生物観測の縮小 利用者の声聞き熟慮を
2020年11月22日
気象庁は、生物季節観測を2021年1月から大幅に縮小する。開花や初鳴きの知らせは生活に潤いを与え、地方からの季節の便りでもある。気候変動や環境変化の把握にも役立つ。利用者らの声を聞き、決定通りでいいか熟慮すべきだ。
生物季節観測は、気温や日照など季節の変化に反応して生物が示す現象を気象庁の職員が目や耳で確かめ、確認できた日を記録するもの。1953年から全国統一の方法で行ってきた。
季節の遅れや進み、気候の違いや変化を的確に捉えるのを助けてきた。また、桜の開花やカエデの紅葉など身近な生物に着目し、人々が季節感を認識する指標となっている。
今年1月現在で、全国の気象台・測候所58地点で、植物34種目・41現象、動物23種目・24現象を対象に観測する。気象台や測候所から5キロ未満、標高差50メートル以内のエリアで行う。
同庁によると、都市化や温暖化の進展で気象台・測候所周辺の生態環境が大きく変化し、植物の季節観測に必要な、適切な場所に標本木を確保することが難しくなった。また、ウグイスの初鳴きなどの動物現象が季節と合わなくなった地域も多くなってきたという。
このため同庁は「より正確で実態にあった情報を提供する」とし、地球温暖化などの気候の長期変化や、一年を通じた季節変化とその遅れ、進みを全国的に把握するのに適した代表的なものだけを残し、その他を廃止することにした。継続するのは、アジサイ(開花)、イチョウ(黄葉、落葉)、梅(開花)、カエデ(紅葉、落葉)、桜(開花、満開)、ススキ(開花)の6種目・9現象だけ。リンゴや桃の開花などはやめる。ツバメの初見など動物は全廃する。
観測対象の削減が、きめ細かな季節情報の減少につながることへの懸念は強い。地域性のある動植物の情報は、古里や地方、他の地域に思いをはせるきっかけにもなる。動物を全廃することへの異論も多い。例えば北上を続けるクマゼミの観測は、現在進行形の温暖化の指標として重要だと指摘されている。
生物季節観測の成果は、日々の天気予報や警報にすぐに反映されるわけではない。しかし「温暖化や都市化といった変化について、計測器によるデータを補足する形で、貴重な資料を積み上げてきた」(森田正光ウェザーマップ会長)。こうした実績も考慮すべきだ。
自然界の異変をキャッチすることは、気候変動や環境変化を把握する上でも貴重だ。情報が減ることで気候への国民の関心が薄れ、昆虫の激減や植物の変化に鈍感になるようなことがあってはならない。それは、地球温暖化や生物多様性の危機への無関心につながるからだ。
同庁は、農業を含めて観測情報の利用状況を把握し、意見を聞いた上で決定内容を検証すべきだ。自治体などが行う場合は、十分に支援する必要もある。
生物季節観測は、気温や日照など季節の変化に反応して生物が示す現象を気象庁の職員が目や耳で確かめ、確認できた日を記録するもの。1953年から全国統一の方法で行ってきた。
季節の遅れや進み、気候の違いや変化を的確に捉えるのを助けてきた。また、桜の開花やカエデの紅葉など身近な生物に着目し、人々が季節感を認識する指標となっている。
今年1月現在で、全国の気象台・測候所58地点で、植物34種目・41現象、動物23種目・24現象を対象に観測する。気象台や測候所から5キロ未満、標高差50メートル以内のエリアで行う。
同庁によると、都市化や温暖化の進展で気象台・測候所周辺の生態環境が大きく変化し、植物の季節観測に必要な、適切な場所に標本木を確保することが難しくなった。また、ウグイスの初鳴きなどの動物現象が季節と合わなくなった地域も多くなってきたという。
このため同庁は「より正確で実態にあった情報を提供する」とし、地球温暖化などの気候の長期変化や、一年を通じた季節変化とその遅れ、進みを全国的に把握するのに適した代表的なものだけを残し、その他を廃止することにした。継続するのは、アジサイ(開花)、イチョウ(黄葉、落葉)、梅(開花)、カエデ(紅葉、落葉)、桜(開花、満開)、ススキ(開花)の6種目・9現象だけ。リンゴや桃の開花などはやめる。ツバメの初見など動物は全廃する。
観測対象の削減が、きめ細かな季節情報の減少につながることへの懸念は強い。地域性のある動植物の情報は、古里や地方、他の地域に思いをはせるきっかけにもなる。動物を全廃することへの異論も多い。例えば北上を続けるクマゼミの観測は、現在進行形の温暖化の指標として重要だと指摘されている。
生物季節観測の成果は、日々の天気予報や警報にすぐに反映されるわけではない。しかし「温暖化や都市化といった変化について、計測器によるデータを補足する形で、貴重な資料を積み上げてきた」(森田正光ウェザーマップ会長)。こうした実績も考慮すべきだ。
