「アグラボ」 ベンチャー支援 農家の笑顔を増やす 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
2021年02月02日
東京・大手町に2019年に開設された「アグベンチャーラボ(一般社団法人AgVenture Lab)」を訪ねました。これからの農業界に欠かせないベンチャー企業を応援しようと、JAグループが共同で立ち上げた機関で、ここでは「アクセラレータープログラム」を実施しています。投資や経済の世界では知られる用語で、「アクセル」の言葉通り、スタートアップ企業の成長速度を加速させるため、採択された企業に投資したり、協業したりして互いの発展を目指す仕組みです。
アグベンチャーラボのプログラムによりこのほど採択されたのは、農産物の取引業務をスマホで簡略化し、労働時間を削減し作業効率を上げる農業流通特化型サービスを提供するkikitori(東京)です。代表の上村聖季さん(33)は、大手商社から農業現場を経て青果流通に参入しました。電話やファクスによるやりとりで効率が悪く、働く人も疲弊している現場を新しい技術で改革しようとしています。
同じようにIT技術で農場の事務作業のスマート化に挑むのは、Agrihub(アグリハブ)の代表、伊藤彰一さん(33)。IT業界のエンジニアを経て、調布市の実家である野菜農家を継ぐ中で、手間のかかる農薬検索や管理から作業日誌まで付けられるスマホアプリを開発しました。既に1万人以上が会員登録して生産者には好評ですが、無料のため収益にはつながっていません。
実はこのシステムで作業効率が上がるのは、農家だけではありません。出荷先として農薬使用履歴の情報を農家に求めるJA側も、手で入力していた手間が省けるのです。デジタル化すれば、生産者もJAも労働時間が減り、ミスも防げ、作業効率が上がり、農業界のみんながウィンウィンになるというわけです。
伊藤さんはJAに有料でシステム導入を働き掛けていますが、ご存知のように、JAの営農部門は赤字の場合も多く、現場が望んでも、追加予算となると決裁には至りにくいそうです。
しかし一方で、導入に前向きなJAもあります。なぜなら、まず労働環境を良くすれば、人は増え、スマホを使いこなせる世代の就農にもつながるからです。新技術の導入は、結果的に自分たちの地域農業を、自農協も含めて好転させるという経営判断です。今、現場を担う人々が快適で居心地が良いと感じれば、おのずと人は集まります。農業現場の魅力アップは、今いる人々を笑顔にすることからではないでしょうか。
アグベンチャーラボのプログラムによりこのほど採択されたのは、農産物の取引業務をスマホで簡略化し、労働時間を削減し作業効率を上げる農業流通特化型サービスを提供するkikitori(東京)です。代表の上村聖季さん(33)は、大手商社から農業現場を経て青果流通に参入しました。電話やファクスによるやりとりで効率が悪く、働く人も疲弊している現場を新しい技術で改革しようとしています。
同じようにIT技術で農場の事務作業のスマート化に挑むのは、Agrihub(アグリハブ)の代表、伊藤彰一さん(33)。IT業界のエンジニアを経て、調布市の実家である野菜農家を継ぐ中で、手間のかかる農薬検索や管理から作業日誌まで付けられるスマホアプリを開発しました。既に1万人以上が会員登録して生産者には好評ですが、無料のため収益にはつながっていません。
実はこのシステムで作業効率が上がるのは、農家だけではありません。出荷先として農薬使用履歴の情報を農家に求めるJA側も、手で入力していた手間が省けるのです。デジタル化すれば、生産者もJAも労働時間が減り、ミスも防げ、作業効率が上がり、農業界のみんながウィンウィンになるというわけです。
伊藤さんはJAに有料でシステム導入を働き掛けていますが、ご存知のように、JAの営農部門は赤字の場合も多く、現場が望んでも、追加予算となると決裁には至りにくいそうです。
しかし一方で、導入に前向きなJAもあります。なぜなら、まず労働環境を良くすれば、人は増え、スマホを使いこなせる世代の就農にもつながるからです。新技術の導入は、結果的に自分たちの地域農業を、自農協も含めて好転させるという経営判断です。今、現場を担う人々が快適で居心地が良いと感じれば、おのずと人は集まります。農業現場の魅力アップは、今いる人々を笑顔にすることからではないでしょうか。
おすすめ記事
改正種苗法施行 海外持ち出し制限 初公表 シャインなど1975品種 農水省
農水省は9日、品種登録した品種(登録品種)の海外流出防止を目的とする改正種苗法の施行に伴い、海外への持ち出しを制限する1975品種を公表した。1日の施行後、公表は初めて。ブドウ「シャインマスカット」や北海道の米「ゆめぴりか」など、いずれも同法施行前に品種登録済み・出願中だった品種で、届け出に基づいて「国内限定」の利用条件を追加した。
