きょうは茂吉忌
2021年02月25日
きょうは茂吉忌。医者にしてわが国を代表する歌人である。斎藤茂吉の代表作は「死にたまふ母」の連作であろう▼〈みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる〉。山形県の農家の三男に生まれ、早くして養子に出された。東京で精神科医として名を成したが、母への思慕はやみ難い。母危篤の知らせを受け詠んだ歌である。死の床にある母への絶唱歌は〈死に近き母に添寢のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる〉。カエルの鳴き声は茂吉の慟哭(どうこく)である▼コロナ禍で、親の死に目にも会えない人の心中はいかばかりか。茂吉は若い頃、スペイン風邪にかかった。発熱や肺炎に加え、せきや倦怠(けんたい)感の後遺症に悩まされた。同郷の歌人に宛てた手紙は医者らしい予防策をつづる。「直接病人に近づかざること」に始まり、マスク着用、塩水うがいなどを列挙。熱が出たら絶対安静とある▼茂吉のもう一つの顔が旺盛な食欲。作家の嵐山光三郎さんは「もの食う歌人」と称した。大のウナギ好きで知られた。病院の焼失、夫婦関係など私生活では苦労が絶えなかった。嵐山さんは、食べることを生きる力に変えたと書く▼〈あたたかき飯(いい)くふことをたのしみて今しばらくは生きざらめやも〉。食べて生きて歌に昇華させた70年の人生だった。
おすすめ記事

[未来人材プラス] シェフから農家に 糖度15超マンゴー栽培 販路開拓し全量完売 茨城県日立市 鈴木拓海さん(41)
フランス料理のシェフからマンゴー農家に転身したのは、茨城県日立市の鈴木拓海さん(41)。パリでシェフの修業をして帰国。独立後、自ら作った食材を使いたいとの思いが募り、果樹栽培に手を付けた。沖縄で印象に残ったマンゴーを作ろうと、2013年に10本の鉢植えを始めた。現在はハウスで、150本の木から年間約3000個を収穫する。
幼少期から料理やシュークリームなどの菓子を作るのが得意だった鈴木さん。シェフになるのが夢で、調理師専門学校を19歳で卒業して渡仏。パリのビストロや三つ星の飲食店などで修業した。
フランスに5年間滞在して04年に帰国。「両親が営む飲食店で経営を学んだ。独立するなら、食材も自分で作りたかった」と就農を決めた。
だが、農業は未経験だった。JA日立市多賀の紹介で農地を借り、16年に就農した。マンゴーの他、30アールでナスやエダマメなども1人で栽培する。マンゴーは、養分が分散しないように、根域を制御したボックスで栽培。樹上完熟で収穫するため、糖度は15以上だ。
販路は自ら開拓した。通販サイトなどで、1玉3000円前後で売る。異業種の若手経営者が集まる場に顔を出し、知り合った企業が開くイベントなどで大口の注文も獲得した。とろけるような食感が口コミで広がり毎年完売する。規格外品は両親の飲食店を活用して、ジャムやタルトに加工する。加工品を含めたマンゴーの利益は、年間約300万円という。
マンゴーを栽培する7アール2連棟のハウスや農機は自己資金で調達した。19年に行政支援が手厚い認定農業者になったと同時に、理事としてJA運営にも携わる。くくりわなや箱わな、銃免許も取得して地域の有害鳥獣駆除にも貢献する。鈴木さんの今の夢はシェフ兼農家。「新型コロナウイルス禍でも需要が見込めるケータリングを展開したい」と展望する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月22日
農地特区延長法案 目的・効果 参院でただせ
一般企業による農地取得の特例措置を延長する国家戦略特区法改正案が衆院を通過した。特例の必要性や効果を巡る政府の答弁には与党も疑問を呈した。だが3時間の審議で可決。国会の存在意義が問われる。参院では、疑問点について明確な答弁を得た上で可否や修正を判断すべきだ。
