農業の施政方針 危機と未来 論戦で語れ

 第201通常国会が始まった。生産基盤の弱体化が著しい農業・農村の将来像をどう描くのか。安倍晋三首相の施政方針演説からは、その危機感も明確な対応方針も読み取れない。食料・農業・農村基本計画の改定を控える時期だからこそ、今国会ではスローガンでなく実質的な農業再興論議を求める。

 安倍政権にとっては厳しい国会運営となる。成長戦略の柱と位置付けるカジノを含む統合型リゾート(IR)事業に絡む汚職事件、自民党議員の公職選挙法違反疑惑、公費の私的流用が疑われる首相主催の「桜を見る会」問題など多くの火種を抱える。長期政権ゆえの「おごりと慢心」が政権の足元を揺さぶる中で、野党は追及姿勢を強めており波乱含みの国会となる。

 首相は自民党総裁任期切れを1年8カ月後に控え、今国会は全世代型社会保障改革の実現、悲願の憲法改正に道筋をつけ、政権の総仕上げを意識した対応をするとみられる。施政方針演説もこれまでの「成果」と残された課題を強調する手堅い内容になっている。

 その分、農業分野への言及は手薄になった印象が否めない。もっともここ数年の演説では規制緩和による農業の成長産業化をうたい、自由貿易協定や農政改革を断行してきた。5年前の演説では「改革断行」の象徴として「60年ぶりの農協改革を断行する」と強調。以後も「農林水産新時代」を前面に打ち出し「強い農業」を志向してきた。

 今回の演説は、一連の農政・農協改革が軌道に乗ったとの判断からか、従来の改革色は影を潜めている。力を入れたのが農産物輸出など新たな販路開拓で「世界に目を向けることで、地方に新しいチャンスが広がる」という。その言に異論はない。問題はその足元の生産基盤の弱体化が止まらないことだ。今年度補正予算案を念頭に、演説では、農地の大規模化、牛の増産など3000億円を超える予算で生産基盤の強化を進めると述べるにとどまった。

 深刻な担い手・労働力不足、農地減少への危機感が乏しいと言わざるを得ない。2010年に205万人いた基幹的農業従事者は19年140万人となり、65万人も減った。同じ時期、農地は約20万ヘクタール減った。

 「農が国の基」が首相の持論なら、直面する危機に対する構想を施政方針で示すべきだった。農業の危機は国土の危機であり、食料安全保障の危機である。持続可能な農業・農村の再興戦略を打ち出し、「救国宣言」を出すくらいの覚悟と決意を首相は持ち、今後の答弁に立つべきだ。それこそが地方創生であり、防災・減災対策につながる道である。

 とりわけ、向こう10年の未来図を示す食料・農業・農村基本計画の改定論議が大詰めを迎えているだけに、今国会の役割は重い。与野党を超え、農業の未来、すなわちこの国の未来を示す実りある論戦を求める。

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