施政方針演説 期待値では許されぬ 資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫

柴田明夫氏

 安倍晋三首相の施政方針演説を聞いた。案の定、いかにも内容が空疎に感じた。中国でも毎年3月の全国人民代表会議(全人代)で政府活動報告が行われる。昨年も李克強首相は、冒頭に多くの成果を披露した上で、「直面する課題と試練を冷静に認識しなければならない」との反省に立ち、必要な政策を示した。しかし、安倍首相は、自画自賛ばかりで反省がなく危機感もない。
 

輸出1兆円困難


 農業については、「牛肉、米の輸出が3割増えた」「環太平洋連携協定(TPP)諸国への乳製品の輸出も、2割を大きく上回る伸びとなった」など、農産物輸出の成果を挙げた。しかし、昨年1~11月の農林水産物・食品輸出額は前年同月比0・5%増の8234億円にとどまり、2019年の目標1兆円には届きそうにない。輸出を拡大しようにも、肝心の農業の生産基盤が弱体化しているためだ。にもかかわらず、安倍政権は「輸出で稼げる日本農業をつくる」として、30年に農産物輸出(食関連産業の海外売上高)5兆円の目標を掲げている。
 

持続可能めざせ


 確かに、人口が減少していく国内市場において農地を維持するためには、国内の農業資源をフル活用して輸出に活路を開くしかない。とはいえ、農業にとっては農産物の輸出拡大が最終ゴールではないはずだ。持続的な農産物輸出体制を構築することで、人、農地、水、水源涵養(かんよう)林などの農業資源をフル活用し、地域社会の活性化と持続可能な発展を達成することこそが真に目指すべき姿であろう。そのためには、特定の企業的農家だけでなく、条件不利地域の中小零細農家を含む多様な経営の参画が先決だ。

 農水省の「農林水産基本データ集」からは、日本農業の姿が見えてくる。農業経営体の数は、20年2月時点で118・9万だが、法人の数は2・6万と2・2%にとどまる。安倍政権が法人化に力こぶを入れても、依然として日本の農業経営体の97・8%は、家族経営を中心とした中小零細な農家なのだ。農家数は216万戸、農業就業人口は168万人で、いずれも減少が止まらない。農業者の平均年齢は66・8歳と高齢化が進んでいる。

 農水省では、新たな「食料・農業・農村基本計画」策定の議論が進んでいる。基本計画は、今後10年程度先までの施策の方向性を示しつつも、農政を巡る情勢変化や施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに見直される。15年3月に策定された現在の基本計画は、25年度に向けてさまざまな数値目標を掲げている。食用米の生産752万トン、農地面積440万ヘクタールの維持、担い手の耕地利用割合80%(23年度)、食料自給率45%(カロリーベース)などだ。しかし、いずれも既に目標を下回っている。

 新たな基本計画ではどのような数値目標を掲げるのだろうか。現実と目標との大幅な隔たりがなぜ生じたのか、真摯(しんし)な分析と抜本的な検討が必要だ。もはや単なる期待値として目標を掲げることは許されない。

 しばた・あきお 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。
 

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