同特区の兵庫県養父市では、2021年8月までの5年間、一般企業の農地取得を認めている。改正案はこの特例の2年延長が柱だ。提出に先立つ政府の同特区諮問会議で、民間議員が全国展開を要求。21年度中に特例のニーズや問題点を調査し、全国展開の可否を調整することも決めた。これを受けた法改正だ。
そもそも延長が必要なのか。同市での農地取得の実績は6社で計1・65ヘクタール。経営面積全体の5・5%にすぎず、残りはリースだ。13日の地方創生特別委員会での審議では、与党の自民党議員からも「大部分はリース。取得の必要性があるのか」との指摘が出た。当然の問題意識だろう。
一方、政府の答弁は理解し難い。所管の内閣府は、リースと取得で15・7ヘクタールの遊休農地の解消につながったことや6次産業化を成果と説明。だがリースが大半では、農業参入の成果だとしても、農地取得の成果とは言えない。
与党も指摘した疑問点に、政府は明確には答えていない。にもかかわらず、同委員会は1回、3時間余りで審議を終結。自民、公明、維新の各党の賛成多数で可決した。また、同委員会は採決に際して、一般企業の農地所有の目的と効果を明らかにするよう政府に求める付帯決議を採択した。これには立憲民主、国民民主の両党も賛成した。
与野党ともに理解に苦しむ対応だ。目的や効果は、延長の可否を判断する核となる基準で、審議で明らかにすべきことだ。与野党問わず、参院で政府にただすよう求める。
内閣府は「所有とリースを適切に組み合わせて営農できるようになることに意義がある」とも説明するようになった。法制定当時から疑問視されていた農地取得の効果をいまだに示せない中では、論点のすり替えでしかない。誠実に答弁すべきだ。
生産現場では、企業の撤退や農地の転用・産廃置き場化などへの懸念が強い。また政府の規制改革推進会議は、農地所有適格法人の議決権要件の緩和を議論している。一般企業が経営を支配できるようになれば農地所有を全国で認めることと同じで、なし崩し的解禁への不安がある。
こうした声に応え、徹底した審議が必要だ。国会は憲法が定める国権の最高機関で国の唯一の立法機関であり、国民を代表する国会議員が組織する。その矜持(きょうじ)を持って臨んでもらいたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月17日
桜、キンモクセイ、ハナミズキ、レンギョウ
桜、キンモクセイ、ハナミズキ、レンギョウ。これらの花の名を見て、ぴんと来る人は相当のゴルフ通だ▼松山英樹プロがマスターズで初栄冠を手にした舞台、米国オーガスタのゴルフ場は、緑と花の美しさで知られる。各ホールには、冒頭に掲げた花々の名前が冠せられている。タフなコースゆえ、選手たちは花や緑をめでる余裕はないか。そのグリーンを制し、グリーンジャケットと共に凱旋(がいせん)した松山プロが誇らしい▼こちらのグリーンはどうか。農水省の「みどりの食料システム戦略」は、コースマネジメントに不安が尽きない。2050年までに有機農業を全農地の4分の1に広げ、化学農薬や肥料はそれぞれ半減、3割減らすという。関係者ですら「寝耳に水」の政策転換。菅首相の「温室効果ガスゼロ宣言」で、各省一斉にグリーンへとなびく。金づると分かった途端、つれなくしていた客に言い寄る商売人に例えるのは、言い過ぎか▼環境保全型農業の先を行くEUが、利害関係者との意見調整にどれほどの時間を割いてきたか。市民、農業者、産業界を巻き込んだ合意づくりがなければ、目標は夢想に終わる▼「みどり戦略」に魂と具体策を入れなければ、オーガスタ並みの難コースは攻略できまい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月21日

非接触 イチゴ鮮度そのまま 個別容器に注目 宇都宮大発ベンチャー
イチゴを直接触らずに収穫から消費者の手元まで届けられる容器「フレシェル」が、大粒で完熟のイチゴでも傷まずに流通できると注目を集めている。宇都宮大学発のベンチャー企業、アイ・イートが開発した。追熟しないイチゴを、完熟まで甘さを最大限引き出して出荷できる。
