若手職員の育て方 組合員接点を増やそう
2020年11月24日
地域づくりや農業の活性化に関わる仕事をしたいという若い人が増えている。地域おこし協力隊が代表格だ。新型コロナウイルス禍で田園回帰の流れが強まる兆しも見える。問題は、こうした志向を持つ若者の職業の選択肢にJAが入っているかである。魅力ある職場づくりが求められている。
学校を卒業して地元で働こうとすれば以前は、農協は役場と並んで有望な就職先だった。近年、JA関係者から聞こえてくるのは、新卒者がなかなか来ないとの嘆き節である。若い人たちに魅力や働きがいを感じさせる職場になっているかを考える必要がある。
日本農業新聞JA面「職場改造塾」で連載した「生き生きと働く~協同組合人の育て方」(筆者・西井賢悟JCA主任研究員)に、JA関係者の反響が寄せられた。連載の内容は、JAの若手・中堅職員に焦点を当て①20代の職員に元気がない②協同組合理念と実際との差に「リアリティー・ショック」を受けている③協同組合の理念教育が職員の心に落ちていない──といった問題点を踏まえ、何をすべきかを考察したものだ。
同じような悩みを抱えるJAは少なくないのではないか。問題解決の鍵が「組合員」にあるとの指摘が重要だ。西井研究員らが行ったJA職員のヒアリング調査で「理想の職員像」を尋ねると、「組合員との距離が近い人」「組合員が信用の置ける人」といった答えが多く返ってきたという。職員は組合員と接し、組合員のために仕事している時、自分を肯定的に捉えることができるのである。
当然と言えば当然だが、問題はこのことを職員が日常の事業・活動の中で実感できているかである。「組合員基点」は協同組合の原則であり、組合員との関係性が事業体としての最大の強みでもある。JAは職員と組合員との接点の実態をいま一度点検してみてはどうか。
本連載で浮き彫りになったのは、若手職員が抱える心の葛藤だ。理念と仕事とのギャップを感じる割合が入組後10年目までに急速に高まり、5割に達するという。こうした現象はJAに限らずどの組織にも見られるが、放置してはならない。
西井研究員が提言するのは、20代のうちにさまざまな組合員組織の事務局や、JAが近年力を入れる支店協同活動の事務局に関わらせることだ。職員は組合員のために仕事をし、ありがとうと声を掛けられた時、やりがい、喜びを感じるからである。そういう経験を若い時にこそさせる。また、業績には表れない努力を評価する仕組みの整備も課題に挙げる。
若手職員のやりがいづくりは、組合員との関係強化、事業基盤の整備、地域社会とのつながりなど、「好循環」を引き起こす可能性に富んでいる。温かい目で見守り、支えるのが先輩職員、役員の良き立ち居振る舞いというものだろう。
学校を卒業して地元で働こうとすれば以前は、農協は役場と並んで有望な就職先だった。近年、JA関係者から聞こえてくるのは、新卒者がなかなか来ないとの嘆き節である。若い人たちに魅力や働きがいを感じさせる職場になっているかを考える必要がある。
日本農業新聞JA面「職場改造塾」で連載した「生き生きと働く~協同組合人の育て方」(筆者・西井賢悟JCA主任研究員)に、JA関係者の反響が寄せられた。連載の内容は、JAの若手・中堅職員に焦点を当て①20代の職員に元気がない②協同組合理念と実際との差に「リアリティー・ショック」を受けている③協同組合の理念教育が職員の心に落ちていない──といった問題点を踏まえ、何をすべきかを考察したものだ。
同じような悩みを抱えるJAは少なくないのではないか。問題解決の鍵が「組合員」にあるとの指摘が重要だ。西井研究員らが行ったJA職員のヒアリング調査で「理想の職員像」を尋ねると、「組合員との距離が近い人」「組合員が信用の置ける人」といった答えが多く返ってきたという。職員は組合員と接し、組合員のために仕事している時、自分を肯定的に捉えることができるのである。
当然と言えば当然だが、問題はこのことを職員が日常の事業・活動の中で実感できているかである。「組合員基点」は協同組合の原則であり、組合員との関係性が事業体としての最大の強みでもある。JAは職員と組合員との接点の実態をいま一度点検してみてはどうか。
本連載で浮き彫りになったのは、若手職員が抱える心の葛藤だ。理念と仕事とのギャップを感じる割合が入組後10年目までに急速に高まり、5割に達するという。こうした現象はJAに限らずどの組織にも見られるが、放置してはならない。
西井研究員が提言するのは、20代のうちにさまざまな組合員組織の事務局や、JAが近年力を入れる支店協同活動の事務局に関わらせることだ。職員は組合員のために仕事をし、ありがとうと声を掛けられた時、やりがい、喜びを感じるからである。そういう経験を若い時にこそさせる。また、業績には表れない努力を評価する仕組みの整備も課題に挙げる。
若手職員のやりがいづくりは、組合員との関係強化、事業基盤の整備、地域社会とのつながりなど、「好循環」を引き起こす可能性に富んでいる。温かい目で見守り、支えるのが先輩職員、役員の良き立ち居振る舞いというものだろう。
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[新型コロナ] 中華圏向け米輸出拡大 コロナ禍 調理楽しむ若者も増
中華圏(中国、台湾、香港)への日本産米輸出が急増している。高級レストランなどの外食需要に加え、新型コロナ禍による在宅勤務の増加、家庭消費も堅調に伸びている。さらに、巣ごもりで調理を楽しむ若者のニーズもつかんでいる。
