営農

[岡山・JA岡山西移動編集局] 水稲品種 古参に脚光 多収の晩生「アケボノ」生産拡大 業務用、酒造で引き合い
JA岡山西は、もうかる米作りの一環で、70年ほど前に育種された水稲「アケボノ」の生産拡大を進めている。古い品種だが、業務用米や酒造原料米として実需者の引き合いが強く、栽培しやすい多収性の晩生種として、生産者にも人気が高い。ポスト「コシヒカリ」をにらんだ品種開発が盛んだが、実需のニーズを見極めて古い品種にも光を当てた形だ。2018年産の集荷数量は1278トンで、品種別では主食用米の3割を占める計算だ。19年産は1440トンの集荷を目指す。
「朝日」と「農林12号」を親とする「アケボノ」は1953年に品種登録された。多収で倒れにくいのが特徴。米は、炊くと粒が大きく、歯応えがあり、あっさりした食味が楽しめる。外食や中食用として使われ、県内の卸業者は「粘りが少なく加工に向く。特にすし飯の需要が大きい」と説明する。酒造用の掛け米としても人気があり、JAの川上勝之営農部長は「生産拡大を呼び掛けているが、需要に供給が追い付かない状況だ」と話している。
同県浅口市の平喜酒造は「アケボノ」を掛け米だけでなく、こうじ米としても使う。原潔巳部長は「タンパク質が少なく、きれいなこうじができる。造った日本酒は淡麗な味わいで、料理に合う。米の品質にばらつきがないのも良い」と分析する。
生産者からの評価も高い。15ヘクタールで水稲を育てる倉敷市の山地康弘さん(59)は「費用や手間がかからず、安定して多収が見込める。晩生種のため、コシヒカリやヒノヒカリなどと作期分散しやすい」と栽培の理由を話す。
10アール当たり収量は例年、約540キロで、「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」よりも約120キロ多いという。一方、肥料代は10アール当たりで2000円ほど安い。JAの概算金は、最も高い「コシヒカリ」に比べると、18年産で60キロ当たり約1100円安いが、利益は「アケボノ」の方が大きくなる。
地域では、9月上旬から10月上旬に「あきたこまち」「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」「にこまる」を収穫し、「アケボノ」は例年11月5日ごろに刈り取っている。山地さんは「品質が落ちないので、作業を急がずに済む」と、融通の利く特性にも満足する。「生産者にとって頼もしい品種。作り続けたい」と意気込む。
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2019年12月05日

直播向き米品種 耐病・耐暑多収強み 農研機構
農研機構・東北農業研究センターは27日、倒伏しにくく、直播(ちょくは)栽培に適した水稲品種「しふくのみのり」を育成したと発表した。これまでの直播栽培向け品種「萌(も)えみのり」に比べて暑さやいもち病に強いのが特徴。良食味で多肥直播栽培の10アール当たり収量は750キロを超える。……
2019年11月28日

ブドウ果肉まで赤 ワイン用品種出願 大阪府
大阪府立環境農林水産総合研究所は、果肉まで暗赤色で、濃い赤色のワインが造れる醸造用ブドウ「大阪R N―1」の品種登録を出願した。一般的な赤ワイン用品種に比べ、植物色素のアントシアニン含量が数倍になるという。地球温暖化の影響による高温で果皮の着色不良が問題となる西日本などの地域でも高品質なワイン造りにつなげられる有望品種として期待される。
赤ワインは原料のアントシアニン含量が多ければ、濃い赤色に仕上がる。「大阪R N―1」の果実のアントシアニン含量は、赤ワイン用品種として知られる「ピノ・ノワール」や「メルロー」を数倍以上に上回る。国内で栽培されている既存品種にも果肉まで赤色になるものはあるが、単独で醸造しても風味が優れなかった。「大阪R N―1」は果実品質が良く、単独で醸造しても風味が良いワインになる。
この品種は府内の醸造所(ワイナリー)が40年ほど前に育成した。2018年に同研究所が新設した「ぶどう・ワインラボ」が、既存品種と異なる特性を持つことを確認した。今年3月5日に出願した。親はまだ特定できておらず、解析を進める。
苗の生産体制を整え、府内を中心に普及を進める考えだ。同研究所は「西日本を中心に、温暖化による高温で原料ブドウの果皮色が出にくくなっている。新品種で課題に対応できる」と有望視する。
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2019年11月27日

冬の大輪 優しく満開 蜂も人も元気“満タン” 香川県三豊市生産者の団体
香川県三豊市山本町河内地区に、季節外れのヒマワリ畑が出現し、話題を呼んでいる。地元農家の団体「河内アグリ活動組織」が秋冬に不足しがちなミツバチの栄養源にしようと耕作放棄地や休耕田を利用し、10カ所、計約1・5ヘクタールで栽培した。寒い日が増える中、花はまだ咲く予定で、12月半ばまで楽しめる。
事務局の白川良三さん(68)は「ミツバチも喜ぶし、きれいな花は多くの人を喜ばせるので一石二鳥」と語る。タマネギの採種をしている白川さんは、養蜂家から「冬は花が少なく、栄養不足で蜂の群れが小さくなる」と聞いていた。
そこで耕作放棄地などを利用してヒマワリを育ててみることにした。組織では、夏に幼児向けのヒマワリ迷路を作っており、こぼれた種が発芽し秋冬に花を咲かせることがあったという。
一昨年、9月に種をまくと、花が咲く時期に霜が降り元気を失ってしまった。昨年は8月上旬に種まきしたところ、10月中旬から12月中旬まで見事に咲き続け、今春、蜂箱にたくさんのミツバチが確認できた。白川さんは「ヒマワリの蜜で体力を付けた多くの蜂が冬を越した」と推測する。
「冬にこんな大輪に育つとは」「夏より優しい黄色」「一面に咲いて圧巻」などと好評で、多くの人が見物に訪れている。「自由に摘み取り、持ち帰って楽しんで」と白川さんは話す。
開花に合わせ、日曜日にヒマワリ畑で農産物の販売やミカンの詰め放題(100円)なども行い、一層の地域活性化に力を注いでいる。
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2019年11月26日