野上浩太郎農相は同日の閣議後記者会見で「税関とも情報共有し、わが国の強みである新品種の流出を防ぎ、地域農業の活性化につなげていきたい」と述べた。
1日に施行された改正種苗法は、品種登録の際に、栽培地域を国内や特定の都道府県に限定する利用条件を付けられるようにした。「国内限定」の第1弾の品種は、農研機構や42道府県が開発した米や果実が中心だ。同省によると、国や県など公的機関が開発した登録品種の9割が「国内限定」となった。
米では青森県の「青天の霹靂」や新潟県の「新之助」、果実では石川県のブドウ「ルビーロマン」や福岡県のイチゴ「あまおう」、愛媛県のかんきつ「紅まどんな」などが含まれる。今後、民間の種苗会社の品種も含めて、順次追加する。
条件に反して海外に持ち出した場合、個人なら10年以下の懲役や1000万円以下の罰金、法人なら3億円以下の罰金が科される。流通の差し止めや損害賠償といった民事上の措置も請求できる。
同省は、同法施行の経過措置として、施行前に品種登録済み・出願中だった品種も、「国内限定」などの利用条件を追加できるようにしていた。9月30日まで届け出を受け付ける。一方、今後、品種登録する品種は原則として「国内限定」とするよう開発者に促す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月10日

「農泊.net」 交流支援ページ開設 農家同士つながろう 経営紹介やメッセージ機能 全農
JA全農は、運営する農泊のポータルサイト「農泊. net」内に、新たに生産者同士の交流を支援する特集ページを開設した。農泊や加工品作りなど、特色ある経営に取り組む生産者を紹介する。情報交換や交流を促すことで、農泊を通じた地域活性化に貢献していく。
同サイトは2019年に開設。……
2021年04月13日

イチゴ輸出に勢い 2カ月で前年の8割 アジア圏中心
イチゴの輸出に勢いがある。財務省貿易統計によると2月のイチゴ輸出量が493トンとなり、単月では初めて10億円を突破。輸出量も、1月から2カ月連続で前例のない400トン超えとなった。日本産の品質面への評価に加え、新型コロナウイルス下の巣ごもり需要を海外でも獲得している。(高梨森香)
大粒・食味に定評 コロナ下の巣ごもり需要つかむ
日本産イチゴは香港、シンガポール、タイ、台湾、米国などに輸出。2014年から輸出量が伸び、18年には過去最高の1237トンを記録した。19年は不作で1000トンを割り込んだが、コロナ下で物流が停滞した20年も1179トンと18年に次ぐ輸出量を維持。10年と比べて11・5倍になったが、21年はその20年の年間量の8割に当たる913トンを2カ月間で輸出している。
日本産イチゴは海外市場では国内価格の3~6倍で流通するが、大粒の見た目や食味の良さから現地の富裕層を中心に人気が高い。福岡県のJA全農ふくれんの担当者は「コロナ下で輸送用の航空便が減便となる課題があった一方、訪日できない外国人の現地での家庭消費が旺盛だった」と指摘する。
イチゴは輸出の有力品目で、「今後、さらに需要は拡大する」(全農インターナショナル担当者)との見方は多い。越境のインターネット通販サイトを活用した輸出を進める主産地の栃木県は、シンガポールやマレーシアなどで県産イチゴを使った料理教室をコロナ下も開催。海外市場への売り込みを強める姿勢だ。
政府は農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略で25年にイチゴの輸出額86億円を目標に掲げ、全国12産地を「輸出産地」に指定。国内需要を満たした上で輸出向けも確保できるよう生産基盤の強化を急ぐ。農水省は「基盤強化を軸に、流通段階での品質保持、相手国の防除基準やニーズに合わせた生産で輸出量を伸ばしていく」(園芸作物課)と話す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月11日

和子牛せり 名簿にゲノム育種価 能力判断の新指標 群馬・渋川市場
和牛子牛を取引する群馬県の渋川家畜市場で9日、せり名簿への「ゲノミック育種価」の表記が始まった。血統や体格などに加え、子牛の能力を判断する新たな指標として提示し、評価向上や取引の活性化につなげる。分析を担う家畜改良事業団によると、ゲノミック育種価をせり名簿に記載するのは全国初の試み。(斯波希)
ゲノミック育種価は、和牛の能力をゲノム(遺伝子)の違いで評価する。
2021年04月10日

熊本地震から5年 復旧の歩みに隔たり 営農本格化 工事「足踏み」 南阿蘇村、山都町
14日と16日に、2度の震度7を記録した熊本地震から5年がたつ。土砂崩れや地割れで被災した農地は多くが復旧し、営農再開を果たした。熊本県南阿蘇村では土砂に埋もれた棚田を大区画に整備。一方で山都町では復旧が遅れ、あぜなどの工事の3割が未完了だ。生産者の中には自ら補修し営農を続けている人もいる。(岩瀬繁信)
