論説
臨時の主治医 保健所支援策の参考に
新型コロナウイルスの流行が続く中、JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の医師が全国唯一の取り組みで奮闘している。感染して自宅などで療養している子どもを保健所に代わって電話で診察。患者の不安を取り除くとともに多忙な保健所職員を支えるのが狙いだ。全国の医療関係者も参考にしてほしい。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、新型コロナの患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し、労働時間が過労死ラインを超える保健所職員が目立つ。
こうした中、電話診察に当たっているのは小児科診療部長の田中敏博医師(53)。同病院が協力する静岡市保健所は、コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康を観察。1人につき確認事項が10項目以上ある。対応している保健師は数人で、一人一人に丁寧に向き合うのは難しいという。
きっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症で、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。日本小児科学会の考えに準じた。自宅療養だと主治医と相談しにくくなる。子どもの不安を払拭(ふっしょく)するために田中医師は「電話などで対応できる臨時の主治医が必要だ」と提案し、自ら診察を買って出た。
昨年10月、診察を本格的に開始。2月17日までに、濃厚接触者を含む15歳以下の55人と、保護者ら52人を診察した。診察時間は朝夕の1日2回。直接対面で初診した後、療養する自宅などに連絡し、体温、心拍数、病状などを確認し、悩みなども聞く。田中医師は「全国に広まればうれしい」と話す。
同病院は「病院としてこの動きを応援したい」(桑原吉英事務長)考え。JA全厚連も「田中医師の取り組みは保健所を支援するとともに、地域と厚生連病院の関係を深めることにつながっている」とし、注目する。
同保健所や田中医師には、県外の自治体などから問い合わせがある。また同市の開業医らでつくる静岡市静岡医師会がこの取り組みに賛同。臨時で主治医を引き受ける方向で市と協議している。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が協力すれば保健所の全国的な業務軽減につながるとの指摘もある。
ただ、この取り組みは、院内の医療スタッフや事務職員の協力が前提だ。新型コロナの流行で医療現場も逼迫している。自宅などで療養する患者に安心感を与えながら、保健所の業務をどう軽減するか。地域の実情にあった対応が求められよう。
保健所の業務の逼迫は、行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが一因。保健所数は現在469カ所で、ピーク時の約半分に減った。「減らし過ぎた人員を増やすなどして、保健所の感染症への対応力を高めなければならない」(尾島教授)と言える。
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2021年02月28日
特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
警察庁のまとめでは、2020年の特殊詐欺の全国の認知件数は1万3526件で前年より20%減、被害額は277・8億円で同12%減だった。ただし同庁によると、高齢者を中心に被害が高い水準で発生。また、1件当たりの被害額は214・8万円で同9%増と高額になっており、依然深刻な状況だ。
金融機関ではさまざまな対策を取っており、JAも同様だ。地元警察と連携した注意の呼び掛けでは、地域住民らの関心を高めるために、ちらしなどと一緒に特産品を渡したり、青年組織や女性組織と協力してマスクなどの小物を配ったりするなど工夫を凝らした取り組みも盛んだ。また金融担当職員の研修を行い、それを生かして実際に被害を防ぎ、警察から感謝状を贈られた職員も多い。
しかし詐欺の手口はその時の社会情勢などを反映して、変化している。同庁によると、昨年は「新型コロナウイルス感染症関連の給付金がある」と偽り、通帳などを受け取るなどコロナ関連の特殊詐欺が55件発生。うち2件は未遂に終わったが、53件で約1億円の被害が出た。
金融窓口を通さない手法や、職員が気付きにくい金額をだまし取ろうとする事例もあった。
島根県のJAしまねでは、子会社が運営するコンビニの店長が架空請求詐欺を防いだ。来店した高齢者が、身に覚えのない請求があり20万円分のプリペイドカードを買って支払うよう言われたと話したことで詐欺の疑いが浮上。警察に通報した。機器の操作に戸惑っていたため声を掛けたことがきっかけだった。
三重県のJAみえきたでは、12万円を出金しようした高齢者が窓口での雑談中に支払い請求のはがきが届いたことを話題にしたことから、職員が詐欺を疑い被害を防いだ。本人確認が必要な金額ではなく、別の通信販売の支払いを抱えていたため、本人は詐欺と気付かなかった。
いずれも、JAが職員らに研修を受けさせるなどして、日頃から対策を取っていたことが奏功した。JAでは、詐欺防止の研修は日常的になっている。しかし金融窓口以外を利用したり、支払わせる金額を少なくしたりするなど、詐欺グループは新たな手口を使ってくる。詐欺を防いだ事例では、来店者の困った様子や普段と違った行動、ちょっとした会話などから詐欺を疑っており、組合員・利用者と職員の日頃からの関係や、研修を基にした気付きが大きい。
JAの職員らは、特殊詐欺を防ぐ「最後のとりで」である。技能を磨き、地域の安全・安心に一層貢献してほしい。
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2021年02月27日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日
農地所有法人要件 無理筋の緩和を許すな
農地所有適格法人の議決権要件緩和の是非を巡る規制改革推進会議での検討は、期限まで1カ月余りとなった。同会議が意見を聞いた農業関連法人からは、法人買収や農地転用へ懸念が指摘された。同会議には、株式上場の解禁を視野に要件緩和に誘導しようとの思惑が透けて見えるが、無理筋である。
