作詞家の岡本おさみさんは、旅の詩人だった
2020年12月01日
作詞家の岡本おさみさんは、旅の詩人だった。吉田拓郎さんとのコンビで「旅の宿」「襟裳岬」などのヒット曲を手掛けた▼享年73。昨日が忌日でもう5年がたつ。彼が作詞し、拓郎さんが歌った「空に満月、旅心」に、仲間と旅の相談をする場面がある。「旅に出ようと誰か言う 紅葉、それとも雪見酒 桜はどうかと、まとまらず いつかめぐるは酒の旅」。どこに行こうか、何を食べようか。あれこれ思案しながら、旅に思いをはせる時間が楽しい▼コロナ第3波が、そんな浮き立つ旅心を奪っていく。首相肝いりのGoToトラベルやイートに急ブレーキがかかった。遅過ぎるという怒り、やむを得ないの嘆息、観光や飲食業界からの悲鳴。さまざまな声が入り交じる。市民に不要不急の外出自粛を呼び掛けながら、観光客を呼び込むというのは、いかにもちぐはぐだ。罪作りなウイルスである▼名曲「旅の宿」の誕生秘話を以前2人が語っている。ある日、岡本さんから電話がかかってきた。「いい詩があるから書き留めてくれ」。〈浴衣の君はススキのかんざし…〉。最初の歌詞を聞いただけで、「これはすごい」と拓郎さん。思わず体が震えたという▼旅を友とした岡本さんなら、コロナの時代のいま、どんな歌詞を紡いだだろうか。
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青木愛さん(元シンクロナイズドスイミング日本代表) 引退で知った食べる喜び
食の連載コーナーでいうのもなんですが、現役時代は食べることが嫌でした。
私は体質的に痩せやすくて、もっと太らないといけないと指導されたんです。「食べるのもトレーニングだ」と言われました。
シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)では、脂肪がないと浮かずに沈んでしまうからです。また、見栄えの問題もあります。海外の選手は背が高く体もガッシリしています。体が貧相だといけない、もっと体を大きくしなさい、と言われ続けました。
そのため特に日本代表に入ってからは、味わって食べる時間もないし、味わっていたら量は入らない。急いでかき込む、流し込むといった感じでした。
つらかった合宿
1チームに8人の選手がいるんですが、痩せないといけない人、現状維持でいい人、太らないといけない人がいて。合宿で、痩せないといけない人と同じ部屋になったときは、お互いつらかったです。私はおにぎりや餅を寝るまで食べ続けないといけない。向こうはものすごくおなかがすいているのに、それを見ないといけない。
毎日、4500キロカロリーを取るように言われました。
それを全部揚げ物で取るんだったら、簡単だと思います。でも選手ですから、バランスよく食べないといけません。
炭水化物、脂質、タンパク質の三つを取った上で、カルシウムやビタミンも。自分で計算しながら、いろいろな食材を取って4500キロカロリー以上にするのは大変でした。
母は料理がすごく上手で、子どもの頃はご飯が楽しみだったんです。でもなにせ小学2年生の頃からシンクロを始めたので。
母もちゃんと競技をやるのなら食事から変えないといけないと考えて、私の好きなものや量を食べやすいように工夫して料理してくれたんですが、小学校の頃から量を食べないといけない生活だったんです。
ほっとする実家
代表の合宿が終わると、いったん実家に戻ります。母の料理を食べると「ああ、家はいいなあ」と実感します。ささ身を揚げたのが大好きで。母はささ身の中に梅やシソの葉を入れて巻いてくれるんです。さっぱりとした味なので、量を食べられる。エビフライやハンバーグ、コロッケといったベタな食べ物が好きなので、それも作ってくれます。もちろん脂質ばかりにならないように、他の栄養素も取りながら。
私の目標体重は59キロ。でもどんなに頑張っても56、57キロをうろうろしていました。実家で過ごすと、あっという間に53、54キロまで落ちてしまいます。次の合宿の前日は必死になって食べました。
食べることの楽しさに気付いたのは、23歳で引退してからです。好きな人と好きな時間に好きなものを好きな量だけ食べるのが、こんなにも楽しいだなんて。
