厄介者「カヤの実」 ナッツ、食用油 人気加工品に 伐採「待った」 奈良県曽爾村
2021年01月22日

カヤの実を使って開発したナッツや油などの商品(奈良県曽爾村で)
奈良県曽爾村は、村に群生するカヤの実を資源として見直し、地域活性化につなげる。ナッツや食用油など全国から注文が集まる加工品を相次いで開発。実の回収や加工で村に新たな仕事を生み出し、食べ方などの伝承を通して村民の交流も促す。かつて道を油だらけにしていた厄介者の実を、地域振興の“潤滑油”として生まれ変わらせた。
「いってカリカリのおやつにして食べるのが、子どもの時は大好きだった」。70アールでユズやホウレンソウなどを栽培する同村の井上治子さん(80)は、自宅すぐ近くのカヤの実を拾いながらこう振り返る。
カヤは秋に緑色の楕円(だえん)形の実をつける常緑針葉樹で、現在、村内に40~50本が群生。実から油を搾ったり、いって食べたりしていたが、食文化が変化するにつれ、実を拾わなくなった。カヤは道に落ちている実を車がひくと油で滑りやすくなることや、材木が将棋盤などの高級材として利用できることから、全国的に伐採が進行。村でも伐採されようとしていた。
そんな厄介者に着目し、伐採に待ったをかけたのが村農林業公社だ。2017年から実を集め始め、外皮の爽やかなかんきつ系の香りを生かした芳香蒸留水を開発。その後も「和製アーモンド」と呼ばれる香ばしさが特徴の焙煎(ばいせん)したローストナッツや食用油などを商品化した。
村によると、カヤの実の商品開発は全国でも珍しく、加工品製造で新たな仕事も生んだ。村民に実を集めてもらうため、18年から公社が1キロ800円で買い取り、ユズの栽培や加工を手掛ける「曽爾高原ゆず生産組合たわわ」が焙煎を担当。村内の障害者施設にもあく抜きなどを任せる。
公社では、昔からの食べ方などを伝えるワークショップも開催。井上さんら村民が講師となってカヤと村の関わりについて語り、焙煎体験などをした。公社は「農家にも農閑期などの仕事として収入にしてもらえる。地域ぐるみで取り組むことで、食に関する知恵や技も引き継いでいける」と利点を挙げる。
年により収量は異なるが、毎年20~50キロを集め、ほぼ全量を商品化。通販サイトなどで全国から注文が集まり、毎年売り切れるほどの人気だという。地域おこし協力隊員で公社のメンバーとして活躍する浅田祐子さん(27)は「自家消費が当たり前で、売るという発想が今まで村になかった。曽爾の食べ方を村外の人にも知ってもらいたい」と意気込む。
「いってカリカリのおやつにして食べるのが、子どもの時は大好きだった」。70アールでユズやホウレンソウなどを栽培する同村の井上治子さん(80)は、自宅すぐ近くのカヤの実を拾いながらこう振り返る。
カヤは秋に緑色の楕円(だえん)形の実をつける常緑針葉樹で、現在、村内に40~50本が群生。実から油を搾ったり、いって食べたりしていたが、食文化が変化するにつれ、実を拾わなくなった。カヤは道に落ちている実を車がひくと油で滑りやすくなることや、材木が将棋盤などの高級材として利用できることから、全国的に伐採が進行。村でも伐採されようとしていた。
そんな厄介者に着目し、伐採に待ったをかけたのが村農林業公社だ。2017年から実を集め始め、外皮の爽やかなかんきつ系の香りを生かした芳香蒸留水を開発。その後も「和製アーモンド」と呼ばれる香ばしさが特徴の焙煎(ばいせん)したローストナッツや食用油などを商品化した。
村によると、カヤの実の商品開発は全国でも珍しく、加工品製造で新たな仕事も生んだ。村民に実を集めてもらうため、18年から公社が1キロ800円で買い取り、ユズの栽培や加工を手掛ける「曽爾高原ゆず生産組合たわわ」が焙煎を担当。村内の障害者施設にもあく抜きなどを任せる。
公社では、昔からの食べ方などを伝えるワークショップも開催。井上さんら村民が講師となってカヤと村の関わりについて語り、焙煎体験などをした。公社は「農家にも農閑期などの仕事として収入にしてもらえる。地域ぐるみで取り組むことで、食に関する知恵や技も引き継いでいける」と利点を挙げる。
年により収量は異なるが、毎年20~50キロを集め、ほぼ全量を商品化。通販サイトなどで全国から注文が集まり、毎年売り切れるほどの人気だという。地域おこし協力隊員で公社のメンバーとして活躍する浅田祐子さん(27)は「自家消費が当たり前で、売るという発想が今まで村になかった。曽爾の食べ方を村外の人にも知ってもらいたい」と意気込む。
