貿易摩擦のとばっちり 「確かな国産」で対抗 日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介

藻谷浩介 氏

 米国のトランプ大統領が、中国に対し、「米国への輸入品に最高25%の関税を課すぞ」と脅しをかけている。この話は今後どのように進展し、日本にどのような影響を及ぼすだろうか。

 米国の中国に対する貿易赤字は、2018年だけで46兆円。同じ米国の、日本に対する貿易赤字8兆円弱がかすんで見える。後者だけでも、日本国内の農業産出総額と大差ない巨額なのだが。

 しかしながら国と国の間の取引は、貿易(モノの輸出と輸入)だけではない。金利配当や観光、特許料、著作権料、ソフトウエア代金なども合計した経常収支を見ると、中国の18年の黒字は5兆円少々しかない。米国となると54兆円もの赤字だが、それでも対中貿易赤字の何割かを他分野で取り戻している。ちなみに日本は19兆円の黒字で、ドイツに次ぐ世界2位だ。

 ということで米国には、工場労働者などの中国に対する負け組と、中国から金利配当を稼ぐ投資家などの勝ち組が存在している。トランプ氏は前者の側に立つことで、中国からの安い輸入品を買う圧倒的多数の一般消費者の愛国気分までをも盛り上げて、来年に迫る大統領選挙を有利にしようとしているわけだ。
 

関税強化は脅し


 この構図を考えると、関税強化はトランプ氏の脅しであって本意ではない。実行すれば金融投資家たちを敵に回すばかりか、物価上昇で一般庶民の反発も買う。

 もちろん中国経済への打撃も甚大だが、選挙の洗礼を受けない中国共産党にしてみれば、数年間は我慢してトランプ氏に得点を挙げさせず、大統領の交代を狙った方が得策だ。というようなことなので中国が譲らず、引っ込みのつかなくなった米国が勢いで関税を上げることもあり得る。

 ところで日本は、18年に米国から9兆円弱、中国(香港を含む)からも2兆円の貿易黒字を稼いだ。米中が貿易戦争で不景気になれば、彼らからのもうけが減る。
 

またも人身御供


 農業へのとばっちりも心配だ。関税が上がれば中国は、対抗して米国からの食料輸入を減らす。そうなればトランプ氏は、不満を高める自国農民への選挙対策として、日本への農産品輸出を増やそうとするだろう。

 日本政府も、輸出の屋台骨である自動車産業を高関税から守るためならと、農業をまたもや人身御供に差し出す可能性が高い。

 数十年単位で考えれば今のまま存続できるはずもないガソリン車業界を守るべく、未来永劫(えいごう)日本の得意分野であるだろう農業を差し出すのは愚策の極みである。

 だがそうなってしまった時の対抗策は、牛肉・オレンジ交渉の後の経験から学べる。

 輸入品とバッティングしないだけの高付加価値化を進めたことで、日本の果実も牛肉も成長分野に転じた。安いだけの輸入品を求める客層ではなく、高くても由来の明確な国産品を求める客層(訪日外国人を含む)に向き合って努力することが、今まで以上に求められている。

 もたに・こうすけ 1964年山口県出身。米国コロンビア大学ビジネススクール留学。2012年より現職。平成合併前の全市町村や海外90カ国を自費訪問し、地域振興や人口成熟問題を研究。近著に『しなやかな日本列島のつくりかた』など。 
 

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