世襲より人物本位 “伴走” 期間経て 経営・信頼つなぐ
米や大豆、麦などを栽培する土地利用型の農事組合法人や大規模農家が、地縁や血縁のない従業員や若者らに経営をバトンタッチする第三者経営継承に取り組むケースが出てきた。農機など有形資産だけでなく、地権者の信頼も継承。経営主が後継者に経営ノウハウを伝える伴走期間を経て、次世代の担い手確保に対応する。
土地利用型の第三者継承
富山県砺波市の農事組合法人「ガイアとなみ」。同市若林地区を中心に130ヘクタールで米や大豆、麦などを栽培する。2年前、組合長は同地区の紫藤康二さん(70)から、地縁や血縁のない従業員だった中島一利さん(43)になった。
同法人は、地区の二つの営農組織が合併して1995年に法人化した。稲作に興味のあった中島さんが就職したのは2000年。ハローワークで求人を知り、近隣の射水市から通勤してきた。当初、中島さんも紫藤さんも後継者候補という意識はなかった。
紫藤さんは60歳ごろから継承を考え始めたが、法人の構成農家の身内には希望者がいなかった。次第に、人柄が信頼でき勉強熱心な中島さんに継承したいと考えるようになった。他の役員と話し合い、「世襲でなく、若く意欲のある中島さんに後を継いでほしい」との思いを長年伝え続けた。
作業計画の立案など責任ある仕事を意識的に任せられた中島さんは、組合長になることを見据えて、12年に法人に出資して役員となった。「土地に縁のなかった自分が後を継いでよいのか悩み、即決できなかった。ただ、地域の財産である農地をつなぎたいという気持ちはあった」と中島さん。5年かけて準備し、組合長に就任した。
資産は全て法人所有で、手続きは組合長の名義変更だけで完了した。地権者には段階的に丁寧に説明し、反対する人はいなかった。
現在、役員3人全員が同地区以外の出身で、中島さんは今も通勤しながら組合長を務める。同法人は役員、従業員の平均年齢が30代。イチゴ経営を始めるなど新品目にも挑戦する。中島さんは「土地利用型は地域を守る意味があり、存続が地域問題に直結する。自分も次の継承を見据えて経営する」と強調。紫藤さんは「経営ノウハウや思い、悩みも共有し、信頼を築けたので第三者継承が実現できた」と考える。
地縁・血縁超え
新潟県村上市で米など66ヘクタールを経営する農業生産法人「神林カントリー農園」では3年前、前社長とは血縁関係のない吉村敏秀さん(55)が代表を引き継いだ。吉村さんは「従業員として30年以上働いた長い準備期間があった。経営を継承するのに、血縁は特に関係なかった」と話す。
埼玉県熊谷市で25ヘクタールで米麦などを栽培していた掛川久敬さん(74)は今年1月、知人に紹介されて手伝いに来た20代の若者に経営のバトンを渡した。掛川さんが3年間、農業技術などをみっちり伝授。農機などは減価償却で計算し、農地や作業場は賃借料を払ってもらう。掛川さんは「地権者には自分が責任を取ると了解してもらった。意見のずれはあっても、最終的に判断するのは経営者。若者の意欲を尊重したい」と見守る。
担い手確保へ多彩な手法を 東京農業大学の内山智裕教授の話
果樹や畜産に比べ、土地利用型は地権者との関係性を踏まえなければならず、第三者継承には難しさを伴う。ただ地域資源を守っていくためには、第三者を含め多様な形で土地利用型の後継者確保を考えなければならない。
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2019年11月25日

棚田「残したい」7割 多面的機能に評価 農水省 初の意向調査
農水省は、棚田地域振興法の成立を受けて、棚田に対する国民の意向を初めて調査し、「棚田を将来に残したい」という回答が7割に達した。棚田米の購入などによる支援を望む声も多い一方で、支援したいと思わない回答も一定数を占めた。条件不利地での営農継続に向けて、国民全体で棚田を支える機運をどう高めていくかが問われる。
「支援せぬ」働き掛けを
全国の20歳以上を対象に調査し、1102人から回答を得た。
棚田を将来に残したいと回答した割合は、「知名度は高くないが地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」が51%、「全ての棚田を残したい」が17%、「一部の有名な棚田だけは残したい」が8%で、合計で76%に上った。
棚田を維持、保全したい理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒しや安らぎをもたらす」、「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最多だった。多くの回答者が棚田が生み出す多面的機能を評価した格好だ。
一方、棚田を将来残すべきかどうかについて、「残ってほしいが荒れるのは仕方ない」が19%、「全てなくなっても構わない」が6%と、棚田の維持に理解を示さない回答も一定割合を占めた。理由は「農業をするには効率が悪い」が43%と最も多かった。
棚田の維持や保全のために何かしたいかについては、「したいと思わない」が34%で最も多かった。
ただ、2番目は「インターネットなどで棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が26%、次いで「棚田を訪問し、棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が23%、「ふるさと納税を通じて支援したい」が20%と、一定数が自ら支援したい意向を示した。
同省は「棚田が必要で、支えるべきと考える国民は多いと言えるが、理解が浸透していない部分もある。保全に向けた支援に加えて、国民への一層の周知にも力を入れたい」(地域振興課)と話す。
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2019年11月24日