私は、夜に友達と食事をすることが多いんですよね。その時に、ものすごい量を食べます。胃が大きくなってしまったんでしょう。朝起きてもおなかがすいてなくて、夜までの間に、おやつを食べるくらいで間に合います。間食はお菓子ではなく、梅干し、納豆、豆腐、漬物などです。
もともとおばあちゃんが好むようなものが好きだったんです。ポテトチップスよりも酢昆布が好きな子どもでした。好きなものを食べられる生活に感謝しています。(聞き手=菊地武顕)
あおき・あい 1985年京都府生まれ。中学2年から井村雅代氏に師事する。2005年の世界水泳で日本代表に初選出されたが、肩のけがで離脱。翌年のワールドカップに出場し、チーム種目で銀メダル。08年の北京五輪ではチーム種目で5位入賞。五輪後に引退し、メディア出演を通じてスポーツ振興に取り組んでいる。
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2021年01月09日

5G 地方展開いつ? 中山間地こそ「スマート」必要
中山間地の農家が、スマート農業を使いこなすのに必要な第5世代移動通信システム(5G)を利用できないのではないかと、不安視している。人口が少ない地域は通信会社の実入りが少なく、電波網の整備が後手に回りがちだ。自治体主導で必要な基地局を建てる手もあるが、1基数千万円かかるなど負担が重い。「条件不利地こそ先進技術が必要だ」──農家らはスマート農業推進を叫ぶ国の姿勢をいぶかる。(木村隼人)
技術導入したいが 環境整わず 佐賀県嬉野市
佐賀県嬉野市の岩屋川内地区。同地区に畑を持つ茶農家の田中将也さん(32)は、スマート農業の技術で収穫の負担が大きく減らせることに期待するが「今のままでは普及は難しい」とみる。畑に出た時に携帯電話がつながらず、連絡が取れない経験を何度もしているからだ。山間部にあるため携帯電話の基地局の電波を受信しにくく、現状でも通信環境が悪い。
スマート農業で多用されるドローン(小型無人飛行機)には1~4レベルの設備環境がある。数字が大きいほど通信速度が速く安定しており、補助者がいなくても事前のプログラム通りに自律飛行できる。高解像度の画像を収集でき、利便性が高まる。
高レベルの活用には最先端の5Gが必要だが、普及は始まったばかり。正確なカバー率はつかめないが、大手通信会社は5G展開の指針に、人口を基準にした目標に掲げる。そのため、大都市圏を優先した整備になり、地方は置き去りにされやすい。
現在の携帯電話さえつながらない「不感地域」は全国に残っており、約1万3000人(総務省調べ、2018年度末)が不便を強いられている。総務省東北総合通信局によると、東北地方が最も不感地域が多いという。
工事期間、費用基地局開設に壁
嬉野市は総務省の「携帯電波等エリア整備事業」などを使いながら改善を進めるが「基地局を一つ開設するのに8000万円近くかかる」(市担当者)こともあり、早急な解決は難しい。
農水省九州農政局のスマート農業担当者は「効果的に普及させるためにも高速通信は不可欠。山間部などの通信環境を整えることは必要だ」と指摘するが、通信網整備の所管は総務省となるためか、具体的な改善策については口をつぐむ。
整備の遅れについて、ある通信大手は「5Gネットワークの全国整備には膨大な数の基地局が必要で、長期工事と多額の投資を伴う」とコメント。別の企業も「山間部では基地局整備に必要な光ファイバーなど伝送路の確保が難しい」とする。
だが嬉野市の田中さんは「中山間農業の課題解決のためにもスマート農業は必要。本気で普及を考えるなら、通信環境を早期に改善してほしい」と訴える。
<ことば> 5G
次世代の通信規格。日本では2020年3月からサービスが始まった。大容量・高速通信が可能。最高伝送速度と通信精度は現行(4G)の10倍。一方で、5Gが使う高周波数帯は障害物に弱い。波長が短く通信範囲が狭い特性があり、従来より多くの通信基地が必要になる。
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2021年01月15日
