日本の身の丈 大国モデルと決別を 法政大学教授 山口二郎

 新型コロナウイルス対策を巡る政府の失態を見ていると、日本はもはや科学技術の面でも行政能力の面でも、大国とは言えないということを痛感する。
 

コロナ禍で露呈


 まず、ワクチンを自前で作れない国だったとは、ショックだった。国費を投入して開発したはずのCOCOA(感染接触確認アプリ)も不具合が見つかり、役に立たなかった。政治家や官僚の腐敗や自己中心主義は表面的な現象で、深層においては日本の政府が一定の目的のために適切な政策を立案し、責任を持って遂行する能力を失っていると感じざるを得ない。

 20世紀後半の繁栄を知る者にとってはつらいことだが、私たちは大国ではなくなりつつあるという現状認識を基に、日本の将来を構想するしかない。もちろん、科学技術分野で世界の先端を切り開く力を取り戻すことが望ましい。そのためには、目先の金もうけのためにすぐ役立つ技術の開発に資金をつぎ込むのではなく、植物を育てるように根を大事にする政策が必要となる。
 

自給率向上こそ


 もう一つは、大国でなくても国民が生きていけるように、社会、経済の仕組みを徐々に転換することが必要である。20世紀後半の繁栄の時代には、日本は先進的な工業技術を生かして輸出で利益を上げて、食料と原材料を輸入するというモデルで経済大国にのし上がった。産業の再生を期待しつつも、これからは大国ではない生き方を身に付けることが、国民の安全のために不可欠である。そのためには、食料とエネルギーの自給率を高めることが必要である。

 エネルギーを自給するためには風力、太陽光などの再生可能エネルギーを飛躍的に拡大することがカギとなる。化石燃料の支払いに充てていたお金が手元に残れば、それだけ国民は豊かになれる。

 食料自給率の向上のためには、農業の強化がカギとなる。今の政府は希少な果実や和牛など高価格の食品の輸出を奨励している。そうした収益を追求する農家がいてもよいが、脱大国の農業は国民を養う基礎的な食料を供給することを基本的役割とすべきである。

 料理研究家の土井善晴氏は「一汁一菜」をキーワードに、自然の恵みを取り入れた単純でおいしい食事を基にしたライフスタイルを提唱している。脱大国の農業は土井氏の言う日々のシンプルな食事と結び付いてほしいと思う。

 今年は衆院総選挙の年である。日本人の生活のありようを考え直すという構想力が問われる。政党の自由闊達(かったつ)な議論を期待したい。

 やまぐち・じろう 1958年岡山県生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学教授などを経て2014年に現職。現実政治への発言を続け、憲法に従った政治を取り戻そうと「立憲デモクラシーの会」を設立。近著に「『改憲』の論点」(集英社新書)
 

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