[論説]地方からの人口流出 違いを尊重する農村へ
総務省が公表した2024年10月1日時点の人口推計によると、日本人は前年同月比89万8000人減の1億2029万6000人となり、比較可能な1950年以降、最大の落ち込みとなった。外国人を含めた総人口も55万人減って、14年連続のマイナス。総人口は08年をピークに11年以降、減少が続いている。
特に深刻なのは東北だ。都道府県別で人口減少率が最も高かったのは秋田で1・87%。青森1・66%、岩手1・57%、山形1・49%、福島1・35%と続いた。特に秋田県の基幹的農業従事者は毎年約2500人減り続け、「10年後にはいなくなる」とJA秋田中央会の小松忠彦会長は危機感を募らせる。
東京圏への一極集中から、地方分散をどう実現させるか。出生率の鍵を握る20歳~39歳の若年女性が暮らしやすい地域にすることから始まる。元総務相の増田寛也氏が座長を務めた日本創生会議が14年に発表した「消滅可能性都市896全リスト」では、人口の「再生産力」に着目する。同年には「まち・ひと・しごと創生法」が施行され、地方創生の取り組みが本格化した。だが、依然として東京圏への一極集中は続く。
政府は昨年6月、地方創生の10年間の取り組みを総括。地方移住への関心の高まりなどを成果としつつ、女性・若者の人生設計において地方での暮らしが選択されるよう、魅力ある雇用創出が必要だと提起した。
まず、着手したいのが「アンコンシャス・バイアス(性別による無意識の思い込み)」への対応だ。「女性に理系の進路(学校・職業)は向いていない」「男性は仕事、女性は家事や育児に専念する」といったしがらみや押し付けは閉塞感を生む。性別にとらわれず、それぞれの生き方を尊重する農村を築くことが人口流出を食い止める鍵だ。
人口減少ワーストだった秋田県内でも、動きが出てきた。若手女性農業者でつくる「あきたアグリヴィーナスネットワーク」が農機の勉強会を開催し、「女性は機械整備が苦手」という思い込みを取り除く一歩となっている。
増田氏は、東京圏への女性の転入超過について「伝統や風習とか、地域の閉塞感を打破しないと変えられない」と指摘する。地方と東京圏との賃金格差をなくし、多様性の尊重が地方創生の鍵となる。