人手足らず作業遅れ 復興への道筋描けず 台風19号から1カ月 園地に今なお土砂 長野県中野市
2019年11月13日

大量の土砂の横で「50センチほど堆積している」と説明する神田さん(長野県中野市で)

広範囲に浸水被害をもたらした台風19号が上陸して12日で1カ月。記録的な大雨による河川の氾濫や堤防の決壊などで大量の土砂が園地に流れ込み、今も堆積したままだ。農家は膨大な量の土砂を前に、復興の道筋を描けずにいる。生産現場はきめ細かい国の支援策や人的支援の必要性を訴えている。(藤川千尋)
長野県では千曲川の氾濫で、県北部6市町の903ヘクタールの果樹園に土砂が堆積している。このうち中野市では11日時点で220ヘクタールに土砂が積もる。長野市の520ヘクタールに次ぐ規模だ。
「大量の土砂、どこから手を付けていいのやら……」。自宅が浸水し、1カ月ほど家の片付けなどに追われた中野市上今井地区で桃などを栽培する神田茂貞さん(52)は、園地を見て肩を落とす。桃やスモモの園地計65アールが被災。最大約50センチの泥が堆積する。園地までの道の一部の土砂をかき出したが、園地の奥や木の周りに堆積した土砂の搬出には手が回っていない。「リンゴより桃やスモモの木は弱い。根が張る木の周りの泥だけでも取り除きたい」と話す。
JAながのみゆきもも部会部会長の神田さんが危惧するのは泥の除去が遅れて木が枯れ、離農者が出ること。桃を改植した場合、出荷できるまで5、6年かかる。35戸の部会員のうち70歳以上が6割以上だ。神田さんは「改植する元気のある高齢農家は少ない。時間がたつほど木が弱り、離農リスクが高まる。雪が積もる12月までに何とかしたい」と気をもむ。
「(行政支援で)土砂を運び出すにしても、自己負担の程度や、集めた土砂の運搬先など、分からないことが多過ぎて困っている」と打ち明けるのは、JAみゆきりんご部会部会長の小林万伸さん(63)。リンゴ40アール、スモモなど35アールが水に漬かり、泥が流れこんだ。これまでは泥をかぶり出荷ができなくなったリンゴを木から落とす作業に追われた。農地につながる道は今も泥が積もる。「土砂を人力で運搬するのは限界。重機確保が重要で、行政支援がないと厳しい」と国のきめ細かい支援を訴える。
果樹は枝が低い位置にあるため、重機が農地に入ると枝が折れる恐れもある。JAみゆき営農センターの高橋幸人センター長は「重機が入れない農地は、人が土砂をかき出す必要があるが、人手が足りない」と外部からの人的支援を求める。
甚大な被害に市も対応に苦慮している。市は、国の災害復旧事業を活用して土砂を撤去する調査をしているが、「測量する人の不足や水分の量が多い園地に入るのが難しく時間がかかっている」と話す。国は激甚災害の指定で、国庫補助率を最大96%程度までかさ上げした。市は、農家に自己負担を求めるかどうかは決めていない。13日までに土砂の堆積状況を調べる予定だ。
長野県では千曲川の氾濫で、県北部6市町の903ヘクタールの果樹園に土砂が堆積している。このうち中野市では11日時点で220ヘクタールに土砂が積もる。長野市の520ヘクタールに次ぐ規模だ。
「大量の土砂、どこから手を付けていいのやら……」。自宅が浸水し、1カ月ほど家の片付けなどに追われた中野市上今井地区で桃などを栽培する神田茂貞さん(52)は、園地を見て肩を落とす。桃やスモモの園地計65アールが被災。最大約50センチの泥が堆積する。園地までの道の一部の土砂をかき出したが、園地の奥や木の周りに堆積した土砂の搬出には手が回っていない。「リンゴより桃やスモモの木は弱い。根が張る木の周りの泥だけでも取り除きたい」と話す。
