フランスワイン伝統守る 不作も味の「多様性」 特別編集委員 山田優

 先週、フランスを代表するワイン産地の一つ、ボルドー地区のワイン委員会から知らせが届いた。タイトルは「早い収穫、とても少ない収穫量、高品質のヴィンテージ」。4月下旬に歴史的な規模のひょうが畑を襲い、8月末にもひょうが混じった激しい雷雨に見舞われた。醸造用ブドウの今年の作柄は前年に比べ4、5割も減る見通しになったと報じている。

 欧州のメディアは、ボルドー以外を含め、50年ぶりの大不作になったフランスワインの減産を大きく取り上げている。スペインやイタリアでも作柄が悪い。欧州内外で、ワインの小売価格の値上がりが避けられない見通しだ。

 地球規模の気候変動の影響で、ひょうや大雨、干ばつなどがフランス各地のワイン産地を悩ます。作柄や価格の変動は、消費者や農家にとって、当然ありがたくない話だが、彼らは不思議と事態を冷静に受け止めているように見える。

 ボルドーと並ぶ有名産地のブルゴーニュを2月に訪ねた。超高級醸造用ブドウを栽培する地区で、農家とワイン普及団体の役員に話を聞くと近年、干ばつが頻発し、生産量が極めて不安定になっている。

 そこで質問してみた。

「かんがい設備を入れれば、増収も生産の安定もできるのでは」

 彼らは答えた。「同じ土壌の畑で古来伝わる栽培方法を守ることが一言では語れないワインの複雑な奥深さを生み出す。(人工的な)かんがいは厳しく禁じている」と。

 これが日本なら、ブドウの品質を落とさないような工夫をしつつ、かんがい設備を設置し、生産安定を図るのが定番だ。実際、欧州と競合する米国やオーストラリアなど新大陸の産地は、かんがいが生産を支えている。

 フランスの有名産地がかんがいを拒むのは、近代的な手法に頼れば頼るほど、土壌の特徴を消し、味が均一になると考えているからだ。消費者の側も、干ばつや長雨など不作の年があることで、年ごとの味の違いを「多様性」として楽しんでいる。

 「ワイン造りの9割はブドウ作りにある」と話してくれたのは、ブルゴーニュの名門ワイン農家。個性のないブドウからは個性のないワインしか造れない。かたくなに伝統に従うのは、長年にわたり地元で培ってきた農業への誇りがあるように思う。だから、不作の年でも不思議と冷静でいられるのだ。

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