推進会議の検討課題は、農業法人が円滑に資金を調達する方策である。政府が規制改革実施計画に盛り込み、今年度中に検討し結論を出すとした。
同適格法人の要件について推進会議では①2分の1未満としている農業関係者以外の議決権制限の緩和②株式上場の解禁──の是非が焦点化。農外出資を拡大しやすくするのが狙いだ。これらを認めれば一般企業が経営を支配し、農地を事実上取得できるのと同じになる。
農水省の調査では、農業法人の資金調達の主体は融資だった。同省は、出資による資金調達の課題として、農外議決権を2分の1未満まで認めていることと議決権のない株式の活用が知られていないことを挙げる。これは、現行制度の下でも出資を増やせることを示している。
推進会議の農林水産ワーキンググループ(WG)が昨年12月に行った農業関連法人3社からの意見聴取でも、農業は制度資金が充実し、融資で資金を調達しやすいとの見方が強かった。一方、議決権要件などを緩和すると同適格法人が買収され農地が不正転用されるケースが出てくる可能性とその対策の必要性や、外国資本に支配されれば食料安全保障上問題になることなどについて指摘があった。
WGの委員からも質問の形で、敵対的買収で外国企業に買われることや、企業撤退後の農地荒廃への懸念が示された。
しかしWG座長の佐久間総一郎日本製鉄顧問は、意見聴取後に「選択肢として、上場していく道をもう少し整備することが重要」とまとめた。親会議の推進会議でも「(制度資金は)補助金。これは長続きしない、競争力がつかない」と、出資拡大方策へのこだわりを見せた。
国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業の農地取得特例の全国展開を関係閣僚の慎重論や与党の反対論を無視し、特区諮問会議の民間議員がごり押ししようとしたことと重なる。
われわれは、農家や、農業者主導の同適格法人といった地域に根差した農業経営に農地所有は限るべきだと主張してきた。農地は地域の貴重な資源であり、農地や水の利用調整をはじめ地域と調和し、農業振興や、自らの暮らしの場である農村の維持・活性化への役割発揮が所有者には求められるからだ。
同適格法人の議決権要件などの緩和は、一般企業による経営支配に加え、農地の資産価値に基づく投機の対象化や、実質的経営者が分からなくなることなどにつながる恐れがある。資金調達の方策は、法人の要件とは分けて論議すべきである。
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2021年02月24日
国連食料サミット 国民合意の日本提案に
国連食料システムサミットが9月、米国ニューヨークで開かれる。新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した食料の生産供給網の再構築や、気候変動対応などがメインテーマになる。今後の貿易ルールに影響を及ぼすことが考えられる。日本は国民合意の提案を策定し、積極的に関与すべきだ。
同サミットは持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための「行動の10年」の一環。グテレス国連事務総長が主催する。各国の首脳や閣僚、有識者、科学者、市民代表らが参加する。
SDGsには17の目標があるが、「貧国をなくす」と「飢餓の撲滅」はコロナ禍で達成が危ぶまれる状況だ。飢餓人口は増加に転じた。国連は同サミットを「全てのSDGsを達成するための世界の旅の分岐点になる」と協力を呼び掛ける。
主な課題は①量・質両面からの食料安全保障②食品ロスの削減など食料消費の持続可能性③環境に調和した農業生産の推進④農村地域の収入確保⑤食料供給システムの強靭(きょうじん)化──だ。それぞれでゲームチェンジャー(状況を変える突破口)となる提案を各国に求めている。日本は現在、農水省が「みどりの食料システム戦略」の取りまとめ作業を進める。夏にローマで開かれる準備会合に向け、5月の策定を目指す。
多岐にわたる課題の中で、特に注視すべきなのは環境対応だ。地球温暖化の国際ルール「パリ協定」と連動する形で、農業・食料分野での積極的な貢献を意識した議論になりそうだ。米国の同協定復帰や日米の温室効果ガス「2050年実質ゼロ」表明により弾みがつき、その波は農業にも及ぶとみるべきだ。世界の同ガス排出量の4分の1を農林業関連が占めている。
気候変動対応で世界をリードする欧州連合(EU)の動きが出色だ。昨年5月、「農場から食卓へ(Farm to Fork)」と題した新戦略を打ち出した。肥料農薬の使用抑制や畜産飼料の脱輸入依存、有機農業の拡大などで数値目標を設定、一段と環境重視型農政にかじを切った。「地球の健康を守りながら食の安全を保障する新しいシステム」(欧州保健衛生・食の安全総局)とし、市民の支持を得られると自信を見せる。
EUはこうした規律を2国間貿易協定などに適用する姿勢だ。これに対し米国は「農業生産を低下させ小売価格の上昇をもたらす」(農務省)と批判、さや当てが始まっている。日本も「諸外国が環境や健康に関する戦略を策定し、国際ルールに反映させる動きが見られる」(農水省)と注視。みどりの食料システム戦略づくりを急ぐ。
その際重要なのは、国民の関心の高まりだ。政府は農業者、消費者、企業、市民社会を巻き込んで、望ましい食料生産流通の将来像について合意形成に尽くすべきだ。それでこそ日本の提案に「魂」が入るだろう。
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2021年02月23日
国産麦に過剰感 増産に出口戦略不可欠
食料自給率の向上を目指して政府は、小麦など国産麦類の増産の旗を振る。しかし2年連続の豊作で過剰感があり、価格にも影響が出ている。麦作の安定には、新たな需要を開拓する出口対策が急がれる。
農水省によると4麦(小麦、二条大麦、六条大麦、裸麦)の作付面積はこの数年微減または横ばいだが、2019年産は豊作で、収穫量は小麦が前年産比36%増の103万7000トン、大麦・裸麦が同27%増の22万3000トンだった。20年産も豊作で、例年より国産在庫が多い。