旅するチョウ 花で“誘致” フジバカマ 栽培広がり町活気 香川
日本列島を春は北上、秋は南下し、合わせて2000キロ以上を旅するといわれるチョウ「アサギマダラ」。5年ほど前、その渡りの途中で香川県内に飛来することが話題になり、花を植えて呼び寄せる活動が観音寺市を中心に島しょ部に広がっている。
羽を広げると10センチほどの大ぶりのチョウで、模様の一部が「あさぎ色」であることが名前の由来。2014年、同市の有明浜で地元の自然観察会グループがその姿を確認し、「有明浜の海浜植物とアサギマダラ飛翔会」を立ち上げた。
調べてみると、アサギマダラの成長には特定の植物の蜜の摂取が必要だった。春は有明浜の「スナビキソウ」に、秋は多年草「フジバカマ」を目当てに立ち寄るという。
会は同市伊吹島の遊休農地などに植栽しチョウの“誘致”に成功。その後、元農業改良普及員で同会の杉村勝司会長が、フジバカマを挿し芽で1年に1000株以上を増やし、希望する学校や団体に寄贈を続けてきた。
市内の介護複合型施設「大興和の杜(もり)」もその一つ。目の前にある休耕田約5アールに3年前からフジバカマを植えている。今年は暖冬で、平年より1週間ほど遅い10月中旬から飛来したという。
施設の高嶋一志事務長は「アサギマダラが来ると、利用者やスタッフが写真を撮ったり、散策に出たりして楽しんでいる。施設の利用者にとっては生きがい」と笑顔を見せる。
同会によると、フジバカマの栽培は、同市の吉原地区、三豊市の粟島、丸亀市の本島などの団体や施設にも広がっている。
杉村会長は「アサギマダラが、人と人とのつながりを強め、地域を元気にしてくれた。自然の大切さも伝えていきたい」と話す。同会では、季節になると伊吹島の港に案内板を立てるなど、観光客を呼び寄せる工夫もしていく。
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2019年11月20日

雑草スギナ 漢方茶で収益 津市の福祉施設 川原田さん考案
津市で障害者を雇用して農業生産を行う一般社団法人・一志パラサポート協会は、雑草スギナを「スギナ玄米茶」に加工して収益品目に昇華させた。JA三重中央の農産物直売所などで売れ行きは好調。今後は大型乾燥機も導入して生産拡大したい考えだ。
考案したのは同法人の職業指導員で、イチジク農園を経営していた川原田憲夫さん(75)だ。地域活性化のために加工食品を作ろうと考えていた。一方、法人のハウスイチジク栽培では、難防除雑草のスギナが、ハウス内に繁茂してしまうのが悩みの種となっていた。そこで、川原田さんは発想を転換。スギナが漢方として使われることに着目し、乾燥させて茶にしようと試みた。
収穫したスギナは、枯れている部分を取り除き選別。緑色が失われないように陰干しで乾燥する。乾燥時間や粉末の細かさ、玄米との混合割合など、試行錯誤を重ねて飲みやすさを追求。2018年に商品化した。今では年間でティーバッグ1100個ほどを製造している。
同法人は就労継続支援B型事業所「スマイルコーン」を運営する。施設の利用者も、スギナの収穫や選別はしやすいという。川原田さんは「イチジクは肥料にカルシウムを多く使う。それがスギナが増える原因の一つ。他の雑草が少ない点も、イチジクハウスがスギナ栽培に適していた」と話す。
法人ではドクダミ茶も作り、スギナ玄米茶と合わせて生産を拡大する計画だ。大型乾燥機も導入する予定だ。川原田さんは「認知度が徐々に上がってきた。さらに収益を上げ、利用者の工賃アップにつなげたい」と意欲を見せる。
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2019年11月20日