人気堅調
北京在住の農産物卸売市場関係者は「調理を楽しむ若者の間で、日本米の人気が高い」と評価する。新型コロナ禍を契機に、自家料理を楽しむ若者が増加。その多くが趣味として新料理に挑戦するが、オンラインで手軽に高級感を味わえる食材が人気を集めており、その一つが日本米という。
日本の財務省貿易統計によると、中華圏向けの2020年1~11月の精米輸出量は、前年比78%増の7523トンと、過去最高だった19年を上回った。そのうち、香港向けが同87%増の4620トンと、6割を占める。台湾、中国向けもそれぞれ、同72%増、59%増となった。
集客要素
岡山県マスコット「ももっち」を活用した日本米祭り(11月、台北SOGO忠孝店で、鼎三国際企業提供)
「外食チェーン店が日本米の取扱量を増やしている」。日本米の大手輸入業者の鼎三国際企業の林定三会長は話す。新型コロナ禍の影響で、外食の回数が減少する中、日本米を取り入れた高級メニューを売りに集客を狙う外食企業が続出しているという。台湾大手食品会社の乾杯集団は、傘下のチェーン店で使用する米全てを日本米にしている。
家庭向けの需要も堅調だ。大手スーパーのSOGOなどは昨年11月20日から10日間、日本米祭りを開いた。新型コロナ禍で来場者は減少したが、期間中、オンライン注文も含め10トンが売れた。1日20袋(5キロ入り)売れた計算だ。
特に、産地キャラクターの登用が成果を上げた。例年、日本の産地から関係者が訪れ会場を盛り上げるが、昨年は新型コロナのため林会長はキャラクターに着目。岡山県の「ももっち」が販促を支援した。林会長は「子連れ家族に人気で販売につながった」と話す。
消費倍増
「米消費が倍に増えたよ」と日本米ファンの50代女性。例年は、共働きで外食が多く、子ども3人も学校で昼食を取っているため、1カ月当たりの消費量は5キロ程度だ。しかし、新型コロナ禍の影響で、在宅勤務が増え、子どもらの休校も重なって「1日3食を家で食べるため、米の減り方が半端じゃない」という。
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2021年01月10日

国産で輸出加工品を 中国向けに高級ジュース 全農
JA全農はホクレン、サントリーと共同で、輸出向けの高級商品「北海道産プレミアムりんごジュース」を開発し、中国で販売に乗り出した。富裕層がターゲットで、2月に始まる春節での需要を狙う。日本からの農産物加工品は輸入原料が多く、全農は国産を原料にした加工品輸出のモデルとして、新たな需要を開拓したい考えだ。
12月に発売した。原料は北海道産のリンゴで、700ミリリットル瓶2本入りの贈答向けの商品とした。JA全農インターナショナルが開発・輸出し、サントリーの中国法人、三得利が販売する。
新型コロナウイルス禍を踏まえ、eコマース(EC=電子商取引)で販売する。サントリー中国法人のECサイトで、春節向けの贈答品としてPRする。中国で知名度のある、卓球日本代表の石川佳純選手(全農所属)もPRサイトに起用している。また、インターネット交流サイト(SNS)でのPRも予定している。
販売は、価格設定や需要について調べるテスト販売の位置付け。全農は輸出拡大に向けた政府の関係閣僚会議などで、輸出加工品の原料として国産の利用を広げる必要を訴えている。今回の取り組みで、そうしたモデルを率先して探っていく。
全農は「全農グループの素材を生かし、サントリーと共同で新たな輸出の需要を作り出したい」(輸出対策部)と話す。
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2021年01月11日

直売所がネット通販 朝取り翌日配送 和歌山・JA紀の里
全国有数の取り扱い規模を誇るJA紀の里のファーマーズマーケット「めっけもん広場」は、インターネット通販を始めた。朝に採れた農産物を、通常なら翌日に自宅へ届ける仕組み。新型コロナウイルス下で買い物に出掛けることを控えている人に新鮮な農産物を届ける。
同直売所は青果(野菜・果実)の2019年度の……
2021年01月11日
減る消防団員 なり手を増やす環境に
集中豪雨などによる災害から地域住民を守る消防団員の減少が止まらない。大規模災害が頻発している。地域防災の中核を担う消防団員の確保に向け、政府は環境整備を急ぐべきだ。
消防団は、市町村の非常備の消防機関。全ての市町村に設置され、公務員や農業者、JA職員、会社員ら他に本業を持つ団員で構成する。災害時には消火活動や住民の避難誘導、救助活動、救助が必要な人の捜索などに当たる。日曜日などに訓練し、災害に備える。
被害を最小限に抑えるには初動が肝心で、地域密着型の消防団は欠かせない組織だ。熊本県を中心とした昨年7月の豪雨では、12県で延べ5万6000人が救助、巡視警戒、避難誘導などで重要な役割を発揮した。
1954年に200万人を超えていた全国の団員は、少子高齢化や人口減少などで90年には100万人を下回った。昨年は81万8000人で、2年連続で1万人を超す減少となった。
地域の防災力を維持するためにも団員の減少を食い止める必要がある。災害の多発化や激甚化と団員数の減少で、団員1人の役割も増している。50歳以上が2割を超え、高齢化も進む。会社勤めのため日中は不在となる団員が増え、地域防災の弱体化が進んでいるのが実態だ。