過剰感は価格にも影響。全国米麦改良協会のまとめによると昨年9月の21年産国産小麦の播種(はしゅ)前入札では、平均落札価格が前年産比12・8%安と、上げ基調から一転した。輸入麦の価格低下にも引っ張られた。大麦・裸麦も販売で苦戦。二条大麦も、1月時点で「精麦業者などが19年産の在庫を抱え、20年産の荷がまだ動いていない」(JA関係者)という。
一方、食用麦は小麦で約9割、大麦・裸麦で約8割を輸入している。食料・農業・農村基本計画で政府は、30年度までに小麦を108万トン(18年度76万トン)に、大麦・裸麦を23万トン(同17万トン)に増やすとの生産目標を定めている。しかし、21年産でも過剰感が解消されなければ、今秋播種する22年産の作付けに影響しかねない。官民挙げて、輸入麦から国産への切り替えを強力に進めるべきだ。それには需要と供給のミスマッチの解消が求められる。
例えば小麦。タンパク質含有量の高い順にパン用(強力粉)、中華麺用(準強力粉)、うどんなど日本麺用(中力粉)、菓子用(薄力粉)に分かれる。国産は8割強で中力粉、薄力粉向け品種が栽培され、消費量の多い強力粉、準強力粉向けは少ない。輸入麦との価格勝負は難しく、需要に応えられる生産・供給体制の構築が必要だ。
中華麺用の福岡県の硬質小麦「ラー麦」(品種名=「ちくしW2号」)は、実需と一体で県や産地が栽培技術を確立したことで新たな需要を開拓した。生産が拡大するパン用小麦も同様だ。健康志向の高まりで裸麦やもち性大麦(もち麦)の需要も伸びている。需要を見極めた品種・品目の選定と、それに応じた栽培技術の導入が麦作経営を安定させる常道である。
西日本では、米麦・大豆を柱とする土地利用型農業を集落営農組織が担う地域が多い。21年産米では主食用米からの品目転換に加え、酒造好適米の減産も重くのしかかる。過剰感から麦類の生産意欲も低下することになれば、大規模な不作付けが起こりかねない。
政府は、需要を捉えた生産拡大と安定供給の実現に向けて「麦・大豆増産プロジェクト」を推進。団地化と営農技術の新規導入、備蓄倉庫の整備、産地と実需とのマッチングや新商品開発などを支援する。成果を早期に上げることが重要だ。
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2021年02月22日
地域包括ケア “JA版”の構築急ごう
介護保険制度の2021年度介護報酬改定では、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支援する地域包括ケアシステムを推進する。JAには、総合力を生かしてシステムの構築をけん引し、地域の安全と安心を守る役割を果たすことを期待したい。
20年の要介護(要支援を含む)認定者は669万人で、00年の介護保険制度創設時と比べて3倍に増加した。団塊の世代の全てが75歳以上となる“2025年問題”に向けて、制度の強化・充実は待ったなしである。しかし、社会保障財政の逼迫(ひっぱく)や、介護業界の慢性的な人手不足など課題は山積している。
20年は、新型コロナウイルスの流行による利用控えの影響から、介護サービス事業者の倒産件数が118件と過去最多となった。こうした状況を踏まえ、21年度の介護報酬は0・7%引き上げるプラス改定とし、事業者を支援する。
今回の介護報酬改定で力を入れるのが、地域包括ケアシステムの構築である。地域の中、いわゆる日常生活圏域内で、住まい、医療、介護、予防、生活支援を総合的に提供する体制をつくる。
健康なときは体操教室や老人クラブなどに参加して介護予防をし、介護が必要になったらデイサービスなど介護保険事業を利用、病気になったらかかりつけ医へ、そして退院後は訪問診療・看護を自宅で受けられるようにする。高齢者の心身の調子は変化しやすい。いつ、どんな状況になっても、住み慣れた場所で暮らせる仕組みで、安全と安心を守る。
この仕組みづくりではJAが核となり、“JA版地域包括ケアシステム”の実現を急いでほしい。厚生連から、女性部や助け合い組織を中心としたボランティア活動まで、JAはシステムを構築できる体制と人材を持っているからだ。
同システムを既に実践しているJAもある。JA山口県グループ会社のJA協同サポート山口は、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを提供するのと併せて、JAの支所を拠点とした体操教室などで地域住民の交流の場をつくる。各施設の整備には、統合で廃止となった支店を活用することでコストを抑える。また、介護保険事業で少しでも収益を出し、収益の出ない活動を支えている。JAならではの総合力を柔軟に発揮することで、運営を維持する好例といえる。
介護保険事業だけを受け皿にするのではなく、地域を挙げて包括的なケアシステムをつくるには、組合員や地域住民とつながりが深いJAが先頭に立つことが求められよう。地元の高齢者を守るJAは、その家族である次世代にとっても魅力的に受け止められるだろう。超高齢化が進む農村にとってなくてはならない存在になるには、介護分野の強化が鍵を握る。
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2021年02月21日
命守る経営 安全は全てに優先する
春の農作業安全運動が始まる。毎日平均1人が農作業で命を落とす状況が半世紀も続く。異常事態だ。農水省は、高齢者の農機事故に焦点を当て、業界ぐるみで事故撲滅を目指す。あなたと家族のために、命を守る経営を全てに優先しよう。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
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2021年02月20日
ジャンボタニシ 被害削減へ対策徹底を
2021年産の米作りに向けて、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策が大きな課題となっている。地球温暖化が進む中で近年被害が拡大、20年産米では30を超える府県で確認された。寒い時期に水田を耕うんするなど今から対策を徹底し、被害を抑え込みたい。
ジャンボタニシは長い触覚とピンクの卵塊が特徴の巻き貝。田植え後3週間までの軟らかい稲を食害する。寿命は2、3年。南米原産で、食用として日本に持ち込まれ、野生化した。
