スマート農業実装重点目標に掲げる 土地改良長期計画 中間まとめ案
2020年11月23日
農水省は、土地改良事業の今後5年の指針となる新たな土地改良長期計画の中間取りまとめ案を示した。重点目標を設定し、生産基盤強化に向けたスマート農業の実装の加速化を新たに位置付けた。達成に向け、自動走行農機が効率的に作業可能な農地の区画や規模の整備などを推進する。頻発化する災害に対応するため、防災重点ため池の防災工事の推進なども盛り込んだ。
次ページに中間とりまとめの重点目標(表)があります。
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「BUZZ MAFF」 Jリーグとコラボ動画 若者に農業PR 農水省
農水省は15日、公式ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で、サッカーJリーグと連携した動画の投稿を始めた。地域の農業への理解や関心を深めてもらうため、Jリーグチームの行う農林水産業の取り組みを同省職員の「ユーチューバー」が発信する。第1弾としてJ2の松本山雅FC(長野県)、J3の福島ユナイテッドFC、ガイナーレ鳥取との動画を投稿した。
「ばずまふ」は、職員の個性や発想を生かした動画を投稿し、農業への関心が薄い若者を含めて広く情報を発信している。 現在、動画の総再生回数は620万回以上。スポーツチームと連携してPRに取り組むのは初めて。
松本山雅FCと連携した動画では、黒ずくめのばずまふユーチューバーが登場。休耕地で地域の住民と連携して1トンの青大豆を生産する取り組みを紹介し、青大豆を使った新しいスイーツの開発に挑戦する。
選手が生産した農産物を販売する「農業部」がある福島ユナイテッドFCとの動画では、選手が自ら作った米をPRする。東北農政局の職員が米を食べ、自作の応援ソングも披露する。ガイナーレ鳥取と連携した動画では、中国四国農政局の職員が、チームの職員と地域の休耕地を利用して芝生を生産・販売する取り組みについて語り合う。
今後も、全国のチームと連携した動画を配信していく。同省は「農業に取り組むクラブは他にもある。地域の農業への理解が深まれば」(広報評価課)と期待を寄せる。
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2021年01月16日
生産国の穀類輸出制限 食料貿易 波乱の兆し 特別編集委員 山田優
新型コロナウイルス禍で「お正月はおとそ気分」とはなかなかならなかったが、食料貿易の現場も今年は緊張感の漂う年末年始だった。
きっかけはロシア。12月半ばに政府が突然「国内のパン価格を安定させるため輸出量を制限し、小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシに輸出税を課す」と発表した。官報によると、2月15日から6月いっぱい、小麦の輸出に1トン当たり25ユーロ(1ユーロ約125円)徴収することになった。
さらに先週金曜日になると、同50ユーロと倍額への引き上げが決まった。「25ユーロでは効果が小さいとロシア政府が判断したようだ」と穀物業界関係者は解説する。ここ数年、ロシアは毎年3000万トン以上を輸出する、ぶっちぎりで世界一の小麦輸出国だ。当然、世界に激震が走った。
今回の輸出規制は、昨年11月ごろから通貨のルーブル安が進み、国内のインフレ圧力が高まったことが理由とされる。食べ物の恨みは政治不安につながる。プーチン大統領が「食料の輸出を減らし国内に回せ」と首相に指示した。
トウモロコシや大豆でも波乱が起きた。アルゼンチン政府は年末ぎりぎりにトウモロコシの輸出制限を決めた。やはり国内消費者を優先させたいというのが理由とされる。こちらも3000万トンを超す大輸出国だけに騒ぎとなった。その後、農家の反発を受け、1日当たり3万トンまでの輸出を認めるなど同政府の迷走が続いている。
ワシントンにある国際食料政策研究所によると、昨年、19カ国が食料の輸出制限措置を発動した。その大半が世界貿易機関(WTO)への通報をせず、突然導入された。主に新型コロナウイルス感染の混乱防止が目的で、夏には解除されたところが多い。だが、今年になってロシアやアルゼンチンなど伏兵が現れた。