南阿蘇村乙ケ瀬地区の棚田は、2016年4月16日の地震で、大規模な土砂崩れが起きた。水稲を栽培する藤原三男さん(73)は、「50年、耕した水田が一瞬でなくなった」と振り返る。
おいしい米ができるよう土づくりに力を入れ、若い頃は堆肥を牛の背中に載せて運んだ。10年前には山の湧き水を導く水路も整備したが、地震で土砂と一緒に崩落した。
個人で建てたライスセンターは、乾燥機8台のうち3台が駄目になった。「残りもメーカーが直せるか分からないほどめちゃくちゃだった。廃棄すると思ったら涙が出た」と話す。
米作りを「やめようか」と思ったが、幸い建物は無事だった。被害を免れた水田で田植えもできた。稲刈り後に必要になる調製施設は、壊れた部品を交換し、毎日少しずつ復旧作業を続け、収穫に間に合わせた。
16年秋、藤原さんら地区の住民は棚田復旧の協議を始めた。以前から区画整理が必要と話しており、災害を機に大区画化を進めると決めた。県や国、村の支援で26ヘクタールの工事を開始。以前は1枚数アールの水田もあったが、20~30アールに広がった。
藤原さんは「大きな機械も格段に入りやすくなった」と喜ぶ。20年に一部で田植えが始まり、21年は全面を植える。来年のことは分からないが、「元気なうちはこの土地で米を作り続ける」と藤原さんは決意する。
熊本県は、農家の営農再開率を21年3月末で100%とする。一方で農道や水路などの復旧工事は完了率が86%。地域差が大きく、16年6月に豪雨の被害が重なった山都町は69%にとどまる。
棚田が広がる山都町白糸地区は、工事完了率が56%。水稲を2・7ヘクタール作る岩崎邦夫さん(78)は、崩れたあぜや水路11カ所で工事を申請したが、完了はまだ2カ所だけだ。「先祖が守った土地を荒らすわけにはいかない」と話し、早期の工事完了を訴えている。
工事が進まない中、地区では多くの生産者が農地を自身で補修して営農を続ける。
山下徹さん(50)は、崩れたあぜの内側に簡易のあぜを設置し、採種用の米を作る。山都町は県の主食用米種子の半分以上を生産していて「作り続ける責任がある」と、山下さんは力を込める。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月14日
コラム 今よみ~政治・経済・農業の新着記事
農業遺産と里山システム 農村は可能性の宝箱 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
地域伝統の持続可能な農業システムを評価する「日本農業遺産」に、今年新しく7地域が加わりました。これは国連食糧農業機関(FAO)による「世界農業遺産」の基準にのっとって国が定めているもので、世界および日本の「農業遺産」は、30地域に上ります。この農業遺産で最も特筆すべきは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)17目標の全てに貢献する点です。
そもそもSDGsが国連で提唱されるに至った背景には、世界的な科学者グループによる「プラネタリーバウンダリー(人間の活動が『地球の限界』を超えつつある)」という概念が元になっているのですが、そうした自然共生社会へ世界一丸となってかじを切る先駆けとしてFAOが提唱したのが「世界農業遺産」なのです。
日本初の世界農業遺産として2011年、石川・能登と新潟・佐渡を申請登録する道筋を作った専門家会議委員長で、公益財団法人地球環境戦略研究機関理事長の武内和彦氏は、先日の認証式で、「自然資本の健全性はSDGs達成の基礎であり、国連では、家族農業の振興や生態系の回復(エコシステム)を掲げている」と講演しました。世界的な環境学者である武内委員長は、10年に開かれた第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で、日本における自然共生型モデルを「SATOYAMA」として国際社会に広めたことでも知られています。
農業を持続可能なものにすることは、いま議論されている「みどりの食料システム戦略」のテーマです。
日本農業遺産や里地里山に注目が集まれば、伝統的な農業や美しい景観が評価され、農村にやる気が生まれ、経済や地域の活性化につながります。
ところで、今年認定された7地域のうち、特に時代を表していると感じたのは、兵庫県・南あわじの水稲・タマネギ・畜産システムと、宮崎県・田野清武地域の干し野菜システム(名称略)です。いずれも「耕畜連携」が環境や生産に貢献しているという評価で、これは国の畜産の未来を考える上でも希望となるものです。
農業遺産はどれも生産性、大規模、新技術の真逆にありますが、地域の個性が輝き、継承者が誇りを持っています。実はこれが一番の宝で、農泊、観光、商品開発、教育や人材育成につながっています。
プレーヤーが楽しそうに取り組む地域には、人を呼び込む力があります。まず農村に必要なのは、郷土への愛着や誇りではないでしょうか。循環型の里山ライフスタイルは、SDGsの根底に通じます。本当はどんなむらも、可能性の宝箱なのです。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月13日
