1936年の夏、月に向かった日本人3人が行方不明になった
2020年11月24日
1936年の夏、月に向かった日本人3人が行方不明になった。そして10年。月の生物と一緒に地底で暮らしているところを捜索隊が発見した▼日本SF界の先駆けの一人、海野十三の『月世界探検記』の筋立てである。これより前、日本人が月に降り立つ小説は明治期には登場した。月に行くのは時代を超えたロマン。それが間近に迫る▼米国主導の月探査「アルテミス計画」に日本も参加する。2024年までに人類を再び月に送る。月を回る宇宙ステーションも建設する。そこを拠点に月面を探査する。有人火星探査の技術実証も行う。日本の目標は日本人の月面着陸である。資源開発にも乗り出す。氷があるとされ、水素燃料にする。ルール作りも始まった。資源の扱いなどの原則に8カ国が合意した。宇宙大航海時代の幕開けである▼と、手放しでは喜べない。米国と覇権を争う中国とロシアは先の合意には参加せず、月面基地建設を独自に構想する。冒頭の小説では月の金塊を巡って殺人事件が起きたが、現実世界でも資源の争奪戦の勃発が危ぶまれる。国連の月協定は休眠状態。資源開発が現実化した今、法の支配が要る▼月の平和を乱す者は「月にかわっておしおきよ!」。『美少女戦士セーラームーン』(武内直子著)よろしく、国際社会が声を上げねば。
おすすめ記事

生物多様性が危機 今後の国家戦略とは 実効性あるSDGSに WWFジャパン事務局長 東梅貞義氏に聞く
世界の生物多様性の状況が、危機的な状況だ。対策として各国政府は新たな国家戦略を検討している。長年にわたり自然保護に取り組んできた世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の東梅貞義事務局長に、生物多様性の現状や復元に必要な取り組みについて聞いた。(聞き手・金哲洙)
弾力的な社会 形成を
──生物多様性の現状をどうみますか。
世界の生き物の豊かさは、50年前の3分の1になっている。WWFが4392種、2万811個体群の脊椎動物を対象に……
2021年01月10日
[新型コロナ] 営業短縮飲食店の取引先 最大40万円支援
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令を受け、梶山弘志経済産業相は12日の閣議後記者会見で、営業時間の短縮要請に応じた飲食店の取引先に給付金を支給すると発表した。時短の影響などで1月か2月の売上高が前年同月比で半分以下に減った場合に、中堅・中小企業は40万円、個人は20万円を上限に支払う。JAや卸売業者などを通じて間接的に取引する農家も対象に想定する。……
2021年01月13日
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある。今年はどう見ても辛抱の年か。その先に希望が芽吹いてほしい▼あまり話題に上らないが、夏には東京五輪・パラリンピックが控えている。国産食材と花のブーケ、そしておもてなしの心で世界中のアスリートと訪日外国人を笑顔にしたい。初夢のことである。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が世に出たのは1961年の丑年。人間でいえば今年還暦を迎える。少年まさに老いやすし。大都会に生きる地方出身の若者たちの応援歌で、今なお励まされている人は少なくない▼九さんが日航機墜落事故で亡くなったのは、くしくも丑年の1985年。感染症分類で新型コロナウイルスより危険度が高いペストは、明治時代に国内でも流行した。丑年の1901年、警視庁が屋外での跣足(せんそく)(裸足)歩行禁止令を出している。願わくば後世、コロナ終息の丑年と刻まれたい▼牛は昔、農耕になくてはならぬ役牛、今はミルクやブランド牛肉として地域農業の屋台骨になっている。「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけず良い方向に導かれること。年末の本紙記事で、米食が免疫力を高めてコロナ感染を抑制するとの研究論文を知った▼消費拡大に導いてほしい。コロナ禍に隠れているが、米需給も〈勝負の1年〉になる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月10日