同社によると、ドーム型のデザインが高級感を演出し、東京都内の百貨店では1粒1500円以上で販売できた。ドームは直径が73ミリ、高さが100ミリで、50~70グラムの果実が入る。県が育成した「栃木i27号(スカイベリー)」などの大粒な品種に対応する。
収穫の際、茎を長めに持ってイチゴをもぎ取り、茎を持ったままへたの外側にスポンジ製の土台を差し入れる。さらに透明のドーム状のふたを付けると、果実がどこにも接触していない状態で出荷・流通ができる。
容器内には香りも閉じ込められ、開けた時に香りが広がると好評だ。
日持ち効果も確認した。同社によると、10日以上は傷まず、保存に適した環境下では最大1カ月ほど品質を維持したという。大粒で完熟したイチゴは傷みやすく、主に産地近郊でしか味わえないが、日本各地や海外へも届けられる。2021年からタイへ出荷し、現地で好評だったという。
容器は、イチゴの自動収穫機で利用するために開発がスタート。同社は自動収穫機の作業スピードの向上なども併せて研究を進めていく。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月22日
日本近海で地震が続いている
日本近海で地震が続いている。一方で北欧の島国アイスランドで800年ぶりに火山が噴火したとの報道があった。地震と噴火に直接の因果関係はないのだろうが、地球科学の視点で見ると両国の関係は近い▼地球表面はプレートという十数枚の岩盤で覆われている。この岩盤はゆっくり動き、ぶつかったり離れたりすることで境界近くで噴火や地震が起きやすい▼アイスランドではプレートが離れる方向に動き、大地にできた巨大な裂け目が年々広がっている。東に進むのがユーラシアプレートで地球を半周した先に西日本が、西に進む北米プレートも地球を半周し反対側に東日本がのる。2隻の船の船首と船尾に両国がまたがって立っているかのようだ▼アイスランドにできた巨大な裂け目は、ユネスコの世界遺産になっている。930年に世界初の国会が、ここで開かれたことに由来する。集落代表が全国から集い、法律を作っていった▼両国は同じプレートにのり、火山と地震が多い点も似ている。しかし、こと国会に関してはどうか。最古の国会は大自然の中で熱い討論を重ねたと想像できる。話し合いで課題を解決しようとの彼らの熱意が、同じプレートにのる日本の国会にも伝わってほしいものだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月18日
四季の新着記事
いまや「環境」と「問題」はセット
いまや「環境」と「問題」はセット。「環境問題」は、この時代を映す四字熟語のようだ▼その本質を突くのが次の言葉である。「地球があぶないとみんな言ってるけど、本当にあぶないのは人間のほうだ」。地球緑化センターが以前掲げたポスターにあった。こんなコピーも。「実は、環境問題の加害者は私たちで、被害者は私たちの子孫かもしれない」▼きょうは「アースデー」(地球の日)。世界各地で環境問題を話し合い、未来に向けて行動する日。地球との向き合い方を教えてくれるのが、北山耕平さんの著書『自然のレッスン』。よく地球を母なる大地というが、北山さんは、ある人の問い掛けが胸に刺さった。「自分の母親を、切ったり売ったり、買ったり、なぜそんなことができるのだ」▼確かに私たち大人は、母なる地球を傷つける加害者だ。しかも子孫にツケを回す罪深い加害者だ。1992年の地球サミットで12歳のカナダの少女が、世界の指導者を前にこう訴えた。オゾン層に開いた穴、絶滅した動物、砂漠となった森をよみがえらせる術を大人たちは持っているのかと▼「どうやって直すか分からないものを、壊し続けるのはもうやめてください」。その問いは気候変動サミットに届くか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月22日
桜、キンモクセイ、ハナミズキ、レンギョウ