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地域包括ケア “JA版”の構築急ごう
介護保険制度の2021年度介護報酬改定では、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支援する地域包括ケアシステムを推進する。JAには、総合力を生かしてシステムの構築をけん引し、地域の安全と安心を守る役割を果たすことを期待したい。
20年の要介護(要支援を含む)認定者は669万人で、00年の介護保険制度創設時と比べて3倍に増加した。団塊の世代の全てが75歳以上となる“2025年問題”に向けて、制度の強化・充実は待ったなしである。しかし、社会保障財政の逼迫(ひっぱく)や、介護業界の慢性的な人手不足など課題は山積している。
20年は、新型コロナウイルスの流行による利用控えの影響から、介護サービス事業者の倒産件数が118件と過去最多となった。こうした状況を踏まえ、21年度の介護報酬は0・7%引き上げるプラス改定とし、事業者を支援する。
今回の介護報酬改定で力を入れるのが、地域包括ケアシステムの構築である。地域の中、いわゆる日常生活圏域内で、住まい、医療、介護、予防、生活支援を総合的に提供する体制をつくる。
健康なときは体操教室や老人クラブなどに参加して介護予防をし、介護が必要になったらデイサービスなど介護保険事業を利用、病気になったらかかりつけ医へ、そして退院後は訪問診療・看護を自宅で受けられるようにする。高齢者の心身の調子は変化しやすい。いつ、どんな状況になっても、住み慣れた場所で暮らせる仕組みで、安全と安心を守る。
この仕組みづくりではJAが核となり、“JA版地域包括ケアシステム”の実現を急いでほしい。厚生連から、女性部や助け合い組織を中心としたボランティア活動まで、JAはシステムを構築できる体制と人材を持っているからだ。
同システムを既に実践しているJAもある。JA山口県グループ会社のJA協同サポート山口は、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを提供するのと併せて、JAの支所を拠点とした体操教室などで地域住民の交流の場をつくる。各施設の整備には、統合で廃止となった支店を活用することでコストを抑える。また、介護保険事業で少しでも収益を出し、収益の出ない活動を支えている。JAならではの総合力を柔軟に発揮することで、運営を維持する好例といえる。
介護保険事業だけを受け皿にするのではなく、地域を挙げて包括的なケアシステムをつくるには、組合員や地域住民とつながりが深いJAが先頭に立つことが求められよう。地元の高齢者を守るJAは、その家族である次世代にとっても魅力的に受け止められるだろう。超高齢化が進む農村にとってなくてはならない存在になるには、介護分野の強化が鍵を握る。
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2021年02月21日

[米のミライ](2) 政策フル活用 飼料用軸に安定経営 10アール15万円めざす 青森県五所川原市豊心ファーム
転作の要となる飼料用米は、高収益を実現できるのか──。全国的に飼料用米の生産量が減少する中で、青森県五所川原市で大規模水田農業を展開する(有)豊心ファームは、飼料用米を基幹作物に位置付け、生産を拡大している。
同社の経営面積は水稲70ヘクタール、大豆50ヘクタール。……
2021年02月25日

農系ポッドキャスト盛り上がり 全国で25以上の番組配信 若手農家中心 熱い思い伝えたい
インターネットでラジオのように音声を配信するポッドキャスト=<ことば>参照=を使い、農家らが番組を発信する“農系ポッドキャスト”が盛り上がっている。自らの思いや挑戦、日常の出来事を発信する道具として若手農家中心に注目され、全国で25以上の番組が配信されている。昨年末には配信者らで総会議を開き「農系ポッドキャストの日」を決定。農家同士や消費者とのつながりにも役立っている。
毎月1日が記念日 エピソード配信、SNS投稿
「農系ポッドキャスト」は農業に関わる人が配信する番組の総称で、一つのジャンルとして認知度を高めている。福岡市の農家3人で2014年から番組を配信し、農系ポッドキャストの中心的存在である「ノウカノタネ」の鶴田祐一郎さん(34)は「農作業中にラジオを聞く人が多く、なじみやすいメディア。農業に興味のある消費者もリスナーとして増えている」と話す。