人口減の中山間で試行錯誤 小さな“とりで”限界 多面的機能支援を 島根県津和野町放牧で農地維持
政府が食料・農業・農村基本計画の見直しを進める中、人口減少や高齢化が進む中山間地域では、基幹産業の農業振興に向け、現状に見合った支援を求める声が相次いでいる。自治体やJA、集落では作業受委託などで農地を維持する他、新規就農者を呼び込むなどして生き残りを目指す。だが、中・小規模の農家にはできることに限界がある。条件不利地の農業現場を追った。(鈴木薫子)
島根県津和野町一ノ谷集落。今は11戸の住民が暮らすだけで、人口は約50年で3分の1となり、空き家や雑草が生い茂った棚田が目立つ。標高約450メートルで牛200頭を飼育する京村真光さん(66)は「荒廃地が増え、田や山の境目が分からなくなった」とつぶやく。
京村さんは12代目として先代から農地を受け継いだ。父の代までワサビ栽培が中心だったが、自ら肉牛の牧場を立ち上げた。黒毛和種の繁殖と、ジャージー種と黒毛和種を掛け合わせた交雑種(F1)の肥育を手掛ける。5~11月、計5ヘクタールに繁殖雌牛12頭を放牧し、中山間地ながら規模拡大に挑戦。牛を放棄地に貸し、農地を守るレンタル放牧に協力し、農地を守る活動もする。後継者育成や技術継承に力を入れるが、個人の地域農業の維持に限界を感じている。
西いわみ和牛改良組合津和野支部は、京村さんの就農時の1973年に約250人いた組合員が今は14人だ。
中山間地の農地が荒れると多面的機能が減退する。治水機能の低下などは平野部の災害リスクが高まり「災害がいつ起きるか分からない。荒廃地の整備を進めてほしい」と訴える。
災害が多発する中、多面的機能の維持は農家だけでなく国民的な課題だ。
「これ以上、農地の受け入れは難しい」。同町とJAしまね(旧JA西いわみ)が出資し13ヘクタールで稲刈りを受託するフロンティア日原の斎藤宣文社長は、こう漏らす。会社設立時にゼロだった利用権設定面積は10ヘクタールに増加。ワサビ加工場と水田を6人で管理するが、負担が増す。
斎藤社長は「経営はぎりぎり。現在の人員では規模拡大は難しい」と農地集約、大規模化の限界に直面している。地域では新規就農者もいるが、「米の消費減退や米価が不安定で水稲に担い手が集まらない」という。「国の支援は認定農業者が中心で中・小規模農家への支援が途絶えているように思う」と、安定経営ができる支援を求める。
森林が9割の同町は農地の大規模化が難しい。高齢化率は48%(19年10月)と全国平均(28%)を上回る。不利な条件ばかりだが、町とJAは、担い手育成や新規就農者の確保に注力し、未来を託す。町による生活資金や機械導入などの初期費用の手厚い助成で、12~18年度で計29人が就農。だが、それ以上に離農し、JAや町役場は「農事組合法人などの事業継承など多様な担い手への支援が欠かせない」と話す。
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2019年11月19日