自然界の異変をキャッチすることは、気候変動や環境変化を把握する上でも貴重だ。情報が減ることで気候への国民の関心が薄れ、昆虫の激減や植物の変化に鈍感になるようなことがあってはならない。それは、地球温暖化や生物多様性の危機への無関心につながるからだ。
同庁は、農業を含めて観測情報の利用状況を把握し、意見を聞いた上で決定内容を検証すべきだ。自治体などが行う場合は、十分に支援する必要もある。
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ピーマン平年並みに ジャガイモは物流回復
ピーマンの相場が反発している。日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は、平年の3割安だった年末から、平年並みにまで回復。前進出荷の反動と直近の寒さで、入荷が不安定となっている。一方、品薄高だったジャガイモは大雪で停滞していた物流が復旧し、相場は落ち着く見通しだ。
ピーマンは、年内の前進出荷が顕著だった。12月の大手7卸販売量は1364トンと、平年(過去5年平均)比13%増。中旬に限れば同30%増だった。潤沢な出回りを受け、年末は平年の3割安に低迷していた。
年が明け、相場は急上昇した。1月中旬(18日まで)の日農平均価格は1キロ531円と、同7%安。先週末には平年並みにまで戻した。卸売会社は「年内は相場が安いまま終了した。値頃感があり年明けから引き合いがある中、出回りが減って反発した」とみる。
JA宮崎経済連は「着果負担による花落ちがあり、出荷ペースは減る。ただ、天候は良好で実付きは十分。2月にかけて回復する」と話す。JA高知県も「この時期は元々出荷が減るが、例年よりも1割ほど少ない」という。卸売会社は「短期間で上がりすぎ、小売りの注文控えもみられる。ただ、西南暖地産の出回りが回復する1月末までは、強含みで推移する」と見通す。
ジャガイモは、寒波による大雪で鉄道の運行が止まっていた北海道で、15日以降運行が再開し、入荷が回復してきた。東京都中央卸売市場9市場では、18日の入荷量は635トンと、同じく休市明けの12日から30%増。中旬の日農平均価格は177円と平年比59%高だが、18日は下げに転じた。卸売会社は「凍害も見られず、品質は良好。関西以西の市場はまだ不足感が強いが、高値反動も相まって徐々に相場は落ち着く」とみる。
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2021年01月19日

農業施設被害5000棟超 大雪で東北・北陸など
記録的な大雪で東北3県と新潟、北陸3県では13日までに、合わせて5000棟を超えるパイプハウスなど農業施設の損傷、損壊の被害が報告された。除雪が追い付かず全体を把握し切れていないため、被害はさらに拡大する恐れがある。
各県が12日時点で把握した被害状況によると、岩手県では県南部を中心にパイプハウス2346棟に被害が出た。秋田県ではパイプハウスなどの農業施設1019棟が被害を受け、農作物を含めた被害額は3億円を超えた。山形県はサクランボや西洋梨など約65ヘクタールで枝折れなどの樹体被害や、パイプハウス474棟の被害が報告された。
新潟県は13日、大雪・暴風雪による農業の被害状況を発表。昨年12月14日から今年1月12日までの被害を取りまとめ、22市町村でパイプハウス785棟が損傷・損壊した他、6市でライスセンターや育苗ハウスなどの共同利用施設35棟が被害を受けた。ハウスの被害は強風によるビニールの破損などが多い。
北陸3県でも13日正午現在の各県のまとめによると、富山県ではパイプハウスや畜舎、農作業場は、全壊244棟を含む336棟が被害を受けた。石川県は累計で農業用ハウス307棟などの被害を確認した。福井県では農業用ハウスの損壊が130棟に上った。
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2021年01月14日

なくそうコロナ差別 「シトラスリボン」で運動 愛媛・JA松山市
JA松山市CS(顧客満足度)向上委員会は、新型コロナウイルス感染者や医療従事者への差別をなくす運動「シトラスリボンプロジェクト」に乗り出した。全職員が各自でリボンを作り、制服の胸元や各職場内に掲示して賛同の意を示す。今後は来店客にもキットやリボンを配り、地域への波及効果も期待する。
プロジェクトは、コロナ禍で生まれた差別や偏見を耳にした県内の有志が、住みやすい社会を目指し始めた。……
2021年01月18日
農業分野の技能実習生 1~3月2000人予定 人手不足を懸念 入国停止で農相
野上浩太郎農相は15日の閣議後記者会見で、1~3月に来日を予定していた農業分野の外国人技能実習生らが約2000人に上ると明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、技能実習生を含む外国人の新規入国は停止中で、生産現場の人手不足が問題となる可能性がある。野上農相は影響を注視しつつ、代替人材の確保を後押しする考えを示した。
