空虚な施政方針演説 輸出誇張 未来に禍根 特別編集委員 山田優

 「世界に目を向けることで、地方に新しいチャンスが広がります」

 安倍晋三首相は先週、国会の施政方針演説で農林水産物の輸出政策に触れた。欧州連合(EU)への牛肉や米の輸出が3割増えたことなどを挙げ、「農業の明るい未来を切り開くのは農産物輸出だ」と言わんばかりに自画自賛した。

 農水省の集計によると、昨年1~11月の欧州向け米輸出額は、前年同期に比べて確かに29%伸びている。その限りでは演説は間違ってはいない。

 しかし、現実はどうか。EUに向かった米は947トンで輸出額も3億円に満たない。日本の米生産量全体に比べると0・01%余り。これが3割増えたところで農業全体への影響は限られている。

 首相は、演説で国民の多くが関心を持っている「桜を見る会」などの疑惑に全く触れなかった。一方で都合の良い事例だけをつまみ食いして、手柄を自慢するのに終始した。農業の分野に限っても同じ構図だ。

 本当に農家が知りたいのは、この先の農業政策を首相自身がどう考えているのかだ。近く始まる日米貿易協定の追加交渉で日本政府は農産物で新たな譲歩を拒むのか。財政当局からの風圧が強まりつつある飼料用米の支援を、この先も続けるのか。国民全体の懸念材料である食料自給率の低下をどう立て直すのか。

 聞きたいことはいっぱいある。

 「サツマイモの新品種がシンガポールやタイで大人気です」などという能天気な説明ではなく、農業が直面する課題と信念を自らの言葉で語り、堂々と野党との論戦を挑むのが、本来の仕事のはずだ。

 空虚なスローガンを垂れ流す首相を忖度(そんたく)してか、あるいは便乗してか、農水省も2020年度の農林水産関係予算案の一番の目玉に輸出力強化を掲げている。

 少し前まで日本政府は「多様な農業の存在の必要性」を世界に向かって主張し、輸出国による自由化攻勢を強く批判したはずだ。ところが、いつの間にか日本も輸出国気取りになってしまった。首相が輸出拡大をはしゃいでいる国が、農業交渉の場で「国内農業を守りたい」と主張して説得力があるだろうか。

 農産物輸出を針小棒大に語ることは国民に対して不誠実であり、日本の農業の未来に禍根も残すだろう。

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