台風、地震…怖い停電 太陽光発電 非常時に期待大だけど…
自立運転 切り替え必要 機器不備 蓄電できずに 千葉、北海道の農家
台風や地震など災害で停電した際に、非常時の電源として太陽光発電を活用する動きが出てきた。停電時にパワーコンディショナー(変電機器)を自立運転に切り替え、酪農では搾乳機や扇風機などの動力源にする。ただ、太陽光パネルを設置する農家からは「自立運転への切り替え方が分からない」「蓄電器がなく夜間は使えない」などと、活用に向けた課題を指摘する声も多い。(関山大樹)
千葉県香取市。乳牛約120頭を飼育する畠中牧場は、9月の台風15号で起きた停電時に自家発電機と、牛舎の屋根に設置した太陽光発電を非常電源として活用した。
牧場は売電用として15年前に太陽光発電を導入。停電が起きた翌日、初めて自立運転に切り替えた。電力は子牛用の牛舎の扇風機に使った。ただ、電気をためる蓄電器がなかったため昼間しか使えなかったという。
代表の畠中登さん(70)は「自立運転への切り替えは業者に依頼したが、普段から使い慣れていないと非常時に自分で切り替えるのは難しいと思う」と話す。
2018年9月に発生した最大震度7の北海道地震では、全道が停電に見舞われた。JA浜中町管内では「自然エネルギーを使うエコな牛乳を作ろう」と、国の支援も活用し105戸の酪農家らが牛舎などへの太陽光発電を導入してきたが、停電時の非常電源にはならなかったという。
自立運転機能はパワーコンディショナーに備わるが、コストがかかるため自立運転機能付きの変電機器や、蓄電器を導入した農家が少なかったためだ。
元々JAは、通常時に牛舎などで使う電力を生み出す目的で太陽光発電を進め、余剰電力は電力会社に販売していた。JAの宮崎義幸営農課長は「蓄電器があっても、非常時に搾乳ポンプを起動する際は蓄電量が一気に減る恐れがあり、長時間、使えるのかなど不安がある」と訴える。
価格下げ、使用法周知を
まとまった農地に支柱を立て、営農を継続しながら上部で太陽光発電をして売電する営農型太陽光発電も各地で広がっているが、災害時の活用には課題が多そうだ。
日本電機工業会の統計によると、18年度に出荷した変電機器のうち住宅の屋根などに付ける「家庭用」では、ほとんどが自立運転機能を備えている。しかし、営農型発電など容量が10キロワット以上の「非家庭用」では、2割が自立運転機能を備えていなかったという。
営農型太陽光発電普及協議会の小林昭夫事務局長は「自立運転への切り替え方法が分からなかったり、営農型では家から離れた所に太陽光パネルを設置していたりする場合が多く、非常電源として活用できていないのではないか」とみている。
太陽光発電に詳しい元東京大学特任教授で、環境経営コンサルタントの村沢義久さんは、災害時の活用も含め太陽光発電は可能性のある分野だと指摘。「政府や関係機関は自立運転機能の災害時の活用方法を発信するなど啓発活動に力を入れていくべきだ。現在は高価な蓄電器を購入しやすい価格に下げていく必要もある」と話している。
<ことば> 自立運転機能
停電時に、太陽光発電による電力だけで家庭などへの電力供給が可能になる機能のこと。一般的にパワーコンディショナーという専用の変電機器に備わっているが、機種によっては機能がないものがある。
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2019年11月19日
営農アクセスランキング
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世襲より人物本位 “伴走” 期間経て 経営・信頼つなぐ
米や大豆、麦などを栽培する土地利用型の農事組合法人や大規模農家が、地縁や血縁のない従業員や若者らに経営をバトンタッチする第三者経営継承に取り組むケースが出てきた。農機など有形資産だけでなく、地権者の信頼も継承。経営主が後継者に経営ノウハウを伝える伴走期間を経て、次世代の担い手確保に対応する。
土地利用型の第三者継承
富山県砺波市の農事組合法人「ガイアとなみ」。同市若林地区を中心に130ヘクタールで米や大豆、麦などを栽培する。2年前、組合長は同地区の紫藤康二さん(70)から、地縁や血縁のない従業員だった中島一利さん(43)になった。
同法人は、地区の二つの営農組織が合併して1995年に法人化した。稲作に興味のあった中島さんが就職したのは2000年。ハローワークで求人を知り、近隣の射水市から通勤してきた。当初、中島さんも紫藤さんも後継者候補という意識はなかった。
紫藤さんは60歳ごろから継承を考え始めたが、法人の構成農家の身内には希望者がいなかった。次第に、人柄が信頼でき勉強熱心な中島さんに継承したいと考えるようになった。他の役員と話し合い、「世襲でなく、若く意欲のある中島さんに後を継いでほしい」との思いを長年伝え続けた。
作業計画の立案など責任ある仕事を意識的に任せられた中島さんは、組合長になることを見据えて、12年に法人に出資して役員となった。「土地に縁のなかった自分が後を継いでよいのか悩み、即決できなかった。ただ、地域の財産である農地をつなぎたいという気持ちはあった」と中島さん。5年かけて準備し、組合長に就任した。
資産は全て法人所有で、手続きは組合長の名義変更だけで完了した。地権者には段階的に丁寧に説明し、反対する人はいなかった。
現在、役員3人全員が同地区以外の出身で、中島さんは今も通勤しながら組合長を務める。同法人は役員、従業員の平均年齢が30代。イチゴ経営を始めるなど新品目にも挑戦する。中島さんは「土地利用型は地域を守る意味があり、存続が地域問題に直結する。自分も次の継承を見据えて経営する」と強調。紫藤さんは「経営ノウハウや思い、悩みも共有し、信頼を築けたので第三者継承が実現できた」と考える。
地縁・血縁超え
新潟県村上市で米など66ヘクタールを経営する農業生産法人「神林カントリー農園」では3年前、前社長とは血縁関係のない吉村敏秀さん(55)が代表を引き継いだ。吉村さんは「従業員として30年以上働いた長い準備期間があった。経営を継承するのに、血縁は特に関係なかった」と話す。
埼玉県熊谷市で25ヘクタールで米麦などを栽培していた掛川久敬さん(74)は今年1月、知人に紹介されて手伝いに来た20代の若者に経営のバトンを渡した。掛川さんが3年間、農業技術などをみっちり伝授。農機などは減価償却で計算し、農地や作業場は賃借料を払ってもらう。掛川さんは「地権者には自分が責任を取ると了解してもらった。意見のずれはあっても、最終的に判断するのは経営者。若者の意欲を尊重したい」と見守る。
担い手確保へ多彩な手法を 東京農業大学の内山智裕教授の話
果樹や畜産に比べ、土地利用型は地権者との関係性を踏まえなければならず、第三者継承には難しさを伴う。ただ地域資源を守っていくためには、第三者を含め多様な形で土地利用型の後継者確保を考えなければならない。
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直播向き米品種 耐病・耐暑多収強み 農研機構
農研機構・東北農業研究センターは27日、倒伏しにくく、直播(ちょくは)栽培に適した水稲品種「しふくのみのり」を育成したと発表した。これまでの直播栽培向け品種「萌(も)えみのり」に比べて暑さやいもち病に強いのが特徴。良食味で多肥直播栽培の10アール当たり収量は750キロを超える。……
2019年11月28日

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ブドウ果肉まで赤 ワイン用品種出願 大阪府
大阪府立環境農林水産総合研究所は、果肉まで暗赤色で、濃い赤色のワインが造れる醸造用ブドウ「大阪R N―1」の品種登録を出願した。一般的な赤ワイン用品種に比べ、植物色素のアントシアニン含量が数倍になるという。地球温暖化の影響による高温で果皮の着色不良が問題となる西日本などの地域でも高品質なワイン造りにつなげられる有望品種として期待される。
赤ワインは原料のアントシアニン含量が多ければ、濃い赤色に仕上がる。「大阪R N―1」の果実のアントシアニン含量は、赤ワイン用品種として知られる「ピノ・ノワール」や「メルロー」を数倍以上に上回る。国内で栽培されている既存品種にも果肉まで赤色になるものはあるが、単独で醸造しても風味が優れなかった。「大阪R N―1」は果実品質が良く、単独で醸造しても風味が良いワインになる。
この品種は府内の醸造所(ワイナリー)が40年ほど前に育成した。2018年に同研究所が新設した「ぶどう・ワインラボ」が、既存品種と異なる特性を持つことを確認した。今年3月5日に出願した。親はまだ特定できておらず、解析を進める。
苗の生産体制を整え、府内を中心に普及を進める考えだ。同研究所は「西日本を中心に、温暖化による高温で原料ブドウの果皮色が出にくくなっている。新品種で課題に対応できる」と有望視する。
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2019年11月27日

