台風被害と日米協定 現在進行中の無責任 明治大学名誉教授 中川雄一郎

中川雄一郎氏

 台風被害──。9月と10月に東日本を襲った台風15、19、21号関連による農林水産業の被害が2100億円を超えているとのことである。農水省が1日までに都道府県から受けた各報告の集計によると、19、21号関連が同日午前7時点で1679億円、15号が509億円である。被害額は調査中で今後さらに膨らむ可能性がある。農水省によれば、この台風で「約3万4000ヘクタールの農作物・果樹、70万匹の家畜、2万6000件の農業用ハウス」が被害に遭い、「農地約9500カ所、農業用施設約1万2000カ所」が損壊している。農作物とハウスの被害は2018年の西日本豪雨を大きく上回る。
 

自然の猛威痛感


 台風は人間(ひと)をも襲った。記録的な大雨による河川の氾濫、堤防の決壊、山崩れ、崖崩れ、土砂崩れ、地滑りなどによって人命が奪われた。それが「実りの秋」を願い、歓喜し合う私たち人間(にんげん)に対する「自然のしっぺ返し」であるというのであれば、私たちの日頃の生活と労働があまりにむなしく思えてくる。

 環境活動家でもあるスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさんが4月にイギリス議会で訴えたあの言葉が思い出される。「根本的な問題は、要するに、気候や生態系の崩壊を阻止すること、あるいは遅らせないことに対してすら、何も行われていないところにあります。きれい事や約束は山ほど耳にしますが、現在進行中のこの無責任な行為は、人類史上最悪の失敗として記憶されることは間違いないでしょう」。近い将来に気候変動と地球の気温上昇を抑え、生態系を正常化しようとの彼女の訴えは、現在の日本の経済的、政治的、社会的な在り様を問うているように私には思える。これが一つ。
 

「かせ」を許した


 日米貿易協定──。もう一つは「日本の農業と食を守り、地域社会を発展させる」ための政治に対する「反面教師の在り様」についてである。ここでは日米貿易協定の「一方的譲歩」を地で行った安倍政権の政治姿勢について簡潔に描写しておく。この協定は、結局のところ、安倍政権がトランプ政権のために環太平洋連携協定(TPP)並みの関税撤廃・縮小を承認し、農畜産物に関わる要求を全面的にのみ込んで日本の小規模(家族)農畜産業の生産者に「かせ」を掛けることを承認したのである。米国産トウモロコシの大量輸入はその開始である。こうした農業生産に対する手かせ・足かせは日本の地域経済に、ひいては日本経済全体に大きな打撃となって現れ、やがて私たちの生活と労働に多大な不安をもたらすだろう。

 トゥーンベリさんの言葉を借りて言えばこうである。「(安倍政権の)きれい事や約束は山ほど耳にしますが、現在進行中のこの無責任な行為は、(現代日本の)最悪の失敗として記憶されることは間違いないでしょう」
 

 なかがわ・ゆういちろう   1946年静岡県生まれ。明治大学名誉教授。元日本協同組合学会会長。ロバアト・オウエン協会会長。著書『協同組合のコモン・センス』『協同組合は「未来の創造者」になれるか』(編著)などがある。  


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