世界土壌デー 劣化防ぎ地力の回復を
今年のテーマは「土壌の塩類化を阻止し、土壌の生産性を高める」。長年問題視されてきたが、再認識するのが狙いだ。世界では、沿岸部だけでなく、内陸部の乾燥地域でも塩類集積が深刻化している。
塩類化に限らず、土壌劣化は進んでいる。国連食糧農業機関(FAO)などが2015年に発表した世界土壌資源報告によると、世界の土壌の33%が劣化。要因の一つが風や水、耕起などによる土壌侵食だ。地球全体で年間の作物生産の0・3%が失われ、この減少率が続けば50年までに生産量は1割に上るという。
土壌中の有機炭素の減少もみられる。これは生産性を低下させるだけでなく、地球温暖化にも影響。炭素をためる倉庫の役割が土壌にはあるが、炭素が放出されると温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)やメタンに変わるからだ。
11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は、世界の気温上昇を1・5度に抑える努力を追求することで合意した。土壌の炭素の貯留量を増やすことは温暖化の抑制にとっても重要だ。また世界土壌資源報告は、有機炭素は極端な気候が土壌と作物に与える影響を緩和すると指摘する。
農水省によると、日本の農地土壌では、農業者の高齢化や省力化による堆肥の施用量の減少や、塩基バランスの崩れなどが課題だ。同省は土壌診断に基づく土づくりが重要だとし、堆肥施用量の増加や化学肥料の適正施用を推進する。これらは温室効果ガスの吸収源・排出削減対策にもなるため、同省は地球温暖化対策計画に盛り込んでいる。
農地の荒廃も課題だ。農水省によると、耕作が放棄され作物が栽培できなくなった荒廃農地は20年が28万2000ヘクタール。21年1月の調査では、今後5年で荒廃農地が増えると答えた市町村が7割を超えた。
土づくりやかんがいの整備など再生には多くの労力とコストがかかり、耕作放棄防止対策の実効確保が必要だ。
国連の予測では、世界人口は増え続け、今世紀末に110億人でピークになる。これだけの人々を養うには、生産力を持続できるよう土壌を保全管理しなければならない。日本の食料自給率は過去最低で、農地の保全と地力の回復で自給率を高めることが世界の食料需給の安定に役立ち、温暖化の抑制にも貢献する。そのために何をすべきか。それぞれの立場から考えたい。