茶 需要増へ奔走 JA京都やましろ
京都府最大の茶産地を抱えるJA京都やましろが、茶の需要拡大に奔走している。新型コロナウイルス禍などで茶価が大きく低迷する中、苦境に立つ生産者を支えようと、主力の碾茶(てんちゃ)を使う抹茶で、大手食品メーカーや地元菓子店などへの売り込みを強化する。担当部署だけでなく支店の信用共済渉外担当も営業活動を展開。二十数件の契約につなげるなど、販路を徐々に広げている。(加藤峻司)
コロナ禍で価格低迷 ブランド「抹濃」商品化
京都は玉露、碾茶といった高級品の生産量が多いが、茶の需要は高級品を中心に減少している。……
2021年01月12日

いくえ農園12年目 学びの場で心豊かに 農への思い深まる タレントの榊原郁恵さん
タレントの榊原郁恵さんが、神奈川県厚木市で農園活動を始めて12年目を迎えた。農園を“自分を成長させてくれる学びの場”と捉え、忙しい仕事の合間を縫って通い続ける。今では「農作物ができるまでどれほど時間も手間もかかるか、体で分かる」ようになった。育った作物に「感動の連続」だという。
農園は約10アール。地元のJAあつぎを仲介して借り、仲間4人で運営する。「土が合っているのか、すごくいいサトイモが取れるの」と榊原さん。仲間の70代男性は「最初はいつまで続くかなあと思ったけど、農作業に誰よりも熱心なんだよね。もう一通りの野菜作りはできるよ」と目を細める。
高校生の時に芸能界に入って以来、仕事一筋だった。「この世界以外知らないし、趣味も特にない。何か新たに学びたい。どうせなら生活に身近なもの」と考えたとき、日本の自給率の低さや耕作放棄地の問題などが目に付いた。
自分で作った農作物を食べたくなり、JAが当時開いていた農業塾に参加。出身地の厚木を活気づけたいという思いもあった。修了後も農作業を続けたくて、仲間と農園を始めた。
大好きなアスパラガスが収穫まで3年ほどかかることや、小松菜やシュンギクの種の小ささに驚いた。野菜作りについて「子育てをしているみたい。過度な愛情も、気に掛けないのも駄目。生き物を育てているんだなあ」とつくづく感じる。
在来種の栽培や加工品作りなど、やりたいことにどんどん挑戦。日本農業新聞にも活動の様子を連載した。農家と知り合い自ら農作物を作る中で、作り手と買い手の距離感にもどかしさも感じるようになった。「食べる側は野菜を当たり前にあるものと思いがちだけれど、農家が時間をかけて地道な作業をして作っている。“育てられたもの”をいただいているという感覚を一人一人が持てるように、農業に触れ合う機会が増えるといいな」
農園を続けてこられた理由に、仲間の存在を挙げる。農業について教わるだけでなく、作業も互いに協力し、励まし合ってきた。「心が豊かになり、私自身を育ててもらえた」と感謝する。仲間も年を重ね、体力的にきついと感じることもあるが、まだまだ続けたい。農への思いは深まるばかりだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日
四季の新着記事
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた▼映画は、大正7(1918)年、富山県で起きた米騒動の史実による。主人公は、米を船に積み込む漁村の「おかか」たち。シベリア出兵を控え、米の価格が高騰する。家族と暮らしを守るため、米問屋に直談判、ついには米の積み出しを阻止しようと体を張って実力行使し、価格引き下げを勝ち取る。「女米一揆」は新聞で取り上げられ、各地の運動に火をつけていく▼働く女性による民主化運動の嚆矢(こうし)だろう。映画でリーダー役のおばばが言い放つ。「理想や主張で腹いっぱいになるんがやったら、誰も苦労せんわ」。資産家や警察の脅しに一歩も引かない。「負けんまい」「やらんまいけ」。命懸けの決起が、社会を動かしていく▼主演の井上真央さんが、公開イベントで語っている。「名の無い人たちの頑張ろうとする力が(社会を)大きく変えていくのだろうなと思う。この時代に勇気を与えられるような作品になっていると思います」。コロナ禍に豪雪被害。井上さんは、大変な時だからこそ、映画や娯楽が「一筋の光」になればと願う▼時は移り、世は空前の米余り。値崩れの危機を前に政府の腰は重い。「令和の米騒動」で、「全米作農家が泣いた」とならぬよう祈る。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月15日