消防庁は、退職報償金の引き上げなど、団員確保策に取り組んできたが効果は限定的だ。報酬も、危険を伴う活動に見合う水準への引き上げが急務だろう。国は、一般団員の報酬について年間3万6500円、出動手当1回7000円として、地方交付税を措置している。しかし、市町村が決める実際の報酬は、全国平均で年間3万1000円弱にとどまっている。
同庁は、昨年末に、研究者や首長などによる「消防団員の処遇等に関する検討会」を開いて改善策を探り始めた。報酬全体の底上げを目指すべきだ。
問題は、急速に少子高齢化と人口減少が進む農山村地帯だ。対応を急がないとなり手がいなくなり、地域防災の基盤が揺らぐ。九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授は「農林業従事者で消防団員の人は、国土保全の役割を果たしている。経営安定資金などの優遇措置を設け、住み続けられる条件を整備することも一案だ」と、農林業者の生計が成り立つような支援を提言する。考慮すべきだろう。
最近は、被災地で復旧活動などに当たるボランティアが増えてきた。行政の手が届かないところをカバーする「共助」は歓迎できる。併せて、住民による地域の防災力を高める日頃の活動が重要だ。その中核となる消防団活動に参加しやすくする職場の理解も欠かせない。
政府は、昨年末、防災・減災や国土強靱(きょうじん)化を推進するため、15兆円の事業規模となる5カ年加速化対策を決めた。地域住民が消防団に積極的に参加できるよう、総合的な取り組みも急ぐべきだ。
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2021年01月12日

コロナ禍の食と農三つの革命で道開け ナチュラルアート代表 鈴木誠
今、コロナ禍にある日本は、産業政策と食料安全保障の両面から、官民挙げた1次産業強化が待ったなしの局面を迎えている。現代は情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)中心の第4次産業革命といわれるが、これからは食料問題中心の第5次産業革命へ移行すべきだ。
今年もわれわれは、コロナと気象変動に強い制約を受ける。現実を受け止め、マイナス面を超える新たな付加価値創造が必要だ。
DX、脱炭素…
創造的破壊は、まずは過去の破壊から始まる。昨年のコロナは、まさに社会を破壊したのだから、今年は創造の年になる。国内1次産業再構築の大命題は、「生産性向上」だ。さもなければ、競争優位性を確保できず、所得は増えず、産業はさらに衰退し、国力は低下する。生産性向上には「DX(デジタル)革命」「脱炭素革命」「物流・サプライチェーン革命」と、三つの革命が成長エンジンだ。
1次産業は、他産業に比して遅れているDX革命が、逆に期待の星だ。業界や地方が抱える人手不足問題を解消し、経験・勘・思いこみに依存した経営スタイルから脱却し、科学的経営に移行する。
脱炭素革命はエネルギー革命だ。1次産業は化石燃料の依存度が高く、高コストかつ二酸化炭素(CO2)の問題を抱えている。太陽光など、再生可能エネルギーの普及・拡大はもちろんのこと、ウオーターカーテン方式や高度化した断熱シート、エネルギーの無駄遣い対策の熱交換システムなど、脱化石燃料が進みつつある。災害等緊急事態への事業継続計画(BCP)対策も忘れてはいけない。
物流・サプライチェーン革命もCO2問題をはじめ、ドライバー不足、低積載効率、車両・運賃等高コスト問題など、早急に対応が必要だ。物流センターはハブ&スポーク方式とし、全国主要地域に大型拠点物流センターを再整備し、それに連なる中小集荷センターを各地に配置することだ。
そのためには、卸売市場の自己構造改革、あるいは物流事業者や総合商社などの新規参入を含め、選択肢は複数ある。現状縦割りのサプライチェーンは、売り手と買い手が協調する一体改革が求められる。
栽培技術向上も
その他、栽培や養殖などの生産技術向上も、生産性向上には欠かせない。植物の栽培技術向上の起爆剤として、「バイオスティミュラント」が注目されている。
バイオスティミュラントは、海外では欧州連合(EU)を中心に急拡大しているものの、国内ではまだ緒に就いたばかりだ。これまでのように化学農薬や化学肥料で、過保護に植物を育てるのではなく、植物そのものの免疫力を高め健康にする栽培だ。日本は、化学農薬大国からそろそろ卒業する必要がある。植物が健康になれば、収量が増え、食味は良くなり、機能性(栄養価)は向上し、結果として生産者所得は向上する。
これまで幾多の試練を乗り越えた日本の真価が、いま改めて問われている。
すずき・まこと 1966年青森市生まれ。慶応義塾大学卒、東洋信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)を経て、慶大大学院でMBA取得。2003年に(株)ナチュラルアート設立。著書に『脱サラ農業で年商110億円!元銀行マンの挑戦』など。
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2021年01月11日
論説の新着記事
コロナ特措法改正 補償が実効確保の鍵に
政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案を18日召集の通常国会に提出し、早期成立を目指す。休業と財政支援、罰則のセットが柱で、実効性が鍵を握る。農家を含め幅広で十分な補償の明確化が必要だ。罰則は私権制限との兼ね合いで慎重を期すべきだ。国民の命を守る視点で徹底審議を求める。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
