農畜産物トレンド 変化に対応 業界連携で
2021年01月15日
日本農業新聞の2021年「農畜産物トレンド調査」がまとまった。販売キーワードの1位は「コロナ対応」。新型コロナウイルス感染の終息が見通せない中で、国産回帰の潮流が確認された。難局を乗り切るには産地だけでなく、川中、川下との連携が重要だ。関係業界が一丸で消費動向の変化に対応すべきだ。
トレンド調査は、米、野菜、果実、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施した。全国のスーパー、生協、外食、卸売業者などの販売担当者を対象とし、140社から回答を得た。毎年行い、今年で14回目。
今回の特徴は、コロナ関連のキーワードに注目が集まった点だ。「ネット取引・宅配」やコロナ不況を受け「値ごろ感(節約志向)」が上位にランクインした。「ネット取引・宅配」はこれまでも関心項目だったが、外出自粛や人との接触を控えたい消費動向の強まりで、コロナ下での販売手法として欠かせないものになっている。
部門別に見ると、トレンドのキーワードは多彩だ。野菜は「栄養価」。健康志向を受け、栄養価が高いとして知られるブロッコリーやニンジンといった品目に注目が集まった。野菜はそれぞれの品目で特徴的な機能性がある。研究機関などと連携し、販売戦略に生かしたい。
果実は「ギフト需要」と「地域性」。専門家は「果実は県独自ブランドが豊富で地域性を打ち出しやすい。特色ある果実で旅行気分を味わってもらうなど、付加価値型で地域の魅力を丸ごと売り込む視点が重要」と指摘する。
需給緩和が懸念される米は、パックご飯とインターネット販売が、消費拡大の手法として注目度が高い。米は炊飯や持ち帰りの負担といった課題がある。簡便性に対応した商品づくりが重要だ。食肉は、節約志向を受けて値ごろ感が求められる。牛乳・乳製品は家庭用が堅調で、大容量に勝機がある。花きは業務需要が伸び悩む中、業務用と家庭用の両方の用途に使える商材に注目が集まる。
農畜産物の一つの品目で、さまざまなキーワードを全て満たすのは難しい。産地は自らの農畜産物の特徴をつかみ、どのキーワードで産地づくりに取り組むか考える必要がある。例えば野菜。「ネット取引・宅配」ならばeコマース(電子商取引)に産地が挑戦したり、宅配業者との連携を強化したりすることなどが想定される。「健康(機能性)」なら機能性成分の高い品種の産地化や機能性表示制度を活用した販売もよい。「値ごろ感(節約志向)」に対応し、多収や低コストの産地づくりを目指すのも選択肢となる。
販売キーワードの「国産志向」(14%)「地産地消」(10%)「産地との直接取引」(8%)からは、国産を見直す動きが読み取れる。コロナ終息後も見据えて産地は、取引先などと連携して消費者や実需者のニーズに対応する体制を構築しよう。
トレンド調査は、米、野菜、果実、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施した。全国のスーパー、生協、外食、卸売業者などの販売担当者を対象とし、140社から回答を得た。毎年行い、今年で14回目。
今回の特徴は、コロナ関連のキーワードに注目が集まった点だ。「ネット取引・宅配」やコロナ不況を受け「値ごろ感(節約志向)」が上位にランクインした。「ネット取引・宅配」はこれまでも関心項目だったが、外出自粛や人との接触を控えたい消費動向の強まりで、コロナ下での販売手法として欠かせないものになっている。
部門別に見ると、トレンドのキーワードは多彩だ。野菜は「栄養価」。健康志向を受け、栄養価が高いとして知られるブロッコリーやニンジンといった品目に注目が集まった。野菜はそれぞれの品目で特徴的な機能性がある。研究機関などと連携し、販売戦略に生かしたい。
果実は「ギフト需要」と「地域性」。専門家は「果実は県独自ブランドが豊富で地域性を打ち出しやすい。特色ある果実で旅行気分を味わってもらうなど、付加価値型で地域の魅力を丸ごと売り込む視点が重要」と指摘する。
需給緩和が懸念される米は、パックご飯とインターネット販売が、消費拡大の手法として注目度が高い。米は炊飯や持ち帰りの負担といった課題がある。簡便性に対応した商品づくりが重要だ。食肉は、節約志向を受けて値ごろ感が求められる。牛乳・乳製品は家庭用が堅調で、大容量に勝機がある。花きは業務需要が伸び悩む中、業務用と家庭用の両方の用途に使える商材に注目が集まる。