昨年末には鶴田さんの主導で、配信者が集まった総会議をウェブ上で開いた。委任状を含め17番組の代表者らが参加。緩やかなつながりや既存のリスナーが他の番組を知るきっかけをつくるため、毎月1日を「農系ポッドキャストの日」とすることを決めた。1日に合わせ各番組でエピソードを配信したり、ツイッターなどのインターネット交流サイト(SNS)でハッシュタグ「#農系ポッドキャストの日」を付けて投稿したりと盛り上げている。
鶴田さんは「雑談の中で、農家もいろいろ考えていると知ってもらうきっかけになり、番組を通じたつながりも広がっている。ぜひ農家は始めてみてほしい」と呼び掛ける。
挑戦テーマ、共感獲得 三重県四日市市 おみそしるラジオ
「おみそしるラジオ」は三重県四日市市のキュウリ農家の阿部俊樹さん(39)、ナス農家の堀田健一さん(34)、会社員の住田良平さん(33)の3人がパーソナリティーを務める。「挑戦リアリティポッドキャスト」をテーマに、それぞれの挑戦を話題に語り合う。
番組名には、それぞれの挑戦を具材に見立て「みそ汁のような熱い栄養を届けたい」という思いを込めた。阿部さんは「失敗も含めて等身大の自分たちを発信している。聞いた時に頑張ろうと思ってもらえる番組にしたい」と話す。
魅力の一つは自ら“公開作戦会議”と言うほどのオープンさ。2月上旬の配信では、阿部さんと堀田さんが小学6年生向けに行った出前授業の内容について、多くの人にも聞いてもらえるよう配信方法などを相談した。
2019年1月に番組を始め、これまでに70本以上を配信。週1回、午後8時ごろに阿部さんの自宅倉庫に集まり収録している。固定リスナーは300人、総ダウンロード数は約4万に上る。「みそなー」と呼ぶリスナーからの便りは週10通ほど届き、阿部さんや堀田さんの野菜を購入する「みそなー」も出てきた。
「消費者とのつながりが目に見えて新鮮だった」と堀田さん。農家同士のつながりも生まれ、住田さんは「農系の仲間として応援してもらっている」と実感する。
<ことば>ポッドキャスト
インターネット上に音声を配信する方法の一つで、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて無料で聞ける。音声データをダウンロードしてオフラインで聞くこともできる。録音・編集環境があれば誰でも取り組め、ニュースや教育、ビジネス、歴史など多様なジャンルの番組がある。
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2021年02月20日

ニンジン葉切断機開発 1分で最大130本処理 千葉・八街洋らん園
千葉県八街市でニンジンなどを栽培する八街洋らん園は、ニンジンの葉の切断機「CHC─1」を開発した。ベルトコンベヤーにニンジンを載せるだけで自動で葉を切れる装置で、調製作業の省力化を見込む。同社の調べで、人手だけの作業に比べ約6倍速く調製できるという。霜や寒さに当たって葉が枯れたニンジンの調製作業を大幅に省力化できると期待する。
開発した切断機の大きさは、高さ1・1メートル、幅1・3メートル、奥行き60センチ。ベルトコンベヤーで運ばれたニンジンをローラーで押さえて、カッターで切る仕組みだ。
同社によると、1分間に最大130本を処理できるという。100ボルトの電源電圧で稼働する。
地域では、11月~翌年3月の5カ月間でニンジンを出荷する。葉を引っ張って地面から抜く専用のニンジン収穫機を使えば、葉が自動で切り取られるが、1月以降は霜に当たって葉が枯れ、機械が使えない。そのため手作業で枯れた葉を切る必要がある。
2020年に特許を取得した。葉だけでなく、ニンジンの先端から伸びた細い根も切れるよう改良を進める。ニンジン1ヘクタールを栽培する同社の井啓代表は「調製作業は時間がかかり、精神的に負担が大きい。省力化が強く求められている」と指摘する。
価格は38万円(税別)。問い合わせは八街洋らん園、(電)043(445)2214。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=3x6lFYTYPto
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2021年02月23日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
地域の新着記事

[震災10年 復興の先へ] 風化させぬ 農家ら「語り部」 コロナ禍、交流に壁 今は辛抱…ネット活用模索
