農業自由化 再考の時 食料安保確立が急務 日本金融財政研究所所長 菊地英博

菊地英博氏

 米大統領選挙で民主党のジョー・バイデン氏の当選が確定しており、同盟国である日本では新政権の政策が注目されている。
 

対日戦略の変遷


 冷戦終了後の米国の対日戦略を見ると、民主党のクリントン大統領は1993年の日本の宮沢喜一首相との合意で日本に対日年次要望書を毎年送り、金融自由化をはじめ具体的な規制緩和を実現させてきた。2001年からの共和党の子ブッシュ大統領の時には、クリントンと同じ新自由主義理念による改革要望であったが「小泉構造改革」として具体化し、特に小さい政府として浸透している。

 農業分野を見ると、09年からの民主党のオバマ大統領は日本に環太平洋連携協定(TPP)への加盟を要請してきた。12年12月の衆院選挙で自民党の安倍晋三総裁はTPP加盟反対を掲げて政権に復帰したにもかかわらず、首相に就任すると選挙公約をほごにしてTPP加盟交渉を進め、さらに在日米国商工会議から政府宛ての要望書を基にして農協法の改正を進め、自民党の農政責任者ですら初耳だった内容が政府案に盛られていたといわれている。
 

農協法やり玉に


 論点となった米国からの要望は、①JA全中を廃止し監査部門を分離すること②農協の金融部門と経済部門を分離し、金融部門は金融庁の監督下に置くこと──であり、この狙いは農協組織を自由化し、金融部門を独立させて農協マネーの対外流失を促進することであった。特に米国の意見は「農協マネーは準会員(農業専業者でない会員)のマネーが全体の50%以下でなければならないのに50%超の農協があるのは規定違反だ」という点であった。

 しかし、農協の採算は農業部門の赤字を共済事業と金融部門の黒字で補っており、金融部門が分離されると経済事業は成り立たない。これは農業王国である米国やフランスでも同じである。そこで15年2月9日に政府・与党とJA全中は、①全中の農協法への建議事項を廃止し、傘下の農協に対する監査機能を別会社に移す②JAバンクやJA共済などの金融事業に占める准組合員の取り扱いを5年間保留することで合意し、改正農協法が成立した。

 今年は農協法改正から5年経過するため、保留となっている金融問題が表面化するであろう。さらに民主党政権になるとカリフォルニア州産の米やウィスコンシン州などの酪農製品の輸入依頼が強まるであろう。しかし日本は米国の政権に左右されることなく、農業保護を主張すべきである。

 新型コロナウイルスの教訓は国民生活に必要な生活必需品は国内で生産すべきだということだ。その最たるものが農業であり、主要国の中で食料自給率がカロリーベースで38%と最も低く、備蓄量も少ない日本は、安易な農業自由化を見直し、健全な保護主義を採るべきでないか。

きくち・ひでひろ 1936年生まれ、東京大学教養学部卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)を経て95年から文京女子大学(現文京学院大学)・同大学院教授。2007年から現職、金融庁参与など歴任。近著『新自由主義の自滅』(文春新書、15年)、『米中密約“日本封じ込め”の正体』(ダイヤモンド社、20年)
 

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