広がり続ける豚熱 未発生地域も防疫徹底
豚熱の感染地域が広がり続けている。昨年末には山形県と三重県で相次いで発生。東西にそれぞれ拡大した。未発生地域も含め、農場での防疫の要点をあらためて確認・徹底しよう。
山形県で発生したのは昨年12月25日。2018年に国内で26年ぶりに発生してから10県目となる。29日には三重県で発生し、同県で2例目、全国で61例目となった。この農場は、沖縄県を除くと最も西に位置する。
いずれも予防的ワクチンの接種農場だった。しかし、山形の発生農場では初回の接種を終えていたが、感染した豚は出荷間際だったため、と畜場法に従って打っていなかった。三重県で感染したのは離乳したばかりの豚で、接種する前だった。
ワクチン接種の空白期間を突かれた格好だ。農水省や大学の研究者らは、ワクチンだけで完全に感染を防ぐことはできないと繰り返し指摘する。接種しても十分な免疫を得られる豚は8割程度とされ、飼養衛生管理基準で定めた消毒や衛生対策が全ての農場に求められる。
特に離乳豚の場合、未接種期間が必ず生じる。母豚からの移行抗体が効果を失う前にワクチンを打っても新たな抗体ができにくく、生後50~60日の接種が望ましいとされるためである。
制度面からは防疫対策が拡充・厳格化される。ワクチン接種の頻度は農場ごとに月3回程度必要だ。しかし接種できるのは都道府県知事が公務員として任命する「家畜防疫員」に限られ、人手不足が懸念されている。民間の獣医師も任命を受けられるが、所属先によって兼業禁止や勤務先への休暇申請が必要になるケースがあることなどから任命が進まない実態があった。
そこで同省は防疫指針を変更し、都道府県知事が認定した民間獣医師も接種できるよう検討を進めている。ワクチンを打ったことを証明するため、空き瓶を全て回収するなど厳密な管理とする考えだ。
現状でワクチン接種推奨地域は、昨年末に対象となった秋田県を含め28都府県に広がった。ウイルス陽性イノシシの拡散を懸念し、同省は鳥取県、岡山県に対してもワクチン接種体制の構築を求めている。
4月からは、食品残さから製造する飼料「エコフィード」の新たな加熱基準の運用が始まる。昨年1月に沖縄県の養豚場で発生した豚熱は、加熱が不十分なエコフィードが原因とみられている。また、国際基準との照合などにより加熱対象を拡大、加熱方法も厳しくし、違反時の罰則も設ける。
防疫を制度的に整えても、要となるのは人の手による日々の作業だ。外国人技能実習生らも含めて十分な対応が必須である。日本養豚事業協同組合はベトナム語や英語などで防疫作業や豚関連用語などを対訳した冊子を作り、活用を促す。また、農場の防疫体制は、行政や獣医師、地域の仲間と力を合わせて点検することが大切である。
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2021年01月13日

「BUZZ MAFF」 Jリーグとコラボ動画 若者に農業PR 農水省
農水省は15日、公式ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で、サッカーJリーグと連携した動画の投稿を始めた。地域の農業への理解や関心を深めてもらうため、Jリーグチームの行う農林水産業の取り組みを同省職員の「ユーチューバー」が発信する。第1弾としてJ2の松本山雅FC(長野県)、J3の福島ユナイテッドFC、ガイナーレ鳥取との動画を投稿した。
「ばずまふ」は、職員の個性や発想を生かした動画を投稿し、農業への関心が薄い若者を含めて広く情報を発信している。 現在、動画の総再生回数は620万回以上。スポーツチームと連携してPRに取り組むのは初めて。
松本山雅FCと連携した動画では、黒ずくめのばずまふユーチューバーが登場。休耕地で地域の住民と連携して1トンの青大豆を生産する取り組みを紹介し、青大豆を使った新しいスイーツの開発に挑戦する。
選手が生産した農産物を販売する「農業部」がある福島ユナイテッドFCとの動画では、選手が自ら作った米をPRする。東北農政局の職員が米を食べ、自作の応援ソングも披露する。ガイナーレ鳥取と連携した動画では、中国四国農政局の職員が、チームの職員と地域の休耕地を利用して芝生を生産・販売する取り組みについて語り合う。