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、農業体験をしながら東日本大震災の教訓を伝えようとする農家や地域住民の「語り部」の活動が苦境に立たされている。観光や交流を自粛する動きが広がり、体験を話す機会が減少した。一方で被災の記憶を風化させないよう、活動を継続する意志は固い。インターネットを活用したツアーを検討するなど模索が続く。(丸草慶人)
福島県相馬市の沿岸部に建つ和田観光苺組合のハウスは年明け以降、数人の個人客しかいない日が続く。いつもは旬のイチゴを求める団体客でにぎわうが、新型コロナ禍で激減。1、2月は例年の3分の1にとどまる。
組合は一部の団体客向けにイチゴ狩りと合わせて、震災の経験を伝える語り部の活動をしてきたが、その機会もほとんどなくなった。
震災が発生した2011年の11月から、市観光協会が企画する復興視察研修を受け入れ、語り部を務めてきた組合長の齋川一朗さん(72)は「観光農園の収入だけでなく、震災を語る場が失われていることが残念でならない」と話す。
震災当日、津波が来るため一度逃げたが、家が気になり戻ってしまい、亡くなった人もいた。そうした実態を知る齋川さんは、イチゴ狩りに来た人に「何かあったら、とにかく逃げて」と言い続けてきた。
組合はハウス2・2ヘクタールで栽培。観光客の収入が大きく減る中、直売所での販売が主な収入源だ。「今は辛抱の時。イチゴの生産をしっかり続け、コロナが収束したら語り部を再開したい」と、齋川さんは決意する。
ツアー縮小
宮城県岩沼市。岩沼みんなのアグリツーリズム&イノベーションは、震災の教訓を伝えながら農業を体験してもらうツアーを運営する。年6回程のイベントを企画してきたが、今年は人を集めるのは避けるべきだと判断。1回にとどめた。
ツアーは13年度に始めた。津波で友人を失った経験を持つ代表の谷地沼富勝さん(45)が「被災の記憶を風化させたくない」と企画。東京都内のIT企業と連携し、首都圏からも参加するイベントとして動きだした。
地域に訪れてもらうことを重視し、定期的に農業を組み込んだ。サツマイモの植え付けから収穫までを体験してもらい、その都度、現場に来てもらう。作業の合間に、写真などを使って「災害は一瞬で命を奪う。日頃の備えや防災訓練は本当に大事」と訴えてきた。
訪れる人も多く、19年度は延べ200人が参加した。20年度は参加者を県内にとどめ、収穫作業に限定。延べ40人にとどまるも、谷地沼さんは「コロナ禍でもできることを続けたい」と前を向く。2月下旬にはIT企業の協力を得て、毎年の恒例行事だった餅つきをオンラインで配信した。
観光客激減
コロナ禍によって全国規模で観光客数が減る中、岩手、宮城、福島の被災3県にも大きな影響が出ている。観光庁によると、20年1~11月の3県の宿泊者数は1836万人。前年同期比で33%減った。減少が最も大きいのは宮城県で、同43%減の571万人。次いで岩手が35%減の375万人、福島が24%減の889万人だった。
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2021年02月26日

[震災10年 復興の先へ] 津波で犠牲の園児しのぶプロジェクト 「奇跡の花」全国へ 尊い命守る意識を 愛知厚生連海南病院
【あいち】JA愛知厚生連海南病院(弥富市)は、東日本大震災の被災地に咲いた「奇跡の花」を全国に広げる活動に協力している。津波で亡くなった園児の遺族らが花の栽培や講演活動を通して「一番の防災は忘れないこと」を伝える活動だ。同病院で中心となって活動する名誉院長の山本直人さん(67)は「活動を通して次世代に防災と命の大切さを伝えたい」と話す。
「アイリンブループロジェクト」が始まったのは2015年2月。地震が起きた11年3月11日、宮城県石巻市の沿岸部で佐藤愛梨ちゃん=当時6歳=ら園児5人が乗った送迎バスが津波に襲われ、愛梨ちゃんは帰らぬ人となった。数年後、現場には真っ白なフランスギクが咲いた。「この花の種を各地で育てて、命の大切さを世界に広めたい」と、愛梨ちゃんの遺族や現地の人らによるプロジェクトが立ち上がった。
震災当時、同病院院長だった山本さんは、職員らと被災地で医療支援をした。機会があれば支援を続けたいと考えていた山本さんは、プロジェクトの一環で映画を作る話を知り、個人的に寄付をした。これをきっかけに、事務局から「プロジェクトを県外にも広げたい」と相談を受けた。