被害は近年、深刻の度を増している。農水省によると、面積は分かっていないが、20年産では31府県で被害を確認した。温暖化で越冬しやすくなったことが影響しているとみている。
以前から被害があった九州や四国では対策を講じている産地も少なくない。だが、被害が少なかった地域では、まだ対策を取っていない産地もあり、被害が広がったという。
被害を減らすには何をすべきか。やはり基本的な対策の徹底が一番である。
同省が昨年10月に発表した防除対策マニュアルによると、特に重要なのが1、2月の水田の耕うんだ。ジャンボタニシは寒さに弱く、土に潜って越冬する。耕うんすることで貝を壊したり、寒風にさらして殺したりすることが有効だ。また、田植え前には貝の水田への侵入を防ぐために取水口・排水溝に網を設置し、田植え後には貝の動きを鈍くするために浅水管理(水深4センチ以下)をすることなども重要である。被害を抑え込むためにしっかり取り組みたい。
ただこうした対策には一定の手間やコストがかかる。そもそも基本的な対策に必ずしも取り組めない産地もある。例えば、滋賀県認証ブランド米「魚のゆりかご水田米」を生産する野洲市などだ。生態系との共生を目指し、琵琶湖の魚が遡上(そじょう)して水田で産卵できるようにするのが特徴で、浅水管理は難しい。取水口・排水溝への網設置も、魚が入って来られなくなるため使えない。
自分たちができる対策を組み合わせ、いかに効果の高い防除体系を構築するか。被害に悩む近畿地方の各産地は相次いで試験に乗り出している。前述の野洲市では23の実証圃(ほ)を設け、冬の低速耕うんと田植え期の農薬散布を組み合わせた防除の試験を進めている。こうした産地の取り組みを政府は、被害削減の成果が上がるまで息長く支援すべきだ。
政府は20年度第3次補正予算と21年度当初予算案に、ジャンボタニシなどの病害虫対策費を計上。各地域に適した防除体系の実証に取り組む自治体やJA、農家グループなどに対し、農薬代や作業員の人件費などを半額補助する。積極的に産地に周知し、活用を促してほしい。
防除の機運を高めるには、面積をはじめ詳しい被害状況の把握が必要だ。政府には本腰を入れて調べてもらいたい。
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2021年02月19日
論説アクセスランキング
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イチゴ狩りの時季 安全・安心な「新様式」を
イチゴ狩りのシーズンを迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、厳しい環境でのスタートである。こうした中、感染防止の基本対策や指針を整備する動きが広がる。生産者で共有・徹底し、安全・安心なイチゴ狩りを提供するコロナ下での「新様式」を確立しよう。
観光イチゴ園が盛んな千葉県では、年明け~5月の連休がシーズン。コロナ禍で前季は4月半ばに営業自粛を強いられ打撃を受けた。今季に向けて県、生産者組織の県いちご組合連合会、県園芸協会は7月に対策の検討に着手。専門家の助言を受けて9月にまとめ、11月に研修会を開いて生産者に周知した。
必須事項では、マスク着用、一定の距離の確保、販売時の試食中止といった対策を挙げた。極力取り組んでほしいことでは、摘む場所と食べる場所を分けることを提案。摘み取りの最中にマスクを外し、食べながら話すことが感染リスクを高めるためだ。収穫だけで持ち帰ってもらう方法も示した。研修を受けた生産者の一人はハウスに机を置き、摘み取りと食べる場所を分ける考え。「摘んでから移動して食べてもらう分、制限時間を延長する予定だ」と話す。
神奈川県のJAはだのは、観光イチゴ園の感染症対策ガイドラインを作った。統一的な指針で農園の対策を支援し、来園者にも安心してもらうのが目的だ。青年部の要望を受け、生産者や県農業技術センターと協議して決めた。農園の取り組みでは、施設内の定期的な消毒や換気、非接触型の支払い方法の導入など12項目を設定。来園者に行ってもらう内容もまとめ、「手に取ったイチゴは必ず収穫する」「食べ終えたイチゴのへたはごみ袋に入れて密封する」といった内容を盛り込んだ。
生産者や従業員、来園者を守るには、こうした指針の周知と着実な実行が欠かせない。同JAは、農園の対策を記したポスターと来園者に協力を呼び掛けるポスターを作成。農園に掲示してもらい、ウェブサイト用にデータも提供する。「各園が独自の対策を進めているが、統一的な指針で来園者に安心感を持ってもらえれば」とJAは話す。
イチゴ狩りは、国産果実が少ない冬から春に楽しめる人気観光スポットだ。今季は、新型コロナの第3波で、国の観光支援策「GoToトラベル」も一時停止という厳しい中で始まる。現段階では感染防止対策の徹底が、地道だが着実な方法だ。安全・安心を提供できるよう農園はもとより、来園者にも協力を求め対策を双方で徹底しよう。
観光農園の統一的なガイドラインを、農のふれあい交流経営者協会が作った。参考にしたい。ワクチン接種が始まってもいつ終息するかは不透明だ。森林開発やグローバル化、都市への人口集中などで感染症が発生、拡大しやすくなっているとされる。ウイルスと共存せざるを得ないことを念頭に置いた対応が観光農園にも求められる。
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2020年12月25日
2
[コロナ以後を考える] 食料自給率の向上 草の根の行動広げよう
わずか、38%。1965年に73%だった食料自給率は55年間で半減してしまった。自給率の向上がなぜ必要か。どうすれば高まるか。農家は当事者意識を一層高め、国産回帰の大切さを改めて認識し、行動しよう。
新型コロナウイルスの感染拡大で外食や土産物需要が落ち込み、小豆や酒米、乳製品などさまざまな農産物の在庫が膨らんだ。保管が可能な穀類などは過剰在庫を早急に解消しなければ、需給緩和と価格低迷は長期化する。しかし特効薬はない。
食料・農業・農村基本計画は、2030年までに自給率を45%に高める目標を掲げる。一方で生産しても需要の減少で過剰在庫を抱え、一部作物では保管する倉庫すら逼迫(ひっぱく)。生産現場からは、自給率目標は「絵空事のように映る」(北海道十勝地方の農家)との声が上がる。自給率目標45%を政府は2000年に初めて設定したが、高まるどころか低下してしまった。自給率向上の糸口を今年こそ見いだしたい。