農畜産物の一つの品目で、さまざまなキーワードを全て満たすのは難しい。産地は自らの農畜産物の特徴をつかみ、どのキーワードで産地づくりに取り組むか考える必要がある。例えば野菜。「ネット取引・宅配」ならばeコマース(電子商取引)に産地が挑戦したり、宅配業者との連携を強化したりすることなどが想定される。「健康(機能性)」なら機能性成分の高い品種の産地化や機能性表示制度を活用した販売もよい。「値ごろ感(節約志向)」に対応し、多収や低コストの産地づくりを目指すのも選択肢となる。
販売キーワードの「国産志向」(14%)「地産地消」(10%)「産地との直接取引」(8%)からは、国産を見直す動きが読み取れる。コロナ終息後も見据えて産地は、取引先などと連携して消費者や実需者のニーズに対応する体制を構築しよう。
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2021年03月05日
21年産米需給対策 15県が「連携型」活用 飼料用米対象が中心 農水省まとめ
2021年産米の需給安定に向け、都道府県と同額を国が上乗せ助成する措置を活用し、15県が独自の転作支援策を実施する方針であることが農水省のまとめで分かった。新潟、東北地方など、20年産の主食用米の作付面積が大きい上位10道県のうち7県を含み、飼料用米による転作拡大を助成対象とする県が多い。
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2021年03月02日
[新型コロナ] 4都県の緊急事態宣言再延長 落胆… でも感染心配
新型コロナウイルスの感染対策として4都県に出されていた緊急事態宣言が、再延長される。経済活動の自粛・縮小で影響を受けてきた花生産者や観光農園は解除を期待していただけに、落胆の色を隠せない。一方で、東京都などの新規感染者数の下げ止まりで「延期はやむを得ない」との声も上がる。
千葉県県花き園芸組合連合会会長の朝生尅巳さん(84)は「解除になることを心待ちにしていた。残念だ」と肩を落とす。
自らも千葉県君津市のハウス2棟でカラーを生産しており「花は、卒業式や入学式、歓送迎会など今が一番の需要期だから、早く解除になってもらいたい」と早期の解除を願う。ただ「名目だけ解除となって、(感染拡大などで)後から苦しむようでは仕方がない。早く安全な時が来てほしい」と憂慮する。
埼玉県三郷市でイチゴ狩り園や農家カフェを経営する農家は「緊急事態宣言下では、1日30~40人いたイチゴ狩りの客を半分程度にした。早く解除してほしい」と話す。宣言延長については「コロナ対策も大事。仕方ないことだと思っている」。
農家カフェでは感染防止対策を徹底。そのかいあって「感染対策をしっかりしている店だと口コミで広がり、来てくれる人もいる」という。「しっかりとした対策がないまま宣言が解除されることで、お客さんが密集して感染が発生してしまうことが正直言って一番怖い」とこぼす。
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2021年03月06日
国産消費拡大運動 価値伝え応援団拡大を
農水省は来年度から、国産農産物の消費拡大を目指し新たな国民運動を始める。国産応援団の裾野を広げるため、農業・農村の価値と魅力を官民挙げて発信する。新型コロナウイルス禍で農業者は苦境にある。国産を選ぶことが食料安全保障の確立に貢献するとの理解を、速やかに浸透させるべきだ。
政府が昨年改定した食料・農業・農村基本計画は、食と農への理解を深める国民運動を、食料自給率の向上、輸出5兆円目標の達成と並ぶ主要な柱に位置付けている。
国内農業は生産基盤が弱体化する一方で食料需要が地球規模で増え、食料の安定供給へのリスクが高まっている。同省は、こうした現状を国民全体で広く共有し、消費者が国産を積極的に選ぶ機運を高めたい考えだ。2021年度政府予算案には、農家の奮闘する姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信したり、世代を問わず消費者との距離を縮める交流イベントを開催したりする事業を盛り込んでいる。
国民運動は、顕彰制度などを通じて地域内の農産品を掘り起こし、消費を呼び掛けるこれまでの取り組みから転換、農産物に込めた思いや創意工夫への理解を促し、食や環境、地域に貢献する農業の意義を実感してもらうことが主眼にある。
加えて、現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」も含め、農業の多面的機能への理解も広げる。野上浩太郎農相も国会で「国内農業の重要性・持続性を確保するため、国民の各層がしっかり認識を共有していくことが重要だ」と述べ、実践に強い意欲を示した。