昨年12月末時点で今年1~3月に来日予定だった技能実習生らの数を、都道府県やJAなどに聞き取ってまとめた。昨年もコロナ禍による入国制限で3~9月に技能実習生ら約2900人が来日できず、人手不足となる農業経営が出ている。
野上農相は会見で「今後、日本にいる技能実習生らの在留延長や他産業からの雇用などによる代替人材の確保が必要になっていく」と指摘。代わりの人材の確保に必要な経費を支援する「農業労働力確保緊急支援事業」を通じて、生産現場を支える考えを示した。
政府は14日から緊急事態宣言の解除まで、例外的に認めていた技能実習生らビジネス関係者も含めて外国人の新規入国を一時停止している。
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2021年01月16日

日の出パッションフルーツプリン 東京都日の出町
東京都日の出町の温泉施設「生涯青春の湯つるつる温泉」が製造・販売する。町内の野口農園が栽培したパッションフルーツと福嶋牧場の搾りたての牛乳を使った新商品だ。
濃厚な牛乳にジャム状にしたパッションフルーツを練り込んだ。
プリンは柔らかく滑らかな口溶けで、パッションフルーツのソースに入っている果実の種が食感にアクセントを加える。お年寄りから子どもまで楽しめる甘酸っぱくてトロピカルな味わいだ。
同温泉の職員が開発し、週末に売店で販売。「地元の農産物を使った商品開発を展開し、来場客に地場産品をPRしていきたい」と意気込む。
1個200円。問い合わせは「生涯青春の湯つるつる温泉」、(電)042(597)1126。
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2021年01月18日
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JA全国女性大会 「新たな活動」で仲間を
きょう、JA全国女性大会が開かれる。活動の灯(ひ)を消さないように、関係性を絶やさないようにと各地で模索が続く中、「Withコロナ時代の新しいJA女性組織活動」をウェブ上で語り合う。インターネット交流サイト(SNS)や動画配信、ウェブ会議など新たな手法を取り入れて活動を進め、新たな層を巻き込みたい。
「できることからはじめよう」──。JA全国女性組織協議会(JA全国女性協)とJA全中が2020年9月に作成した「Withコロナ時代における新たなJA女性組織の活動指針」では、これを合言葉として、新型コロナウイルス禍からの“再起動”を呼び掛けた。
日本農業新聞くらし面では、今大会を前に「女性部活動withコロナ」を連載。JA長野県女性協議会のSNSを活用した情報発信、愛知県JAあいち海部の自宅で受講できるオンライン教室(動画配信)などを紹介した。これらの手法は今ある関係性を深めつつ、新たな層とつながることにも有効だ。各地の事例がそれを証明している。
JA全国女性協は今年、70周年という節目の年を迎える。前身である全国農協婦人団体連絡協議会の設立が1951年。加藤和奈会長は「先輩たちも困難に打ち勝ってきた」と歴史を振り返りながら、新たな活動手法を指して「コロナ下だからできることがある」と語る。
来年度は、JA全国女性協3カ年計画(19~21年度)の最終年度。計画は、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の考え方を初めて取り入れたのが特徴だ。具体的活動として、①食を守る②農業を支える③地域を担う④仲間をつくる⑤JA運営に参画する──を示した。どれも、各地の女性組織が長い年月をかけて展開してきたものだ。
コロナ下で、とりわけ重要となるのが「仲間をつくる」ことだろう。JA全国女性協の会員は、前年比3万366人減の49万1330人(20年7月時点)と減少が続き、会員拡大が長年の課題となっている。
しかし「withコロナ」の考え方で、会員以外の層に活動の楽しさや重要性を伝えられれば、少しずつでも仲間づくりは進む。仲間づくりはひいては食を守り、農業を支え、地域を担うことにもつながるだろう。
「70年という節目」と「withコロナ」。くしくも、歴史的なタイミングが重なった。今、大会やイベントに集まれずとも、できることはある。まずは少人数からでも取り組みを始めよう。
本日の大会では「できること」から始めた各地の会員がスピーチで取り組みを発表する。参考になる手法は共有して、それぞれの地域で展開してほしい。そして、JAのトップ層は女性組織活動の意義と役割を正当に評価し、支援をしてほしい。食と農を基軸にしたJAの価値を伝える重要な担い手なのだから。
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2021年01月20日