異常気象や災害の世界中での頻発や、人口増加、途上国の経済発展、そしてコロナ禍で見られたような輸出規制などを踏まえれば、いつでも安定的に日本が食料を輸入できるわけではないことは明白だ。国内農業の衰退は国土保全や農村維持など多面的機能の低下も招く。
自給率の低迷は、食料安全保障の観点からも国民全体の問題だ。一方、その向上には需要の掘り起こしと、それに見合った生産の増加が不可欠で、農家が一翼を担う。
自給率向上のヒントとなるのが北海道の取り組みだ。道内の米消費量に占める道産は、90年台は37%だったが、19年度は86%まで高まった。道目標の85%を8年連続で上回る。生産振興とともに、地道な消費拡大の活動を長年続けてきたことが成果に表れた。小麦も外国産から道産に切り替える運動を展開。道民の小麦需要に対する、道内で製粉した道産割合は5割前後となった。地元産だけを使ったパン店などが人気で、原料供給地帯でも地産地消の流れを育む。
コロナ禍でも地元消費の動きが目立つ。例えばJA浜中町女性部。脱脂粉乳の在庫問題を契機に牛乳消費拡大からバター、スキムミルクなど乳製品の需要喚起に活動の軸足を移し、乳製品レシピを町民に配布。地域内での需要拡大を目指す一歩だ。
他にも施設などに道産の花を飾ったり、インターネットなどでJA組合長が牛乳や野菜の簡単調理を紹介したりといった取り組みを道の各地が進めた。地産地消を広げようと農家が知恵を絞り、消費の輪を広げる活動だ。JAグループ北海道がけん引役を担い、農家や農業のファンを増やす運動も昨年始めた。
自給率向上は政府の責務であり、十分な支援が必要なことは言うまでもない。ただ、農家の草の根の行動が大きな力になる。自分や仲間でできることを実践することが一歩になる。
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2021年01月04日
3
学給に有機農産物 農業の未来開く端緒に
農水省は、有機農産物を学校給食に導入するための支援を始めた。販路の確保が狙い。自治体とJAは率先して取り組み、有機農業を核に地域農業の展望を開く端緒にしてほしい。
有機農業を推進する国の予算は今年度が1億5000万円で、前年度を5割上回る規模となった。有機農業による産地づくりと、販売先を確保する市町村と生産者らの取り組みに助成。新たな販路として、学校給食を位置付けた。
国内の有機農業の取り組み面積はわずか2万3000ヘクタール。耕地面積の0・5%にすぎない。栽培の基本技術が生産者に伝わっていない、労力がかかる割に収量や品質が不安定、期待する販売価格水準となっていない――ことなどが、原因に挙げられる。作っても販路がなく、生産を諦める農家も少なくない。
一方で有機農産物を扱う流通業者は増えている。新規の専門スーパーや有機宅配業者が参入。流通加工業者の4割が需要は拡大すると答えた調査もある。ただし、扱う条件の第一は「1年を通し一定量が安定的に供給されること」。この条件を乗り越えなければ国産有機農産物の需要は高まらない。
まず、まとまった量を確保できる産地だと地元で認められ、信頼を得た上で、外部で販路を開拓するのが堅実だ。学校給食を糸口とすれば社会的な評価も高まり、消費拡大につながるのは間違いない。そのモデルが千葉県いすみ市である。
市内の小中学校の給食に使う米の全量42トンは、農薬、化学肥料を使わない地元産の有機米「コシヒカリ」だ。8年前まで有機米の栽培は皆無だった。それが現在は100トン近くを生産。JAいすみは県外の有機専門店に販路を広げ、一層の生産拡大を目指している。買い取り価格は有機JASが60キロ2万3000円、有機に転換中は同2万円。収量の減少分をカバーし、再生産可能な価格とした。生産者は安心して栽培が続けられ、産地が形成された。
給食で子どもに食べてもらう意義は大きい。小学生は田んぼの生き物を調べ、学校田で有機稲作を体験する。教育効果は大きく、生産者には米作りへの自信や張り合いが生まれている。
地域農業は高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大といった課題に直面している。新規就農希望者には有機農業を志す若者が多い。いすみ市ではこうした移住者が増え、有機野菜を栽培して学校給食への供給を担い始めた。稲作主体の大規模経営と、野菜中心の小規模家族経営が共に有機栽培に取り組んでいる。多様な農業経営が共存する地域農業の姿の一つだろう。
農水省の支援事業を活用するには、市町村とJA、農業者が協議会を立ち上げる必要がある。有機農業は特殊な農業でない。環境と経済を両立させる今日的価値のある農業だ。農業への国民理解も深まる。少量でもいい、一歩を踏み出そう。
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2020年09月22日
4
野菜の相場低迷 経営安定対策の拡充を
野菜相場が低迷している。天候不順で近年は乱高下しやすくなっており、今年は新型コロナウイルスの影響が重なった。安定供給には農家の経営安定が重要だ。豊作時の暴落と不作時の暴騰を防止・緩和する施策と経営安定対策を拡充すべきだ。
主要野菜14品目の12月上旬の1キロ価格は99円(各地区大手7卸のデータを集計した日農平均価格)だった。過去5年間では、旬別で2番目の安値だ。
野菜相場は10月まで堅調に推移していたが、11月に展開が変わった。全国的な好天で各品目とも生育が進み、潤沢な出回りとなった。一方、外食を中心としたコロナ禍での業務需要の減少や、スーパーでの試食宣伝の制限などで厳しい販売を強いられている。顕著なのが重量野菜で、ダイコンやハクサイは平年の4、5割安となっている。
野菜の価格低迷時の対策で代表的なのが、収入保険と野菜価格安定制度だ。収入保険は全ての農産物が対象で、青色申告をしていることが要件。1年間の収入額が基準の9割を下回ると、下回った額の9割を上限に補填(ほてん)する。
野菜価格安定制度は、キャベツなど指定野菜14品目を対象に平均販売額が補償基準価格を下回った場合、差額の9割を上限に補填する。同省は、収入保険に初めて加入する場合、同制度との同時利用を21年1月から特例で1年間できるようにした。
収入保険は、コロナ禍による農業経営の損害に対応でき、関心が高い。また野菜価格安定制度は、産地育成や計画的な生産を促すなどの効果が見込める。