しかし新型コロナの感染拡大で、基本計画で想定した消費拡大のシナリオと現実が懸け離れた。東京五輪・パラリンピックをはじめとしたイベントやインバウンド(訪日外国人)を当て込んだ市場は消滅した。2度の緊急事態宣言による外出自粛、外食業者の時短営業も重なって業務用需要が減少。集客を伴う交流イベントも開けないなど、食と農の接点を増やす多くの機会が失われた。「巣ごもり」での家庭用需要の拡大とは裏腹に、安定供給が求められる外食向けなどの業務用産地は窮地に立たされている。
政府は輸出を加速させるため産地や品目の選定を進めているが、足元の国内需給がおぼつかない状況では、基本計画の実践は片翼飛行になりかねない。
コロナ禍が収束しなければ、交流を伴う国民運動関連の事業の実効性をどう確保するかが課題になる。一方、海外では、食料の輸出規制や食肉工場の操業停止、物流の混乱などが生じ、食料安保への国民の関心が高まった。国内では、買い急ぐ必要がないほど国産の安定的な供給が続き、国内農業の重要性が改めて認識された。需要が減った農産物を買い支える「応援消費」も活発だ。こうした動きを生かした取り組みが求められる。
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2021年03月01日

[震災10年 復興の先へ] 「戻らない」5割 避難先での生活定着 復興庁など 福島県4町住民意向調査
東京電力福島第1原子力発電所事故の影響を受ける双葉、大熊、富岡、浪江4町の住民のうち、避難先から「戻らない」と考える人が5割を占めることが復興庁などの2020年度調査で分かった。19年度と比べて4町とも帰還した住民は増えているが、戻らない人の割合の方が依然高い。既に避難先での生活が定着し、帰還しにくい人が多いことが背景にある。
「戻らない」の割合を町別にみると、双葉町が62・1%、大熊町が59・5%、富岡町が48・9%、浪江町が54・5%。いずれも19年度調査とほぼ同じ水準のまま変わっていない。
帰還しない理由は、富岡町では「既に生活基盤ができている」が最多の60・1%。大熊、浪江各町も同様に最多だった。双葉町も「避難先で自宅を購入し、今後も住む予定」がトップだった。避難生活が長期化する中、仕事が定着したり、友人が増えたりしたことで、元の町に戻るのを見合わせるケースは多い。
一方、4町とも帰還するかどうか「まだ判断がつかない」が2割程度いた。帰還を判断するのに必要な条件として多く挙がったのが医療・介護施設の確保。「医療・介護の復旧時期のめど」が最多の56・8%だった浪江町を含め、各町とも同様の回答がトップだった。
避難指示が一部解除された大熊、富岡、浪江各町は、いずれも10%未満ながら「戻っている」との回答があった。最も高かったのは富岡町の9・2%で、前年度から1・7ポイント増えた。各町とも19年度を上回った。
帰還を決めた理由は「(帰還先の)生活は気持ちが安らぐ」が多く、浪江町は68・8%、富岡町は52・4%だった。大熊町は「役場機能が再開した」が最多の43・5%。故郷を思う気持ちに加えて、行政機関が機能していることが帰還の動機になっている。
今回の調査は4町に加えて、川俣町山木屋地区も対象。「戻っている」との回答は37・8%で、19年度調査と同様に一定数が帰還している。避難指示区域が解除されていることも影響しているとみられる。
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2021年03月03日
論説の新着記事
オンライン研修 集合型と使い分けよう
新型コロナウイルス禍で変化したものの一つに、オンライン動画の職場利用がある。中でも注目されているのが、従業員の研修や情報共有への活用だ。効果や利便性の高さから新型コロナ終息後も普及が進むと考えられる。JAでも一部で利用が始まったが、もっと広げたい。
オンライン会議にようやく慣れたというJA職員も少なくないだろう。しかし、世の中はもっと先を進んでいる。オンラインの利用は農産物のトップセールス、商談会、交流会、セミナー、産地紹介・視察など多岐にわたり、実際のイベントを再現する試みが行われている。
中でも代替という位置付けではなく、情報通信技術(ICT)を駆使した新たな選択肢として企業などが導入を進めるのが、従業員の研修やナレッジ(知識)共有でのオンライン動画の利用である。理念教育よりも専門知識やノウハウの習得といった実務型研修に適している。
