熊 寄せ付けない町へ

ベアドッグの「タマ」とパトロールをする田中さん。市街地での熊の出没はめっきり減った(長野県軽井沢町で) 

 熊の捕獲や人身被害が相次ぐ中、人間の生活圏に熊を近づけない対策が各地で広がってきた。訓練を受けた犬による追い払い、餌となる果実の回収などで熊が来ない環境をつくり、出没件数が減る効果も出ている。専門家は「地域ぐるみの対応が成功の鍵を握る」と指摘する。(船津優也、松村直明)
 

長野県軽井沢町 “犬の手”借り 撃退


 山あいの道をぐんぐんと進む犬。熊のにおいがしないか探りながら歩き、遭遇したら吠えて威嚇し、追い払う。長野県軽井沢町の委託を受け、地元のNPO法人ピッキオが育成した「ベアドッグ」のタマだ。

 6~10月は、ベアドッグを連れたNPOスタッフが昼夜問わず町内を巡回する。「追い払いを繰り返すことで、熊は『ここは危険』と認識し、近寄らなくなる」。犬の飼育兼訓練士を務める田中純平さん(46)は、そう強調する。

 町内では、かつて市街地での出没件数が年間50件、多い年で100件以上あった。町とNPOは、米国の事例などを参考に2004年度からベアドッグを導入。巡回活動を続けたことで、09年度には市街地での出没件数が6件にまで減った。19年度までの平均年間出没件数も9件と、ピーク時を大きく下回る水準で推移。20年度の出没件数は取りまとめ中だが、例年並みの見込みだ。

 NPOには、猟犬の血筋を持ち熊に立ち向かえるよう訓練した「カレリア犬」4頭が常駐する。地域住民から熊を目撃したという連絡があると現地に向かい、追い払う。

 町は「町を挙げて、追い払いや近づけない工夫を続けることが大事。親熊から子熊に人里に近づかない習性を受け継がせ、共生につなげる」(環境課)と強調。広報誌などを通じてNPOへの連絡を町民に呼び掛ける。夏と冬の年2回、町民向けに勉強会も開いている。
 

福井県勝山市 放置柿 無料で回収


 自家用に栽培する柿の実は放置されることが多く、餌となって熊を誘い込む恐れがある。そのため福井県勝山市は昨年から、食べる予定がない果実を無料で処理し、出没件数の減少に貢献している。

 市によると、自家用の柿は実が付いても食べないものが、毎年一定量出る。処分に費用がかかる場合もあり、肥料として農地にまく人がいる。においに誘われた熊を引き寄せないよう、指定する場所に持ち込めば市が処理を請け負う。市内の約7000戸にちらしを配るなどして周知している。

 熊の動きが活発になるのは10月以降。その前に果実を回収しておこうと、今年は9月末から回収を始めた。既に10トン以上が集まり、10月25日まで受け付ける。今年の熊の出没件数は、前年同期と比べて3割程度少ない状況だ。

 市は「熊は柿を好む。人間の生活圏に入ってくることがないよう、地域には可能な限り屋外に果実を残さない状態にしたい」(農林政策課)とする。
 

ドングリ各地で凶作 捕獲数も増加傾向


 環境省によると、2020年度の捕獲数(8月時点)は3207頭。4月以降は増加傾向にあり、統計を公表している08年以降で過去最高だった19年度の8月時点の3681頭と、ほぼ同水準で推移する。人身被害の人数も19年度8月時点と同じ60人に上る。

 19年度は捕獲、人身被害数とも大きく増えたが、その要因の一つは熊にとって秋の餌となるドングリ(堅果類)の全国的な凶作だ。

 20年度も凶作傾向が懸念されている。9月末現在で、同省に情報提供のあった17都府県のうち、ブナ、コナラともに7割が凶作だった。

 東日本の複数の市町村担当者からは「去年に続いてドングリは少ない。目撃や捕獲は増えており、冬眠の時期まで警戒が必要」との声が出ている。
 

緩衝帯設置、捕獲準備… 地域挙げ生活圏分離を


 獣害対策に詳しい福島大学の望月翔太准教授の話

 熊の出没に対する根本的な対策は①誘因物の除去②緩衝帯の設置③出てきた際の捕獲への準備──が重要だ。これらを実践することで、人間と熊の生活圏を分けることができる。逆に言うと、どれかが一つでも欠ければ、熊の出没や被害を減らすことは難しくなる。

 対策は地域を挙げて実践する必要がある。特定の場所で対策をしても、できていない所から侵入されるからだ。

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