[現場ルポ 熱源を歩く] 「夕食は和牛に」 広がりゆく裾野 コロナ禍で内需獲得

A5等級の和牛を手頃な価格でそろえ、販売を伸ばしているスーパー(横浜市で)

 平日の午後4時。買い物客でにぎわう横浜市中心部のスーパー。牛肉売り場中央の棚には、きめ細かなさしが入った和牛の精肉が10種類以上並ぶ。市内の主婦(63)は「輸入より断然おいしいし、外で食べるより価格も手頃。最近では夕飯の選択肢に入った」と話し100グラム659円のカルビ3パックを籠に入れた。

 輸入牛が台頭していたスーパーの売り場に変化が生じている。新型コロナウイルス禍で卸値が下がったことを背景に、和牛の扱いに力を入れる会社が増えた。関東に126店舗を展開するオーケーは、東京食肉市場を通じ、A5等級の仕入れを強化。従来の4等級と同等、前年より1割近く安く販売する。

 内食需要の増加を追い風に今年4~9月期の売り上げは前年比3割増と大きく伸び、消費者の和牛に対する底堅い需要を裏付けた。「霜降り離れといわれているが、手が届く価格帯なら高品質な和牛は売れる」(同社精肉バイヤー)と確信する。

 和牛相場は、拡大するインバウンド(訪日外国人)需要や輸出の増加で、2015年以降、過去にない高値が続いてきた。農畜産業振興機構によると、小売価格はこの10年で15%上昇。スーパーでは消費者の節約志向を受け、価格が和牛の3分の1以下の輸入牛がシェアを広げていた。

 夏以降、業績の反転攻勢を狙った大手飲食チェーンでも和牛を扱う動きが拡大。牛肉の消費は、外需から内需へ、輸入から国産へのうねりが生まれている。

 大手牛丼チェーンの吉野家は、創業以来初となる和牛を使った「黒毛和牛すき鍋膳」を10月に発売。北米産の牛肉を使った1杯400円ほどの牛丼を主力に「うまい、やすい、はやい」を掲げてきた同店が和牛を採用したことは、食肉業界に驚きを与えた。

 同社は約1年かけ、全国の卸を通じて仕入れたA3~5等級の和牛を使いつつ、998円(税別)という低価格での提供を実現。同社食肉バイヤーは「独特の香りときめ細かな脂、深みのある味は和牛ならでは」とし和牛のメニュー採用を「悲願」と表現する。

 消費の裾野が広がりつつある今、内需獲得の好機をどう生かすのか。産地には、牛と向き合いながら次の一手を模索する生産者の姿がある。

 「手頃な価格でみんなに食べてほしいという思いもあるが、再生産可能な価格や和牛らしさを追求することとのジレンマがある」。滋賀県近江八幡市で黒毛和種350頭、交雑種120頭を飼っている鈴木文規さん(37)は複雑な思いを明かす。

 東京五輪・パラリンピックの需要を狙い、子牛を高値で導入した生産者は、和牛相場の下落によって大幅な赤字を抱えており、消費の裾野が広がる現状を手放しでは喜べない。

 地域で特産「近江牛」を生産する若手13人でつくるグループ「近江大中肉牛研究会『ウシラボ』」内でも、新型コロナ禍の先を見据えた和牛生産への思いはさまざま。ただ、求められる和牛を消費者に届けたいという思いは変わらない。

 子牛の導入コストが抑えられる繁殖肥育一貫経営への移行や、売り先の要望に応じた肉質にするための飼養管理など、新たな挑戦の先に産地の未来図を描く。

 「今後、明らかに和牛のトレンドは変わる。変化に合わせて自分たちも変わっていかないと生き残れない。変えていくのが若手の役目」。リーダーの橋場芳秀さん(37)の覚悟だ。(斯波希)
 

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