体験教室や放牧酪農 見える化で価値普及 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ

 酪農家はなぜ減るのか。先週、都内で関東農政局・中央畜産会主催の「酪(楽)農のすすめセミナー」が、岩手県では「牛飼い女子会」が開かれ、続けて参加してきました。シビアな現実の中で感じた希望は、酪農教育ファームの話です。千葉県八千代市の加茂牧場で体験した小学生の映像を見せてもらうと、牛の背中を触った途端、こどもが「キモチいいー!」と叫んだのです。その感受性に私は心をつかまれました。牛の背中は触るとこんなに気持ちいいんだ。その子自身が会得した発見です。自然界の素晴らしさに、あっと目を見張る感性は「センスオブワンダー」と呼ばれ、生物学者で作家のレイチェル・カーソンが提唱した言葉です。

 牛乳とは、母牛から出る母乳である。牛の命のぬくもりを一度でも体験した子どもは、食べ残しはいけない、命を大切になど、お仕着せの食育をしなくても、食べ物の意味を感じ取るはずです。酪農教育ファームの意義は、食育、環境、異なる存在への愛着や思いやり、命の尊厳、社会、理科、道徳・・・、子どもと牛が出合うだけでさまざまな教えをもたらします。同時に、牛と子どもの間を取り持つ酪農家の存在を知るのです。牛について物知りなその人は先生であり、牛が言いなりになるその人は親以上に偉い人です。酪農家という仕事を尊敬し、いつか自分の職業にしたいと憧れる子も出てくるでしょう。

 農家の減少の一つに産地と食卓(農村と都市)の乖離がありますが、見えない職業に人は憧れることはできません。必要なのは見せることです。他にも、牛の命や牧場の営みを外に「見える化」している農業があります。放牧酪農です。水田放牧、林間放牧、山地酪農。北海道に限らず、岩手、茨城、高知、他にもわずかではありますが存在します。先日は、神奈川県で山地酪農を始めるという女性に出会いました。放牧は酪農における最大の「見える化」です。オープンな農業はさまざまなイノベーションを呼び起こすでしょう。

 折しも今日13日、関東向け初の「放牧のすすめシンポジウム」が東京・銀座で開かれます。耕作放棄地の解消、荒廃した森林の下草刈り(別名・舌草刈り!)、農山村に人を呼び込むなど、課題の解決にもなります。農業の意義は食料生産だけではありません。国を耕し、人の心を耕すのがagricultureです。包括的な農の価値を放牧から広めようではありませんか。

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