そこで同病院でも17年3月、現地から取り寄せた種から育てた苗を屋上庭園に植えた。同年4月には弥富市と共催で防災フォーラムを開催。さらに海部津島地域の自治体や地元ライオンズクラブなどの協力で、同年秋から学校や自治体など50カ所以上に苗を植えていった。
山本さんはプロジェクトの西日本支部長として活動をけん引。愛知での取り組みをきっかけに、プロジェクトは全国15都道府県、70カ所にまで広がった。
海抜ゼロメートル地帯が広がる海部津島地域一帯は、1959年の伊勢湾台風で甚大な被害を受けており、同病院は県の災害拠点病院に指定されている。
山本さんは「伊勢湾台風の経験で防災意識は高い地域だが、次世代に天災の恐ろしさをこれからも伝えていく必要がある。学校などで子どもが『奇跡の花』を植えることを通して、命の大切さや『自分の身は自分で守る』という防災意識を高めてほしい」と話す。
震災から10年目の節目となる今年3月には、石巻市に石巻南浜津波復興祈念公園が開園する。プロジェクトでは、ここに各地で育てられたフランスギク1万輪を植える計画を立てている。新型コロナウイルス禍で活動が制約される中、プロジェクトは新たな企画も進行中で、同病院も協力する予定だ。
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2021年02月26日

豪雪地帯の除雪ボランティア コロナ乗り越え作業 新潟県「スコップ」
日本海側を中心に記録的な豪雪に見舞われている日本列島。例年なら全国から多くの除雪ボランティアが駆け付けるが、今冬は新型コロナウイルス禍を受け、思うように動けない状況が続く。「除雪に来てくれるのは本当にありがたいが、一方で感染の不安もある」と、受け入れ側もジレンマを抱える中、都市と農村をつなぐ善意の活動をつなげようと奮闘する地区もある。(雫石征太郎)
もっと活動したいが…
新潟県糸魚川市の市街地から山あいに沿って車を30分ほど走らせると、次第に雪景色が広がる。23戸が暮らす柵口(ませぐち)集落に着く頃には、2メートル超の雪の壁が道路両脇にそびえ立つ。周辺に温泉やスキー場があり、場所によっては積雪3メートルを超える。
近年は高齢化が進んで住民だけで除雪するのは難しく、雪で倒壊する空き家も増えてきたという。
山梨県の石川宏さん(67)ら除雪ボランティア「スコップ」のメンバーは22日、集落の高齢者宅周辺の除雪作業に汗を流した。感染対策を徹底し、マスクを着けながらの作業となった。「息苦しいけど、困っている人の助けになればうれしい」。石川さんらは、木造家屋におしかかる雪をスノーダンプやスコップを使って手際よく片付けていった。
新潟県が事務局を務める「スコップ」は、除雪や都市との交流拡大などを目的に、1998年度から活動を始めた。登録者数は2021年1月時点で2134人に上り、6割が県外在住だ。特に東京都など関東圏が半数を占める。記録的少雪だった19年度の活動実績はないが、18年度は6市町(7地域)で10回行い、延べ174人が参加した。
大雪となった20年度はコロナ禍を受けほとんどが受け入れを中止し、柵口集落が初の活動となった。緊急事態宣言が発令された地域や感染者が多い地域のメンバーは対象外とし、石川さんを含め県内外の11人が参加した。県地域政策課の安藤由香主事は「毎年受け入れている地域もあり、今年も除雪の需要はあるはず。ボランティアをきっかけに土地のファンになったという都市住民もいるだけに残念だ」と話す。
「スコップ」は地域住民との交流も活動の一環と位置付ける。しかし柵口集落では“密”になる懇親会は行わず、メンバーは、前日の21日に屋外で開かれる地域のイベント「かまくら祭り」に参加。道路脇の雪の壁に穴を開けて明かりをともす「キャンドルロード」の設営も手伝い、イベントに花を添えた。
同集落区長を務め、水稲を2ヘクタールで栽培する土田茂さん(64)は「スコップに来てもらったのは3回目で、ボランティアの力は本当にありがたい。コロナ対策など慣れない部分はあったが、受け入れることができてほっとしている」と、安堵(あんど)の表情を見せた。
高齢化深刻 交流事業は不可欠
国土交通省によると、糸魚川市を含む全国201市町村が特別豪雪地帯に指定されている。
同地帯の人口を1965年と2015年で比べた場合、32・8%減少している(全国では同28・1%増)。高齢化率も33・1%(2015年)と右肩上がりで、全国の26・6%に比べ深刻だ。