今後も、全国のチームと連携した動画を配信していく。同省は「農業に取り組むクラブは他にもある。地域の農業への理解が深まれば」(広報評価課)と期待を寄せる。
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2021年01月16日
ドイツでアフリカ豚熱 野生イノシシで確認 各地で価格低下 中国など豚肉輸入停止
野生のイノシシのアフリカ豚熱感染が相次いでいることから、ドイツ養豚業界は、警戒を強めている。2020年9月から21年1月8日現在で、計480症例が報告された。その影響で、主な輸出先を失った同国産の豚肉が欧州域内や国内に大量に出回り、各地で価格を下げている。
同国では20年9月、ポーランドと接する東部地域で野生のイノシシから初めてアフリカ豚熱が検出された。……
2021年01月13日
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1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった
1991年1月17日、米国主導の多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が始まった▼イラクによるクウェート侵略が原因。フセイン大統領は、米国は介入しないと判断していたとされる。イラクは敗北し、米国の「テロとの戦い」でフセイン政権は崩壊した。指導者の判断ミスは国を危うくする▼38年1月16日は日本にとってそうした日である。日中戦争の最中、近衛文麿首相は「国民政府を対手(あいて)とせず」と声明。「和平なんてしないというもので(略)泥沼化」(半藤一利著『昭和史1926―1945』)。日本はその後、三国同盟の締結、南部仏印進駐と対米戦争への道を進む。時の首相も近衛で、石油の全面禁輸など米国の報復に驚いたという▼政治学者の猪木正道さんは『日本の運命を変えた七つの決断』で、太平洋戦争の開戦では「東条よりは近衛の責任の方がはるかに重い」と断罪。「与えられた状況のもとにおいては、最も有利な、最も危険のない道を選ぶのが政治家としての使命」と指摘する。日本のコロナ初感染者の発表から1年。爆発的感染拡大に近い地域が増え、入院に優先順位を付けなければならない事態も生じている。政治家の使命に照らし菅首相の責任はいかほどか▼前出の半藤さんが亡くなった。著作から史実の見方を学んだ。
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2021年01月16日
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた
「全米が泣いた」をうたい文句にした映画「大コメ騒動」が封切られた▼映画は、大正7(1918)年、富山県で起きた米騒動の史実による。主人公は、米を船に積み込む漁村の「おかか」たち。シベリア出兵を控え、米の価格が高騰する。家族と暮らしを守るため、米問屋に直談判、ついには米の積み出しを阻止しようと体を張って実力行使し、価格引き下げを勝ち取る。「女米一揆」は新聞で取り上げられ、各地の運動に火をつけていく▼働く女性による民主化運動の嚆矢(こうし)だろう。映画でリーダー役のおばばが言い放つ。「理想や主張で腹いっぱいになるんがやったら、誰も苦労せんわ」。資産家や警察の脅しに一歩も引かない。「負けんまい」「やらんまいけ」。命懸けの決起が、社会を動かしていく▼主演の井上真央さんが、公開イベントで語っている。「名の無い人たちの頑張ろうとする力が(社会を)大きく変えていくのだろうなと思う。この時代に勇気を与えられるような作品になっていると思います」。コロナ禍に豪雪被害。井上さんは、大変な時だからこそ、映画や娯楽が「一筋の光」になればと願う▼時は移り、世は空前の米余り。値崩れの危機を前に政府の腰は重い。「令和の米騒動」で、「全米作農家が泣いた」とならぬよう祈る。