例えば、岐阜県のJAぎふは昨年10月から職員教育に動画配信を導入した。ホームページの職員専用ページにアクセスして視聴できる。金融、共済、税金などの専門知識や事業推進の留意事項などを説明する動画を各部署が制作する。神奈川県のJA横浜は育児休暇中の女性職員の職場復帰を応援する集合研修をこれまで子ども同伴で行ってきたが、コロナ禍を受けてオンライン形式に切り替えた。同県のJAさがみは事業推進大会の代わりに動画配信で事業計画やコンプライアンス(法令順守)を周知した。
オンライン研修はリアルタイムで行うものの他に、例えばユーチューブチャンネルを利用して、何回でも映像を再生できるタイプのものもある。この仕組みを使えば、「いつでも」「どこからでも」「何度でも」視聴できる。JAぎふはこのタイプだが、分かりづらいところは何度でも確認できるので、習熟効果は高いとみる。
メリットはそれだけではない。広域JAや1県1JAでは研修会場までが遠くて移動に時間がかかる、業務に忙しくて一日通しの研修に出るのは無理といった悩みも改善できる。研修への参加に消極的な職員に受講を促すことにも役立つ。
もちろん集合研修には、講師と対面することで刺激を受けやすいことや、参加する職員同士の交流、相互啓発といった良さがあり、必要性を否定するものではない。どちらか一方の選択ではなく、研修目的に合わせて使い分けていくのがよい。
職員の情報共有に動画を使う手法も新しいやり方だ。例えば企業では、新商品や新規サービスなどの従業員説明を補完するツールとして利用される。一定の期間を設けて自分の都合に合わせて映像学習ができる。受講者の確認や感想アンケート、習熟度テストのサービスもある。
JAグループ内での先行的な取り組みを積極的に情報共有し、横展開したいものである。
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2021年03月06日
コロナと食料安保 感染症リスクに備えよ
国際的な穀物需給に異変が生じている。中国の「爆買い」などで価格が上昇。新型コロナウイルス禍で生産・供給体制が不安定化していることも食料争奪に拍車を掛ける。人口増、気候変動に加え、感染症リスクに備え、わが国の食料安全保障政策を抜本的に強化すべきだ。
コロナ禍は、医療体制だけでなく食や農の分野にも深刻な影を落とし始めている。
新型コロナワクチンの世界的な争奪が過熱。先進国中心の供給で国連主導の公平な分配が機能せず、世界保健機関(WHO)は「ワクチン・ナショナリズム」に警鐘を鳴らす。
貧富の差が「命の格差」につながるように、食料もまた同様の危機に直面している。国連食糧農業機関(FAO)は、世界的な食料供給システムが新型コロナの脅威にさらされていると危機感を強める。新型コロナの流行前でさえ約6億9000万人もいた飢餓人口が、コロナ禍によってさらに1億3000万人も増えかねないと警告する。
事実、コロナ禍の中、一部の国は輸出規制に走り、感染拡大で生産・物流が滞る事態も起きた。グローバルなフードサプライチェーン(供給網)のもろさを突きつけた。生産基盤が弱体化し、海外への食料依存度の高い日本も無縁ではない。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表も医療危機の次に食料危機が訪れるのではと危惧する。日本農業新聞の「論点」(3月1日付)で同氏はコロナがあぶり出した日本の医療の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘し、同じことが食と農の分野でも起こりかねないと警告。国際穀物価格は年明け以降、一段と騰勢を強める。供給・在庫は潤沢にあるにもかかわらず異例の高騰を続ける背景には、中国の「爆買い」があるという。その中国は、コロナ禍や米中貿易摩擦を念頭に食料安全保障の強化を今年の最重要課題に掲げる。
ただでさえ、気候変動や人口増、生産基盤の劣化などの危機に直面している時、コロナ禍と食料ナショナリズムが結び付けば、国際的な食料リスクは一段と高まるだろう。
食料安全保障の要諦は、国内農業生産の強化を第一に、輸入、備蓄を組み合わせ、不測の事態でも国民が必要とする食料を安定的に届けることに尽きる。
農水省は1月、緊急事態食料安全保障指針の一部を改正し、新型コロナなど感染症リスクへの対応強化を盛り込んだ。また政府は、こうした新たな事態を踏まえ、6月までに食料安全保障施策の強化策を策定することにしており、同省は有識者による議論を始めた。