年明け、シカゴ先物相場はさらに急騰した。先週の米農務省発表で、米国内でトウモロコシや大豆の在庫が、市場予想を下回ったことが主な原因とされる。中国の旺盛な輸入意欲も一因だ。火に油を注いだのが、輸出大国による輸出規制であることは間違いない。
「ロシアなどの輸出規制によるわが国への影響は現時点で確認されていない」と農水省食料安全保障室の久納寛子室長は話す。確かに日本はこれらの国からあまり穀類を輸入していない。しかし、輸出規制が広がれば国際相場が値上がりし、日本へも影響は及ぶ。年明けから食料貿易に波乱の兆しだ。
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2021年01月19日

[あんぐる] 売り切れ御免秘伝の甘味 日本最北限のサトウキビ畑と「よこすかしろ」(静岡県掛川市)
日本最北限のサトウキビ栽培地とされる静岡県掛川市南部(旧大須賀町横須賀)で、地砂糖「よこすかしろ(横須賀白)」の製糖が続いている。11月下旬から2月までしか作られない希少品で、起源は江戸時代にさかのぼる。戦後になって衰退するが、「伝統産業をもう一度」と願う有志らが1989年に復活させ、今では毎年20トンの製造が見込めるようになった。
風力発電施設を臨む畑で刈り取られるサトウキビ。風が強い一帯で2メートルほどにまで育つため、農地の防風にも利用されていたという
よこすかしろは、高級砂糖「和三盆」の原料にもなる白下糖(しろしたとう)。横須賀藩の武士が18世紀末に身分を隠して四国へ渡り、秘伝とされていた製糖技術を習得するとともに、サトウキビの苗を持ち帰って広めたと伝えられる。以来、産業として地元に根差すが、1950年代半ばになると、安価な輸入砂糖に押され、庭先に残されたわずかなサトウキビが、各家庭で消費されるほどになってしまった。
有志たちはまず、地域に残ったわずかなサトウキビから苗を育てて7アールの畑に作付けし、辛うじて製法を知る高齢者から技術を学んだ。年々耕作地を拡張し、今では作付けを40アールにまで広げ、2013年には製法を伝承するための「よこすかしろ保存会」を発足させた。19年からは大須賀物産センター「サンサンファーム」の一角で製糖を続ける。
200グラム800円。サトウキビから取れる砂糖は約8%のため、10キロから800グラム程度しか取れない。しかも、よこすかしろの製糖は全て手作業のため、1回4時間をかけて作れるのは25キロ未満。だが、保存会の松本幹次さん(68)は「収益性を上げるより、地域の文化を後世に残すことこそが目的」と話す。
コーヒーや紅茶に入れても、煮物や菓子に使っても上質な甘さが好評だが、そのまま口に入れるのが一番のお勧め。試食すると、甘さの中にほんのりとした塩味や独特の風味が感じられ、素材の味が広がる。よこすかしろと、それを使った製品は「売り切れ御免」。サンサンファームの他、市内の道の駅や老舗菓子店でも販売される。(仙波理)
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2021年01月18日
健康長寿の10年 高齢者 農業に生かそう
国連は昨年12月の総会で、2021年から30年を「健康な高齢化の10年」(健康長寿の10年)にすると宣言した。世界に先駆けて高齢化が進む日本の農村こそ関係機関が連携し、高齢者が健康なまま輝けるような取り組みを率先して進めるべきだ。
国連の宣言は、高齢化が世界的問題になっているにもかかわらず、高齢者の権利と要望に対応できる十分な準備ができていないとの懸念を表明。年齢を重ねるだけではなく、自立した生活を重視した内容だ。世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府や地域、市民団体、民間などに積極的な行動を促している。
厚生労働省によると、日本の平均寿命は男性81・41歳(19年)、女性87・45歳(同)。世界でもトップクラスだ。平均寿命とは別に健康寿命という考え方がある。日常の生活動作を自立してできる、健康に過ごせる期間のことだ。長寿科学振興財団によると、日本の健康寿命は74・8歳。シンガポールの76・2歳に次いで世界2位になる。