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2021年01月16日
農畜産物トレンド 変化に対応 業界連携で
日本農業新聞の2021年「農畜産物トレンド調査」がまとまった。販売キーワードの1位は「コロナ対応」。新型コロナウイルス感染の終息が見通せない中で、国産回帰の潮流が確認された。難局を乗り切るには産地だけでなく、川中、川下との連携が重要だ。関係業界が一丸で消費動向の変化に対応すべきだ。
トレンド調査は、米、野菜、果実、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施した。全国のスーパー、生協、外食、卸売業者などの販売担当者を対象とし、140社から回答を得た。毎年行い、今年で14回目。
今回の特徴は、コロナ関連のキーワードに注目が集まった点だ。「ネット取引・宅配」やコロナ不況を受け「値ごろ感(節約志向)」が上位にランクインした。「ネット取引・宅配」はこれまでも関心項目だったが、外出自粛や人との接触を控えたい消費動向の強まりで、コロナ下での販売手法として欠かせないものになっている。
部門別に見ると、トレンドのキーワードは多彩だ。野菜は「栄養価」。健康志向を受け、栄養価が高いとして知られるブロッコリーやニンジンといった品目に注目が集まった。野菜はそれぞれの品目で特徴的な機能性がある。研究機関などと連携し、販売戦略に生かしたい。
果実は「ギフト需要」と「地域性」。専門家は「果実は県独自ブランドが豊富で地域性を打ち出しやすい。特色ある果実で旅行気分を味わってもらうなど、付加価値型で地域の魅力を丸ごと売り込む視点が重要」と指摘する。
需給緩和が懸念される米は、パックご飯とインターネット販売が、消費拡大の手法として注目度が高い。米は炊飯や持ち帰りの負担といった課題がある。簡便性に対応した商品づくりが重要だ。食肉は、節約志向を受けて値ごろ感が求められる。牛乳・乳製品は家庭用が堅調で、大容量に勝機がある。花きは業務需要が伸び悩む中、業務用と家庭用の両方の用途に使える商材に注目が集まる。
農畜産物の一つの品目で、さまざまなキーワードを全て満たすのは難しい。産地は自らの農畜産物の特徴をつかみ、どのキーワードで産地づくりに取り組むか考える必要がある。例えば野菜。「ネット取引・宅配」ならばeコマース(電子商取引)に産地が挑戦したり、宅配業者との連携を強化したりすることなどが想定される。「健康(機能性)」なら機能性成分の高い品種の産地化や機能性表示制度を活用した販売もよい。「値ごろ感(節約志向)」に対応し、多収や低コストの産地づくりを目指すのも選択肢となる。
販売キーワードの「国産志向」(14%)「地産地消」(10%)「産地との直接取引」(8%)からは、国産を見直す動きが読み取れる。コロナ終息後も見据えて産地は、取引先などと連携して消費者や実需者のニーズに対応する体制を構築しよう。
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2021年01月15日
外国人材の確保 通年雇用と環境整備を
農繁期の異なる産地間での人材リレーなど、外国人の新たな活用の仕方が農業分野で広がってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年、外国人技能実習生らが来日できなかった状況に対応するものだ。継続して働いてもらえるように受け入れ側は、通年雇用の体制と労働環境などの整備・改善を進めたい。
農村の人口減少や高齢化、規模拡大などによる労働力不足で、農業分野で働く外国人が増えてきた。技能実習生は2019年10月末で3万1900人、同年に始まった新たな在留資格「特定技能」の外国人も20年9月末で1306人になった。特定技能は、農業や介護など14業種が受け入れ対象で、労働者と法的に位置付け、同一業種なら雇用先を変更できる。
ところが昨年、新型コロナの感染拡大を防ぐために政府が入国を規制。2900人の技能実習生が来日できず、受け入れ予定だった産地は人手不足に陥った。こうした中で始まったのが外国人のリレーである。繁忙期が重ならない産地間で人材を共有。外国人は通年で働くことができ、農家には毎年同じ人に来てもらえるメリットがある。
先行事例とされるのが長野と長崎での県間リレーだ。長野県では冬に、長崎県では夏に農作業が減少。外国人は、夏を中心に長野のJA木曽やJA洗馬でリンゴやキャベツなどの収穫に当たる。その後、JAながさき県央に移動し、ニンジンやジャガイモの収穫などを行う。熊本県では平場が中心のJA熊本市と高冷地のJA阿蘇で、青果の出荷繁忙期が異なることに着目。熊本市ではナスやトマト、阿蘇ではアスパラガス、イチゴの選果などに従事する。
産地リレーを担えるのは特定技能か「特定活動」の外国人だ。特定活動はコロナ禍で解雇されるなどした技能実習生に、一度に限り職種変更と滞在期間の延長を認める在留資格。昨年11月時点で職種を変更したのは約1300人で、うち農業が約400人だった。
