総合農協の経済的効果 利用者目線で強化を 福井県立大学教授 北川太一

北川太一氏

 私が担当した前回(1月21日付)の本欄で、「農協の合併は、大規模経済の有利性を発揮し、事業を効率よく実施する」ために、「適正規模」を精査する必要性を強調した。そこで次に重要になるのは、JAが複数の事業を兼営する総合農協としての強み(総合力)をいかに発揮していくか、その経済的効果を考えることである。
 

経営コスト削減


 この効果を経済学では「範囲の経済効果」と呼ぶ。それは、一つの企業経営において、複数の製品を同時に生産・販売することにより、共通でかかる費用が削減される効果である。

 JAで言えば、組合員が農産物の販売事業を利用することで、販売代金がJAの貯金口座に振り込まれる。これによって、信用事業における貯金吸収コストや、購買事業における未収金回収コストが節約できる。

 しかし、JAにおいては、こうした範囲の経済効果の獲得は困難になりつつある。例えば、米の販売事業では、食糧管理制度に基づく事業方式が前提であったが、それは廃止された。

 近年では、事業部門ごとの組織縦割り化や採算性確保の要請、さらには、コンプライアンス(法令順守)を重視するための事業組織の閉鎖性が進みつつある。

 JAが総合農協であるからこそ、総合力は発揮される。ただし、それは必要条件である。総合農協という形であることが、必然的に範囲の経済効果の発揮を約束しているわけではない。求められるのは、JA関係者が意識的に総合力発揮に向けた取り組みを行うことである。
 

広義の利益増進


 実は、範囲の経済効果には、前述の例とは別に、事業に関する情報、技術や人材といった経営資源が、いろいろな場面で重なる(同時に多重利用される)ことで、その有効活用が図られる効果があり、これは「シナジー効果(相乗効果)」と呼ばれる。

 例えば、農産物直売所の利用者が、地域の農業や食の問題に関心を持つようになり、食農教育や加工、野菜栽培などの新しい活動を始めるようになる。

 あるいは、組合員講座や地域に開かれた学習の場が、受講生自らの暮らしを見つめる機会となり、JAが行うさまざまな事業に関心を持つようになる。

 こうした例は、費用の削減といった経営的な効果だけではなく、組合員(利用者)の満足向上、広い意味での利益の増進を図ろうとするものである。

 農協合併によって、事業量を増やし、効率性を求めることは必要である。しかし、より重要になるのは、組合員一人一人の事業利用率、地域住民の関心度合いを高めることである。

 この意味において、組合員・利用者目線のシナジー効果の考え方は重要である。組織が大きくなればこそ、組合員組織や学習などを通じたさまざまな「活動」が展開されなければならない。

 きたがわ・たいち 1959年、兵庫県生まれ。鳥取大学助手、京都府立大学講師などを経て現職。地域農林経済学会会長、日本協同組合学会副会長も務める。主な著書に『新時代の地域協同組合』『協同組合の源流と未来』などがある。
 

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