またぞろ巣ごもりに逆戻り
またぞろ巣ごもりに逆戻り。そこで少し頭の体操にお付き合いを▼次に掲げる歌を声に出して読んでいただきたい。「鳥啼(な)く声す 夢覚(さま)せ 見よ明け渡る 東(ひんがし)を 空色栄(は)えて 沖つ辺(へ)に 帆船群れ居ぬ 靄(もや)の中(うち)」。実はこれ「いろは歌」。仮名48文字を1字ずつ織り込んだ作品▼日本語博士・藁谷久三さんの『遊んで強くなる漢字の本』にある。明治36(1903)年、「万朝報」という日刊新聞が募集した「いろは歌」の傑作である。次は回文の秀作。「時は秋 この日に 陽たづねみん 紅葉(こうえふ)錦の葉が 龍田川(たつたがは)の岸に殖(ふ)え 鬱金(うこん)峰づたひに 陽の濃き淡(あは)きと」。全部仮名にして、下から読んでほしい。そのすごさが分かる▼作者や出典はよく分かっていない。だが日本語博士をもってしても、この詩文の長さと出来栄えに匹敵する回文は見たことがないという。「たけやぶやけた」に比べるのは失礼だが、万葉の趣さえ漂う。個人的に好きなのは、不謹慎ながら故立川談志師匠を読み込んだ「だんしがしんだ」▼ネットの回文専門のサイトにはコロナ禍を読んだ傑作が多い。「策ないわ 探すも菅さ ワイ泣くさ」「菅の危機警告 小池聞き逃す」。その見事さに脱帽。脳トレに回文作り、あなたもいかがですか。憂さ晴らしにもうってつけ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月14日
冬将軍というより白魔である
冬将軍というより白魔である。「家から出るのも大変」。富山の親戚から悲痛な声が届く▼北陸や新潟などは、死傷者も後を絶たず、自衛隊派遣の非常事態に。その惨状はさながら現代の『北越雪譜』である。同書は、越後の商人で文人でもあった鈴木牧之による迫真の豪雪ルポ。江戸のベストセラーにして名著である。雪国に住む者の恨み節が随所に出てくる。意訳するとこんな具合だ▼暖かい地方の人は銀世界をめで、舞い散る雪を花や宝石に例え、雪見の宴などを楽しむが、毎年3メートルもの雪に覆われるこちらの身にもなってほしい。楽しいことなどあるものか。雪かきで体は疲れ果て、財産も費やし、苦労の連続だ─。今も昔も変わらぬ豪雪地帯の悲哀だろう▼コロナ禍や雪害に苦しむ人たちに一足早く春を届けようと、富山市花き生産者協議会が、富山駅の自由通路を特産の「とやま啓翁桜」で飾り、道行く人を楽しませている(13日まで)。産地の山田村花木生産組合では、豪雪で配送に影響が出たが、今月約5万本の出荷を見込む。「人々の心に安らぎを届けたい」と石崎貞夫組合長▼暖かい部屋で7、8分咲きにした後、涼しい場所に移すと1カ月は花を楽しめるという。凍(い)てつく冬に咲く桜のように、つらく厳しい時を乗り越えたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある。今の大学生がそうかもしれない▼入学式は自粛、授業はオンライン、サークル活動は停滞、アルバイトもできない。たまに友人と盛り上がったら〈自粛警察〉の目が光り、年配者からは〈無症状感染〉を疑われる。だが未来は閉ざされてはいない。「機会は誰にでも平等であると固く信じている」。世界を変えたスティーブ・ジョブズの言葉。ピンチはチャンスへの入り口と信じよう▼コロナ下の明るいニュースに困窮学生に食料支援と励ましのメッセージを送る活動がある。新潟県燕市が昨年春、帰省できない学生に行い、他の自治体やJAなどの協同組合にも広がった。中には支援を受けた若者が人手不足の農作業を手伝う動きも生まれた。