JAグループは、21年度の青果対策で国に①野菜価格安定制度の維持と安定的運営のための十分な予算の確保②緊急需給調整事業を含め需給安定化に取り組む産地への支援の拡充③野菜価格安定制度と収入保険の同時加入の特例措置の拡充・恒久化──をはじめ、経営安定のためのセーフティーネット(安全網)の拡充などを求めている。
野菜を巡る環境は不安定要素が多い。近年は台風が相次ぐなど天候不順の影響を受けやすい。また、大型の貿易協定の発効が相次ぎ、加工品を含め関税が削減・撤廃される。11月には地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。冷凍などを含め野菜の対日輸出が多い中国、韓国との初の協定だ。対韓国では基本的に野菜は除外し、対中国でも重要な品目の多くを除外した。しかし段階的に関税を削減・撤廃する品目もある。影響を注視する必要がある。
コロナ禍により家庭で食事をする機会が増え、国産野菜を安定供給することの重要性が改めて確認された。また食料・農業・農村基本計画に政府は、米の生産調整で野菜など高収益作物への転換を図る方針を明記。野菜の生産量を30年度までに、18年度比で15%増やす目標も掲げた。安定生産には生産基盤の強化とともに、安心して生産を続けられる体制の整備が必要だ。
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2020年12月15日
5
米不作と転作拡大 営農継続できる政策を
2020年産水稲の作柄(9月15日現在)が、西日本では平年並みを下回る県が多い。トビイロウンカの発生や台風が影響した。過剰の見通しから21年産で国は、大幅減産が必要になる適正生産量を示した。水田は農業だけではなく、暮らしを支える基盤だ。営農継続に希望が持てる米政策を求めたい。
西日本の20年産米は、過去10年で最悪といわれるトビイロウンカの大発生や、九州を中心に9月に接近した二つの台風などの被害を受けた。特に山口県は作況指数83の不良となった。九州北部も作況が落ち込んだ。
茎から養分を吸い、稲を枯らすトビイロウンカは13、14、19年にも大発生し、13年の被害見込み金額を農水省は105億円と試算する。20年は11府県が警報を出し、過去10年で最多。注意報を含め24府県が防除の徹底を呼び掛けたが、田の一部が枯死する「坪枯れ」だけではなく、全面が枯れた田が多発した。
トビイロウンカはベトナム北部で周年で発生し、春に中国に移動して増殖、南西風に乗って日本に飛来する。今年は、中国での発生が多い上に、長梅雨で飛来数も多かったことが、日本での大発生の原因とされる。
米作りはウンカとの闘いでもある。享保17(1732)年の大飢饉(ききん)は有名で、江戸時代から国を挙げて対策をとる。防除の歴史は長いが、気候によって飛来数が変わるため、トビイロウンカは発生量の予測が難しい。近年は中国やベトナムで防除薬剤が普及し、薬剤耐性を考えた防除が求められる。
国は、21年産の主食用米の適正生産量を679万トンに設定した。20年産の生産量よりも56万トン、面積換算で10万ヘクタール程度の減産が必要になる。病害虫や気象災害と闘い、それでも不作となったことで農業者は心をすり減らしている。大幅な転作拡大だけが迫られると、営農意欲の減退を招きかねない。
農業者の高齢化や労働力不足に加え、病害虫や気象災害の頻発などで米作りの環境は厳しい。中国地方では、作り手の不足で米の作付けが減る地域も出ている。耕作が放棄されれば地方の基幹産業である農業が衰退し、地域経済も冷え込む。
水田は地域社会にとっても重要だ。豪雨被害が増え、治水対策の一つに「田んぼダム」が注目される。一時的に大雨を水田に蓄え、下流への急激な水の流れを遮断する。貯水機能を高める取り組みだ。水田の多面的機能の低下は暮らしを脅かす。
国が推進してきた飼料用米や飼料用稲の生産が、トビイロウンカ発生の一因との指摘もある。コストを抑えるため、見回りや防除が不十分になるという。
米価の安定には転作拡大は避けられない。しかし地域の経済・社会を維持するためにも、水田を荒廃させてはならない。米政策を巡る政府・与党の論議が本格化する。主食用米と転作を通じて、安心して水田農業ができる支援策が必要だ。
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2020年10月25日
6
SDGsと農業 多様な連携で理解増進
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、企業や組織、団体などの間で連携が進む。農業分野では早くから、農業者やJAがSDGsに即した営農や事業を展開。地域ぐるみを含めて連携を拡大し、取り組みを広げよう。
SDGsでは「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」など、国連が2030年までに達成すべき17の目標を掲げ、16年から推進。目標の17が「パートナーシップで目標を達成しよう」。国や自治体、企業・事業者、団体、個人などさまざまな段階での連携の必要性を強調している。
政府はジャパンSDGsアワードを設け、先進的で優れた活動をする企業や団体を表彰している。昨年、内閣総理大臣賞を受賞した福岡県の魚町商店街振興組合は、商店街として「SDGs宣言」を行い、ホームレスや障害者の自立支援に取り組む。また飲食店などと協力、「残しま宣言」のステッカーを掲示し客に食べられるだけ注文するように求めたり、規格外野菜を販売したりして、食品ロスの削減や地産地消を推進する。
SDGsパートナーシップ賞を受賞した日本リユースシステムは、古着を回収し開発途上国に安価で提供する仕組みを構築した。回収用容器の利用者への発送は福祉作業所に委託する。途上国では選別・販売のための雇用を創出。事業として行うことで継続的支援につなげる。
同アワードの受賞者に限らず連携は進み、農業者と企業の間でも見られる。横浜市で肉牛と乳牛を飼養する小野ファームは、外食チェーンの東和フードサービスから、生パスタの製造で生じる端材の提供を受け、飼料として利用する。同社はコストをかけて端材を処分していたが、この食品リサイクルでSDGsの達成を目指しており、同ファームが一翼を担う。