みどりの食料戦略 共生への理念 見えず 特別編集委員 山田優
農水省が進めているみどりの食料システム戦略の具体的な内容がメディアに漏れ始めた2月末、これまで日本国内で有機農業を引っ張ってきた人たちの間に、困惑が広がった。
ニュースを読んだ日本有機農業学会の谷口吉光会長(秋田県立大学教授)が、役員ら30人に急いで一斉メールすると、「驚いた」という返事しかなかった。学会は3月19日に戦略に対する提言をまとめた。その中で「多くの有機農業関係者にとって寝耳に水」と表現し、農水省の拙速な政策手法に苦言を呈した。
3月29日に決まった戦略の中間取りまとめは、環境対策を農政に大胆に取り込む宣言のようだ。「環境対策に力を入れるのは悪いことじゃない」と思う半面で、戦略を決める方法と内容は突っ込みどころ満載の欠陥品にしか見えない。
手順からしておかしい。昨年10月16日に野上浩太郎農相が戦略づくりを会見で披露。その後12月21日に戦略本部が設置された。年が明けて関係者らとの意見交換会を繰り返し、3月5日に素案がまとまったという。
即席麺じゃあるまいし、3カ月ぐらいで農政の大転換を決めないでほしい。農政の重要事項を調査審議する食料・農業・農村政策審議会という場があったはずだが、スルーして官僚だけで大切な話を決めてよいのか。
日本の有機農業は農水省が守り育てたものではない。逆に有機農業を異端視してきた歴史がある。反省して有機農業に本腰を入れるのなら、これまで引っ張ってきた人たちへの最低限の敬意と意思疎通が必要だろう。
欧州委員会も先週、30年までに25%を有機農業に転換する行動計画を決めた。長い歴史をかけ有機農業を育ててきた欧州だが、計画を決める前には念入りなコミュニケーションを取った。昨年9月から3カ月ほど24の言語で広く意見を求めたところ、市民や関係団体から840が集まり、委員会は検討した。
農水省が戦略をお手軽につくれたのは、人工知能(AI)や除草ロボットなどスマート農業が「なんとかしてくれる」と考えたからだろう。農家や地域、消費者の視点が抜け落ちた上から目線の計画は、中身がすかすかだ。
有機農業を増やすのは目標であって目的ではない。地域の農業を巻き込みながら、日本全体で環境と共生できる農業に近づける手段の一つだ。戦略にそうした理念や全体像の姿が見えないことも残念だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年03月30日
准組合員制度 5年後見直し 今日的意義 再認識を 元農水省官房長 荒川隆氏
農協改革の5年後見直しの期限が近づく中、最後の課題である准組合員制度に関する議論が再開された。どんな結論になるのか、農協法の改正を俎上(そじょう)に載せるのか、関係者は固唾(かたず)をのんで見守っている。
2015年農協法改正付則で、准組合員の在り方について、5年後見直しの時期までに事業の利用状況や農協改革の実施状況の調査・検討を行い結論を得る、とされた時には、この制度の将来に暗雲が垂れ込めた。その後の政治情勢や農水省の姿勢の変化もあり、また、農協系統が努力を重ねてきた「自己改革」の進展もあり、状況は少しずつ好転しているようだ。一昨年の参院議員選挙での与党公約では、組合員の判断に基づく、とされ、昨夏の規制改革実施計画では、准組合員の意思を経営に反映させる方策について検討を行い必要に応じて措置を講ずる旨、閣議決定もされた。油断は禁物だが、ようやく准組合員制度の重要性が認識されてきたようだ。
そもそも、農協法に他の職能組合制度にない准組合員制度が存在するのはなぜか。農業がその存立基盤である農地と密接不可分であり、職能組合として農業者の経営発展を支えるためにも、その農地が存在する地域との共存・協調が求められることが大きな理由だろう。現実に、農協の機能・サービスを正組合員だけに限定するよりも、地域住民と共有する方が、社会的便益も向上するし農協経営上も正組合員の暮らしや営農にとっても望ましい。
農村の高齢化・過疎化が進展する中で、買い物やガソリンスタンド、金融・保険などの顧客サービスが営利企業だけでは維持できない事態が各地で散見される。これらの企業が農村から撤退する中で、自治体や第三セクターなどへの依存が高まれば、地域活性化の観点からも公的部門の肥大化の観点からも問題である。むしろ、地域住民を准組合員として組織内に取り込む農協が、行政と連携してこれらのサービスを提供するとともに行政代行的な地域政策をも一体的に提供することが、農村現場の実態にふさわしく時宜にかなったものである。
農協に匹敵する組合員数を誇る土地改良区も長年正組合員だけで構成されてきたが、18年の法改正で准組合員制度が導入された。経済団体である農協の准組合員とは目的や対象者は異なるが、サークル内の農業者だけが結集し諸課題を解決することには限界がある中で、広く目を外の世界に転じて食料・農業・農村の価値を共有する多くの人々を組織に包摂し、安心・安定の食料生産確保と豊かで美しい農業・農村の実現を目指すという制度の趣旨は共通している。