そこで大事なのは、危うい食と農の現状を包み隠さず情報提供し、各界各層を巻き込んだ国民的な議論の場を設けることだ。食料安全保障への関心が高まっている今こそ、1人1人が「自分ごと」として、農業と食卓、日本と世界の関係の在り方を考える好機にしたい。
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2021年03月05日
米の転作深掘り 飼料柱に官民で強化を
2021年産主食用米はこのままでは過剰作付けになりかねない。相対取引価格(消費税・包装代を除く)が、60キロ平均1万1000円程度となった14年産水準に下落することも懸念されている。農家の経営安定には飼料用などへの転換が求められる。生産の目安の深掘りが必要で、行政の指導力発揮が不可欠だ。
主食用米に過剰感があり、需給均衡には、20年産が作況100だった場合と比べ21年産は生産量で36万トン、作付面積で6・7万ヘクタール、割合でともに5%の減産が必要と農水省は見通す。過去最大規模の転作拡大となる。
しかし、JA全中のまとめでは、各県の生産の目安を合計すると減産は約20万トンにとどまる。また、同省がまとめた作付け意向では28都道府県が前年並みの傾向で、一層の転作推進が必須だ。県によっては目安の削減や、目安よりも生産を減らす深掘りも必要だといえる。
一方、20年産の相対取引価格(同)は19年産を毎月下回り、下げ幅も拡大。1月は60キロ1万3600円強で6%安だった。前回の米価下落が始まった13年産よりも低い価格で推移している。前回は13、14年産の2年間で同約4600円と大幅に下がった。繰り返さないためには、種もみや作付けの準備が始まる中で、非主食用米への転換が現実的であろう。用途別の需給状況を見ると飼料用が柱になる。
主食用米の過剰作付けは農家の経営に二重の損失を与える。生産過剰になれば米価が下落、それに見合うほど需要が増えなければ所得が減る。助成金を含め、作付け転換していれば得られたであろう所得もない。
作付け転換は個別農家の経営判断の問題というだけはない。地域の水田農業全体から得られる所得を増やすには、団地化によるコスト削減など産地ぐるみでの計画的対応が必要だ。課題は、JA以外に出荷する農家や集荷業者への推進である。JAグループの集荷率は4割程度だからだ。2月26日の自民党農業基本政策検討委員会では、行政に対応を求める意見が出た。
野上浩太郎農相は同日の記者会見で「都道府県がイニシアチブを発揮して、産地や農家・生産法人など全ての関係者が一丸となって、(6月末が期限の)営農計画の検討を進めてほしい」と訴えた。「産地の後押しをしていく」との決意も表明した。地方組織を含め同省にも、地方行政と共に、集荷業者・団体や大規模農業法人などへの一層強力な働き掛けを求める。
また転作拡大面積に対し国が県と同額(上限10アール5000円)を助成する支援策に、15県(2月22日現在)が取り組む方針だ。他県も活用してほしい。議会の影響力にも期待したい。
農家の所得減少は地域経済も冷やしかねない。主食用米と、助成金を合わせた転作作物の手取りの見通しなど経営判断に役立つ情報も提供しながら、作付け転換への農家の理解を得る官民挙げた取り組みが重要だ。
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2021年03月04日
コロナと田園回帰 共生できる環境整備を
新型コロナウイルス禍で田園回帰への関心が高まっている。政府や自治体などは農山村への人の流れを加速させようと懸命だ。しかし、人口を増やすことだけが目的だと一過性に終わりかねない。移住者と住民が互いに共生できる地域づくりが欠かせない。
都市は「3密」になりやすく、新型コロナの感染リスクが高い。このため人口密度の低い農山村の価値が見直され、東京一極集中に是正の兆しもみられる。人口移動に関する総務省の統計では、東京都から出て行く転出者は2020年が40万人を超え、前年より4・7%増えた。比較可能な14年以降で最多だ。一方、東京都への転入者は43万人で同7・3%減った。
この流れを「ビックウエーブ」と歓迎する声もあるが、疑問だ。北海道のある自治体の移住担当者は「都市からの一時避難として移住する人を増やしても、地域にとって意味がないのではないか」と冷静に捉える。
テレワークが普及し、都市に住んでいた時と同じ仕事をしながら住居だけを変える「引っ越し感覚」の移住では、地域とあまり関わらないままになる可能性がある。農的な暮らしがしたいなど、希望を持って移住してくる人の受け入れ態勢をどうつくるかが重要である。