しかし日本は、平均寿命と健康寿命の開きが大きい。健康を損なってから亡くなるまで平均10年前後を過ごしていることになる。同財団によると、国別ランキングでは開きが少ない方から31位と順位が大きく下がる。介護が必要な期間が長いのだ。
新型コロナウイルス感染への懸念や医療の逼迫(ひっぱく)を考えると、高齢者は病院に行きにくい。健康を損ねて病院で治療するより、予防することが求められている。健康寿命を延ばし、平均寿命に近づける取り組みの重要性は増している。
健康寿命を延ばすには、適度な運動、適度な食事、生活習慣病対策などが求められるが、個々が「やる気」を持つことも重要だといわれる。高齢者が意欲や好奇心、社会に求められているという実感を持てる仕事や趣味が健康長寿につながる。
日本は農業者の減少と高齢化が進み、基幹的農業従事者の7割を65歳以上が占める。農業にとって労働力の確保は大きな課題で、雇用を含め高齢者を多様な担い手に位置付ける必要がある。一方で農業法人など雇用する側には、高齢者が規則正しい生活を送り、楽しんで働けるよう作業の安全に配慮した職場環境をつくることが求められる。
政府は、19年にまとめた農福連携等推進ビジョンで、農福連携を障害者の活躍促進にとどまらず、高齢者や生活困窮者らの就労・社会参画の視点で捉え直すことを提起した。就労先の情報提供を含め、行政やJA、農業者らが連携し、高齢者の就農支援に取り組んでほしい。
何より必要なのは意識改革だ。国連は、高齢化に対する考え方、感じ方、行動方法を、この10年で変えようと訴える。社会に貢献したい、楽しみながら年を重ねたいという高齢者の思いを、若い世代がくみ取り、生かす姿勢が求められる。社会全体で高齢者の活躍の場をつくり、健康長寿を延ばしたい。
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2021年01月17日

かんきつの貯蔵病害対策 資材消毒剤が有効 静岡県
県農林技術研究所果樹研究センターは、温州ミカンなどかんきつの貯蔵中に発生し果実を腐敗させる貯蔵病害防止に、資材消毒剤による貯蔵箱の消毒効果が高いことを明らかにした。一方、エタノール噴霧は効果が安定せず、水洗浄と日光照射(天日干し)は効果がなかった。
普通温州ミカンは12月に収穫、年明けに出荷する。……
2021年01月21日
農政の新着記事
米、輸出へ「新JAS」 23年産めざし検討会議 農水省
農水省は20日、農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会を開き、農産物検査や米の流通に関する見直し項目について、今後の具体的な検討の進め方を示した。米の輸出拡大や高付加価値販売に向けた新しい日本農林規格(JAS)の制定については、2023年産米からの実現を目指して、検討会議を設ける。……
2021年01月21日
家伝法の課題検証を 鳥インフルで自民、PT設立へ
自民党は20日、鳥インフルエンザ等家畜防疫対策本部(本部長=江藤拓前農相)の会合を開いた。議員からは、県による対応水準のばらつきの是正や、十分な埋却地の確保の徹底に向け、国の対応強化を求める意見が出た。江藤本部長は「法律の問題点はないのか」と述べ、現行の家畜伝染病予防法(家伝法)の課題の検証が必要との認識を表明。プロジェクトチーム(PT)を立ち上げて議論する方針を示した。
高病原性鳥インフルエンザは今シーズン、15県36事例が発生し、過去最多の604万羽が殺処分された。……
2021年01月21日
「半農半X」支援策探る 農水省の農村政策在り方検討会
農水省の新しい農村政策の在り方検討会(座長=小田切徳美・明治大学教授)は20日、ウェブ会議形式で会合を開き、「半農半X」など、農業とさまざまな仕事を組み合わせた活動の支援策を検討した。委員からは、農業など地域の産業に精通した税務・会計支援や、希望する仕事の実現に向けた学習や仲間づくりなど、多様な機会を提供する必要性が指摘された。
同検討会では、「田園回帰」の受け皿になる農村の環境整備に向けた施策を検討している。