そんな活動に汗をかくJAふくしま未来が昨年暮れ、政府の「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞した。地域貢献以上の可能性を感じさせる▼若い世代との関わりづくりは農の未来に種をまくはずだ。きょう成人の日。各地で成人式の中止・延期が相次ぐ。本人はもとより両親、祖父母まで晴れの日を迎えられない落胆はいかばかりか。週末には大学入学共通テストも控える▼せめて寒気が収まり、穏やかな日であってほしい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月11日
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある。今年はどう見ても辛抱の年か。その先に希望が芽吹いてほしい▼あまり話題に上らないが、夏には東京五輪・パラリンピックが控えている。国産食材と花のブーケ、そしておもてなしの心で世界中のアスリートと訪日外国人を笑顔にしたい。初夢のことである。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が世に出たのは1961年の丑年。人間でいえば今年還暦を迎える。少年まさに老いやすし。大都会に生きる地方出身の若者たちの応援歌で、今なお励まされている人は少なくない▼九さんが日航機墜落事故で亡くなったのは、くしくも丑年の1985年。感染症分類で新型コロナウイルスより危険度が高いペストは、明治時代に国内でも流行した。丑年の1901年、警視庁が屋外での跣足(せんそく)(裸足)歩行禁止令を出している。願わくば後世、コロナ終息の丑年と刻まれたい▼牛は昔、農耕になくてはならぬ役牛、今はミルクやブランド牛肉として地域農業の屋台骨になっている。「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけず良い方向に導かれること。年末の本紙記事で、米食が免疫力を高めてコロナ感染を抑制するとの研究論文を知った▼消費拡大に導いてほしい。コロナ禍に隠れているが、米需給も〈勝負の1年〉になる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月10日
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く。彼我の決定的な違いは天気予報で、「風雪波浪注意報・警報」の久しく失念していた気象用語が頻繁に耳に入る▼この時季、ドラマ「北の国から」で、突然の猛吹雪に遭難した純と雪子をドサンコが見つけるシーンを思い出す。近づいてくる馬の鈴の音が2人の命を救った。馬は地吹雪でも立ち往生せず、そりは雪道にはまらない。自動車はそうはいかない。馬そりを操る笠松のじいさんは開拓民、名優大友柳太朗が演じた。「なつぞら」よりもリアルな人物像であり、偏屈でけちで顔が酒焼けしている。18年間苦労を共にした愛馬を手放した夜、五郎の前で涙を浮かべるシーンが心を打つ▼年末から日本列島は殊の外寒い。農作物への雪害に気を付けたい。菅首相が2度目の緊急事態宣言。慎重姿勢を転じたが、1都3県・業種限定で意図した〈強いメッセージ〉が国民に伝わるか。ここは命を守り抜くとの迫力を見たい▼昨年5月の宣言解除の際、安倍首相は「日本モデルの力を示した」と胸を張った。強制を伴わなくても3密回避の行動変容を国民がやり抜いたことへの自負だろう。しかし今は〈コロナ慣れ〉と〈背に腹は代えられぬ〉の現実がもう一方にある▼寒波と3波が覆う列島に鈴の音は近づくか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月09日