新潟県内の除雪作業中の死傷者は、今冬は242人に上る(22日現在)。うち65歳以上が146人と半数以上を占めた。土田さんは「除雪は高齢者にとって負担が大きいが、過疎化で作業の担い手は減る一方」と指摘。地域のにぎわいのためにも、コロナ禍が終息するよう願っている。
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2021年02月25日

都市農業の今 映像化 一橋大・農林中金寄付講義 現地へ行けない学生向けに
東京の都市農業の魅力を映像化しインターネット上で公開するプロジェクトに、農業関連ウェブメディアの運営会社「ぽてともっと」(東京都国立市)が取り組んでいる。新型コロナウイルス禍でフィールドワークができない大学生に、都市農業の現状を伝えるのが目的だ。新規就農者やベテラン農家、JA関係者のインタビューを中心とした動画を公開し、一般の人にも農業への理解を深めてもらう。
農家ら取材 魅力深掘り ネットでも広く発信
動画作成は、同社代表の森田慧さん(25)の母校でもある一橋大学の経済学研究科で行われている、農林中央金庫の寄付講義「自然資源経済論」のプロジェクトから相談されたことがきっかけ。5分半~8分の動画を計8本作成した。
コロナ禍の影響で、学生は農業現場のフィールドワークができない状況が続いていた。プロジェクトの担当者から「学生に現場を知ってもらう手段はないか」と相談され、映像で伝えることを提案した。
取材には昨年秋から取り掛かり、生産緑地で新規就農した東京都日野市の川名桂さんや、八王子市で酪農を営む磯沼ミルクファームの磯沼正徳さんら農家を当たった。東京の地場産野菜の集荷・販売を手掛ける国立市の「エマリコくにたち」や、販売・購買・指導など事業が多岐にわたるJA東京むさしも取材した。
農家の車に1日同乗させてもらって話を聞いたり、JAや流通関連会社に1週間かけて取材・撮影したりした。現場の様子を深く知ることができたという。
同大では昨年末、動画を基に学内でシンポジウムを開催。森田さんも交えて都市農業について理解を深めた。
動画は同社制作の都市農業をテーマにしたサイト「モリタ男爵の農業まるごとリポート」でも、1月下旬から公開している。
以前から日本の農業に関心があり「今後は全国の農業現場を映像に残すことに取り組みたい」という森田さん。「農家の話を聞き、撮影することで、立体感のある記録として残せる」と、映像の持つ効果を生かして次の世代に農業を引き継いでいきたい考えだ。
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2021年02月23日
二地域居住推進へ全国協 600自治体 事例共有 国交省
国土交通省は、地方と都市に二つ以上の生活拠点を持つ「二地域居住」を全国規模で推進するため、自治体や関係団体などが参加する協議会を3月に設立する。601の自治体と29の関係団体・業者が既に参加を決めている。農村を含め地方の人口減少に歯止めがかからない中、有効な施策の検討やノウハウの共有を進め、新たな人口を呼び込む契機を各地で作りたい考えだ。
「全国二地域居住等促進協議会」として発足する。36都道府県と565市区町村に加えて、移住推進や空き家バンクの運営組織など29団体が参加を決めている。会長に長野県の阿部守一知事、副会長に和歌山県田辺市の真砂充敏市長と栃木県那須町の平山幸宏町長が就く予定だ。
「二地域居住」を通じ、地方移住や関係人口増加を促す。居住者には農村の伝統行事や、地域の清掃活動などにも参加を促し、地域コミュニティーの活性化につなげたい方針だ。
協議会ではまず、先行して二地域居住が増えている自治体のノウハウ共有を進める。具体的には3月中にホームページを立ち上げ、関連施策や先進事例を紹介する。二地域居住を望む人が住宅を確保できるよう、空き家バンクの有効な活用方法などを発信する。
意見交換の場としても活用する。地域外からの居住者と地元住民がどう関係を深めていくかなど、二地域居住を推進・拡大していく上での課題と対応方法などを参加自治体、組織が話し合うことも想定する。
新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業が増え、都市部に拠点を置きながら地方暮らしを検討する人が多くなっている点に着目。同省は、「二地域居住の潜在的な需要は高い」(地方振興課)とみている。
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2021年02月23日