企業などがSDGsを事業に取り込む背景には「エシカル(倫理的)消費」への意識の高まりがある。社会や環境などに配慮した商品などを購入する消費行動を指し、SDGsと重なる。消費者庁の19年度の調査では、同消費につながる商品などについて「購入経験があり今後も購入したい」「購入したことはないが今後は購入したい」が計81%で、前回16年度調査より19ポイント増えた。そうした商品の提供は企業イメージの向上につながるとの回答も80%で、企業価値を高めることも期待される。
農業分野は以前から、直売所による地産地消などを推進している。企業や団体との連携も進展。JAは、地場産を販売するインショップをスーパーや生協店舗に設置してきた。障害者らが農作業に携わる農福連携や、食品残さを原料にした飼料「エコフィード」の利用も進む。
SDGsの観点で営農や事業を捉え直し、目標達成を目指し拡大、深化させることが重要だ。農業の価値を高め、国民理解の醸成につなげよう。
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2020年12月13日
7
命のインフラ 地域食料システム築け
新型コロナウイルス禍は、安定的な食料生産・流通システムの重要性を改めて国民に突き付けた。災害や感染症などに備え、農業生産や物流が途絶えることがないよう地域の食料システムの構築を急ぐべきだ。
食料システムとは、生産、加工、流通、消費が、相互に関連し合う経済活動を指す。産地と消費地の距離が遠ざかる今、川下から川上をつなぐシステムが機能することが、重要な社会基盤となっている。食料システムは命のインフラと言っていい。
近年、東日本大震災をはじめ甚大な災害が相次ぐたびに、食料、電気、水道などのライフラインが寸断され、生活や産業を直撃してきた。中でも食料のサプライチェーン(供給網)が途絶えることは、命に直結する。
そこにコロナ禍である。感染リスクの高まりと人の移動制限は、人手不足にあえぐ農業生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにし、流通も苦境に陥れた。生産・流通現場の人々は、こうした危機にあっても、懸命にわが国の食と農を支えている。だが、「食料パニック」を防ぐには、現場の努力だけでは限界がある。
今回の事態を踏まえ、ナチュラルアートの鈴木誠代表は、日本農業新聞への寄稿で「1次産業から流通・物流・加工などまでサプライチェーンを一体化し、縦割りを超えた構造改革が不可欠だ」と指摘する。
大事な視点は、災害などのリスクを前提に、いかにレジリエンス(回復力)を強めるかだ。そこで参考になるのが、新山陽子立命館大学食マネジメント学部教授が提唱する「地域圏食料システム」構想である。新山氏は、本紙で「地域の状況にあった食料政策の立案、農業政策との結合」を提起。農業サイドだけでなく、食品製造、流通、給食事業者、自治体、生活者など食料システムに関わる全ての関係者が知恵を出し、解決策を探るよう促す。
災害時を想定し、生産から消費に至る流れがどこかで目詰まりしても地域内でバックアップできる仕組みづくりや、多様な応援態勢を、平時から準備しておくことが市民生活の維持には欠かせない。こうした「地域圏食料システム」の構築が、災害からの早期復旧にもつながる。
農水省は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などの観点から「みどりの食料システム戦略」の検討に着手。野上浩太郎農相は「今後、SDGsや環境への対応が重要となる中、農林水産業や加工流通を含めた、持続可能な食料供給システムの構築が急務」と述べ、来年5月ごろまでの策定を指示した。サプライチェーンの各段階で、技術開発や生産体系の見直しを進める考えだ。食料供給の危機管理としても有効な政策である。
気候変動や感染症などのリスクに備えた食料システムは、今や各国共通の課題である。日本からその先進モデルを発信していくべきだ。
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2020年11月12日
8
種苗法改正案 保護と権利 バランスを
今国会で審議中の種苗法改正案は、優良品種の海外流出を防ぎ、開発者の権利を保護することが目的である。一方で、登録品種の自家増殖に許諾制を導入することには、疑問や異論もある。知的財産の保護と農家の「種の権利」のバランスをどう取り、農業振興につなげるか、徹底審議を求める。
同改正案は先の通常国会に提出されたが、新型コロナウイルス対応などで審議時間が取れず、今国会に持ち越していた。衆院で本格審議が始まったが、改めて論点も見えてきた。
改正の背景には、日本が長年にわたって開発してきたブランド品種の海外流出問題がある。現行法では、正規に販売された種苗の海外への持ち出しは禁じられていない。改正案は、品種の開発者が、輸出先や栽培地域を指定できるようにし、違反した場合に育成者権の侵害を認定し刑事罰を問いやすくする。
こうした市中流通ルートに加え、農家の自家増殖にも許諾制の規制をかける。現在は登録品種であっても農家は原則自家増殖ができる。種や苗を次期作に使うことは国際的にも認められた「種の権利」である。現行法でも自家増殖した種苗の海外への持ち出しは違法だが、なぜ登録品種全般に許諾制の網をかけるのか。農水省は、品種開発者が増殖の実態を把握することで、流出時に適切な対応ができると説明。違法流出の立証が容易になり、刑事罰や損害賠償請求をしやすくなるとも指摘する。あくまでも流出防止のための規制で「種の権利」に対する侵害ではないとの立場だ。
だが、許諾制による管理強化がどれほど流出防止に実効性があるのか、国会審議を通じてさらなる説明が必要だ。欧米では、登録品種であっても主要作物の一部に自家増殖を認めるなど例外規定がある。日本でも柔軟な対応を求めたい。
流出防止の核心は、同省も認めているように輸出国での品種登録だ。海外での品種登録はコストや申請手続きなどハードルが高い。同省は登録経費の支援などを行っているが、海外での育成者権の行使に向け包括的な支援の充実こそ急務だろう。
農家が不安を抱く自家増殖の許諾料について同省は、営農の支障になる高額な設定にはならないと説明する。民間種苗会社も農研機構や都道府県の許諾料水準を参考にすると指摘。品種の太宗はこれまで通り自家増殖ができる一般品種であり、経営判断で選択できるとして不安を打ち消す。