委員の平井太郎・弘前大学大学院准教授は、「半農半X」を踏まえた事業展開を推進する上で、農業などに詳しい「中小企業診断士や税理士を地域で育てることが重要だ」と指摘。小田切教授も「地方の税務・会計支援は重要な論点」と述べた。
いわて地域づくり支援センターの若菜千穂常務は、「重要なのは、やりたいことが仕事になる、希望が持てる社会づくりだ」と指摘。実現に向けた学びの場や仲間づくりなど、政策による「多様な機会」の創出が必要とした。
同日は、島根県海士町の大江和彦町長が取り組みを報告した。同町では「半官半X」を推進する条例を制定。役場の仕事をしながら、農漁業など地域振興につながる民間の活動に参加できるようにした。
本格的に「半官半X」による地域振興を進めるため、採用試験に「半官半X」枠を新設。職員を配置する新たな部署も立ち上げる予定という。大江町長は「地方、田舎こそ公務員に複業の必要性を感じている」と強調した。
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2021年01月21日

[補正予算 注目の事業] 農地情報精度高く スマート農業で活用へ 農水省
農水省は、衛星画像から作る農地の区画情報「筆ポリゴン」の精度向上に乗り出す。これまでより解像度の高い画像を人工知能(AI)に取り込み、圃場(ほじょう)の大区画化や宅地化などで形状が変化した区画を、より正確に判別できるようにする。得られたデータをスマート農業などに活用する実証試験も行う。
2020年度第3次補正予算に8億4500万円を盛り込んだ。……
2021年01月21日

鳥インフル 飼養管理不備1割 改善へ指導継続 農水省
農水省が全国の養鶏場などを対象に行った飼養衛生管理基準の自主点検で、報告があった約1万4000件の農場などのうち、1割ほどに不備があることが19日、分かった。都道府県ごとの結果は22日に公表する予定。同省は高病原性鳥インフルエンザが過去最大に広がる中、全農場で管理基準が順守されるよう、指導を続ける。
19日に開かれた鳥インフルエンザ関係閣僚会議で報告された。飼養衛生管理基準のうち、今シーズンの発生農場で不十分なケースが多かった7項目について、前回点検で約1割ほどの農場に不備があったため追加調査をした。
今回は1月18日までの約1カ月間で聞き取り、報告数は前回報告数の2倍近くとなる1万3543。小規模農場にも働き掛けた上、愛玩動物として鳥を飼う個人や、動物園、研究施設などにも報告を求めた。
今回の点検では、「衛生管理区域専用の衣服、靴の設置と使用」「家禽(かきん)舎ごとの専用の靴の設置と使用」がともに順守率89%で低かった。一方、「野生動物の侵入防止ネットなどの設置、点検、修繕」など同95%で高かった。
前回点検から順守率が下がった項目は「ネズミ、害虫の駆除」で、前回点検より3ポイント減の93%だった。
同省によると、前回の点検で不備があった農場の多くは改善しているという。今回不備があった農場についても防鳥ネットや消毒機器の整備などへの支援の活用を促し、順守率100%を目指す。同省動物衛生課は「全ての項目を順守する必要がある。引き続き、指導や助言などを続けていく」と強調した。
野上浩太郎農相も19日の閣議後会見で、「今シーズンは発生数、殺処分数とも過去最大となっている状況。関係府省と連携し緊張感を持って対応していきたい」と述べた。
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2021年01月20日
全国展開前提でない 企業農地取得 特例調査で農相
野上浩太郎農相は19日の閣議後記者会見で、国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業による農地取得の特例を巡り、2021年度中に全国で実施する特例のニーズや問題点に関する調査は「全国展開を前提にするものではない」との認識を示した。養父市での期限延長については「今後も複数の企業が活用する可能性がある」として、容認する考えを示した。……
2021年01月20日
介護報酬改定 ほぼ全て引き上げ 訪問系で認知症対応拡充
