生物観測の縮小 利用者の声聞き熟慮を

 気象庁は、生物季節観測を2021年1月から大幅に縮小する。開花や初鳴きの知らせは生活に潤いを与え、地方からの季節の便りでもある。気候変動や環境変化の把握にも役立つ。利用者らの声を聞き、決定通りでいいか熟慮すべきだ。

 生物季節観測は、気温や日照など季節の変化に反応して生物が示す現象を気象庁の職員が目や耳で確かめ、確認できた日を記録するもの。1953年から全国統一の方法で行ってきた。

 季節の遅れや進み、気候の違いや変化を的確に捉えるのを助けてきた。また、桜の開花やカエデの紅葉など身近な生物に着目し、人々が季節感を認識する指標となっている。

 今年1月現在で、全国の気象台・測候所58地点で、植物34種目・41現象、動物23種目・24現象を対象に観測する。気象台や測候所から5キロ未満、標高差50メートル以内のエリアで行う。

 同庁によると、都市化や温暖化の進展で気象台・測候所周辺の生態環境が大きく変化し、植物の季節観測に必要な、適切な場所に標本木を確保することが難しくなった。また、ウグイスの初鳴きなどの動物現象が季節と合わなくなった地域も多くなってきたという。

 このため同庁は「より正確で実態にあった情報を提供する」とし、地球温暖化などの気候の長期変化や、一年を通じた季節変化とその遅れ、進みを全国的に把握するのに適した代表的なものだけを残し、その他を廃止することにした。継続するのは、アジサイ(開花)、イチョウ(黄葉、落葉)、梅(開花)、カエデ(紅葉、落葉)、桜(開花、満開)、ススキ(開花)の6種目・9現象だけ。リンゴや桃の開花などはやめる。ツバメの初見など動物は全廃する。

 観測対象の削減が、きめ細かな季節情報の減少につながることへの懸念は強い。地域性のある動植物の情報は、古里や地方、他の地域に思いをはせるきっかけにもなる。動物を全廃することへの異論も多い。例えば北上を続けるクマゼミの観測は、現在進行形の温暖化の指標として重要だと指摘されている。

 生物季節観測の成果は、日々の天気予報や警報にすぐに反映されるわけではない。しかし「温暖化や都市化といった変化について、計測器によるデータを補足する形で、貴重な資料を積み上げてきた」(森田正光ウェザーマップ会長)。こうした実績も考慮すべきだ。

 自然界の異変をキャッチすることは、気候変動や環境変化を把握する上でも貴重だ。情報が減ることで気候への国民の関心が薄れ、昆虫の激減や植物の変化に鈍感になるようなことがあってはならない。それは、地球温暖化や生物多様性の危機への無関心につながるからだ。

 同庁は、農業を含めて観測情報の利用状況を把握し、意見を聞いた上で決定内容を検証すべきだ。自治体などが行う場合は、十分に支援する必要もある。

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