ガソリン携行缶 扱い注意喚起 国民生活センター
国民生活センターは、農機具用などのガソリンを入れる携行缶の取り扱いを誤ると、ガソリンが漏えいや噴出し、引火・爆発事故が発生する危険があり死傷者も出ているとして注意を呼び掛けている。ガソリンは引火性が高く、小さな火種でも引火する危険性がある。
同センターによると、……
2021年02月21日

[活写] 丹精5色 敷き詰めて
福井市美山地区で、地元産の野菜を使ったカラフルな「かき餅」の乾燥作業が進んでいる。
かき餅は北陸地方で農家などが冬に作る保存食。薄く切った餅を寒風で乾燥させて作る。これを、地元産の野菜でアレンジしたのが、同地区の主婦7人でつくる加工グループ「美山そば工房木ごころ」だ。使う野菜は全て地元産で、5種の味を開発。赤色は地域の伝統野菜「河内赤かぶら」の粉末を練り込んだ。緑色はヨモギで黄色はカボチャ、ゴマ、トウガラシもある。
通常、ひもでつるして干すかき餅を、同グループは、乾燥時の割れや曲がりを防ぐため、乾燥台に並べて干す。
代表の田中康子さん(74)は「昨年はイベントの中止が相次ぎ販売に苦戦した。今年はコロナが落ち着いて多くの人に食べてほしい」と話している。
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2021年02月21日

農系ポッドキャスト盛り上がり 全国で25以上の番組配信 若手農家中心 熱い思い伝えたい
インターネットでラジオのように音声を配信するポッドキャスト=<ことば>参照=を使い、農家らが番組を発信する“農系ポッドキャスト”が盛り上がっている。自らの思いや挑戦、日常の出来事を発信する道具として若手農家中心に注目され、全国で25以上の番組が配信されている。昨年末には配信者らで総会議を開き「農系ポッドキャストの日」を決定。農家同士や消費者とのつながりにも役立っている。
毎月1日が記念日 エピソード配信、SNS投稿
「農系ポッドキャスト」は農業に関わる人が配信する番組の総称で、一つのジャンルとして認知度を高めている。福岡市の農家3人で2014年から番組を配信し、農系ポッドキャストの中心的存在である「ノウカノタネ」の鶴田祐一郎さん(34)は「農作業中にラジオを聞く人が多く、なじみやすいメディア。農業に興味のある消費者もリスナーとして増えている」と話す。
昨年末には鶴田さんの主導で、配信者が集まった総会議をウェブ上で開いた。委任状を含め17番組の代表者らが参加。緩やかなつながりや既存のリスナーが他の番組を知るきっかけをつくるため、毎月1日を「農系ポッドキャストの日」とすることを決めた。1日に合わせ各番組でエピソードを配信したり、ツイッターなどのインターネット交流サイト(SNS)でハッシュタグ「#農系ポッドキャストの日」を付けて投稿したりと盛り上げている。
鶴田さんは「雑談の中で、農家もいろいろ考えていると知ってもらうきっかけになり、番組を通じたつながりも広がっている。ぜひ農家は始めてみてほしい」と呼び掛ける。
挑戦テーマ、共感獲得 三重県四日市市 おみそしるラジオ
「おみそしるラジオ」は三重県四日市市のキュウリ農家の阿部俊樹さん(39)、ナス農家の堀田健一さん(34)、会社員の住田良平さん(33)の3人がパーソナリティーを務める。「挑戦リアリティポッドキャスト」をテーマに、それぞれの挑戦を話題に語り合う。
番組名には、それぞれの挑戦を具材に見立て「みそ汁のような熱い栄養を届けたい」という思いを込めた。阿部さんは「失敗も含めて等身大の自分たちを発信している。聞いた時に頑張ろうと思ってもらえる番組にしたい」と話す。
魅力の一つは自ら“公開作戦会議”と言うほどのオープンさ。2月上旬の配信では、阿部さんと堀田さんが小学6年生向けに行った出前授業の内容について、多くの人にも聞いてもらえるよう配信方法などを相談した。
2019年1月に番組を始め、これまでに70本以上を配信。週1回、午後8時ごろに阿部さんの自宅倉庫に集まり収録している。固定リスナーは300人、総ダウンロード数は約4万に上る。「みそなー」と呼ぶリスナーからの便りは週10通ほど届き、阿部さんや堀田さんの野菜を購入する「みそなー」も出てきた。
「消費者とのつながりが目に見えて新鮮だった」と堀田さん。農家同士のつながりも生まれ、住田さんは「農系の仲間として応援してもらっている」と実感する。
<ことば>ポッドキャスト