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある▼「殺さず、犯さず、貧しきからは盗(と)らず」。主人公の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵は、「三か条」を守る盗っ人には寛容で、平然と破る悪党には容赦がない。幼少の頃からの苦労が醸す、人情味あふれる捕物帳である。権力を持つ巨悪に目をつむりがちな世の中への憤りもあってか、池波文学は多くのファンを引き付ける▼司法関係者にも人気がある。元東京高裁判事で弁護士の原田國男さんは、特に若い裁判官に薦める。「悪い奴は徹底的に懲らしめるが、可哀想(かわいそう)な奴は救うという精神で一貫している。ここがいい」(『裁判の非情と人情』岩波新書)。裁判官は人を裁く権力を持つ。だからこそ、「可哀想だなと思ったら、量刑相場でなくとも、軽い刑や執行猶予にすればよい」。厳粛な司法の世界で生きる人情味▼きょうは「一か八か」に見立てた「勝負事の日」。江戸時代の賭け事「丁半ばくち」の丁と半の漢字の上部分が「一」と「八」に見えることから使われるようになったとも伝わる。新型コロナには「勝負の3週間」「真剣勝負の3週間」と連敗し、政府は1都3県を対象に緊急事態宣言の発令を決めた▼貧者も弱者も苦しめる“巨悪”に、手加減はいらない。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月08日
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた。大みそかになると、生薬を入れた袋を酒に浸し、元旦の朝に飲んでいた▼おとそである。いつまでも若くて元気なのは、あの酒のせいではないかとうわさとなり、正月の習慣が生まれた。一説では、仙人のいおり「とそ庵」にちなんで、呼ばれるようになった。「そ」の漢字は「蘇」で「よみがえる」を意味する。つまり、病魔に打ち勝って新しくよみがえる願いを込めた。『身近な「くすり」歳時記』(鈴木昶著)で知った▼いくら薬といっても、飲み過ぎれば毒となる。おせち料理をさかなにやっているうちに、空のちょうしが並ぶ。日常生活を一変させた、新型コロナへの恨みと一緒に飲み干す。体にいいわけがない。そんな凡人の習性を見通すように、体調を整える七草がゆの登場である▼きょうは、七種(ななくさ)の節句。7種類の若草をかゆに入れて食べると、病気にかからず、邪気を払うという中国伝来の習俗が伝わった。平安中期に宮中行事として取り入れられ、江戸後期に庶民の生活に広まった。〈セリ、ナズナ、オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草〉。五七五調のリズムもいい▼雪国は大雪、首都圏は緊急事態宣言へ。門松を外し、正月気分もほどほどに、気を引き締める。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月07日
小倉百人一首は、平安時代の藤原定家が選んだ秀歌撰(せん)である
小倉百人一首は、平安時代の藤原定家が選んだ秀歌撰(せん)である▼天智天皇の〈秋の田のかりほの庵(いほ)の苫(とま)をあらみ~〉に始まり、歌人100人の和歌が1人1首ずつ並ぶ。京都の小倉山で編さんしたことから「小倉」が付いた。その中に、光源氏のモデルにもなったといわれる藤原実方の一首がある。〈かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを〉。好きな女性に心を焦がす思いを歌った▼宮城県名取市にある実方の墓を昨年訪ねた。杉と竹に囲まれた山裾の一角に、ひっそりとたたずむ。宮廷でのいさかいから陸奥守に左遷され、見回り中に落馬して命を落としたと伝わる。みちのくでの非業の死を悼んで、西行、松尾芭蕉、正岡子規がしのぶ。歌人をつなぐ糸を手繰りながら、人影なく静寂が包む墓石に手を合わせた▼新型コロナ禍が収まって、実方の和歌が会場に響き渡ってほしい。風物詩のかるた取りである。1対1に向き合い、上の句に続く下の句の札を取り合う。ルールは至ってシンプルだが、上段者は上の句の頭文字を聞いただけで、取る札の目星が付く。風を切る手さばきは、0・3秒。神業に近い▼かるたの駆け引きにも劣らぬ、恋の駆け引き。貴公子に、「燃ゆる思ひを」と言わせた女性が一枚上手だったに違いない。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月06日