桜、キンモクセイ、ハナミズキ、レンギョウ。これらの花の名を見て、ぴんと来る人は相当のゴルフ通だ▼松山英樹プロがマスターズで初栄冠を手にした舞台、米国オーガスタのゴルフ場は、緑と花の美しさで知られる。各ホールには、冒頭に掲げた花々の名前が冠せられている。タフなコースゆえ、選手たちは花や緑をめでる余裕はないか。そのグリーンを制し、グリーンジャケットと共に凱旋(がいせん)した松山プロが誇らしい▼こちらのグリーンはどうか。農水省の「みどりの食料システム戦略」は、コースマネジメントに不安が尽きない。2050年までに有機農業を全農地の4分の1に広げ、化学農薬や肥料はそれぞれ半減、3割減らすという。関係者ですら「寝耳に水」の政策転換。菅首相の「温室効果ガスゼロ宣言」で、各省一斉にグリーンへとなびく。金づると分かった途端、つれなくしていた客に言い寄る商売人に例えるのは、言い過ぎか▼環境保全型農業の先を行くEUが、利害関係者との意見調整にどれほどの時間を割いてきたか。市民、農業者、産業界を巻き込んだ合意づくりがなければ、目標は夢想に終わる▼「みどり戦略」に魂と具体策を入れなければ、オーガスタ並みの難コースは攻略できまい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月21日
きょうは「雨生百穀」の穀雨
きょうは「雨生百穀」の穀雨。この時季に降る雨は、作物を育て恵みをもたらす。事前に種まきを済ませておくといいそうだ。しかし2010年の宮崎県では、時候のあいさつをしている場合ではなかった▼〈牧場が戦場となる現実を挨拶(あいさつ)として一日始まる〉。同県の歌人伊藤一彦さんが当時を詠んだ。家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が発生し、この日を境に県内の畜産関係者は、戦場さながらの闘いを余儀なくされた▼殺処分で埋却などをされた家畜は30万頭近くにもなる。〈親と子は同じリボンを付け置きて一緒に埋むるを頼むもゐたり〉。同じく伊藤さんの歌。せめて親子を近くにという農家の心情が伝わる▼国内では今も豚熱や高病原性鳥インフルエンザといった感染症が発生し続けている。この経験を風化させず、知恵を語り継がなければならない。千葉県旭市で養豚管理獣医師を務め、地域の防疫体制づくりにも取り組む早川結子さんは、防疫で人間側の最大の武器は、人と人がつながって生まれる集合体としての「知」なのだという▼一人一人は小さな存在でも、知恵を集め共有し、語り継げば大きな力になる。穀雨の恵みを受けるように、あらかじめ知恵の種を集め、まいておかないと、地域防疫の体制は育たない。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月20日
政府は、東京電力福島第1原子力発電所にたまっている
政府は、東京電力福島第1原子力発電所にたまっている放射性物質を含む水を、海洋に放出することを決めた。地元の漁業関係者は納得していない。風評被害も心配だ。ここに至るまでの紆余(うよ)曲折と、今後に要する時間と経費、不安を考えると、原子力が夢の技術と思われていた頃がうそのようだ▼1960年代に人気だった鉄腕アトムは、原子力で動く設定だった。漫画雑誌には原子力ロケットや超音速機の想像図が載り、当時の少年は原子力に夢を託した▼原子力開発は、ギリシャ神話のプロメテウスによく例えられる。ゼウスに背き、天界から火を盗んで人間にもたらしたプロメテウスは、罰として岩山に縛り付けられる。毎朝飛んでくるワシに生き肝をついばまれるが、死ねない体は、毎日苦痛だけを味わい続ける▼火を手にして人間は、夜の闇や冬の寒さに立ち向かう力を得たが、火災の恐怖にもさらされる。制御が厄介な力はもろ刃の剣だ▼原発をもたらしたプロメテウスは誰だろう。政治家か電力会社か。毎日痛みを感じているのだろうか。得をしたワシは誰か。ワシはしばしば米国の象徴として描かれる。日本の原発は当初、米国の技術だった。ワシは今もおいしい思いをしているだろうか。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月19日
日本近海で地震が続いている