コロナ禍の収束後を見据えても、外国人は日本農業の働き手として重要である。しかし人手不足は国内外で生じており、人材確保を巡って競争が激しくなるとみられる。日本農業が選ばれるには、受け入れる農業者やJAなどが労働環境や労働条件の点検と整備・改善に不断に取り組むことが欠かせない。
それには外国人の声を聞くことも重要だ。外国人にとっては母国語で相談できる人がいると心強いだろう。JA熊本うきは、日本語、英語、ベトナム語、中国語に堪能なベトナム人を正職員に採用している。選果場などで働く特定技能外国人の管理の円滑化などを期待する。
技能実習生や農業分野の特定技能外国人は滞在期間が決まっており、帰国が前提だ。地域農業の持続的な発展には、担い手の確保・育成が必要である。外国人材の活用と両輪で進めなければならない。
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2021年01月14日
広がり続ける豚熱 未発生地域も防疫徹底
豚熱の感染地域が広がり続けている。昨年末には山形県と三重県で相次いで発生。東西にそれぞれ拡大した。未発生地域も含め、農場での防疫の要点をあらためて確認・徹底しよう。
山形県で発生したのは昨年12月25日。2018年に国内で26年ぶりに発生してから10県目となる。29日には三重県で発生し、同県で2例目、全国で61例目となった。この農場は、沖縄県を除くと最も西に位置する。
いずれも予防的ワクチンの接種農場だった。しかし、山形の発生農場では初回の接種を終えていたが、感染した豚は出荷間際だったため、と畜場法に従って打っていなかった。三重県で感染したのは離乳したばかりの豚で、接種する前だった。
ワクチン接種の空白期間を突かれた格好だ。農水省や大学の研究者らは、ワクチンだけで完全に感染を防ぐことはできないと繰り返し指摘する。接種しても十分な免疫を得られる豚は8割程度とされ、飼養衛生管理基準で定めた消毒や衛生対策が全ての農場に求められる。
特に離乳豚の場合、未接種期間が必ず生じる。母豚からの移行抗体が効果を失う前にワクチンを打っても新たな抗体ができにくく、生後50~60日の接種が望ましいとされるためである。
制度面からは防疫対策が拡充・厳格化される。ワクチン接種の頻度は農場ごとに月3回程度必要だ。しかし接種できるのは都道府県知事が公務員として任命する「家畜防疫員」に限られ、人手不足が懸念されている。民間の獣医師も任命を受けられるが、所属先によって兼業禁止や勤務先への休暇申請が必要になるケースがあることなどから任命が進まない実態があった。
そこで同省は防疫指針を変更し、都道府県知事が認定した民間獣医師も接種できるよう検討を進めている。ワクチンを打ったことを証明するため、空き瓶を全て回収するなど厳密な管理とする考えだ。
現状でワクチン接種推奨地域は、昨年末に対象となった秋田県を含め28都府県に広がった。ウイルス陽性イノシシの拡散を懸念し、同省は鳥取県、岡山県に対してもワクチン接種体制の構築を求めている。
4月からは、食品残さから製造する飼料「エコフィード」の新たな加熱基準の運用が始まる。昨年1月に沖縄県の養豚場で発生した豚熱は、加熱が不十分なエコフィードが原因とみられている。また、国際基準との照合などにより加熱対象を拡大、加熱方法も厳しくし、違反時の罰則も設ける。
防疫を制度的に整えても、要となるのは人の手による日々の作業だ。外国人技能実習生らも含めて十分な対応が必須である。日本養豚事業協同組合はベトナム語や英語などで防疫作業や豚関連用語などを対訳した冊子を作り、活用を促す。また、農場の防疫体制は、行政や獣医師、地域の仲間と力を合わせて点検することが大切である。
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2021年01月13日
減る消防団員 なり手を増やす環境に
集中豪雨などによる災害から地域住民を守る消防団員の減少が止まらない。大規模災害が頻発している。地域防災の中核を担う消防団員の確保に向け、政府は環境整備を急ぐべきだ。
消防団は、市町村の非常備の消防機関。全ての市町村に設置され、公務員や農業者、JA職員、会社員ら他に本業を持つ団員で構成する。災害時には消火活動や住民の避難誘導、救助活動、救助が必要な人の捜索などに当たる。日曜日などに訓練し、災害に備える。
被害を最小限に抑えるには初動が肝心で、地域密着型の消防団は欠かせない組織だ。熊本県を中心とした昨年7月の豪雨では、12県で延べ5万6000人が救助、巡視警戒、避難誘導などで重要な役割を発揮した。
1954年に200万人を超えていた全国の団員は、少子高齢化や人口減少などで90年には100万人を下回った。昨年は81万8000人で、2年連続で1万人を超す減少となった。
地域の防災力を維持するためにも団員の減少を食い止める必要がある。災害の多発化や激甚化と団員数の減少で、団員1人の役割も増している。50歳以上が2割を超え、高齢化も進む。会社勤めのため日中は不在となる団員が増え、地域防災の弱体化が進んでいるのが実態だ。
消防庁は、退職報償金の引き上げなど、団員確保策に取り組んできたが効果は限定的だ。報酬も、危険を伴う活動に見合う水準への引き上げが急務だろう。国は、一般団員の報酬について年間3万6500円、出動手当1回7000円として、地方交付税を措置している。しかし、市町村が決める実際の報酬は、全国平均で年間3万1000円弱にとどまっている。
同庁は、昨年末に、研究者や首長などによる「消防団員の処遇等に関する検討会」を開いて改善策を探り始めた。報酬全体の底上げを目指すべきだ。