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2021年01月15日
またぞろ巣ごもりに逆戻り
またぞろ巣ごもりに逆戻り。そこで少し頭の体操にお付き合いを▼次に掲げる歌を声に出して読んでいただきたい。「鳥啼(な)く声す 夢覚(さま)せ 見よ明け渡る 東(ひんがし)を 空色栄(は)えて 沖つ辺(へ)に 帆船群れ居ぬ 靄(もや)の中(うち)」。実はこれ「いろは歌」。仮名48文字を1字ずつ織り込んだ作品▼日本語博士・藁谷久三さんの『遊んで強くなる漢字の本』にある。明治36(1903)年、「万朝報」という日刊新聞が募集した「いろは歌」の傑作である。次は回文の秀作。「時は秋 この日に 陽たづねみん 紅葉(こうえふ)錦の葉が 龍田川(たつたがは)の岸に殖(ふ)え 鬱金(うこん)峰づたひに 陽の濃き淡(あは)きと」。全部仮名にして、下から読んでほしい。そのすごさが分かる▼作者や出典はよく分かっていない。だが日本語博士をもってしても、この詩文の長さと出来栄えに匹敵する回文は見たことがないという。「たけやぶやけた」に比べるのは失礼だが、万葉の趣さえ漂う。個人的に好きなのは、不謹慎ながら故立川談志師匠を読み込んだ「だんしがしんだ」▼ネットの回文専門のサイトにはコロナ禍を読んだ傑作が多い。「策ないわ 探すも菅さ ワイ泣くさ」「菅の危機警告 小池聞き逃す」。その見事さに脱帽。脳トレに回文作り、あなたもいかがですか。憂さ晴らしにもうってつけ。
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2021年01月14日
冬将軍というより白魔である
冬将軍というより白魔である。「家から出るのも大変」。富山の親戚から悲痛な声が届く▼北陸や新潟などは、死傷者も後を絶たず、自衛隊派遣の非常事態に。その惨状はさながら現代の『北越雪譜』である。同書は、越後の商人で文人でもあった鈴木牧之による迫真の豪雪ルポ。江戸のベストセラーにして名著である。雪国に住む者の恨み節が随所に出てくる。意訳するとこんな具合だ▼暖かい地方の人は銀世界をめで、舞い散る雪を花や宝石に例え、雪見の宴などを楽しむが、毎年3メートルもの雪に覆われるこちらの身にもなってほしい。楽しいことなどあるものか。雪かきで体は疲れ果て、財産も費やし、苦労の連続だ─。今も昔も変わらぬ豪雪地帯の悲哀だろう▼コロナ禍や雪害に苦しむ人たちに一足早く春を届けようと、富山市花き生産者協議会が、富山駅の自由通路を特産の「とやま啓翁桜」で飾り、道行く人を楽しませている(13日まで)。産地の山田村花木生産組合では、豪雪で配送に影響が出たが、今月約5万本の出荷を見込む。「人々の心に安らぎを届けたい」と石崎貞夫組合長▼暖かい部屋で7、8分咲きにした後、涼しい場所に移すと1カ月は花を楽しめるという。凍(い)てつく冬に咲く桜のように、つらく厳しい時を乗り越えたい。
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2021年01月13日
二度目の緊急事態宣言
二度目の緊急事態宣言。都心はひっそりかんとしている▼東京郊外の拙宅周辺は、昨年後半から住宅建設ラッシュ。地元通の酒屋の店主いわく、優に100棟は建つとか。都心脱出の流れなのか。入居も始まったが、巣ごもりのせいでにぎわいはない。赤ん坊の泣き声もとんと聞かない▼昨今、赤ちゃんの泣き声を耳障りに感じる人が増えた気がする。飛行機や列車で露骨に嫌な顔をする人を何度も目にした。「騒音」と感じるか、ほほ笑ましく感じるか。あなたはどちらだろう。そもそも赤ちゃんの泣き声は、言葉の代わりに発する緊急サイン。「おなか減った」「おしっこ漏れそう」「なんだか熱っぽいよ」▼親に分かってもらおうと必死に伝える。だから不思議なことに、その泣き声は、救急車や目覚まし時計のアラーム音などと同じ周波数を含んでいるという。しかも世界共通。成長するに連れ、声帯は変わるが、生まれたては人類皆同じ。サイレンと同じだから不快になって当たり前。「子どもは泣くのが仕事」。そんな大事な「仕事」を温かく見守り、手を差し伸べ合う社会であってほしい▼ところでコロナで窮状にあえぐ国民の悲鳴や泣き声は、政府にちゃんと届いているのだろうか。よもや「騒音」封じの緊急事態宣言再発令ではあるまいが。
