Q&Aで見る日米貿易協定の虚実 TPP超えは明らか 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 米国は自動車関税の撤廃を約束したのか。

A していない。日本側は合意文書を開示せずに「約束された」と説明して署名したが、署名後に公にされた米国側の約束文書(英文)は「自動車関税の撤廃については今後の交渉に委ねられている」(なぜか邦訳は出さない)とあり、これが関税撤廃の約束なら「天地がひっくり返る」。米国側も「約束はない」と明言し、効果試算についても、「日本は合意されていないのに自動車関税撤廃を仮定して経済効果を計算した」と評している。

 米国の関税撤廃率は92%なのか。

A 51%程度の前代未聞の低さである。対米輸出の41%(2018年)を占める自動車とその部品を含めた政府発表は、92%から41%を引いた51%に訂正される。過去に貿易カバー率が85%を下回った協定はほとんどなく、これを国会承認するなら国際法違反で、戦後築き上げてきた世界の貿易秩序を破壊する引き金になる。

 日本からの牛肉輸出を環太平洋連携協定(TPP)以上に勝ち取ったのか。

A 失った。対米牛肉輸出の低関税枠は現在200トンしか認められておらず、TPPでは低関税枠の拡大しつつ、枠も関税も15年目に撤廃される約束だったことを隠して、今回は200トンから複数国枠にアクセスできる権利を得たのでTPP合意より多くを勝ち得たと政府は言った。実質的には200トンを少し超えても枠内扱いが可能になる程度の枠拡大にとどまり、得たものはTPPの関税撤廃約束とは比較にならないほど小さい。

 米国からの牛肉輸入は、TPPの合意内にとどめられたのか。

A TPP超えである。日本は牛肉の低関税が適用される限度(セーフガード)数量を新たに24万トン設定した。TPP11で設定した61万トン(米国分も含む)に米国分が二重に加わる。しかも、枠を超過して高関税への切り換えが発動されたら、それに合わせて枠を増やして発動されないようにしていく約束もしていることが判明した。これは、もはや一定以上の輸入抑制のセーフガードではなく、米国からの輸入を低関税でいくらでも受け入れていく流れである。

 米や乳製品は勝ち取ったのか。

A 先送りされただけである。本協定はトランプ氏の選挙対策の「つまみぐい協定」である。米はトランプ氏のカリフォルニア(民主党に絶対負ける州)への「いじめ」で除外され、乳製品も米国枠の「二重」設定は先送りされたが、米団体も酪農団体も反発している。「米国は将来の交渉において農産物に対する特恵的な待遇を追求する」という米国側の強い意思表明が協定に組み込まれており、現段階で「TPP水準以内にとどめた」という評価は到底できない。

 自動車のために農業を差し出し続けるのか。

A そうである。日本の交渉責任者は今後の自動車関税撤廃の交渉に当たり、「農産品のカバー率はまだ37%なので農産品というカードがないということはない」と認めている。

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