長寿国ニッポンの実相 100年安心年金 絵空事 経済評論家 内橋 克人

 「日本は世界一の長寿国」と折り紙を付けられたのは2015年11月のことだ。経済協力開発機構(OECD)が同月4日に発表した「世界の医療に関する報告書」によると、13年時点の日本の平均寿命は83・4歳で、調査対象44カ国でトップ。2年前の前回調査では、日本(82・7歳)はスイス(82・8歳)に続く第2位で、スイスを抜き第1位に躍り出た瞬間だった。

 政府は「100年安心年金」をうたい文句に日本の公的年金制度を世界に誇るようになる。だが、それからわずか3年半余り、今回、金融庁金融審議会は「夫婦そろって95歳まで生きるには年金だけでは足りない。年金以外に2000万円の蓄えが必要」との報告書をまとめた。「いや、3000万円必要」との説もあり、かくて一騒動持ち上がる。

 麻生太郎財務相兼金融担当相は報告書の受け取りを拒否し、今や国民の74%が老後の生活に不安があると答え、64%の回答者が公的年金は信頼できないと答えるようになった(共同通信が6月15、16両日に実施した全国電話世論調査結果)。世界一の長寿国に生きる日本人の「日常の真実」が今、問われている。
 

「幸せ」描けず…


 「世界一長寿国」とたたえられたその同じ年の5月、神奈川県川崎市内の「簡易宿泊所」が全焼し、9人もの高齢者が命を落とした。うち6人は現在に至るも身元不明のままで、同じような出来事が大阪はじめ各地で相次いだ。

 懸命に働いて年を取り、そして今は身寄りもなく、生活は困窮し、生活保護に頼りながら、その日暮らしを余儀なくされる。長寿国とたたえられようと、自らは長寿を「言祝(ことほ)ぐ」という幸せから排除された高齢者が増え、孤独死とか下流老人などの言葉が頻繁に使われる。現代日本の「社会の在り方」そのものが問われている。

 こうした高齢者の姿を目の当たりにする「若もの」もまた幸せであるはずはない。その頃、国立長寿医療センターが大規模な調査を行った。20代から70代まで全国2200人を対象としたアンケートでは「長生きなどしたくない」と答えた人が実に4人に1人。若ものたちは「いまの社会で高齢者がどのように遇されているか」、いつも目の当たりにしていて「長生きなどしたくない」と実感する。

 同じ調査で「歳(とし)をとることへの不安」を訴えた人は全体の83%。「自分の人生に対して肯定的になれない」という、これが「満たされざる長寿国のいま」を示す透視図なのである。
 

格差さらに拡大


 皮肉なことに、日本の富裕層はどうか。富裕層というのは100万ドル以上の投資可能な資産を持つ階層のことだ。世帯数で日本は米国、中国に次ぐ第3位であり、世界の億万長者の6人に1人が日本人とされる(ボストン・コンサルティング調査)。

 正社員のポストを求め続けても与えられず、やむなく不安定、そして何年働いても技術の蓄積さえおぼつかない、そのような非正規雇用の勤労者が「働く人」の4割に近づく。「人口減少社会」を問題視する前に、「働く人びと」一人一人にとって「ディーセント・ワーク」(尊厳ある労働)とはどうあるべきか、厳しく問い直すときではないのか。

 うちはし・かつと 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。日本放送協会・放送文化賞など受賞。2012年国際協同組合年全国実行委員会代表。『匠(たくみ)の時代』『共生の大地』『共生経済が始まる』など著書多数。 
 

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