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棚田「残したい」7割 多面的機能に評価 農水省 初の意向調査
農水省は、棚田地域振興法の成立を受けて、棚田に対する国民の意向を初めて調査し、「棚田を将来に残したい」という回答が7割に達した。棚田米の購入などによる支援を望む声も多い一方で、支援したいと思わない回答も一定数を占めた。条件不利地での営農継続に向けて、国民全体で棚田を支える機運をどう高めていくかが問われる。
「支援せぬ」働き掛けを
全国の20歳以上を対象に調査し、1102人から回答を得た。
棚田を将来に残したいと回答した割合は、「知名度は高くないが地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」が51%、「全ての棚田を残したい」が17%、「一部の有名な棚田だけは残したい」が8%で、合計で76%に上った。
棚田を維持、保全したい理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒しや安らぎをもたらす」、「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最多だった。多くの回答者が棚田が生み出す多面的機能を評価した格好だ。
一方、棚田を将来残すべきかどうかについて、「残ってほしいが荒れるのは仕方ない」が19%、「全てなくなっても構わない」が6%と、棚田の維持に理解を示さない回答も一定割合を占めた。理由は「農業をするには効率が悪い」が43%と最も多かった。
棚田の維持や保全のために何かしたいかについては、「したいと思わない」が34%で最も多かった。
ただ、2番目は「インターネットなどで棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が26%、次いで「棚田を訪問し、棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が23%、「ふるさと納税を通じて支援したい」が20%と、一定数が自ら支援したい意向を示した。
同省は「棚田が必要で、支えるべきと考える国民は多いと言えるが、理解が浸透していない部分もある。保全に向けた支援に加えて、国民への一層の周知にも力を入れたい」(地域振興課)と話す。
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2019年11月24日

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冬の大輪 優しく満開 蜂も人も元気“満タン” 香川県三豊市生産者の団体
香川県三豊市山本町河内地区に、季節外れのヒマワリ畑が出現し、話題を呼んでいる。地元農家の団体「河内アグリ活動組織」が秋冬に不足しがちなミツバチの栄養源にしようと耕作放棄地や休耕田を利用し、10カ所、計約1・5ヘクタールで栽培した。寒い日が増える中、花はまだ咲く予定で、12月半ばまで楽しめる。
事務局の白川良三さん(68)は「ミツバチも喜ぶし、きれいな花は多くの人を喜ばせるので一石二鳥」と語る。タマネギの採種をしている白川さんは、養蜂家から「冬は花が少なく、栄養不足で蜂の群れが小さくなる」と聞いていた。
そこで耕作放棄地などを利用してヒマワリを育ててみることにした。組織では、夏に幼児向けのヒマワリ迷路を作っており、こぼれた種が発芽し秋冬に花を咲かせることがあったという。
一昨年、9月に種をまくと、花が咲く時期に霜が降り元気を失ってしまった。昨年は8月上旬に種まきしたところ、10月中旬から12月中旬まで見事に咲き続け、今春、蜂箱にたくさんのミツバチが確認できた。白川さんは「ヒマワリの蜜で体力を付けた多くの蜂が冬を越した」と推測する。
「冬にこんな大輪に育つとは」「夏より優しい黄色」「一面に咲いて圧巻」などと好評で、多くの人が見物に訪れている。「自由に摘み取り、持ち帰って楽しんで」と白川さんは話す。
開花に合わせ、日曜日にヒマワリ畑で農産物の販売やミカンの詰め放題(100円)なども行い、一層の地域活性化に力を注いでいる。
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2019年11月26日

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桃を助けて! 台風19号で泥水襲来 改植必要 7年は未収益に 福島県国見町
台風19号の被害を受けて、福島県では生産者から桃の改植や育成期間の支援を充実するよう求める声が相次いでいる。土砂の流入や長時間の冠水により被災した園地は今後、枯死や病害、生育不良など影響が出る恐れがある。改植が必要な園地も多いとみられ、地域の基幹産業への影響を危ぶむ声が上がっている。(音道洋範)
ごみ散乱、木枯死 支援拡充を切望
桃の一大産地、福島県国見町では、13日未明に阿武隈川へ流れる滝川の堤防が決壊し、60ヘクタール近い桃の園地と水田が冠水した。同町で桃4ヘクタールを栽培する井砂善栄さん(73)の園地は3ヘクタールが水没。「あるはずの桃の木が泥水で見えなかった時は、もう夢も希望もないと感じた」と振り返る。
一時は4メートル近い高さの桃の木が見えなくなり、地面を確認できたのは3日後のことだった。水が引いた後、園地には流されてきたごみが散乱。桃の木の頂上部にも水で流されてきたごみが引っかかっていた。
息子の聡さん(40)も就農し、これからという時期だった。一部の木では枯死が起き始めている他、病害虫のまん延も懸念されている。「生き残った木も弱っていることで、以前のような秀品を取るのは難しいだろう」と肩を落とす。今後は「木を改植しなければならないかもしれない」と不安がる。
農水省は今年の豪雨災害や台風15号による被害に対して、桃やリンゴの改植には10アール当たり17万円を補助している。また、成木となるまでの未収益期間には4年間分の肥料や農薬代として、10アール当たり22万円を一括で補助している。
だが実際には、桃は改植してから7年ほど育てないと売り物になる果実は実らず、福島県内の農家からはその間の経済的な不安を指摘する声が相次いでいる。
JA福島中央会の菅野孝志会長は「農家が頑張りたいと思える道筋を示すことが大切だ」と訴える。21日には、未収益期間の支援延長や、新たな園地で営農を再開する場合の支援を農水省の伊東良孝副大臣に要請した。
江藤拓農相は同日、長野県のリンゴ産地を視察し、改植に対する未収益期間の追加支援策を検討していることを明らかにしている。井砂さんは「とにかく現場の声を聞いて、スピード感を持って対応してほしい」と訴える。
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2019年10月24日