通常国会と農政 基盤強化へ審議尽くせ
通常国会が始まった。農業経営への支援を含む新型コロナウイルス対策や米の需給対策を盛り込んだ2020年度補正予算案と21年度当初予算案、国家戦略特区での一般企業の農地所有特例を延長する法案など、国会は重要な農政課題に向き合う。生産基盤の維持・強化の観点から、徹底した審議を求める。
施政方針演説で首相は、前政権から継承した農業の成長産業化を地方重視と結び付け、東京一極集中の是正と地方の活性化の柱に据えた。具体的には、農林水産物・食品の輸出額目標5兆円を達成するための産地の支援と、主食用米から高収益作物への転換促進を掲げた。
両者とも、現行の食料・農業・農村基本計画が目指す食料自給率の向上と生産基盤強化の一環といえる。加工・業務用需要の輸入品からの奪還や飼料用米をはじめ戦略作物の推進、中小・家族農家の支援なども重要だ。緊急事態宣言の再発令で農畜産物の需要が減り、生産基盤が弱体化する懸念もある。
こうした課題を踏まえて国会は、補正・当初予算案が生産基盤の維持・強化に効果的か議論すべきである。米の生産調整の実効性を巡っても検証が必要だ。前年産比6・7万ヘクタールの過去最大規模の作付け転換を21年産で達成しないと、米価が大幅に下落する恐れがある。また18年産で始まった現行の米政策の下で作付けは3年続けて過剰となった。課題を洗い出し、あるべき姿について議論が必要だ。
施政方針演説では、地方活性化の手段として規制改革を重視する姿勢も強調した。首相は、行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を政策運営上の壁とみなし、その打破も表明した。これら両面から、農業が標的となることに警戒が必要だ。
国家戦略特区がその例だ。兵庫県養父市で認めている一般企業の農地所有特例の全国展開を巡る議論は、関係閣僚が慎重姿勢だったが、同特区諮問会議の民間議員が強硬に主張、異例の「首相預かり」となった。今回は特例の2年延長で決着し、同特区法改正案を国会に提出する。しかし特例の利用は低調で、延長が必要かどうか国会は熟議すべきだ。官邸主導の政策決定の在り方も議論の俎上(そじょう)に載せる必要がある。
規制改革推進会議には、農地所有適格法人の議決権要件の緩和を求める意見もある。一般企業の農地取得につながり、撤退後の耕作放棄や産廃置き場にされることなどが懸念される。こうした論点も議論すべきだ。
施政方針演説では、環太平洋連携協定(TPP)の今年の議長国として加盟国の拡大に向けた議論を主導する考えを示した。貿易協定の拡大が、なし崩し的に農畜産物の一層の自由化につながらないよう政府の姿勢をたださなければならない。
衆院議員の任期は10月までで、総選挙が必ず行われる。国会論戦の中で各党には農政の選択肢を示すことも求められる。
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2021年01月19日
次期全国大会議案 大転換期のJA像示せ
世界と日本を取り巻く情勢は新型コロナウイルスで激変した。そうした中でJAグループは10月、第29回JA全国大会を開き、中期指針を打ち出す。大転換期になくてはならない協同組合の存在感を示す「目指すJA像」を発信すべきだ。
ピーター・ドラッカーが半世紀前に書いた『断絶の時代』を改めて読み直したい。われわれが今直面している状況と重なる点が多い。彼は四つの「地殻変動」が始まったことを挙げ、これまでの経済・社会とは「非連続」の時代の到来を展望した。その一つ目は新技術・産業の出現。二つ目は経済のグローバル化。三つ目は政治と社会の多元化。四つ目は知識社会の到来。知識は情報と置き換えていいかもしれない。
まさにその時代を生きてきたわれわれは、インターネットなどの情報技術が劇的に私たちの暮らしや経済を変えたことを知っている。世界は近づき、国境の壁は取り外され、そして農産物輸入大国の日本が輸出拡大の旗を振っている。グローバル化は一方で、ウイルスや細菌といった病原体があっという間に世界を席巻するリスクを高めた。
コロナ禍が生活、経済、人々の意識に本質的な変化をもたらすかは見定める必要があるが、テレワーク、オンライン会議、ネットショッピングといったスタイルは収束後も定着すると考えられる。東京から地方への転出、田園回帰の流れが続く可能性も高い。これを一層太いものにすることが求められている。
また、コロナ禍が加速させた格差の拡大、社会の分断をどう乗り越えていくか。新自由主義的な経済から持続可能な経済への転換、地球温暖化防止といった地球的課題への関心も高まりつつある。今、転換期に立つとの意識を持つべきである。