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2021年01月12日
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある
〈就職氷河期〉のように特定の時代に遭遇したがゆえに不利を被る世代がある。今の大学生がそうかもしれない▼入学式は自粛、授業はオンライン、サークル活動は停滞、アルバイトもできない。たまに友人と盛り上がったら〈自粛警察〉の目が光り、年配者からは〈無症状感染〉を疑われる。だが未来は閉ざされてはいない。「機会は誰にでも平等であると固く信じている」。世界を変えたスティーブ・ジョブズの言葉。ピンチはチャンスへの入り口と信じよう▼コロナ下の明るいニュースに困窮学生に食料支援と励ましのメッセージを送る活動がある。新潟県燕市が昨年春、帰省できない学生に行い、他の自治体やJAなどの協同組合にも広がった。中には支援を受けた若者が人手不足の農作業を手伝う動きも生まれた。そんな活動に汗をかくJAふくしま未来が昨年暮れ、政府の「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞した。地域貢献以上の可能性を感じさせる▼若い世代との関わりづくりは農の未来に種をまくはずだ。きょう成人の日。各地で成人式の中止・延期が相次ぐ。本人はもとより両親、祖父母まで晴れの日を迎えられない落胆はいかばかりか。週末には大学入学共通テストも控える▼せめて寒気が収まり、穏やかな日であってほしい。
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2021年01月11日
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある
丑(うし)年は芽が出ようとする年、耐える年の諸説ある。今年はどう見ても辛抱の年か。その先に希望が芽吹いてほしい▼あまり話題に上らないが、夏には東京五輪・パラリンピックが控えている。国産食材と花のブーケ、そしておもてなしの心で世界中のアスリートと訪日外国人を笑顔にしたい。初夢のことである。坂本九さんの「上を向いて歩こう」が世に出たのは1961年の丑年。人間でいえば今年還暦を迎える。少年まさに老いやすし。大都会に生きる地方出身の若者たちの応援歌で、今なお励まされている人は少なくない▼九さんが日航機墜落事故で亡くなったのは、くしくも丑年の1985年。感染症分類で新型コロナウイルスより危険度が高いペストは、明治時代に国内でも流行した。丑年の1901年、警視庁が屋外での跣足(せんそく)(裸足)歩行禁止令を出している。願わくば後世、コロナ終息の丑年と刻まれたい▼牛は昔、農耕になくてはならぬ役牛、今はミルクやブランド牛肉として地域農業の屋台骨になっている。「牛に引かれて善光寺参り」は思いがけず良い方向に導かれること。年末の本紙記事で、米食が免疫力を高めてコロナ感染を抑制するとの研究論文を知った▼消費拡大に導いてほしい。コロナ禍に隠れているが、米需給も〈勝負の1年〉になる。
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2021年01月10日
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く
