TPP加入交渉 福島産輸入解禁が前提
TPPは、アジア太平洋の貿易自由圏を目指したもので、2018年末に発効した。世界の国内総生産(GDP)の約13%、人口5億人の巨大市場である。
けん引役だった米国はトランプ政権時代に離脱したが、日本が主導し、メキシコ、シンガポール、オーストラリアなど11カ国で締結した。
新型コロナウイルス収束後の貿易拡大への期待から、加入を希望する国や地域が出始めた。昨年、欧州連合(EU)から離脱した英国や、台湾、中国、南米のエクアドルが申請。韓国は4月の正式申請を目指している。
こうした動きに経済界では歓迎する声もあるが、日本政府は慎重に臨むべきだ。世界貿易機関(WTO)で途上国待遇を受けて急成長した中国は、国際ルールを守ると約束しておきながら知的財産権や国有企業でしばしばルール違反が指摘されてきた。実態を見極める必要がある。
日本は、米や牛肉など五つの重要品目を除き、農業分野の関税の大幅削減・撤廃に応じ、国内の通商史上最高の自由化に踏み出した。日本と同じような家族単位で農業を営む中国や韓国などが、農畜産物の市場開放を約束できるのか、大きな焦点となる。
中国、韓国、台湾は、日本の農林水産物に対する輸入規制を続けている。11年前の東日本大震災の原発事故に伴う安全性への懸念からだが、科学的に安全性は確保されているというのが日本政府の見解だ。
今年発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定でも中国や韓国は、安全性を理由に農林水産物の輸入規制を続けるなど、日本にとっては不満の残る内容となった。
TPP加入を増やすことを急ぐあまり、同じてつを踏んではならない。金子原二郎農相は、「TPPの高いレベルを完全に満たす用意ができているかどうかについて、まず、しっかりと見極める必要があると考えている」と述べ、慎重な構えだ。
台湾は加入実現に向け、日本への輸入規制を緩和した。残る野生鳥獣肉、キノコ類、山菜(コシアブラ)の輸入解禁ができれば、中国や韓国と交渉する際の好材料にもなる。
新しく議長国となったシンガポールは中国寄りといわれる。日本政府は、日本の農林水産物に対する不当な輸入規制を取りやめるよう、加盟各国の理解を得る外交努力を一層強める必要がある。