参考になるのが、酪農ヘルパーの労働環境改善に向けた北海道での取り組みだ。酪農家の休暇や冠婚葬祭時などに欠かせず、道外からの移住者らが担い手になっている。多くの酪農家には従来、作業員や労働力としての捉え方が強かったという。
一方、インターンシップの受け入れができなかったことなどで酪農ヘルパーの希望者が減少。北海道酪農ヘルパー事業推進協議会(事務局=JA北海道中央会)は、道全域の組合で、就業規則の整備率100%を目指し運動を始めた。地域によっては、酪農ヘルパーをしながら他の仕事もする「半酪農ヘルパー半X」も活躍している。
道東の酪農家は「労働環境を改善し、酪農ヘルパーが生き生きと地域で暮らすことで、他の人もこの地域に関心を持ち、地域全体に良い影響をもたらす」と期待する。
北海道では、酪農ヘルパーだけでなく、新規就農者に加え、学生や地域おこし協力隊、他に仕事を持っている人、1日契約など週末だけ農業でアルバイトをする主婦ら、多様な人が農業への関心を高めている。農家や産地も専業農家の確保・育成だけでなく、そうした人たちを大切にし、受け入れようとの意識に変わってきている。
しかし農業の労働環境の整備・改善や、ライフスタイルや価値観が多様な人たちの受け皿づくりは一朝一夕にはできない。農家や産地、地域の取り組みが必要だ。一方で「引っ越し感覚」で移住して来た人に、地域社会の一員としての意識と関わりを持ってもらう取り組みも求められる。
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2021年03月03日
営農アイデア大賞 農家の知恵共有しよう
優れた技術を生み出した農家を表彰する日本農業新聞の「営農技術アイデア大賞2020」の受賞者が決まった。審査では、生産現場の課題を自ら解消しようと努力した農家の知恵を高く評価した。幅広く共有し、それぞれの営農に取り入れたり、創意工夫のヒントにしたりして経営改善につなげよう。
アイデア大賞は9回目になる。昨年1年間に本紙に掲載した記事を基に、農家が考案した技術を専門家らが審査した。アイデアの独創性とともに、省力性、低コスト化、商品性の向上、取り組みやすさなど経営への貢献度合いを検討した。
大賞には育苗箱運搬器具「はこらく」を開発した黒壁聡さんを選んだ。北海道新篠津村で水稲などを栽培する。自作の金属の枠で、重ねた育苗箱を両脇から挟み、取っ手を握ると3、4枚まとめて運ぶことができる。
審査で高く評価されたのは、米作りで機械化できていない作業の労力を軽減したことだ。大規模化が進む水稲栽培では、わずかな作業でも積み重なると重労働になる。育苗箱への種まきは機械でできるが、入れた土が水を含んで重くなった箱を何千枚も運ぶのはつらい。
ちょっとした現場のストレスを解消しようとする農家ならではの視点も魅力に挙がった。「はこらく」を使えば手が汚れず素手で作業できるため、育苗箱を重ねる際に手袋が挟まることや、手袋を着脱する手間がなくなった。2万円以下の手頃な価格で販売している。
優秀賞の3点には、近年の農業の課題に対応する技術が選ばれた。鹿児島県出水市の松永幸昭さんは、水稲の苗を食害するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)を捕まえる簡易わなを考案。紙パックに米ぬかと酒かすを入れて水田に入れ、6時間で100匹以上捕まえた。生息域が拡大する中、期待の技術だ。
北海道本別町の楠茂政則さんは、ビニールハウスを振動させて雪を自動で下ろすシステムを構築。高齢化で危険が高まる雪下ろしの作業軽減につながる。
新潟県燕市の農業法人・アグリシップは、梨花粉を混ぜた液体をドローン(小型無人飛行機)で散布し、人工授粉を省力化した。10アールを1分程度でできる。慣行の手作業では4人で1日かかる仕事で、人手不足に対応するのが狙いだ。
アイデア大賞は次回で10回目。21年の記事で紹介する技術が対象となる。できるだけ多く集めたい。情報提供もお願いしたい。これまで受賞した技術のその後の成果や展開、広がりを伝えることも計画している。
自らの創意工夫で技術の改善に取り組む農家同士がつながることも大切である。人手不足など、今回受賞した技術が解決を目指した課題は、日本の農業に共通している。アイデアを交換したり知恵を出し合ったりすることで、技術の底上げや、新たな発想による画期的な技術の誕生が期待される。
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2021年03月02日
国産消費拡大運動 価値伝え応援団拡大を
