東京都葛飾区に住む阿部陸さんは、不動産会社で営業職として働く25歳。契約が重なる繁忙期には午前8時から午後8時まで働く。そんな若者の食生活を追ってみた。
仕事終わりの平日夜に行くというスーパーの買い物に同行した。入ってすぐの青果売り場は素通りし、最初に手に取ったのは国産大豆の納豆。豆の食感が楽しめる大粒のものが好みで、国産へのこだわりはないという。「夜は好きなもの、お酒に合うものを食べています」と阿部さん。ポテトチップスとカキフライ弁当を買った。
続いて朝食用に野菜ジュースとヨーグルト、フランスパンを籠に入れた。「野菜不足だと思っているので、野菜ジュースを飲みます」と健康も気にする。さらに冷凍の担々麺、アイスクリームを籠に入れ、レジに向かった。自炊はほとんどしない。この日の買い物もすぐに食べられる加工品で、野菜や肉などの食材はなかった。
購入した食品の主原料の産地を包材の表示などで確認したところ、9品中、国産は、納豆とヨーグルト原料の生乳など3品。外国産とみられるのが、パンや麺の原料小麦。ポテチ原料のジャガイモは「国産または米国産」、アイスクリームは「乳製品(国内製造、外国製造)とあり、産地がはっきり分からないものもある。
阿部さんには取材日までの1週間の食生活も教えてもらった。
時間に追われる朝食はパン、ヨーグルトと野菜ジュースが定番。安いパンをまとめ買いして冷凍しておく。野菜ジュースを選ぶ基準は、栄養価や原料の産地ではなく価格。「節約のため安いものを選ぶ。おのずと外国産でしょうね」。野菜ジュースの表示は、主原料は外国製造(りんご果汁)とある。パン用小麦の国産比率は1割。ヨーグルト原料には、国産生乳以外の乳製品も使われる。
さらに阿部さんが食べたハンバーガーやサンドイッチなどの食材を調べると、意外な食材に外国産が使われていることが分かった。
阿部さんがよく購入するハンバーガーチェーンのウェブサイトで具材の数が比較的多いハンバーガーの原料原産地を調べた。パンの小麦は米国やカナダ、オーストラリア。牛肉パテはオーストラリアやニュージーランド。ここまでは記者の想定通りだ。
野菜はどうか。レタスは日本、台湾、米国、マレーシア、韓国。タマネギは、日本、米国、ニュージーランド。さらにトマトは、日本、韓国、米国、メキシコ、ニュージーランド、カナダ、とあった。鮮度が求められる生野菜でも、アジアや北米産もあった。
次にコンビニのサンドイッチを調べた。同じくトマトやレタスなどの生鮮野菜が使われる。しかしコンビニ大手3社の東京都内の店舗で包材の表示を確認した範囲では、主原料のパンの表示はあるが、野菜の産地情報は見つけられなかった。生鮮トマトの輸入量は5500トン(23年)で、6割が韓国産。流通関係者によると、これらの主な仕向け先は、ハンバーガーやサンドイッチという。
食卓までの距離の近さや鮮度では、輸入より優位にある国産の生鮮野菜。だが、輸入野菜の中で、生鮮状態で輸入されるものは2割超を占める。その中で最多を占めるのが、タマネギだ。9割が中国産で、阿部さんの食べたケバブやかつ丼を含め、幅広く弁当、総菜、外食に使われる。
なぜ輸入野菜が使われるのか。加工のしやすさや供給の安定化などさまざまな要素を実需者は挙げる。
(玉井理美)
20日付から始める連載「シェア奪還の糸口」では、産地の挑戦を紹介する。