インターネット上に音声を配信する方法の一つで、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて無料で聞ける。音声データをダウンロードしてオフラインで聞くこともできる。録音・編集環境があれば誰でも取り組め、ニュースや教育、ビジネス、歴史など多様なジャンルの番組がある。
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2021年02月20日

救え忙殺の保健所 コロナ感染の子ども観察 注目集める「静岡市方式」
JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の小児科診療部長、田中敏博医師は、新型コロナウイルスに感染して自宅やホテルで療養する中学生以下の子どもに対し、保健所に代わり電話で診察している。静岡市保健所などによると、同様の取り組みは全国で同病院が唯一。子どもや保護者らの不安を取り除くとともに、感染者への対応で多忙を極める保健所職員の業務軽減の一助になっている。(前田大介)
診察のきっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、日本小児科学会の考えに準じて、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症なため、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。
ただ、自宅療養になれば相談できる主治医が周りにいないことになる。田中医師は、子どもらの不安を拭うためにも「電話などで対応できる臨時の主治医が必要」と提案、自ら診察を買って出た。
昨年10月から診察が本格始動。2月17日現在、新生児から15歳までの55人(濃厚接触者含む)と、保護者ら52人(同)を診察した。
まず対面で初診した後、療養する自宅などに田中医師が連絡し、体温、心拍数、酸素濃度、病状などを確認した上で、今抱えている悩みなども聞く。時間は午前9時ごろと午後5時ごろの1日2回で、結果は保健所に報告する。現時点で症状が悪化して入院した例はないという。
田中医師は、この診察を市内の公的機関などと連携して構築したことから「静岡市方式」と命名。「どうやってやるのか」などと、県外から問い合わせが来ているという。「保健所の負担が減るこの方式が全国に広まればうれしい」と力を込める。
市保健所はこの動きを歓迎する。同保健所は、新型コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康観察をしている。1人につき確認事項が10以上あり、10分程度要することもある。保健師数人で対応しているため、1人ずつ丁寧に向き合うのは至難の業だという。
加治正行所長は「業務が軽減し助かっている。通常は保健師が聞き取るが、小児科の医師が診察するだけに、子どもや保護者の安心感が違う」と話す。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、コロナの影響で患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し「労働時間が過労死ラインを超える職員が目立っている」という。
保健所数が多い時に比べ半減していることにも触れ「行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが、この事態の一因」と指摘。その上で「臨時で主治医を買って出る医師がもっと増えてほしい。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が出てくれば、全国的な業務軽減につながるはずだ」と期待する
<メモ>
厚生労働省の統計(速報値)によると、国内の10代以下の新型コロナ感染者は、10日現在で3万8226人。感染者全体(41万3495人)に対する割合は9%となっている。死者は1人も確認されていない。
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2021年02月19日
手探りの不安熟練者が解決 ネット相談サイト立ち上げ 長野県佐久市・井上隆太郎さん
長野県佐久市でイチゴ園などを経営する井上寅雄農園代表の井上隆太郎さん(28)は、新規就農者や家庭菜園を楽しむ人と経験豊富な農家を結び付けるサイト「アグティー」を立ち上げた。ビデオ通話やチャットを通じて経験……
2021年02月19日