日本近海で地震が続いている。一方で北欧の島国アイスランドで800年ぶりに火山が噴火したとの報道があった。地震と噴火に直接の因果関係はないのだろうが、地球科学の視点で見ると両国の関係は近い▼地球表面はプレートという十数枚の岩盤で覆われている。この岩盤はゆっくり動き、ぶつかったり離れたりすることで境界近くで噴火や地震が起きやすい▼アイスランドではプレートが離れる方向に動き、大地にできた巨大な裂け目が年々広がっている。東に進むのがユーラシアプレートで地球を半周した先に西日本が、西に進む北米プレートも地球を半周し反対側に東日本がのる。2隻の船の船首と船尾に両国がまたがって立っているかのようだ▼アイスランドにできた巨大な裂け目は、ユネスコの世界遺産になっている。930年に世界初の国会が、ここで開かれたことに由来する。集落代表が全国から集い、法律を作っていった▼両国は同じプレートにのり、火山と地震が多い点も似ている。しかし、こと国会に関してはどうか。最古の国会は大自然の中で熱い討論を重ねたと想像できる。話し合いで課題を解決しようとの彼らの熱意が、同じプレートにのる日本の国会にも伝わってほしいものだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月18日
〈よく見ればなずな花咲く垣根かな〉
〈よく見ればなずな花咲く垣根かな〉。松尾芭蕉は、一生懸命に咲くナズナの白い小さな花のいとおしさを句にしたためた▼一見個性に乏しい地味な存在も、よく観察し、唯一無二の良さを見いだすことの大切さを詠(うた)う。この季節、片や桜が華やかに咲き誇り、地味なナズナに凡人の関心はなかなか向かないのだが▼視線を上げると、春の夜空は寂しい。日没後に南天に浮かぶかに座はとりわけ目立たず、ギリシャ神話でも英雄ヘラクレスにいとも簡単に踏みつぶされる残念な役回り。ただ、甲羅の辺りに目を凝らすと、光のもやが見つかる。プレセぺと呼ばれる美しい散開星団で、よく観察しないと出合えない春の星空の宝石である▼派手さに目を奪われ、足元の大切な存在が見えていないのは、政治の世界もそう。特にこの間の官邸主導の農政は、商才にたけた担い手ばかり褒めそやし、地域を支える家族農業を軽視してきた。規制改革の議論では企業の農地取得に道を開こうと躍起だ▼強欲な人が通った後には「ぺんぺん草も生えない」という。企業の撤退後に不毛な景色が広がることにならないか、懸念が付きまとう。ぺんぺん草はナズナの別名。路傍の小さな花にも目を向ける農政であってほしい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月17日
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である▼米国の政治学者のハンチントンが、著書『文明の衝突』で指摘した。世界中を震撼(しんかん)させた「9・11」の同時多発テロは、キリスト文明とイスラム文明の対立の激しさを物語った。あれから20年、今度は、中華文明との激突である。米国が中国との対決姿勢を鮮明にし始めた▼大統領に就任したバイデン氏は、「21世紀における民主主義の有用性と専制主義との闘い」と言い放った。米議会も少数民族ウイグル族への虐待は、「ジェノサイド(大量虐殺)」とする。敵味方をはっきりさせたい国柄ではあるが、トランプ前政権を上回るような強硬姿勢に、中国は敵対心むき出しに▼両国の緊張が高まる中である。菅首相が訪米し、ワシントンでの首脳会談に臨む。台湾問題や、東・南シナ海で活発化する中国の海上覇権活動に対抗する包囲網が話される。それはそれで重要だが、米軍への「思いやり予算」が増額されたり、牛肉のセーフガードの緩和などで農畜産物をこれ以上買わされたりするのは、勘弁願いたい▼地理上も文化的にも、米中に挟まれる日本。断層の懸け橋になるくらいの覚悟なら、世界から見直されるかも。菅外交やいかに。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月16日
