「強い生産者」とは 自立した生き方こそ 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 自然災害、関税削減、家畜伝染病、この国の農業の憂いを数えだすときりがありませんが、現場を歩いていると、農業の希望とはこういうことだったのかと生産者に教わることがあります。北海道に2人の放牧酪農家を訪ねました。

 足寄町・ありがとう牧場の吉川友二さん(54)は、80ヘクタールの広大な草地に搾乳牛60頭を放ちます。見渡す限り続く緑の丘で牛たちが過ごす様子は美しさと調和に満ち、吉川さんは自らを地上の楽園の管理人と名乗ります。1頭当たりの年間乳量は5000キロ。季節繁殖で出産時期をそろえ、乾乳の2カ月間は従業員と交代で長期休暇も取れるというのですから、なにもかも驚きです。これが評判となり、足寄町には15人の新規就農者が放牧酪農を始め、町内には三つもチーズ工房が誕生しました。地域の土地を引き受け、地球に歓迎される循環型で低コストの酪農経営は、自立した生き方として、若い人たちを引きつけるのでしょう。

 もう一人、広尾町に訪ねたのは、夫婦で放牧酪農を営む小田治義さん(50)。40ヘクタールに40頭の搾乳牛、1頭当たりの乳量は8500キロと、良質な草地を保ちつつ濃厚飼料も与えて、乳量を確保しています。放牧と一口に言っても、規模や期間もさまざまですが、土と草と堆肥の循環を柱に、牛も人も健康に暮らし、規模拡大せず収益を上げる点は、お二人に共通していました。

 小田さん夫妻にはお子さんが6人います。長男は熊本の東海大学を卒業後、酪農ヘルパーをして後継の準備中で、三男は酪農学園大学2年生です。一家から将来2人の酪農家を送り出すことは、何より小田さん夫妻の生き方が、子どもたちに伝わった証拠です。暮らしを慈しみ、毎年、家族で海外旅行に行って、世界の酪農も見ている小田さんはこんな話もしてくれました。

 「農業の喜びは、自分で考えて何年もかけて築き上げていく楽しみにあります。農家がどんな農業を求めているかで、制度は後からついて来ます。広尾農協では以前から酪農家の要望により、発電機がほとんどの牧場にありました。だから去年のブラックアウトの時でも支障なく搾乳ができたんです」

 負けない、依存しない、強い農業をどう築くか、決めるのは農家自身です。もちろん放牧以外にも、地域の課題を恵みに変える方法はさまざまですが、土地を生かし、生産する生き方にこそ喜びがあるはずです。

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