狭隘(きょうあい)な職能組合論にとらわれず、准組合員制度の今日的意義を再認識すべきだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年03月23日
実は不足している米 困窮者に人道支援を 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
新型コロナウイルス禍で米需要が年間22万トンも減って、米余りがひどいから、米を大幅に減産しなくてはいけないというのは間違いである。米は余っているのではなく、コロナ禍による収入減で、「1日1食」に切り詰めるような、米や食料を食べたくても十分に食べられない人たちが増えているということだ。
潜在需要はあるのに、米在庫が膨れ上がり、来年の稲作農家に支払われるJAの概算金は1俵1万円を切る水準が見えてきている。このままでは、中小の家族経営どころか、専業的な大規模稲作経営もつぶれかねない。
米国などでは政府が農産物を買い入れて、コロナ禍で生活が苦しくなった人々や子どもたちに配給して人道支援している。なぜ、日本政府は「政府は米を備蓄用以上買わないと決めたのだから断固できない」と意固地に拒否して、フードバンクや子ども食堂などを通じた人道支援のための政府買い入れさえしないのか。メンツのために、苦しむ国民と農家を放置し、国民の命を守る人道支援さえ拒否する政治・行政に存在意義があるのかが厳しく問われている。
いや、備蓄米のフードバンクなどへの供給はしているという。しかし、その量は一つのフードバンクにつき年間60キロ、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供する米の1日分にも満たないという。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる(ロイター通信、2月9日)。
これでは焼け石に水である。制度上の制約というなら備蓄制度の枠組みでなく人道支援の枠組みをつくればよい。法律・制度は国民を救うためにあるはずなのに、この国は制度に縛られて国民を苦しめてしまう。大震災の時の復興予算さえ、要件が厳しすぎて現場に届かなかった。財政当局はわざと要件を厳しくして予算が未消化で戻ってくるように仕組んでいるとさえ聞いたが、それでは人間失格であろう。
しかも、日本では家畜の飼料も9割近くが海外依存でまったく足りていない。コロナ禍で不安が高まったが、海外からの物流が止まったら、肉も卵も生産できない。飼料米の増産も不可欠なのである。さらに、海外では米や食料を十分に食べられない人たちが10億人近くもいて、さらに増えている。
つまり、日本が米を減産している場合ではない。しっかり生産できるように政府が支援し、日本国民と世界市民に日本の米や食料を届け、人々の命を守るのが日本と世界の安全保障に貢献する道であろう。某国から言いなりに何兆円もの武器を買い増しするだけが安全保障ではない。食料がなくてオスプレイをかじるのか。農は国の本なり。食料こそが命を守る、真の安全保障の要である。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年03月16日
みどり戦略 論語と算盤で 消費者 農への参画を 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
気候変動やさまざまなリスクに対応する新たな食料生産の柱として、農水省は5日、「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめを発表しました。積極的な環境対策は、国際的な立場においても欠かせないもので、新しい食料戦略は、東アジア地域の農業のこれからを示すことになります。
具体的には、農林水産業の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにすること。化学農薬を5割、化学肥料を3割、使用量を減らすこと。そして、有機農業を2050年までに全耕地面積の25%(100万ヘクタール)に拡大するなどが挙げられます。
目標25%の数値は欧州連合(EU)と同じですが、EUは現在7%の有機農地を30年に25%にしようというもの。これに対し日本は現在0・5%(2万3500ヘクタール)ですが、約30年かけて目標を達成しようというもので、実現に向けてスマート技術などによる新技術や新品種の開発を盛り込んでいます。世界のオーガニック市場は10年前の2倍の10兆円規模と拡大の一途であり、国の成長戦略としても欠かせません。