だが企業による種苗の寡占化が進めば、将来負担増にならないと言い切れるのか。許諾料の上昇に対する歯止め規定も検討すべきだ。許諾手続きの事務負担が増えないよう簡素化や団体代行も進めたい。
改正案は「食料主権」に関わる内容を含むだけに、幅広い利害関係者の意見もくみ取りながら、将来に禍根を残さない慎重かつ徹底した審議を求める。
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2020年11月16日
9
中山間農業の支援 畦畔管理に焦点当てよ
高齢化と人手不足で、中山間地域では畦畔(けいはん)管理の困難さが増している。ロボット農機など技術革新は進む。しかし、小規模で未整備の水田をはじめ同地域の農業の課題は、科学の力だけでは解決できない。洪水防止を含む農業の多面的機能を正しく評価し、受委託の体制づくりなど畦畔管理に焦点を当てた施策が必要だ。
農水省によると、耕地面積に占める畦畔率は2019年が全国平均で4%。大規模化が進む茨城県は1・4%、北海道は1・6%と低い一方、中山間地域が多い中国地方は5県平均が8・9%で、岡山、広島、山口の3県は9%を超える。
畦畔率が高いほど作物を育てる面積は減る。10ヘクタール規模の経営なら農地に占める畦畔は北海道では16アールだが、広島県は94アールだ。規模は同じでも耕作面積に大きな差が出る。畦畔率が高いほど1区画当たりの圃場(ほじょう)も小さい。管理する圃場が多ければ、農機の出し入れなど作業の連続性が妨げられる。
除草など管理にも多くの労力が必要だ。中山間地域の畦畔は急傾斜が多く、農作業事故のリスクも高い。非効率で労力、時間、コストがかかる畦畔。企業なら一番に切り捨てられる不採算部門だが、自分の経営だけでなく地域社会にも影響し、管理は手抜きができない。雑草繁茂は病害虫の発生源になるばかりか、鹿やイノシシの隠れ場所として鳥獣害を助長する。畦畔がもろくなり、保水力の低下や土砂災害などの危険性も生じる。
中山間地域等直接支払いをはじめ日本型直接支払いの加算措置の拡充や、棚田地域振興法の制定など、中山間地農業の支援政策は進んできた。しかし畦畔管理にかける労力が不足している。特に地権者に管理を頼っていた集落営農組織では深刻だ。
日本版衛星利用測位システム(GPS)の整備などにより、農機が自動で高精度な作業を行うスマート農業が国の主導で実用化され、日本の農業は大変革期を迎えた。農業者が高齢化、減少する中、正しい選択の一つと言える。ただ、農業の課題の全てを解決するのは難しい。
また、利益追求型の企業的農業を志す農業者もいれば、伝統や文化、先祖から受け継いできた土地を守り、家族と過ごすことを大切したいと考える農業者もいる。求められるのは、どこでも農業が続けられる環境だ。
農地は、食料生産の他、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、環境保全、良好な景観の形成、文化の伝承など多面的機能を持つ。局地的な豪雨や台風の大型化など自然災害が常態化している中、貯水をはじめ水田の機能は、水害の緩和など防災の観点からも注目されている。
中山間地域の畦畔管理は、もうかる農業の追求だけでは難しく、地域住民の努力だけでは限界がある。災害が多い今こそ、事業として請け負う人材や組織・会社の育成・支援など、踏み込んだ施策を求めたい。
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2020年09月23日
10
ジャンボタニシ 被害削減へ対策徹底を
2021年産の米作りに向けて、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策が大きな課題となっている。地球温暖化が進む中で近年被害が拡大、20年産米では30を超える府県で確認された。寒い時期に水田を耕うんするなど今から対策を徹底し、被害を抑え込みたい。
ジャンボタニシは長い触覚とピンクの卵塊が特徴の巻き貝。田植え後3週間までの軟らかい稲を食害する。寿命は2、3年。南米原産で、食用として日本に持ち込まれ、野生化した。
被害は近年、深刻の度を増している。農水省によると、面積は分かっていないが、20年産では31府県で被害を確認した。温暖化で越冬しやすくなったことが影響しているとみている。
以前から被害があった九州や四国では対策を講じている産地も少なくない。だが、被害が少なかった地域では、まだ対策を取っていない産地もあり、被害が広がったという。
被害を減らすには何をすべきか。やはり基本的な対策の徹底が一番である。
同省が昨年10月に発表した防除対策マニュアルによると、特に重要なのが1、2月の水田の耕うんだ。ジャンボタニシは寒さに弱く、土に潜って越冬する。耕うんすることで貝を壊したり、寒風にさらして殺したりすることが有効だ。また、田植え前には貝の水田への侵入を防ぐために取水口・排水溝に網を設置し、田植え後には貝の動きを鈍くするために浅水管理(水深4センチ以下)をすることなども重要である。被害を抑え込むためにしっかり取り組みたい。
ただこうした対策には一定の手間やコストがかかる。そもそも基本的な対策に必ずしも取り組めない産地もある。例えば、滋賀県認証ブランド米「魚のゆりかご水田米」を生産する野洲市などだ。生態系との共生を目指し、琵琶湖の魚が遡上(そじょう)して水田で産卵できるようにするのが特徴で、浅水管理は難しい。取水口・排水溝への網設置も、魚が入って来られなくなるため使えない。
自分たちができる対策を組み合わせ、いかに効果の高い防除体系を構築するか。被害に悩む近畿地方の各産地は相次いで試験に乗り出している。前述の野洲市では23の実証圃(ほ)を設け、冬の低速耕うんと田植え期の農薬散布を組み合わせた防除の試験を進めている。こうした産地の取り組みを政府は、被害削減の成果が上がるまで息長く支援すべきだ。
政府は20年度第3次補正予算と21年度当初予算案に、ジャンボタニシなどの病害虫対策費を計上。各地域に適した防除体系の実証に取り組む自治体やJA、農家グループなどに対し、農薬代や作業員の人件費などを半額補助する。積極的に産地に周知し、活用を促してほしい。
防除の機運を高めるには、面積をはじめ詳しい被害状況の把握が必要だ。政府には本腰を入れて調べてもらいたい。
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2021年02月19日