こうした大きな視座から、協同組合の中核であるJAグループは何をすべきか。「食と農を基軸に、地域に根差した協同組合」が持つ資源とヒューマンパワーで何ができるか。次期大会議案づくりでは、今日的な課題への骨太の構想を示すべきだ。「地域になくてはならないJA」の具体的な姿と、そのための行動を提示してもらいたい。
過去2回の大会議案は、官邸主導の農協改革への対応に追われ、JA自己改革を前面に打ち出した。具体的には農業者所得の増大、農業生産の拡大、地域の活性化。これらは成果を上げたが、JAの原点として引き続き実践の手を緩めてはならない。同時に、協同組合の側から、大転換期に日本はどう対応すべきか前向きなメッセージを発信してほしい。
世界の協同組合はその存在意義が問われている。国際協同組合同盟(ICA)が掲げた「2020~30年戦略計画」の主題は、アイデンティティーの強化・深化である。あまり内向き志向にならず、協同組合らしさの発揮を組織の内外に伝える議案にすべきである。
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2021年01月18日
健康長寿の10年 高齢者 農業に生かそう
国連は昨年12月の総会で、2021年から30年を「健康な高齢化の10年」(健康長寿の10年)にすると宣言した。世界に先駆けて高齢化が進む日本の農村こそ関係機関が連携し、高齢者が健康なまま輝けるような取り組みを率先して進めるべきだ。
国連の宣言は、高齢化が世界的問題になっているにもかかわらず、高齢者の権利と要望に対応できる十分な準備ができていないとの懸念を表明。年齢を重ねるだけではなく、自立した生活を重視した内容だ。世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府や地域、市民団体、民間などに積極的な行動を促している。
厚生労働省によると、日本の平均寿命は男性81・41歳(19年)、女性87・45歳(同)。世界でもトップクラスだ。平均寿命とは別に健康寿命という考え方がある。日常の生活動作を自立してできる、健康に過ごせる期間のことだ。長寿科学振興財団によると、日本の健康寿命は74・8歳。シンガポールの76・2歳に次いで世界2位になる。
しかし日本は、平均寿命と健康寿命の開きが大きい。健康を損なってから亡くなるまで平均10年前後を過ごしていることになる。同財団によると、国別ランキングでは開きが少ない方から31位と順位が大きく下がる。介護が必要な期間が長いのだ。
新型コロナウイルス感染への懸念や医療の逼迫(ひっぱく)を考えると、高齢者は病院に行きにくい。健康を損ねて病院で治療するより、予防することが求められている。健康寿命を延ばし、平均寿命に近づける取り組みの重要性は増している。
健康寿命を延ばすには、適度な運動、適度な食事、生活習慣病対策などが求められるが、個々が「やる気」を持つことも重要だといわれる。高齢者が意欲や好奇心、社会に求められているという実感を持てる仕事や趣味が健康長寿につながる。
日本は農業者の減少と高齢化が進み、基幹的農業従事者の7割を65歳以上が占める。農業にとって労働力の確保は大きな課題で、雇用を含め高齢者を多様な担い手に位置付ける必要がある。一方で農業法人など雇用する側には、高齢者が規則正しい生活を送り、楽しんで働けるよう作業の安全に配慮した職場環境をつくることが求められる。
政府は、19年にまとめた農福連携等推進ビジョンで、農福連携を障害者の活躍促進にとどまらず、高齢者や生活困窮者らの就労・社会参画の視点で捉え直すことを提起した。就労先の情報提供を含め、行政やJA、農業者らが連携し、高齢者の就農支援に取り組んでほしい。
何より必要なのは意識改革だ。国連は、高齢化に対する考え方、感じ方、行動方法を、この10年で変えようと訴える。社会に貢献したい、楽しみながら年を重ねたいという高齢者の思いを、若い世代がくみ取り、生かす姿勢が求められる。社会全体で高齢者の活躍の場をつくり、健康長寿を延ばしたい。
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2021年01月17日
コロナ特措法改正 補償が実効確保の鍵に
政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案を18日召集の通常国会に提出し、早期成立を目指す。休業と財政支援、罰則のセットが柱で、実効性が鍵を握る。農家を含め幅広で十分な補償の明確化が必要だ。罰則は私権制限との兼ね合いで慎重を期すべきだ。国民の命を守る視点で徹底審議を求める。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
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2021年01月16日
農畜産物トレンド 変化に対応 業界連携で