問題は、急速に少子高齢化と人口減少が進む農山村地帯だ。対応を急がないとなり手がいなくなり、地域防災の基盤が揺らぐ。九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授は「農林業従事者で消防団員の人は、国土保全の役割を果たしている。経営安定資金などの優遇措置を設け、住み続けられる条件を整備することも一案だ」と、農林業者の生計が成り立つような支援を提言する。考慮すべきだろう。
最近は、被災地で復旧活動などに当たるボランティアが増えてきた。行政の手が届かないところをカバーする「共助」は歓迎できる。併せて、住民による地域の防災力を高める日頃の活動が重要だ。その中核となる消防団活動に参加しやすくする職場の理解も欠かせない。
政府は、昨年末、防災・減災や国土強靱(きょうじん)化を推進するため、15兆円の事業規模となる5カ年加速化対策を決めた。地域住民が消防団に積極的に参加できるよう、総合的な取り組みも急ぐべきだ。
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2021年01月12日
米生産の目安削減 合意形成 国は後押しを
道府県の農業再生協議会などが定める2021年産主食用米の「生産の目安」がほぼ出そろった。需給均衡水準を上回り、大幅な価格下落が懸念される。目安の削減や、目安よりも生産を減らす「深掘り」が全体的に必要だ。県行政を中心とした関係者の合意形成と、国の強い後押しが不可欠である。
農水省は、需給均衡には21年産で6・7万ヘクタール(生産量36万トン)の作付け転換が必要だと指摘する。だが日本農業新聞の調べでは、41道府県の目安の合計で削減は約17万トンにとどまる。
20年産の需給は過剰作付けと、新型コロナウイルス感染拡大の影響を含めた大幅な消費減で緩和。相対取引価格は下がり、60キロ平均で前年より600円超低い水準で推移する。このままでは、2年で同4000円台半ばの下落となった13、14年産の二の舞いになると危惧される。
そこでJAグループは、20万トンを翌秋以降に販売する長期計画的販売を実施。最大規模の作付け転換などを支援するため政府・与党は、20年度第3次補正予算案と21年度予算案の合計で3400億円の財源を確保した。JAグループは、主食用と非主食用の手取り格差が縮小・解消されると評価する。また品代と助成金から経営費を除いた10アール所得に着目し、主食用と非主食用を組み合わせて所得を確保することを改めて提唱する。
作付け転換をやり切るには支援策の最大限の活用と併せ、県によっては目安の削減や深掘りがまず必要だ。行政やJAグループ、稲作経営者、農業法人、集荷業者や各団体などによる合意形成が鍵を握る。県行政の指導力の発揮が求められる。
野上浩太郎農相も昨年12月の記者会見で目安について「農家の所得向上の観点から、見直しが必要かどうかも含めて関係者で十分な検討を行ってほしい」と述べ、再考を促した。目安や作付け意向の調査、需給動向の分析、営農計画書のとりまとめなどあらゆる機会を捉え、目安の削減を含め作付け転換を強く働き掛けてもらいたい。
消費拡大対策も強化しなければならない。JAグループは国の事業を活用し、コンビニをはじめ事業者と連携した商品開発と販売促進、パックご飯の製造強化、学校給食への提供拡大などを行う。組合員・役職員が1日3食ご飯を食べる運動も展開。系統外への消費拡大策も検討・実施する。消費拡大が官民挙げた取り組みとなるよう同省にもけん引してほしい。
新型コロナの影響による需要の減少を、同省は約9万トンと推計。緊急事態宣言の再発令でさらに減る恐れがある。消費拡大に努めてもコロナ禍による減少分を補いきれなかった場合を想定し、対応を検討すべきだ。
生産・消費両面での取り組みにはスピード感が重要だ。20年産の価格は低下し始めている。需給均衡が見通せる状況を官民一体で早期につくり、市場に示すことが大切である。
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2021年01月11日
破壊型成長の限界 地球にやさしい経済を
地球環境の破壊を伴う経済運営を見直さなければならない。資源を浪費し、地球温暖化を加速させたままでは人類に未来はない。経済成長の呪縛から抜け出し、「共生」に軸足を置いた地球に優しい経済にかじを切るべきだ。
人類が今直面する大きな問題は、地球温暖化である。産業革命以来、石炭や石油などの化石燃料を使い続け、膨大な二酸化炭素(CO2)を出してきた。その結果、南極でも大気中の濃度は400ppmを超えてしまった。400万年ぶりだ。また日本と世界の平均気温は昨年、統計開始以来、いずれも過去最高になったと見込まれている。
多くの研究者が指摘するように、このままでは地球が持たない。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」は、CO2を含む温室効果ガスの排出を減らし、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満、できれば1・5度に抑えることを目指しているが、達成は危うい。
「大絶滅を前にしているというのに、あなたたちはお金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり」。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの訴えは、どんな経済理論よりも説得力を持つ。
