA道厚生連特別養護老人ホーム摩周は、町内唯一の特別養護老人ホームとして町内や近隣の高齢者福祉を守っている。道内の別の特別養護老人ホームでクラスター(感染者集団)が発生しており「緊張感は高まっている」(菊地崇施設長)という。
同施設は特養で100人、ショートステイは約10人が利用する。菊地施設長は「認知症の利用者が多く面会や外出の制限などの感染対策が理解されないという苦労もある」と明かす。「3密」を避けたレクリエーションなどで対応するが、ストレスを抱える利用者への対応が課題だという。
農業と漁業が盛んな北見市常呂町で96人が入居するJA道厚生連特別養護老人ホームところは2月から、面会方法を変え、窓越しでの会話と無料通話アプリ「LINE(ライン)」を使った対応を取る。11月に入り、同市内の飲食店でクラスターが発生したが、同町とは距離があり、面会は現行対応を当分維持する方針。同施設は「一人でも職員が感染したり、濃厚接触者になったりして出勤停止になると、通常のサービス提供が難しくなる。その場合は人的支援が必要だ」とする。
JA道厚生連は「冷静に地域医療を守る対策を続けるしかない。厚生連だけでなく、地域の医療が一丸で連携したい」としている。
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2020年11月14日