生乳生産・出荷抑制 生産基盤守れる対策を
生乳の増産が全国的に進む一方でコロナ禍による業務用需要の低迷などで需給が緩和し、バター・脱脂粉乳は過剰在庫を抱える。さらに年末には、処理能力を超える生乳の発生が現実味を帯びてきた。
このため中央酪農会議、日本乳業協会、Jミルクの酪農乳業3団体は各会員らに、12月下旬から翌1月上旬にかけて一時的な生乳出荷抑制など緊急対策を呼び掛けている。次の分娩(ぶんべん)まで搾乳を中止する乾乳や、牛の早期出荷、生乳を子牛哺育用に振り向ける全乳哺育などで出荷を抑制する酪農家に助成する。事業規模は2億5000万円とする。
消費拡大対策も業界共通で行う。乳業メーカーには①製品の生乳使用率の引き上げ②乳製品工場のフル稼働③積極的な販売活動──を求める。いずれの対策も、生乳廃棄の防止を目指したものだ。
北海道では別途、生乳生産の増産ペースを来年度から抑える。コロナ禍による需要低迷の長期化を受けた苦渋の対応だ。また、ホクレンは、本年度実施中の生乳販売対策の規模を80億円から90億円に増額することを決めた。乳製品の在庫削減へ輸入品などと国産を置き換える。財源は酪農家の拠出金などだ。酪農家は入り口と出口の両面の対策で負担を余儀なくされている。
増産の抑制は、規模拡大や省力化に向けて投資してきた酪農家にとっては営農・償還計画が狂うことを意味する。「先行きが見えない」「不安しかない」など若い担い手らは悲痛な思いを口にする。一方で「非常に厳しい試練だが、北海道酪農が試されている。この危機を一体で乗り越えたい」(十勝地方の酪農家)との声も聞かれる。
酪農危機を克服できるよう政府・与党は、来年度の畜産・酪農対策の検討に際し現場の取り組みを真摯(しんし)に受け止め、酪農家の声に耳を傾けるべきだ。厳しい経営実態を踏まえ、加工原料乳生産者補給金は再生産と将来への投資が可能となる水準が必要だ。総交付対象も適切な数量にしなければならない。集送乳調整金は、条件不利地からも確実に集乳できる単価が求められる。
償還金返済の延長や畜産クラスターの長期的な継続など、生産基盤を損なわないための最大限の支援も待ったなしだ。また生乳の需給調整や需要拡大、PRなどに、酪農乳業が全国一体となって取り組むことが肝要である。