日本農業新聞の2021年「農畜産物トレンド調査」がまとまった。販売キーワードの1位は「コロナ対応」。新型コロナウイルス感染の終息が見通せない中で、国産回帰の潮流が確認された。難局を乗り切るには産地だけでなく、川中、川下との連携が重要だ。関係業界が一丸で消費動向の変化に対応すべきだ。
トレンド調査は、米、野菜、果実、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施した。全国のスーパー、生協、外食、卸売業者などの販売担当者を対象とし、140社から回答を得た。毎年行い、今年で14回目。
今回の特徴は、コロナ関連のキーワードに注目が集まった点だ。「ネット取引・宅配」やコロナ不況を受け「値ごろ感(節約志向)」が上位にランクインした。「ネット取引・宅配」はこれまでも関心項目だったが、外出自粛や人との接触を控えたい消費動向の強まりで、コロナ下での販売手法として欠かせないものになっている。
部門別に見ると、トレンドのキーワードは多彩だ。野菜は「栄養価」。健康志向を受け、栄養価が高いとして知られるブロッコリーやニンジンといった品目に注目が集まった。野菜はそれぞれの品目で特徴的な機能性がある。研究機関などと連携し、販売戦略に生かしたい。
果実は「ギフト需要」と「地域性」。専門家は「果実は県独自ブランドが豊富で地域性を打ち出しやすい。特色ある果実で旅行気分を味わってもらうなど、付加価値型で地域の魅力を丸ごと売り込む視点が重要」と指摘する。
需給緩和が懸念される米は、パックご飯とインターネット販売が、消費拡大の手法として注目度が高い。米は炊飯や持ち帰りの負担といった課題がある。簡便性に対応した商品づくりが重要だ。食肉は、節約志向を受けて値ごろ感が求められる。牛乳・乳製品は家庭用が堅調で、大容量に勝機がある。花きは業務需要が伸び悩む中、業務用と家庭用の両方の用途に使える商材に注目が集まる。
農畜産物の一つの品目で、さまざまなキーワードを全て満たすのは難しい。産地は自らの農畜産物の特徴をつかみ、どのキーワードで産地づくりに取り組むか考える必要がある。例えば野菜。「ネット取引・宅配」ならばeコマース(電子商取引)に産地が挑戦したり、宅配業者との連携を強化したりすることなどが想定される。「健康(機能性)」なら機能性成分の高い品種の産地化や機能性表示制度を活用した販売もよい。「値ごろ感(節約志向)」に対応し、多収や低コストの産地づくりを目指すのも選択肢となる。
販売キーワードの「国産志向」(14%)「地産地消」(10%)「産地との直接取引」(8%)からは、国産を見直す動きが読み取れる。コロナ終息後も見据えて産地は、取引先などと連携して消費者や実需者のニーズに対応する体制を構築しよう。
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2021年01月15日
外国人材の確保 通年雇用と環境整備を
農繁期の異なる産地間での人材リレーなど、外国人の新たな活用の仕方が農業分野で広がってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年、外国人技能実習生らが来日できなかった状況に対応するものだ。継続して働いてもらえるように受け入れ側は、通年雇用の体制と労働環境などの整備・改善を進めたい。
農村の人口減少や高齢化、規模拡大などによる労働力不足で、農業分野で働く外国人が増えてきた。技能実習生は2019年10月末で3万1900人、同年に始まった新たな在留資格「特定技能」の外国人も20年9月末で1306人になった。特定技能は、農業や介護など14業種が受け入れ対象で、労働者と法的に位置付け、同一業種なら雇用先を変更できる。
ところが昨年、新型コロナの感染拡大を防ぐために政府が入国を規制。2900人の技能実習生が来日できず、受け入れ予定だった産地は人手不足に陥った。こうした中で始まったのが外国人のリレーである。繁忙期が重ならない産地間で人材を共有。外国人は通年で働くことができ、農家には毎年同じ人に来てもらえるメリットがある。
先行事例とされるのが長野と長崎での県間リレーだ。長野県では冬に、長崎県では夏に農作業が減少。外国人は、夏を中心に長野のJA木曽やJA洗馬でリンゴやキャベツなどの収穫に当たる。その後、JAながさき県央に移動し、ニンジンやジャガイモの収穫などを行う。熊本県では平場が中心のJA熊本市と高冷地のJA阿蘇で、青果の出荷繁忙期が異なることに着目。熊本市ではナスやトマト、阿蘇ではアスパラガス、イチゴの選果などに従事する。
産地リレーを担えるのは特定技能か「特定活動」の外国人だ。特定活動はコロナ禍で解雇されるなどした技能実習生に、一度に限り職種変更と滞在期間の延長を認める在留資格。昨年11月時点で職種を変更したのは約1300人で、うち農業が約400人だった。
