[論説]広がる農福連携 多様性尊重する農村へ
農福連携は、障害者や福祉施設にとって、雇用の場の確保や工賃の向上といったメリットを得られる取り組みだ。受け入れる農業側は、労働力の確保や荒廃農地の解消、地域コミュニティーの維持などが期待されている。
政府は5日、新たな「農福連携等推進ビジョン」を決め、2030年度までに実践主体を1万2000件以上にする目標を掲げた。改正食料・農業・農村基本法でも、農村の振興施策として「障害者等の農業に関する活動の環境整備」が盛り込まれた。気になるのは、障害者の位置づけだ。農村振興施策の中ではなく、基本法の定める「多様な農業者」の一員として位置づけを改める必要がある。参院の付帯決議でも、次期基本計画の中で「障害者等も貴重な農業人材であることを明確にすること」と明記された。
農業には多くの仕事があり、障害の有無にかかわらず誰もが活躍できる余地はある。例えば新潟県長岡市のNPO法人UNE(うね)は、米や野菜、薬用作物のクロモジ、花ハスを生産。農産加工や農家レストラン、農家民泊など幅広い仕事を創出している。
JAも参入する。JAぎふは20年、100%出資の特例子会社「JAぎふ はっぴぃまるけ」を設立。単位JAでは全国初の試みで、知的・精神・体に障害を抱えた人が働いている。業務内容は農作業からJAの作業補助、地元農家の手伝いなど幅広く、21年には「ノウフクアワード」を受賞した。
農水省の調査では、22年度の農福連携の実践主体は6343件。同省のアンケートでは、障害者を受け入れることで農業者の77%が「収益性の向上に効果があった」と回答している。静岡県浜松市の京丸園では、1996年から毎年1人以上の障害者を雇用し続け、障害者の数に比例して売上高が拡大。97年から25年間で6・5倍に増えた。多様性を尊重することで、経営の改善につながっている。こうした好事例を全国に広げたい。
農水省は2024年度事業で、農業法人や福祉施設を対象に、生産・加工・販売技術を障害者が習得するための研修や作業マニュアルを作成、移動式トイレの導入などを支援する。農福連携は「誰一人取り残さない」という国連の持続可能な開発目標(SDGs)や協同組合の理念と合致する。まずは一歩を踏み出そう。