みどり戦略の掲げる「生産力と持続性の両立」で思い出すのは、渋沢栄一の「論語と算盤」です。幕末から明治大正期に日本資本主義の礎を築いた父の言葉ですが、そろばん勘定の裏には、論語に裏打ちされた商業道徳がないと豊かな社会は築けない、つまりどちらも重要だという考え方です。埼玉県深谷の農村出身の渋沢が家業の藍生産と養蚕のビジネスから学んだように、自己と他者(環境)の利益をうまく合わせて三方良しにする「和」の精神は、農村文化の繁栄につながります。
そこで大事な経済との両立として、筆者が提案したいのは、消費者をいかに農へ巻き込むかです。「理解」だけでは、手間のかかる有機農産物のコストは回収できません。消費者に「農への行動」を促し、草むしり、虫捕り、あぜや用水の清掃に参画してもらうのです。援農ではなく、自分の健康のためにです。
新型コロナウイルス禍で、農への関心が増えると同時にストレスも増しています。時にはスマホを捨てて畑へ出ようを国民運動に一億総農ライフを促せば、規模の大小や認証の有無にかかわらず、有機農人口は増やせます。
人と人の出会いこそ、最大のイノベーションです。生産を知れば、心が動き、行動も変わり、新たな展開も生まれます。こうした農と食を結び直す架け橋になってこその協同組合ではないでしょうか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年03月09日
米国の大寒波で必需品不足 燃料・食 頼れるのは? 特別編集委員 山田優
米国南部が100年ぶりという寒波に襲われている。米メディアによると、被害の中心地テキサス州では、400万人以上が停電の中、猛烈な寒さや吹雪にさらされた。水道管は破裂。物流や交通は乱れ、小売り店頭から食料や水などの日用品が消えて混乱が続く。
農業被害も出ている。以前、取材で訪ねた同州ダラス近郊の「WAGYU」繁殖農家に連絡すると、牛が雪の中に閉じ込められ、出産直後の子牛が凍死の瀬戸際に追い込まれていた。火で雪を溶かし、飲み水を確保しつつ牧場の片隅までくまなく回り、大切な子牛の保護に追われていると話した。
同州に数カ月間住んでいたことがある。夏の激しい暑さの代わりに、冬の寒さはそれほどでもない。家畜は全て放牧され、舎飼いがなかったことが被害を拡大した。地球温暖化が記録破りの寒波をもたらしたと米メディアは解説する。
住民の命や財産が脅かされ、同州のアボット知事は先週の水曜日、発電燃料となる天然ガスの州外移送を停止し、地元発電所に優先して回すことを命じた。同州は天然ガスや石油が豊富。普段は地下資源ビジネスで潤っているものの、いざとなれば身内が最優先だ。
あおりを受けたのが国境線を挟んだメキシコだ。ただでさえ寒波で天然ガス輸入が混乱していたところに、テキサス州の輸出規制が追い打ちを掛けた。停電で主要産業の自動車工場の操業が止まるなど、メキシコ経済への打撃も広がった。
木曜日に記者会見したメキシコのロペスオブラドール大統領の口調は思ったより穏やかだった。
「寒さに震えるテキサス州の人たちの事情はよく分かる。私たちは報復なんかしない」と静かに語り掛けた。国民には「夜の明かりを減らしてほしい」などと冷静に節電を求めた。
左派に属する同大統領は、以前から地下資源産業の行き過ぎた規制緩和が国民生活を脅かすとして、長く続いた外資優先の政策転換を主張してきた。非常時に相手国が自分本位の行動をするのは想定の範囲だったのだろう。国民の不満をあおるのではなく、理詰めでエネルギー部門の安全保障の大切さを説明しようとする姿勢には好感が持てた。
関係の結び付きが強い隣国であっても、生活必需品不足が深刻になれば、「持てる国」は全く遠慮なく自分たちの事情を優先する。天然ガスであれ、ワクチンであれ、マスクであれ、そして食料であれ、本当に不足した時に頼りになるのは誰か。地球規模で相次ぐ気象災害や感染症の拡大が止まらない中、私たちはよく考える必要がある。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月23日
法律ができるまでの長い道 発揮する効果 検証必要 元農水省官房長 荒川隆氏
通常国会も1カ月が経過した。コロナ特措法改正を優先処理したため、実質的な審議期間が例年より短くなり今後の国会日程は窮屈だろう。農水省も提出予定法案を「不要不急」でない4本に絞り込んだ。
政策遂行の三大手法である法律は、予算、税制と同様行政が原案を作るが、国会での議決が必要だ。議員立法がまれな日本では、行政府である役所が業界の意向を聞き取り、所管物資の需給・価格動向を把握し、財政事情や政治情勢までも勘案して、法案の制定改廃の判断を行う。
法律の所管課長たる者は、前年秋ごろには「巡る情勢」を踏まえて法案提出の腹決めを行う。出すとなれば、「たこ部屋」と称される法改正専属の検討体制を整備し、所属員にとっては翌年の法案成立まで続く名誉だがつらく厳しい生活が始まる。年末年始返上で省内の法令審査官のチェックを経て、その後内閣法制局という「法の番人」の厳しい審査を受ける。何週間にもわたり、立法事実(なぜ法律改正が必要か)の有無や論理整合性、現実妥当性、前例の有無など、想定し得る論点を一つずつ精査し、内閣提出法案として閣議決定される。
