岩本公水さん(歌手) 故郷の「味」に支えられて

岩本公水さん

 秋田県の標高の高い地域で生まれ育ちました。峠を越えてやっと上にたどり着くと、平野が広がっている。まるでマチュピチュのような農村が私の故郷です。

 実家は農業をやっていました。米と野菜を作り、黒毛和牛を育てて売りに出していました。比内地鶏も育てていましたが、これは食べるため。秋になれば山からきのこを採ってきて、鶏のスープできのこ汁をいただきました。
 

両親へ再び感謝


 父は冬の間は都会に出稼ぎに行き、4月になると帰ってきました。帰ると真っ先にやるのが投網。川でウグイという魚を取るんです。ウグイを炭火で焼くと、ああ春が来たんだと感じるわけです。

 母は鹿児島から秋田に嫁いだんですよ。カツオ漁で生計を立てている家の人が、米作りで生きている家に来たんです。母は食事のたびに、かつお節を削っていました。私はどこの家でもやっていると思っていたんですが、違うんですね。故郷のかつお節を削り、秋田の野菜がたっぷり入ったみそ汁を作ってくれていたんです。

 高校を卒業して東京に出てから、それまで当たり前だと思っていたことが全然当たり前でないということを知りました。両親は米や野菜を送ってくれるんです。実家にいた頃は何も考えずに食べていたんですが、米や野菜を作るのに両親がどれだけ苦労したことか、と。改めて感謝の気持ちが湧きましたし、こうして送ってくれるということは、元気で農業をしているということ。親の健康のバロメーターだと感じています。父は75歳になりましたが、今も送ってくれるんです。おかげで私は、米を一度も買ったことがありません。

 みそもしょうゆも、実家から送ってもらっています。秋田のみそは、米こうじがたくさん入っています。かすがいっぱい出ますが、その中にも栄養があるんだと言われ、こさずにみそ汁を作ります。

 漬物はもちろんいぶりがっこ。故郷では各家庭が専用の薫製小屋を持っていて、そこで作るんです。上京して以来、漬物も買ったことがなく、実家のいぶりがっこを食べています。

 春になると父が段ボール1箱分ものワラビを送ってくれます。都内で売っているのとは全然違って、太くて粘りのあるワラビを。

 冬が近づくとハタハタの季節。母がハタハタをこうじ、ニンジン、米と一緒に発酵させたいずしを作り、毎年送ってくれます。これが届くと、ああ故郷はこれから雪なんだなあと感じます。
 

発酵文化大使に


 秋田ではいろんな発酵食品を食べる習慣があります。私が納豆好きだということを知った横手市の方から「発酵文化大使」になってほしいと話を頂きました。大使になった以上、勉強もして自分でも作らないといけません。

 暑い時期ですと、手製のフルーツ酢がいいですよ。家にある果物の皮をよく洗ってざく切りにして、梅干しを漬ける瓶に入れ、一番安い穀物酢を入れて1カ月置いて発酵させるんです。角の取れたまろやかなフルーツ酢の出来上がり。ドレッシング代わりに使ったり、サイダーで割って飲んだり。夏ばて防止に役に立ちます。

 私が郷土の食材や料理が好きだということを知った秋田のファンの方は、コンサートで行くたびに野菜やみそなどの差し入れをしてくださいます。今年でデビュー25周年。両親はもちろん、秋田の方々、特に農家の方々に応援をいただいたおかげで、ここまで来れたんだと実感しているところです。(聞き手・写真=菊地武顕)

 いわもと・くみ 1975年、秋田県生まれ。95年に「雪花火」でデビュー。97年にNHK「紅白歌合戦」に初出場した。5月にデビュー25周年記念アルバム「うたこまちⅡ」を、8月7日に「能取岬」を発売。趣味は陶芸で、何度も展覧会を開く腕前。「羽後町観光宣伝大使」、「埼玉伝統工芸会館PR大使」も務める。
 

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