厚生労働省は18日、2021年度の介護報酬改定に向け、各サービスの増減内容を明らかにした。ほぼ全てのサービスの基本報酬を引き上げた。訪問サービスの認知症やみとり対応を拡充。高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支援する体制「地域包括ケアシステム」を推進する。
同省が同日開いた社会保障審議会介護給付費分科会で改定案を示した。……
2021年01月19日
首相、輸出拡大に意欲 初の施政方針 産地支援を強調 通常国会召集
第204通常国会が18日、召集された。就任後初の施政方針演説に臨んだ菅義偉首相は、農業政策の柱に農林水産物・食品の輸出を改めて提起し、「27の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援する」と強調。2030年に輸出額を5兆円とする政府目標に向けた実行戦略の着実な推進に意欲を示した。
昨年9月に就任した菅首相にとって、初の通常国会。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、農業を含めコロナで影響を受けた経済への対策が論戦の最大の焦点となる。
首相は演説で、地方活性化に向けた政策の柱に農林水産業の成長産業化を提起した。「地域をリードする成長産業とすべく、改革を進める」と強調。輸出拡大策の他、主食用米から高収益作物への転換などを挙げた。農業分野の規制改革については言及しなかった。
農産物輸出については20年の輸出額が「新型コロナの影響にもかかわらず、過去最高となった19年に迫る水準」と述べ、今後の拡大に向けた自信を示した。実行戦略の推進に加え、「農業に対する資金供給の仕組みも変えていく」とも語った。政府は通常国会で輸出への投資が進むよう、「農業法人投資円滑化特別措置法」を改正し、同法の対象を現行の農業法人以外にも広げる方針だ。
外交を巡っては、通常国会に承認案を提出する地域的な包括的経済連携(RCEP)や、今年1月に発効した日英経済連携協定(EPA)を成果として強調。21年は日本が環太平洋連携協定(TPP)議長国であることを踏まえ「着実な実施と拡大に向けた議論を主導していく」と述べた。20日に就任する米国のバイデン次期大統領については「早い時期に会い、日米の結束をさらに強固にする」と語った。
通常国会の会期は6月16日までの150日間。施政方針演説など政府4演説に対する代表質問は、20日の衆院本会議から始まる。
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2021年01月19日

日本酒・焼酎 無形文化遺産めざす 輸出や消費拡大期待 施政方針で首相 登録は24年以降
菅義偉首相が18日の施政方針演説で、日本酒や焼酎について国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を目指すと表明した。新型コロナウイルス禍で酒類や原料の酒造好適米などの需要が落ち込む中、登録されれば輸出や国内消費の拡大が期待される。政府は申請に向けた準備を既に進めているが、登録は早くても2024年以降となる見通しだ。
無形文化遺産は、地域の歴史や風習などと深く結び付いた芸能や工芸技術などの形のない文化を保護し、重要性への意識を高めることを目的とする。……
日本では歌舞伎や能楽などが登録されている他、13年には「和食」が日本人の伝統的な食文化として登録され、日本食や日本産食材の人気にもつながったとされる。
政府は日本酒や焼酎について、こうじを使った伝統的な醸造技術として申請する方向で検討。技術の保護措置なども検討し、22年2月にも申請したい考えだ。ただ、ユネスコは同遺産の登録が無い国の審査を優先している。登録件数が多い日本の申請は、実質2年に1回の頻度で審査しており、登録は早くても24年になる。
政府は、日本酒や焼酎を輸出の有望品目とみており、昨年策定した農林水産物・食品の輸出拡大に向けた実行戦略で、どちらも「重点品目」に設定している。同戦略でも、無形文化遺産への登録に向けた検討を加速すると明記していた。輸出量が増えれば、原料の酒造好適米などの需要拡大にもつながる。