コロナ禍の収束後を見据えても、外国人は日本農業の働き手として重要である。しかし人手不足は国内外で生じており、人材確保を巡って競争が激しくなるとみられる。日本農業が選ばれるには、受け入れる農業者やJAなどが労働環境や労働条件の点検と整備・改善に不断に取り組むことが欠かせない。
それには外国人の声を聞くことも重要だ。外国人にとっては母国語で相談できる人がいると心強いだろう。JA熊本うきは、日本語、英語、ベトナム語、中国語に堪能なベトナム人を正職員に採用している。選果場などで働く特定技能外国人の管理の円滑化などを期待する。
技能実習生や農業分野の特定技能外国人は滞在期間が決まっており、帰国が前提だ。地域農業の持続的な発展には、担い手の確保・育成が必要である。外国人材の活用と両輪で進めなければならない。
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2021年01月14日
広がり続ける豚熱 未発生地域も防疫徹底
豚熱の感染地域が広がり続けている。昨年末には山形県と三重県で相次いで発生。東西にそれぞれ拡大した。未発生地域も含め、農場での防疫の要点をあらためて確認・徹底しよう。
山形県で発生したのは昨年12月25日。2018年に国内で26年ぶりに発生してから10県目となる。29日には三重県で発生し、同県で2例目、全国で61例目となった。この農場は、沖縄県を除くと最も西に位置する。
いずれも予防的ワクチンの接種農場だった。しかし、山形の発生農場では初回の接種を終えていたが、感染した豚は出荷間際だったため、と畜場法に従って打っていなかった。三重県で感染したのは離乳したばかりの豚で、接種する前だった。
ワクチン接種の空白期間を突かれた格好だ。農水省や大学の研究者らは、ワクチンだけで完全に感染を防ぐことはできないと繰り返し指摘する。接種しても十分な免疫を得られる豚は8割程度とされ、飼養衛生管理基準で定めた消毒や衛生対策が全ての農場に求められる。
特に離乳豚の場合、未接種期間が必ず生じる。母豚からの移行抗体が効果を失う前にワクチンを打っても新たな抗体ができにくく、生後50~60日の接種が望ましいとされるためである。
制度面からは防疫対策が拡充・厳格化される。ワクチン接種の頻度は農場ごとに月3回程度必要だ。しかし接種できるのは都道府県知事が公務員として任命する「家畜防疫員」に限られ、人手不足が懸念されている。民間の獣医師も任命を受けられるが、所属先によって兼業禁止や勤務先への休暇申請が必要になるケースがあることなどから任命が進まない実態があった。
そこで同省は防疫指針を変更し、都道府県知事が認定した民間獣医師も接種できるよう検討を進めている。ワクチンを打ったことを証明するため、空き瓶を全て回収するなど厳密な管理とする考えだ。
現状でワクチン接種推奨地域は、昨年末に対象となった秋田県を含め28都府県に広がった。ウイルス陽性イノシシの拡散を懸念し、同省は鳥取県、岡山県に対してもワクチン接種体制の構築を求めている。
4月からは、食品残さから製造する飼料「エコフィード」の新たな加熱基準の運用が始まる。昨年1月に沖縄県の養豚場で発生した豚熱は、加熱が不十分なエコフィードが原因とみられている。また、国際基準との照合などにより加熱対象を拡大、加熱方法も厳しくし、違反時の罰則も設ける。
防疫を制度的に整えても、要となるのは人の手による日々の作業だ。外国人技能実習生らも含めて十分な対応が必須である。日本養豚事業協同組合はベトナム語や英語などで防疫作業や豚関連用語などを対訳した冊子を作り、活用を促す。また、農場の防疫体制は、行政や獣医師、地域の仲間と力を合わせて点検することが大切である。
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2021年01月13日
減る消防団員 なり手を増やす環境に
集中豪雨などによる災害から地域住民を守る消防団員の減少が止まらない。大規模災害が頻発している。地域防災の中核を担う消防団員の確保に向け、政府は環境整備を急ぐべきだ。
消防団は、市町村の非常備の消防機関。全ての市町村に設置され、公務員や農業者、JA職員、会社員ら他に本業を持つ団員で構成する。災害時には消火活動や住民の避難誘導、救助活動、救助が必要な人の捜索などに当たる。日曜日などに訓練し、災害に備える。
被害を最小限に抑えるには初動が肝心で、地域密着型の消防団は欠かせない組織だ。熊本県を中心とした昨年7月の豪雨では、12県で延べ5万6000人が救助、巡視警戒、避難誘導などで重要な役割を発揮した。
1954年に200万人を超えていた全国の団員は、少子高齢化や人口減少などで90年には100万人を下回った。昨年は81万8000人で、2年連続で1万人を超す減少となった。