その後は、法案を審議してもらうための手続きが待っている。閣議決定前に与党事前審査として農林部会、政審・総務会で了解をもらうと、いよいよ野党も含めた国会対応だ。会期は150日間だが審議は毎日行われるわけではない。衆・参農水委とも定例日は週3日だ。重複する曜日にはどちらがやるか、無理して午前と午後に分け合うかなどの調整が必要になる。野党が「寝る」ことで国会が止まることもしばしばだ。そんな中で自法案を一日も早く審議してもらうためのさながら根回し競争だ。
国会審議となれば、活躍するのが法制局審査で培われた膨大な審査録だ。およそ考えられるあらゆる質問に答えるべく想定問答集を準備し、局長室や大臣室で事前勉強会を行う。委員会の審議時間は、法案の大小や対決法案か否かなどで決まるので、野党にも賛成してもらえるよう説明を重ねる。わずか一こまないし数こまの委員会審議を経て本会議が終われば、晴れて法律が成立する。成立した法律の施行までには、さらに数カ月の経過期間が置かれるのが通例だ。
このように、法律ができるまでには役所と政治を巻き込む年単位のとても手間のかかるプロセスが必要なのだ。実際に法律が動きだせば、関係者の日々の経営や暮らしに直結する以上、必要な社会的コストだ。一時期、突出して多くの農政改革関連法案が連年国会提出された時期があったが、粗製濫造(らんぞう)のそしりを受けぬためにも、それらの法律が期待された効果を発揮しているかしっかり検証する必要があろう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月16日
種苗法 農産物検査法改定 食料 「囲い込み」懸念 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
種苗法の改定で終わりではなかった。国・県による米などの種子の提供事業をやめさせ(種子法廃止)、その公共種子(今後の開発成果も含む)の知見を海外も含む民間企業に譲渡せよと命じ(農業競争力強化支援法)、次に、農家の自家増殖を制限し、企業が払い下げ的に取得した種を毎年購入せざるを得ない流れができた(種苗法改定)。
これに、さらに農産物検査法改定が加わろうとしている。産地品種銘柄(都道府県が指定して検査体制を確保し、米の産地・品種・産年が表示できるようにする仕組み)を廃止し、自主検査を認め、未検査米に対する表示の規制を廃止するという。
米等級の廃止は、カメムシ斑点米対処のネオニコチノイド系農薬の削減につながる利点がある。一方、米検査の緩和は、さまざまな米の流通をしやすくする側面はあるが、品質保証に不安が生じるだけでなく、輸入米の増加(安田節子氏)や民間企業による米生産・流通の「囲い込み」の促進につながる懸念(印鑰智哉氏)も指摘されている。
農家の自家増殖制限と米検査の緩和が相まって、企業が主導して種の供給から米販売までの生産・流通過程をコントロールしやすい環境を提供する。種を握った種子・農薬企業が種と農薬をセットで買わせ、できた生産物も全量買い取り、販売ルートは確保するという形で、農家を囲い込んでいくことが懸念される。
都道府県とJAが産地品種銘柄を中心に主導する米流通は崩されていく可能性がある。そういう中で、積極的に、企業と農家との中間にJAが入ることによって、JAも集荷率を維持し、農家の不利益にならないような取引契約になるよう踏ん張れる側面もあるかもしれないが、種も肥料も農薬も指定された契約になると、「優越的地位の乱用」を許し、従属的関係に陥る危険もある。
本来、農協は共販によって取引交渉力の強い買い手と対峙(たいじ)して農家(ひいては消費者)の利益を守るためにあるが、各JAが企業主導の生産・流通に組み込まれてしまうと、そうした農協の役割が地域レベルでも、全国レベルでも、そがれてしまうリスクがある。
これは、農家・農協だけでなく、地域の食料生産・流通・消費が企業の「支配下」に置かれることを意味する。農家は買いたたかれ、消費者は高く買わされ、地域の伝統的な種が衰退し、種の多様性も伝統的食文化も壊され、災害にも弱くなる。予期せぬ遺伝子損傷などで世界的に懸念が高まっているが、わが国では表示もなしで野放しにされたゲノム編集も進行する可能性が高く、食の安全もさらに脅かされる。
JAとしての対応が問われるとともに、生産から消費まで、国民全体の食料安全保障の在り方が問われている。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月09日
「アグラボ」 ベンチャー支援 農家の笑顔を増やす 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
