乳価の期中改定 待ったなしの政府支援
乳価の期中改定には、過去に経験のないほどの生産コストの急上昇を踏まえた。酪農経営は複合危機に陥っている。配合飼料や肥料などの資材が高騰する上、コロナ禍による需給の大幅緩和でバターや脱脂粉乳の在庫は膨らむ。こうした難題を受けて、乳業、指定団体ともに苦渋の妥結となった。
飲用向けの期中改定が合意しても苦境は続く。東日本の酪農家は「乳価が上がる11月まで経営が持たないという酪農家は複数戸ある。搾れば搾るだけ赤字。政府が求める自給飼料の増産といってもすぐに対応できず、緊急的な政府支援は必要だ」と訴える。
酪農地帯の北海道では、飲用の値上げだけでは生産者の手取りを確保できない。ホクレンは4日に飲用、発酵乳向けなどで1キロ当たり10円の値上げで妥結したと発表したが、チーズやバターなどの加工原料向けは継続協議とした。北海道の生乳のうち飲用向けは2割。今回の値上げを含めたプール乳価(総合乳価)で換算すれば1キロ当たり約2円の値上げにとどまる。
一方で、最終商品の乳製品が値上げされれば需要が減退し、今以上に在庫が膨らむ恐れがある。加工原料乳向けの期中改定交渉は、飲用以上に難航することが予想される。
北海道は本年度、需給緩和を踏まえて生乳の増産を抑制している。酪農家である道内のJA組合長は「酪農現場は苦渋の生産調整をしている。乳価の期中改定だけではなく、政府の支援がなければ未曽有の危機を乗り越えられない。このままでは地域から酪農家がいなくなってしまう」と訴える。営農資金の返済が迫る今冬には離農が相次ぎ、破産する酪農法人も出かねないほどの深刻な事態だ。
酪農現場や乳業メーカーだけで需給を調整するのは難しい。政府は、10万トンを超える脱脂粉乳の在庫低減対策の強化に加え、乳製品のミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)の縮小も視野に入れるべきだ。Jミルクが更新した2022年度の生乳生産量と牛乳乳製品の需給見通しによると、消費は今後も伸び悩み、需給緩和の傾向は続くとみる。展望は見いだせない。
11月から牛乳が値上げされ消費が減退すれば、酪農基盤は一層もろくなる。牛乳を手軽に飲めなくなる時は近づいている。乳価の期中改定だけでは経営は好転しない。政府の緊急支援を強く求めたい。