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人口減の中山間で試行錯誤 小さな“とりで”限界 多面的機能支援を 島根県津和野町放牧で農地維持
政府が食料・農業・農村基本計画の見直しを進める中、人口減少や高齢化が進む中山間地域では、基幹産業の農業振興に向け、現状に見合った支援を求める声が相次いでいる。自治体やJA、集落では作業受委託などで農地を維持する他、新規就農者を呼び込むなどして生き残りを目指す。だが、中・小規模の農家にはできることに限界がある。条件不利地の農業現場を追った。(鈴木薫子)
島根県津和野町一ノ谷集落。今は11戸の住民が暮らすだけで、人口は約50年で3分の1となり、空き家や雑草が生い茂った棚田が目立つ。標高約450メートルで牛200頭を飼育する京村真光さん(66)は「荒廃地が増え、田や山の境目が分からなくなった」とつぶやく。
京村さんは12代目として先代から農地を受け継いだ。父の代までワサビ栽培が中心だったが、自ら肉牛の牧場を立ち上げた。黒毛和種の繁殖と、ジャージー種と黒毛和種を掛け合わせた交雑種(F1)の肥育を手掛ける。5~11月、計5ヘクタールに繁殖雌牛12頭を放牧し、中山間地ながら規模拡大に挑戦。牛を放棄地に貸し、農地を守るレンタル放牧に協力し、農地を守る活動もする。後継者育成や技術継承に力を入れるが、個人の地域農業の維持に限界を感じている。
西いわみ和牛改良組合津和野支部は、京村さんの就農時の1973年に約250人いた組合員が今は14人だ。
中山間地の農地が荒れると多面的機能が減退する。治水機能の低下などは平野部の災害リスクが高まり「災害がいつ起きるか分からない。荒廃地の整備を進めてほしい」と訴える。
災害が多発する中、多面的機能の維持は農家だけでなく国民的な課題だ。
「これ以上、農地の受け入れは難しい」。同町とJAしまね(旧JA西いわみ)が出資し13ヘクタールで稲刈りを受託するフロンティア日原の斎藤宣文社長は、こう漏らす。会社設立時にゼロだった利用権設定面積は10ヘクタールに増加。ワサビ加工場と水田を6人で管理するが、負担が増す。
斎藤社長は「経営はぎりぎり。現在の人員では規模拡大は難しい」と農地集約、大規模化の限界に直面している。地域では新規就農者もいるが、「米の消費減退や米価が不安定で水稲に担い手が集まらない」という。「国の支援は認定農業者が中心で中・小規模農家への支援が途絶えているように思う」と、安定経営ができる支援を求める。
森林が9割の同町は農地の大規模化が難しい。高齢化率は48%(19年10月)と全国平均(28%)を上回る。不利な条件ばかりだが、町とJAは、担い手育成や新規就農者の確保に注力し、未来を託す。町による生活資金や機械導入などの初期費用の手厚い助成で、12~18年度で計29人が就農。だが、それ以上に離農し、JAや町役場は「農事組合法人などの事業継承など多様な担い手への支援が欠かせない」と話す。
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2019年11月19日

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旅するチョウ 花で“誘致” フジバカマ 栽培広がり町活気 香川
日本列島を春は北上、秋は南下し、合わせて2000キロ以上を旅するといわれるチョウ「アサギマダラ」。5年ほど前、その渡りの途中で香川県内に飛来することが話題になり、花を植えて呼び寄せる活動が観音寺市を中心に島しょ部に広がっている。
羽を広げると10センチほどの大ぶりのチョウで、模様の一部が「あさぎ色」であることが名前の由来。2014年、同市の有明浜で地元の自然観察会グループがその姿を確認し、「有明浜の海浜植物とアサギマダラ飛翔会」を立ち上げた。
調べてみると、アサギマダラの成長には特定の植物の蜜の摂取が必要だった。春は有明浜の「スナビキソウ」に、秋は多年草「フジバカマ」を目当てに立ち寄るという。
会は同市伊吹島の遊休農地などに植栽しチョウの“誘致”に成功。その後、元農業改良普及員で同会の杉村勝司会長が、フジバカマを挿し芽で1年に1000株以上を増やし、希望する学校や団体に寄贈を続けてきた。
市内の介護複合型施設「大興和の杜(もり)」もその一つ。目の前にある休耕田約5アールに3年前からフジバカマを植えている。今年は暖冬で、平年より1週間ほど遅い10月中旬から飛来したという。
施設の高嶋一志事務長は「アサギマダラが来ると、利用者やスタッフが写真を撮ったり、散策に出たりして楽しんでいる。施設の利用者にとっては生きがい」と笑顔を見せる。
同会によると、フジバカマの栽培は、同市の吉原地区、三豊市の粟島、丸亀市の本島などの団体や施設にも広がっている。
杉村会長は「アサギマダラが、人と人とのつながりを強め、地域を元気にしてくれた。自然の大切さも伝えていきたい」と話す。同会では、季節になると伊吹島の港に案内板を立てるなど、観光客を呼び寄せる工夫もしていく。
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2019年11月20日