農水省は来年度から、国産農産物の消費拡大を目指し新たな国民運動を始める。国産応援団の裾野を広げるため、農業・農村の価値と魅力を官民挙げて発信する。新型コロナウイルス禍で農業者は苦境にある。国産を選ぶことが食料安全保障の確立に貢献するとの理解を、速やかに浸透させるべきだ。
政府が昨年改定した食料・農業・農村基本計画は、食と農への理解を深める国民運動を、食料自給率の向上、輸出5兆円目標の達成と並ぶ主要な柱に位置付けている。
国内農業は生産基盤が弱体化する一方で食料需要が地球規模で増え、食料の安定供給へのリスクが高まっている。同省は、こうした現状を国民全体で広く共有し、消費者が国産を積極的に選ぶ機運を高めたい考えだ。2021年度政府予算案には、農家の奮闘する姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信したり、世代を問わず消費者との距離を縮める交流イベントを開催したりする事業を盛り込んでいる。
国民運動は、顕彰制度などを通じて地域内の農産品を掘り起こし、消費を呼び掛けるこれまでの取り組みから転換、農産物に込めた思いや創意工夫への理解を促し、食や環境、地域に貢献する農業の意義を実感してもらうことが主眼にある。
加えて、現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」も含め、農業の多面的機能への理解も広げる。野上浩太郎農相も国会で「国内農業の重要性・持続性を確保するため、国民の各層がしっかり認識を共有していくことが重要だ」と述べ、実践に強い意欲を示した。
しかし新型コロナの感染拡大で、基本計画で想定した消費拡大のシナリオと現実が懸け離れた。東京五輪・パラリンピックをはじめとしたイベントやインバウンド(訪日外国人)を当て込んだ市場は消滅した。2度の緊急事態宣言による外出自粛、外食業者の時短営業も重なって業務用需要が減少。集客を伴う交流イベントも開けないなど、食と農の接点を増やす多くの機会が失われた。「巣ごもり」での家庭用需要の拡大とは裏腹に、安定供給が求められる外食向けなどの業務用産地は窮地に立たされている。
政府は輸出を加速させるため産地や品目の選定を進めているが、足元の国内需給がおぼつかない状況では、基本計画の実践は片翼飛行になりかねない。
コロナ禍が収束しなければ、交流を伴う国民運動関連の事業の実効性をどう確保するかが課題になる。一方、海外では、食料の輸出規制や食肉工場の操業停止、物流の混乱などが生じ、食料安保への国民の関心が高まった。国内では、買い急ぐ必要がないほど国産の安定的な供給が続き、国内農業の重要性が改めて認識された。需要が減った農産物を買い支える「応援消費」も活発だ。こうした動きを生かした取り組みが求められる。
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2021年03月01日
臨時の主治医 保健所支援策の参考に
新型コロナウイルスの流行が続く中、JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の医師が全国唯一の取り組みで奮闘している。感染して自宅などで療養している子どもを保健所に代わって電話で診察。患者の不安を取り除くとともに多忙な保健所職員を支えるのが狙いだ。全国の医療関係者も参考にしてほしい。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、新型コロナの患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し、労働時間が過労死ラインを超える保健所職員が目立つ。
こうした中、電話診察に当たっているのは小児科診療部長の田中敏博医師(53)。同病院が協力する静岡市保健所は、コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康を観察。1人につき確認事項が10項目以上ある。対応している保健師は数人で、一人一人に丁寧に向き合うのは難しいという。
きっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症で、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。日本小児科学会の考えに準じた。自宅療養だと主治医と相談しにくくなる。子どもの不安を払拭(ふっしょく)するために田中医師は「電話などで対応できる臨時の主治医が必要だ」と提案し、自ら診察を買って出た。