朝はラジコで郷里のローカルニュースを聞く。彼我の決定的な違いは天気予報で、「風雪波浪注意報・警報」の久しく失念していた気象用語が頻繁に耳に入る▼この時季、ドラマ「北の国から」で、突然の猛吹雪に遭難した純と雪子をドサンコが見つけるシーンを思い出す。近づいてくる馬の鈴の音が2人の命を救った。馬は地吹雪でも立ち往生せず、そりは雪道にはまらない。自動車はそうはいかない。馬そりを操る笠松のじいさんは開拓民、名優大友柳太朗が演じた。「なつぞら」よりもリアルな人物像であり、偏屈でけちで顔が酒焼けしている。18年間苦労を共にした愛馬を手放した夜、五郎の前で涙を浮かべるシーンが心を打つ▼年末から日本列島は殊の外寒い。農作物への雪害に気を付けたい。菅首相が2度目の緊急事態宣言。慎重姿勢を転じたが、1都3県・業種限定で意図した〈強いメッセージ〉が国民に伝わるか。ここは命を守り抜くとの迫力を見たい▼昨年5月の宣言解除の際、安倍首相は「日本モデルの力を示した」と胸を張った。強制を伴わなくても3密回避の行動変容を国民がやり抜いたことへの自負だろう。しかし今は〈コロナ慣れ〉と〈背に腹は代えられぬ〉の現実がもう一方にある▼寒波と3波が覆う列島に鈴の音は近づくか。
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2021年01月09日
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある
池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』には、盗っ人でも守るべき「三か条」がある▼「殺さず、犯さず、貧しきからは盗(と)らず」。主人公の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵は、「三か条」を守る盗っ人には寛容で、平然と破る悪党には容赦がない。幼少の頃からの苦労が醸す、人情味あふれる捕物帳である。権力を持つ巨悪に目をつむりがちな世の中への憤りもあってか、池波文学は多くのファンを引き付ける▼司法関係者にも人気がある。元東京高裁判事で弁護士の原田國男さんは、特に若い裁判官に薦める。「悪い奴は徹底的に懲らしめるが、可哀想(かわいそう)な奴は救うという精神で一貫している。ここがいい」(『裁判の非情と人情』岩波新書)。裁判官は人を裁く権力を持つ。だからこそ、「可哀想だなと思ったら、量刑相場でなくとも、軽い刑や執行猶予にすればよい」。厳粛な司法の世界で生きる人情味▼きょうは「一か八か」に見立てた「勝負事の日」。江戸時代の賭け事「丁半ばくち」の丁と半の漢字の上部分が「一」と「八」に見えることから使われるようになったとも伝わる。新型コロナには「勝負の3週間」「真剣勝負の3週間」と連敗し、政府は1都3県を対象に緊急事態宣言の発令を決めた▼貧者も弱者も苦しめる“巨悪”に、手加減はいらない。
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2021年01月08日
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた
中国の唐の時代に孫思邈(そんしばく)という仙人がいた。大みそかになると、生薬を入れた袋を酒に浸し、元旦の朝に飲んでいた▼おとそである。いつまでも若くて元気なのは、あの酒のせいではないかとうわさとなり、正月の習慣が生まれた。一説では、仙人のいおり「とそ庵」にちなんで、呼ばれるようになった。「そ」の漢字は「蘇」で「よみがえる」を意味する。つまり、病魔に打ち勝って新しくよみがえる願いを込めた。『身近な「くすり」歳時記』(鈴木昶著)で知った▼いくら薬といっても、飲み過ぎれば毒となる。おせち料理をさかなにやっているうちに、空のちょうしが並ぶ。日常生活を一変させた、新型コロナへの恨みと一緒に飲み干す。体にいいわけがない。そんな凡人の習性を見通すように、体調を整える七草がゆの登場である▼きょうは、七種(ななくさ)の節句。7種類の若草をかゆに入れて食べると、病気にかからず、邪気を払うという中国伝来の習俗が伝わった。平安中期に宮中行事として取り入れられ、江戸後期に庶民の生活に広まった。〈セリ、ナズナ、オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草〉。五七五調のリズムもいい▼雪国は大雪、首都圏は緊急事態宣言へ。門松を外し、正月気分もほどほどに、気を引き締める。
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2021年01月07日