19年の輸出額は、日本酒が234億円、焼酎が16億円。同戦略では25年の目標額をそれぞれ600億円と40億円に設定した。政府は同遺産の登録を通じて「現場のモチベーションを高めると同時に、日本酒と焼酎の海外での認知度が向上し、国内の需要創出や輸出拡大につながってほしい」(国税庁)と期待する。
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2021年01月19日

農業の特定技能「派遣」 広がる 短期雇用も柔軟 手続き負担減
外国人の新在留資格「特定技能」の農業分野で認められた「派遣」が広がっている。農家は直接雇用に比べ事務手続きなどの負担が少なく、雇用期間を柔軟に調整できる。農繁期が異なる北海道と沖縄など地域間で連携した受け入れも進む。派遣に参入する事業者も増え、専門家は「これまで外国人を入れてこなかった家族経営でも受け入れが広がる」と指摘する。(望月悠希)
外国人材 大きな力
畑作が盛んな北海道浦幌町の選果施設。次々とコンベヤーで流れてくるジャガイモを段ボール箱に手際よく詰めるのは、カンボジア人のレム・チャントーンさん(26)だ。「将来は帰国してビジネスを立ち上げたい。分からないことも周りに聞くと、よく説明してくれる」と笑顔で話す。
チャントーンさんらは特定技能の資格を得た外国人。道内各地で農業生産・販売の他、作業受託をする「北海道グリーンパートナー」が、人材派遣会社の「YUIME(ゆいめ)」から受け入れた。
8~10月の農繁期には150人もの人手が必要な北海道グリーンパートナーは、YUIMEからの提案で、技能実習生だった特定技能の派遣を2019年に11人、20年に23人受け入れた。
YUIMEの派遣は、夏は北海道、冬は本州や沖縄で働くのが基本だ。ジャガイモの選果など冬場でも仕事がある場合は、道内で通年で働くこともある。
直接雇用では通年で仕事を用意しないと外国人の受け入れは難しいが、派遣なら必要な時期を決めて契約を結べる。北海道グリーンパートナー代表の高田清俊さん(59)は「外国人にとっても、さまざまな農家で働くことで、より豊かな経験を積むことができる」と評価する。
受け入れ側は面接や入国手続きなど事務負担が少ないのもメリットだ。北海道グリーンパートナーに組合員の農作業を委託するJAうらほろの林常行組合長は「人手不足を解消し、付加価値の高い販売に力を入れたい」と期待する。
各地で参入の動き
一定の技能を持ち、即戦力としての労働が認められている特定技能の仕組みは、19年に始まった。農業分野では、農業者が雇用契約を結び直接雇用する方法と、雇用契約を結んだ派遣業者が受け入れ機関となり農家に派遣する方法の、2種類がある。派遣では、繁忙期の違う地域に季節ごとに人材を送り出せる。
農業分野の特定技能は、制度発足から1年半の20年9月末時点で1306人。農業分野の受け入れ事業者が加入する「農業特定技能協議会」のうち、10社ほどが派遣事業者だ。
YUIMEは、農業分野の技能実習生だった外国人を採用。給料や待遇は日本人と同等の扱いで、現場のリーダーになる人材を育てている。住まいは、受け入れ農家に住宅の敷地内にある持ち家などを用意してもらい、YUIMEが借り入れる。
北海道以外でも派遣は進む。アルプス技研は、2019年4月から特定技能の派遣事業に参入。現在は子会社の「アグリ&ケア」が9道県に49人を派遣する。
JA北海道中央会も、特定技能のあっせん・派遣をする新組織の立ち上げを目指す。北海道稚内市の酪農家・石垣一郎さん(39)が経営する「アグリリクルート」は、21年から派遣事業に乗り出す。
家族経営も 活用しやすい 北海学園大学の宮入隆教授の話
入国手続きや労務管理の一部を派遣事業者に任せられるため、家族経営が外国人を受け入れるハードルが下がった。季節雇用、通年雇用問わず、広がっていくことは間違いない。一方で事業者は、各地に移動する特定技能の外国人の心理的な負担を考慮すべきだ。
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2021年01月19日