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台風、地震…怖い停電 太陽光発電 非常時に期待大だけど…
自立運転 切り替え必要 機器不備 蓄電できずに 千葉、北海道の農家
台風や地震など災害で停電した際に、非常時の電源として太陽光発電を活用する動きが出てきた。停電時にパワーコンディショナー(変電機器)を自立運転に切り替え、酪農では搾乳機や扇風機などの動力源にする。ただ、太陽光パネルを設置する農家からは「自立運転への切り替え方が分からない」「蓄電器がなく夜間は使えない」などと、活用に向けた課題を指摘する声も多い。(関山大樹)
千葉県香取市。乳牛約120頭を飼育する畠中牧場は、9月の台風15号で起きた停電時に自家発電機と、牛舎の屋根に設置した太陽光発電を非常電源として活用した。
牧場は売電用として15年前に太陽光発電を導入。停電が起きた翌日、初めて自立運転に切り替えた。電力は子牛用の牛舎の扇風機に使った。ただ、電気をためる蓄電器がなかったため昼間しか使えなかったという。
代表の畠中登さん(70)は「自立運転への切り替えは業者に依頼したが、普段から使い慣れていないと非常時に自分で切り替えるのは難しいと思う」と話す。
2018年9月に発生した最大震度7の北海道地震では、全道が停電に見舞われた。JA浜中町管内では「自然エネルギーを使うエコな牛乳を作ろう」と、国の支援も活用し105戸の酪農家らが牛舎などへの太陽光発電を導入してきたが、停電時の非常電源にはならなかったという。
自立運転機能はパワーコンディショナーに備わるが、コストがかかるため自立運転機能付きの変電機器や、蓄電器を導入した農家が少なかったためだ。
元々JAは、通常時に牛舎などで使う電力を生み出す目的で太陽光発電を進め、余剰電力は電力会社に販売していた。JAの宮崎義幸営農課長は「蓄電器があっても、非常時に搾乳ポンプを起動する際は蓄電量が一気に減る恐れがあり、長時間、使えるのかなど不安がある」と訴える。
価格下げ、使用法周知を
まとまった農地に支柱を立て、営農を継続しながら上部で太陽光発電をして売電する営農型太陽光発電も各地で広がっているが、災害時の活用には課題が多そうだ。
日本電機工業会の統計によると、18年度に出荷した変電機器のうち住宅の屋根などに付ける「家庭用」では、ほとんどが自立運転機能を備えている。しかし、営農型発電など容量が10キロワット以上の「非家庭用」では、2割が自立運転機能を備えていなかったという。
営農型太陽光発電普及協議会の小林昭夫事務局長は「自立運転への切り替え方法が分からなかったり、営農型では家から離れた所に太陽光パネルを設置していたりする場合が多く、非常電源として活用できていないのではないか」とみている。
太陽光発電に詳しい元東京大学特任教授で、環境経営コンサルタントの村沢義久さんは、災害時の活用も含め太陽光発電は可能性のある分野だと指摘。「政府や関係機関は自立運転機能の災害時の活用方法を発信するなど啓発活動に力を入れていくべきだ。現在は高価な蓄電器を購入しやすい価格に下げていく必要もある」と話している。
<ことば> 自立運転機能
停電時に、太陽光発電による電力だけで家庭などへの電力供給が可能になる機能のこと。一般的にパワーコンディショナーという専用の変電機器に備わっているが、機種によっては機能がないものがある。
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2019年11月19日

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雑草スギナ 漢方茶で収益 津市の福祉施設 川原田さん考案
津市で障害者を雇用して農業生産を行う一般社団法人・一志パラサポート協会は、雑草スギナを「スギナ玄米茶」に加工して収益品目に昇華させた。JA三重中央の農産物直売所などで売れ行きは好調。今後は大型乾燥機も導入して生産拡大したい考えだ。
考案したのは同法人の職業指導員で、イチジク農園を経営していた川原田憲夫さん(75)だ。地域活性化のために加工食品を作ろうと考えていた。一方、法人のハウスイチジク栽培では、難防除雑草のスギナが、ハウス内に繁茂してしまうのが悩みの種となっていた。そこで、川原田さんは発想を転換。スギナが漢方として使われることに着目し、乾燥させて茶にしようと試みた。
収穫したスギナは、枯れている部分を取り除き選別。緑色が失われないように陰干しで乾燥する。乾燥時間や粉末の細かさ、玄米との混合割合など、試行錯誤を重ねて飲みやすさを追求。2018年に商品化した。今では年間でティーバッグ1100個ほどを製造している。
同法人は就労継続支援B型事業所「スマイルコーン」を運営する。施設の利用者も、スギナの収穫や選別はしやすいという。川原田さんは「イチジクは肥料にカルシウムを多く使う。それがスギナが増える原因の一つ。他の雑草が少ない点も、イチジクハウスがスギナ栽培に適していた」と話す。
法人ではドクダミ茶も作り、スギナ玄米茶と合わせて生産を拡大する計画だ。大型乾燥機も導入する予定だ。川原田さんは「認知度が徐々に上がってきた。さらに収益を上げ、利用者の工賃アップにつなげたい」と意欲を見せる。
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2019年11月20日