地域の防災力を維持するためにも団員の減少を食い止める必要がある。災害の多発化や激甚化と団員数の減少で、団員1人の役割も増している。50歳以上が2割を超え、高齢化も進む。会社勤めのため日中は不在となる団員が増え、地域防災の弱体化が進んでいるのが実態だ。
消防庁は、退職報償金の引き上げなど、団員確保策に取り組んできたが効果は限定的だ。報酬も、危険を伴う活動に見合う水準への引き上げが急務だろう。国は、一般団員の報酬について年間3万6500円、出動手当1回7000円として、地方交付税を措置している。しかし、市町村が決める実際の報酬は、全国平均で年間3万1000円弱にとどまっている。
同庁は、昨年末に、研究者や首長などによる「消防団員の処遇等に関する検討会」を開いて改善策を探り始めた。報酬全体の底上げを目指すべきだ。
問題は、急速に少子高齢化と人口減少が進む農山村地帯だ。対応を急がないとなり手がいなくなり、地域防災の基盤が揺らぐ。九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授は「農林業従事者で消防団員の人は、国土保全の役割を果たしている。経営安定資金などの優遇措置を設け、住み続けられる条件を整備することも一案だ」と、農林業者の生計が成り立つような支援を提言する。考慮すべきだろう。
最近は、被災地で復旧活動などに当たるボランティアが増えてきた。行政の手が届かないところをカバーする「共助」は歓迎できる。併せて、住民による地域の防災力を高める日頃の活動が重要だ。その中核となる消防団活動に参加しやすくする職場の理解も欠かせない。
政府は、昨年末、防災・減災や国土強靱(きょうじん)化を推進するため、15兆円の事業規模となる5カ年加速化対策を決めた。地域住民が消防団に積極的に参加できるよう、総合的な取り組みも急ぐべきだ。
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2021年01月12日
米生産の目安削減 合意形成 国は後押しを
道府県の農業再生協議会などが定める2021年産主食用米の「生産の目安」がほぼ出そろった。需給均衡水準を上回り、大幅な価格下落が懸念される。目安の削減や、目安よりも生産を減らす「深掘り」が全体的に必要だ。県行政を中心とした関係者の合意形成と、国の強い後押しが不可欠である。
農水省は、需給均衡には21年産で6・7万ヘクタール(生産量36万トン)の作付け転換が必要だと指摘する。だが日本農業新聞の調べでは、41道府県の目安の合計で削減は約17万トンにとどまる。
20年産の需給は過剰作付けと、新型コロナウイルス感染拡大の影響を含めた大幅な消費減で緩和。相対取引価格は下がり、60キロ平均で前年より600円超低い水準で推移する。このままでは、2年で同4000円台半ばの下落となった13、14年産の二の舞いになると危惧される。
そこでJAグループは、20万トンを翌秋以降に販売する長期計画的販売を実施。最大規模の作付け転換などを支援するため政府・与党は、20年度第3次補正予算案と21年度予算案の合計で3400億円の財源を確保した。JAグループは、主食用と非主食用の手取り格差が縮小・解消されると評価する。また品代と助成金から経営費を除いた10アール所得に着目し、主食用と非主食用を組み合わせて所得を確保することを改めて提唱する。
作付け転換をやり切るには支援策の最大限の活用と併せ、県によっては目安の削減や深掘りがまず必要だ。行政やJAグループ、稲作経営者、農業法人、集荷業者や各団体などによる合意形成が鍵を握る。県行政の指導力の発揮が求められる。
野上浩太郎農相も昨年12月の記者会見で目安について「農家の所得向上の観点から、見直しが必要かどうかも含めて関係者で十分な検討を行ってほしい」と述べ、再考を促した。目安や作付け意向の調査、需給動向の分析、営農計画書のとりまとめなどあらゆる機会を捉え、目安の削減を含め作付け転換を強く働き掛けてもらいたい。
消費拡大対策も強化しなければならない。JAグループは国の事業を活用し、コンビニをはじめ事業者と連携した商品開発と販売促進、パックご飯の製造強化、学校給食への提供拡大などを行う。組合員・役職員が1日3食ご飯を食べる運動も展開。系統外への消費拡大策も検討・実施する。消費拡大が官民挙げた取り組みとなるよう同省にもけん引してほしい。
新型コロナの影響による需要の減少を、同省は約9万トンと推計。緊急事態宣言の再発令でさらに減る恐れがある。消費拡大に努めてもコロナ禍による減少分を補いきれなかった場合を想定し、対応を検討すべきだ。
生産・消費両面での取り組みにはスピード感が重要だ。20年産の価格は低下し始めている。需給均衡が見通せる状況を官民一体で早期につくり、市場に示すことが大切である。
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2021年01月11日