地球環境の悪化を速めた原因が、自由競争を重視する新自由主義に基づく経済政策とグローバル経済にあるのは明らかだ。多国籍企業などが、森林の伐採や鉱物の採掘など途上国の資源を収奪し、生物多様性も衰退させた。ビルや道路建設に欠かせない「砂」の収奪合戦で海岸や河川も破壊している。
重要なのは、悲鳴を上げる地球を救う行動だ。日本でも異常高温や集中豪雨などの気象災害が相次ぎ、農作物にも被害が出ている。自然と人間の亀裂を修復し、地球環境に優しい経済活動に転換する必要がある。
「グリーン・ニューディール」など、欧米では温暖化防止と経済格差の是正につながる経済刺激策に期待が高まっている。風力発電や太陽光発電の導入で雇用が拡大することも分かってきた。日本も「グリーン社会」を目指すが、経済運営の基本に新自由主義を据え、規制緩和と自由貿易を推進する姿勢に変わりはないといえる。
一握りの企業や資産家が潤って、地球環境の破壊と経済格差をもたらすような経済成長至上主義は見直すべきだ。新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)につながったのも、利益優先の経済の弊害だ。
世界人口は2050年には100億人に迫り、温暖化の影響と相まって食料危機が現実化する恐れが指摘されている。農業も持続可能な環境保全型の推進が求められる。経済原理も競争から、自然と人、人と人の共生への転換が必要だ。それには協同組合の相互扶助の精神を重視した共生型経済を構想すべきだ。その旗手となることこそ資源の少ない日本の役割であろう。
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2021年01月10日
自立する地域 協同組合が主導しよう
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、「3密」を回避できるとして地方への関心が高まっている。地方への移住者の定着支援では、仕事づくりや安心して暮らせる地域社会づくりなどで、協同組合にこそ役割発揮が求められる。都市集中型から地方分散型への社会転換を協同組合の力で後押ししたい。
都市での生活は、満員電車での通勤をはじめ、密閉、密集、密接が避けられない環境にある。コロナ禍を契機にテレワークが広まり、一部業種では都市にいなくても働けることが分かった。観光地などで休暇を過ごしながら働くワーケーションを実践する人も増えている。JA全中の中家徹会長は2020年の総括として「3密社会の回避へ東京一極集中から分散型社会への潮流が生まれている」と指摘した。今後、地方に移住し、地域に根付いて働きたいというニーズも高まってくるだろう。
協同組合として何ができるか。徳島県JAかいふは地元自治体と連携して、全国から多くの新規就農者を呼び込んでいる。農業と合わせて、豊かな自然でサーフィンや釣りなどが楽しめるとしてアピール。栽培を1年間学べる塾や、環境制御型ハウスの貸し出しなど手厚く支援する。15年度から始め20年度までに24人を受け入れ、20人が就農したという。
総合事業を手掛けるJAは新規就農者に農地や住居、営農指導、労働力など多様な支援を用意し、定着を後押しできる。医療や介護といった暮らしや、組合員組織を通じた仲間づくりなどにも貢献できる。生協など他の協同組合と連携すれば支援の幅はさらに広がる。地方に移住してくる人に対して、協同組合が仕事や生活を丸ごと支援する仕組みの構築も考えられる。
また今後期待されるのが、組合員が出資・運営し、自ら働く労働者協同組合だ。各地域での設立を後押しする法律が20年に成立。たとえ事業は小さくても地域の課題を解決しつつ、自ら経営する新しい働き方として地方にも広がる可能性がある。
コロナ禍の収束は依然見通せない。仮に収束してもグローバル化が進み、今後も感染症が世界を脅かす懸念は強い。都市から地方への単純な人口移動にとどまらず、大都市圏を中心に他の地域と激しく人や物が行き来する社会の在り方が見直される可能性もある。
そこでは、経済や生活、文化が地域ごとに一定程度自立する「地域自立型社会」とも呼べる国の在り方が構想できる。そうなれば先に挙げた役割を果たすため、地域に根差す協同組合の役割はより大きなものになるだろう。また、それぞれの協同組合には全国ネットワークがあり、地域間の連携にも取り組みやすいと考えられる。
感染症を含め近年増えている災害などの危機の際には、協同組合の基本である助け合いが求められる。協同組合の役割と実践内容を改めて発信したい。
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2021年01月09日
地方分散型社会 持続可能な国土めざせ
大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠である。地方、特に農村への移住をどう促すか。政府には、新型コロナウイルス禍を踏まえた分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じることが求められる。
都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人とのつながりを求め地方移住を考える人が増えている。総務省の地域おこし協力隊の任期終了者で、活動先に定住した人が2019年度時点で2400人を超え、5割に上るのもその兆候だ。
