日米首脳会談 害虫論じてる場合か 特別編集委員 山田優

 長い歴史がある日米首脳会談で、害虫被害が話題になったことはないと思う。事の善しあしは置くとして、沖縄返還の際の核再持ち込み合意(佐藤栄作首相とニクソン大統領、1969年)、日本に数値目標を迫った日米包括経済協議(宮澤喜一首相とクリントン大統領、93年)などは、国益をかけた壮大なぶつかり合いがあった。

 8月25日にフランスで開いた安倍晋三首相とトランプ米大統領との会談で話題になったのは、ツマジロクサヨトウだ。本紙読者なら知っての通り、今年7月に初めて確認されたばかりの害虫だ。国際政治や経済が混沌(こんとん)とする中、世界第1位と第3位の大国の首脳が、どんな顔をして議論をしたのか。想像するだけであほらしい気持ちになる。

 トランプ大統領が余剰の農産物を日本に買い取ってくれと依頼し、安倍首相とその取り巻きが頭をひねり、「害虫被害」を材料にトウモロコシの前倒し輸入を編み出したということだろう。たあいもない話だ。

 ご丁寧にトランプ大統領は記者会見で、安倍首相に「日本が追加して買ってくれる数億万ドル(数百億円)の余剰トウモロコシの話題に触れてくれ」と発言を促した。安倍首相は「害虫駆除の観点から、民間レベルが前倒しで緊急な形で購入を必要としている」と答えた。

 民間レベルの話と安倍首相がくぎを刺したのは理由がある。トウモロコシは民間貿易で無税。政府として関与できる部分は小さい。後で「輸入数量が少ない」と責任を追及されても逃げられるように保険を掛けた。

 ただ、安倍首相は日本政府の具体的な関与や輸入先に触れるのを避けたが、英語通訳は「日本企業が早期に米国産トウモロコシの購入をできるようにわれわれ(日本政府)が緊急支援をする必要がある」と踏み込んだ内容になった。買うのは「米国産」とも断言した。やりとりはホワイトハウスのウェブにも出ている。

 会見を見ていた大手商社の穀物担当者からすぐに連絡が来た。

 「どこからどの程度のトウモロコシを買うかはうちらの自由。安倍さんは通訳の話を明確に否定しなかったから、後々になって『日本は中国と同じように約束を守らない』と言われる可能性がある」

 安倍首相は害虫を持ち出すことで、トランプ大統領の大量輸入の要請をけむに巻いたつもりかも知れない。だが、米側は日本の「約束」と受け止めている可能性がありそうだ。

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