〈散る桜残る桜も散る桜〉良寛

 〈散る桜残る桜も散る桜〉良寛。東京の桜はあらかた盛りを過ぎ、前線は足早に北上していく▼桜に散り際の美学を見るのは、日本人特有の心性なのだろう。〈咲いた花なら散るのは覚悟 みごと散りましょ 国のため〉と軍歌にも歌われた。桜の花があんなに美しいのは、死体が埋まっているからだ、と想像をふくらませたのは作家の梶井基次郎である。やはり死のイメージと分かち難く結び付く▼植物学者の稲垣栄洋さんは、そんな日本人の桜観に異を唱える。古来愛されたのは、奈良の「吉野桜」のようなヤマザクラ。農事の始まりを告げ、開花も長く、生命の息吹を伝える花が桜だった。「咲き誇るヤマザクラの美しさこそ、日本人が愛してきた美しさである」(『世界史を大きく動かした植物』)▼それが江戸中期から、成長が早く壮麗なソメイヨシノの天下になった。一斉に咲き、一斉に散るさまが、潔い散り際の美学につながった。「花は桜木、人は武士」とうたわれた武士道の世界観であり、軍国主義も散りゆくイメージを助長した。きょうは「3(さ)×9(く)=27」の語呂合わせで「さくらの日」▼深山にひっそり咲くヤマザクラよし、公園を染め抜くソメイヨシノもよし。このコロナ禍さえなかりせば、心から楽しめたものを。
 

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