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる▼「北の国から」(フジテレビ)で主役を演じ、先月88歳で亡くなった田中邦衛さんのせりふが、胸を打つ。「金なんか望むな。倖(しあわ)せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度には充分毎年喰(く)わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」(『北の国から2002遺言』)▼北海道勤務時代、舞台となった富良野市に何回足を運んだろう。東京が嫌になった男が故郷に帰って、自然の中で生きる。脚本を書いた倉本聰さんから、「一番情けない」印象だったことで主役の黒板五郎役に選ばれた。あまりにぴったりの役だった。今も憧れる▼昭和という時代がどんどん遠ざかる。大きな足跡を残し、訃報が続く。NHK連続テレビ小説「おしん」の脚本を書いた橋田寿賀子さんが、今月亡くなった。享年95。貧乏のどん底からはい上がる女性一代記の名は、「辛抱のしん」などから生まれたと聞く。両親と別れ、筏(いかだ)に乗って最上川を下る場面は、涙が止まらなかった▼きょうは遺言の日。どんな言葉を残そうかと考えながら、お二人のご冥福を祈る。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月15日
左右とも底に穴が開いた革靴
左右とも底に穴が開いた革靴。あしなが育英会の昨年度の活動報告書に写真が載っていた。病気などで親を亡くした子どもたちを、奨学金で支える民間非営利団体である▼同会から緊急支援金を受け取った奨学生の親から届いた。添えられた手紙には、そのお金で靴を買ったとあり、それまでは「娘もわが家の家計を理解しているので(略)ガムテープを貼って履いていました」▼緊急支援金は全奨学生に、昨年2回給付した。コロナ禍で収入が減り、食費や光熱費も払えず、人生を悲観する保護者が出始めていた。経済格差は教育格差を生み、将来の所得格差をもたらす。菅首相は国民にまずは「自助」を求めたが、その条件を整えるのが政治の仕事である。街頭募金ができない中、同会は寄付を呼び掛け、総額が前年度を上回った。他にも各地で、食の支援を含め、多くの「共助」が生まれた▼ふたり親を含め、政府は低所得の子育て世帯に特別給付金を支給する。「命と暮らしを守り抜く」。首相はそう表明している。子どもの状況に応じて継続的に支援してほしい▼子どもの7人に1人が貧困状態にある。子どもたちが、衣食足りて、安心して勉学に励めるよう、もっと「公助」を、平時から。そう望みたい
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月14日
なんという精神力だろう
なんという精神力だろう。世界が見詰めるひのき舞台での堂々たる姿が、誇らしい▼米ジョージア州オーガスタで開かれた、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手である。日本男子のメジャー大会優勝は初めての偉業。優勝者のみに与えられるグリーンジャケットに袖を通した時の顔には、大仕事をやり遂げた満足感が満ちていた▼最終日首位でのスタートだったが、決して楽なゲームではなかった。勝負どころの15番ホール。当たりが良過ぎた1打は、無情にもグリーンを越えて池に。並の選手であれば、ずるずると後退する場面である。気持ちを切らさず踏ん張り、栄冠を手繰り寄せた。ハラハラドキドキの連続は、テレビ観戦しているこちらの眠気をも奪った▼松山市生まれの29歳。アマチュアだった東北福祉大学(仙台市)の学生の時に、初めて出場権を得たが、大会目前で東日本大震災が発生。迷った末に、被災者の声に押されて出場した。苦節10年。あの時背中を押してくれた、東北への感謝は忘れない▼コロナ感染が広まる中、高齢者へのワクチン接種が始まった。そんな初日の朗報は、沈みがちな心に勇気と感動をもたらす。おめでとう、そして、ありがとう。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年04月13日