昨年10月、診察を本格的に開始。2月17日までに、濃厚接触者を含む15歳以下の55人と、保護者ら52人を診察した。診察時間は朝夕の1日2回。直接対面で初診した後、療養する自宅などに連絡し、体温、心拍数、病状などを確認し、悩みなども聞く。田中医師は「全国に広まればうれしい」と話す。
同病院は「病院としてこの動きを応援したい」(桑原吉英事務長)考え。JA全厚連も「田中医師の取り組みは保健所を支援するとともに、地域と厚生連病院の関係を深めることにつながっている」とし、注目する。
同保健所や田中医師には、県外の自治体などから問い合わせがある。また同市の開業医らでつくる静岡市静岡医師会がこの取り組みに賛同。臨時で主治医を引き受ける方向で市と協議している。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が協力すれば保健所の全国的な業務軽減につながるとの指摘もある。
ただ、この取り組みは、院内の医療スタッフや事務職員の協力が前提だ。新型コロナの流行で医療現場も逼迫している。自宅などで療養する患者に安心感を与えながら、保健所の業務をどう軽減するか。地域の実情にあった対応が求められよう。
保健所の業務の逼迫は、行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが一因。保健所数は現在469カ所で、ピーク時の約半分に減った。「減らし過ぎた人員を増やすなどして、保健所の感染症への対応力を高めなければならない」(尾島教授)と言える。
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2021年02月28日
特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
警察庁のまとめでは、2020年の特殊詐欺の全国の認知件数は1万3526件で前年より20%減、被害額は277・8億円で同12%減だった。ただし同庁によると、高齢者を中心に被害が高い水準で発生。また、1件当たりの被害額は214・8万円で同9%増と高額になっており、依然深刻な状況だ。
金融機関ではさまざまな対策を取っており、JAも同様だ。地元警察と連携した注意の呼び掛けでは、地域住民らの関心を高めるために、ちらしなどと一緒に特産品を渡したり、青年組織や女性組織と協力してマスクなどの小物を配ったりするなど工夫を凝らした取り組みも盛んだ。また金融担当職員の研修を行い、それを生かして実際に被害を防ぎ、警察から感謝状を贈られた職員も多い。
しかし詐欺の手口はその時の社会情勢などを反映して、変化している。同庁によると、昨年は「新型コロナウイルス感染症関連の給付金がある」と偽り、通帳などを受け取るなどコロナ関連の特殊詐欺が55件発生。うち2件は未遂に終わったが、53件で約1億円の被害が出た。
金融窓口を通さない手法や、職員が気付きにくい金額をだまし取ろうとする事例もあった。
島根県のJAしまねでは、子会社が運営するコンビニの店長が架空請求詐欺を防いだ。来店した高齢者が、身に覚えのない請求があり20万円分のプリペイドカードを買って支払うよう言われたと話したことで詐欺の疑いが浮上。警察に通報した。機器の操作に戸惑っていたため声を掛けたことがきっかけだった。
三重県のJAみえきたでは、12万円を出金しようした高齢者が窓口での雑談中に支払い請求のはがきが届いたことを話題にしたことから、職員が詐欺を疑い被害を防いだ。本人確認が必要な金額ではなく、別の通信販売の支払いを抱えていたため、本人は詐欺と気付かなかった。
いずれも、JAが職員らに研修を受けさせるなどして、日頃から対策を取っていたことが奏功した。JAでは、詐欺防止の研修は日常的になっている。しかし金融窓口以外を利用したり、支払わせる金額を少なくしたりするなど、詐欺グループは新たな手口を使ってくる。詐欺を防いだ事例では、来店者の困った様子や普段と違った行動、ちょっとした会話などから詐欺を疑っており、組合員・利用者と職員の日頃からの関係や、研修を基にした気付きが大きい。
JAの職員らは、特殊詐欺を防ぐ「最後のとりで」である。技能を磨き、地域の安全・安心に一層貢献してほしい。
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2021年02月27日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日