移住の促進で必要なのは仕事の確保である。新たな食料・農業・農村基本計画で政府は、農村を維持し、次世代に継承するために地域政策の総合化を打ち出し、柱の一つに「所得と雇用機会の確保」を掲げた。観光や体験、研修など、さまざまな分野と連携した新しいビジネスの展開などを想定している。
しかしコロナ禍で人を呼び込むのが難しくなり、外食や農泊、農業体験を含む観光産業など農業との連携が期待される分野は苦境が続く。半面、家庭需要が高まり、直売所の利用など地産地消の動きは活発化。また起業や事業承継、農業と他の仕事を組み合わせた半農半X、複数の業種をなりわいとする多業など、移住者らによる多様な仕事づくりや働き方がみられる。
政府は農業・農村所得の倍増目標も掲げてきた。達成のためにも事業の継続を支える一方、新たな動きや、コロナ禍の中での経済・社会の変化を捉え、所得確保と雇用創出の政策を構築すべきだ。また東京一極集中の是正を、地方創生や国土計画の中心課題に据えてきた。しかし一極集中に歯止めがかからず、農村の高齢化・過疎化が進んだ。政策の実効性が問われる。
移住者と地域の融和も重要である。地域の一員として溶け込むには移住前から住民と対話・交流し、心を通わせる必要がある。しかしコロナの感染拡大で現地を訪れ、対話する機会を設けるのが難しくなっている。
一方、新しい対話の手法として移住者と地域をオンラインでつなぎ、説明会や就農座談会を開く動きが増えている。自治体や先輩移住者が暮らしや仕事などについて説明。ふるさと回帰支援センターが昨年10月、オンラインで開いた全国規模の移住マッチングイベントには1万5000人超の参加があった。
移住希望者と地域がオンラインで対話し、信頼関係を育む。その上で感染防止対策を徹底し、現地を訪れるなど新様式が一般化する可能性がある。多くの地域で実践できるようノウハウの共有や費用支援が重要だ。
地方への人の流れをつくる方策として政府は、テレワークの推進などを念頭に置く。併せて説明会から移住、定着までを段階を追って、また所得・雇用機会の確保から生活環境整備まで幅広く支援する重層的、総合的な政策体系を構築すべきだ。
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2021年01月08日
緊急事態再発令 暮らし・雇用守る支援を
政府は7日、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決める方針だ。首都圏の1都3県が対象。医療崩壊と全国的なまん延を防げるかどうかの瀬戸際である。官民一体で感染防止対策を徹底しなければならない。それには事業と雇用、暮らしを守る国の十分な支援が不可欠だ。
政府の対策分科会は5日、首都圏の埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県はステージ4(爆発的感染拡大)相当の対策が必要な段階と指摘。首都圏の感染が沈静化しなければ「全国的かつ急速なまん延のおそれもある」と危機感を示し、宣言の発令を提言した。菅義偉首相は既にその方針を表明しているが、専門家の裏付けを得た格好だ。
政府の対応は今回も、観光支援事業「GoToトラベル」の一時停止と同様に「後手」と「受け身」になったと言わざるを得ない。宣言の発令に首相は慎重だった。しかし昨年大みそかに東京都の新規感染者数が初めて1000人を超え、先の3県でも最多を更新。1都3県の知事から1月2日に発令の検討要請を受け、方針を転換した。
特措法の改正でも同じだ。全国知事会は昨春、休業要請などの実効性を担保する法改正を提言。野党も12月初めに改正案を提出した。政府は事態収束後との考えだったが、軌道修正。給付金と罰則をセットにした改正案を検討し通常国会に提出するとして、与野党協議に入った。
今回の宣言に基づく対策として分科会は①飲食店の営業時間短縮の前倒しや要請の徹底②不要不急の外出・移動の自粛、テレワークの徹底、イベントの開催要件の強化──などを挙げる。前回の教訓として分科会の尾身茂会長は12月25日の記者会見で、事業者に要請を守ってもらうにはしっかりしたインセンティブが必要との認識を示した。
また新型コロナ感染拡大に関連した解雇や雇い止めは昨年、累計で8万人近くに上る。
首相は1月4日の会見で、感染を減少に転じさせるには「国、自治体、国民が同じ方向に向かって行動することが大事だ」と語った。それには、時短営業に応じた飲食店への協力金を含め十分な対策を先手先手で実施することが重要である。
一環として政府は、農畜産物の需給や価格、農業経営への影響を注視し、必要なら対策を拡充すべきだ。昨年4~5月の宣言下では、飲食店をはじめ業務需要が落ち込み、和牛枝肉や切り花などの価格が下落。宣言解除以降は持ち直してきた。しかし忘年会や新年会の自粛、時短営業が行われ、また今回は宣言の対象地域と対策が限定的とはいえ、1都3県は日本の人口の約3割を占める大消費地だ。影響が懸念される。
他の道府県も感染防止対策の徹底が必要だ。前回は当初、7都府県に宣言を発令したが、感染拡大が止まらず全国に拡大した。その轍(てつ)を踏んではならない。
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2021年01月07日