東京・大手町に2019年に開設された「アグベンチャーラボ(一般社団法人AgVenture Lab)」を訪ねました。これからの農業界に欠かせないベンチャー企業を応援しようと、JAグループが共同で立ち上げた機関で、ここでは「アクセラレータープログラム」を実施しています。投資や経済の世界では知られる用語で、「アクセル」の言葉通り、スタートアップ企業の成長速度を加速させるため、採択された企業に投資したり、協業したりして互いの発展を目指す仕組みです。
アグベンチャーラボのプログラムによりこのほど採択されたのは、農産物の取引業務をスマホで簡略化し、労働時間を削減し作業効率を上げる農業流通特化型サービスを提供するkikitori(東京)です。代表の上村聖季さん(33)は、大手商社から農業現場を経て青果流通に参入しました。電話やファクスによるやりとりで効率が悪く、働く人も疲弊している現場を新しい技術で改革しようとしています。
同じようにIT技術で農場の事務作業のスマート化に挑むのは、Agrihub(アグリハブ)の代表、伊藤彰一さん(33)。IT業界のエンジニアを経て、調布市の実家である野菜農家を継ぐ中で、手間のかかる農薬検索や管理から作業日誌まで付けられるスマホアプリを開発しました。既に1万人以上が会員登録して生産者には好評ですが、無料のため収益にはつながっていません。
実はこのシステムで作業効率が上がるのは、農家だけではありません。出荷先として農薬使用履歴の情報を農家に求めるJA側も、手で入力していた手間が省けるのです。デジタル化すれば、生産者もJAも労働時間が減り、ミスも防げ、作業効率が上がり、農業界のみんながウィンウィンになるというわけです。
伊藤さんはJAに有料でシステム導入を働き掛けていますが、ご存知のように、JAの営農部門は赤字の場合も多く、現場が望んでも、追加予算となると決裁には至りにくいそうです。
しかし一方で、導入に前向きなJAもあります。なぜなら、まず労働環境を良くすれば、人は増え、スマホを使いこなせる世代の就農にもつながるからです。新技術の導入は、結果的に自分たちの地域農業を、自農協も含めて好転させるという経営判断です。今、現場を担う人々が快適で居心地が良いと感じれば、おのずと人は集まります。農業現場の魅力アップは、今いる人々を笑顔にすることからではないでしょうか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月02日
生産国の穀類輸出制限 食料貿易 波乱の兆し 特別編集委員 山田優
新型コロナウイルス禍で「お正月はおとそ気分」とはなかなかならなかったが、食料貿易の現場も今年は緊張感の漂う年末年始だった。
きっかけはロシア。12月半ばに政府が突然「国内のパン価格を安定させるため輸出量を制限し、小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシに輸出税を課す」と発表した。官報によると、2月15日から6月いっぱい、小麦の輸出に1トン当たり25ユーロ(1ユーロ約125円)徴収することになった。
さらに先週金曜日になると、同50ユーロと倍額への引き上げが決まった。「25ユーロでは効果が小さいとロシア政府が判断したようだ」と穀物業界関係者は解説する。ここ数年、ロシアは毎年3000万トン以上を輸出する、ぶっちぎりで世界一の小麦輸出国だ。当然、世界に激震が走った。
今回の輸出規制は、昨年11月ごろから通貨のルーブル安が進み、国内のインフレ圧力が高まったことが理由とされる。食べ物の恨みは政治不安につながる。プーチン大統領が「食料の輸出を減らし国内に回せ」と首相に指示した。
トウモロコシや大豆でも波乱が起きた。アルゼンチン政府は年末ぎりぎりにトウモロコシの輸出制限を決めた。やはり国内消費者を優先させたいというのが理由とされる。こちらも3000万トンを超す大輸出国だけに騒ぎとなった。その後、農家の反発を受け、1日当たり3万トンまでの輸出を認めるなど同政府の迷走が続いている。
ワシントンにある国際食料政策研究所によると、昨年、19カ国が食料の輸出制限措置を発動した。その大半が世界貿易機関(WTO)への通報をせず、突然導入された。主に新型コロナウイルス感染の混乱防止が目的で、夏には解除されたところが多い。だが、今年になってロシアやアルゼンチンなど伏兵が現れた。
年明け、シカゴ先物相場はさらに急騰した。先週の米農務省発表で、米国内でトウモロコシや大豆の在庫が、市場予想を下回ったことが主な原因とされる。中国の旺盛な輸入意欲も一因だ。火に油を注いだのが、輸出大国による輸出規制であることは間違いない。
「ロシアなどの輸出規制によるわが国への影響は現時点で確認されていない」と農水省食料安全保障室の久納寛子室長は話す。確かに日本はこれらの国からあまり穀類を輸入していない。しかし、輸出規制が広がれば国際相場が値上がりし、日本へも影響は及ぶ。年明けから食料貿易に波乱の兆しだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月19日