JAながのみゆきもも部会部会長の神田さんが危惧するのは泥の除去が遅れて木が枯れ、離農者が出ること。桃を改植した場合、出荷できるまで5、6年かかる。35戸の部会員のうち70歳以上が6割以上だ。神田さんは「改植する元気のある高齢農家は少ない。時間がたつほど木が弱り、離農リスクが高まる。雪が積もる12月までに何とかしたい」と気をもむ。
「(行政支援で)土砂を運び出すにしても、自己負担の程度や、集めた土砂の運搬先など、分からないことが多過ぎて困っている」と打ち明けるのは、JAみゆきりんご部会部会長の小林万伸さん(63)。リンゴ40アール、スモモなど35アールが水に漬かり、泥が流れこんだ。これまでは泥をかぶり出荷ができなくなったリンゴを木から落とす作業に追われた。農地につながる道は今も泥が積もる。「土砂を人力で運搬するのは限界。重機確保が重要で、行政支援がないと厳しい」と国のきめ細かい支援を訴える。
果樹は枝が低い位置にあるため、重機が農地に入ると枝が折れる恐れもある。JAみゆき営農センターの高橋幸人センター長は「重機が入れない農地は、人が土砂をかき出す必要があるが、人手が足りない」と外部からの人的支援を求める。
甚大な被害に市も対応に苦慮している。市は、国の災害復旧事業を活用して土砂を撤去する調査をしているが、「測量する人の不足や水分の量が多い園地に入るのが難しく時間がかかっている」と話す。国は激甚災害の指定で、国庫補助率を最大96%程度までかさ上げした。市は、農家に自己負担を求めるかどうかは決めていない。13日までに土砂の堆積状況を調べる予定だ。
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現政権とは〈似て非なるもの〉だろう
現政権とは〈似て非なるもの〉だろう。句をたしなむ文化人でもあった。心に残るのは、首相退任時に詠んだ〈暮れてなほ命の限り蝉(せみ)しぐれ〉である▼中曽根康弘元首相は、功罪あるが戦後政治に大きな足跡を残した。小欄でも何度か取り上げ、5月29日付では衆参ダブル選も念頭に亥(い)年選挙と101歳の誕生日に触れた。それからちょうど半年後、11月29日の「議会開設記念日」に亡くなるとは、やはり政治の“申し子”だったのか。今につながる政治の源流で、官邸主導の礎を築く▼旧制静岡高校から東京帝大法学部、内務省とエリート街道を進み、海軍主計中尉として敗戦を迎える。一転して政治を志し戦後初の衆院選に28歳の若さで当選した。リーダーシップの根底には旧制高校時代の古典的教養があった。読書と思索を欠かさず文化人、学者らの幅広い見識を求めた▼親米路線、改憲、政治主導と中曽根、安倍両氏は一見似ているが中身と手法が違う。言い訳に終始する現政権とは異なり、中曽根氏は真っ向勝負の論戦こそ求めた。半面で農業面では両政権に大差はない。市場開放問題に直面し農協批判も表面化した▼今年の漢字一字は「令」に。改元を踏まえたこの1年を表す。きょうは正月事始め、すす払い。政治の“大掃除”も急がねば。
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2019年12月13日

[未来人材] 31歳。アセロラ商品次々打ち出し売り上げ伸ばす 赤い実地域の基幹に 並里康次郎さん 沖縄県本部町
沖縄県本部町の並里康次郎さん(31)は、アセロラの魅力を発信する若き経営者だ。今年、生産・加工・販売を手掛ける(株)アセローラフレッシュの社長に就任。鮮やかな赤色のジュースを軸に、新商品を矢継ぎ早に打ち出し、入社7年で売上高を1・5倍に増やした。アセロラの生産や加工を地域の基幹産業にしようと意気込む。
「きれい」。同社の直売所をひっきりなしに訪れる消費者が「アセローラフローズン」(300ミリリットル、600円)を注文し、写真に収める。果汁を凍らせた商品で、無着色の鮮やかな赤が「映える」と人気だ。
「果実は日持ちしないが、収穫してすぐに搾ると果汁はピンク色や黄色になる。赤を出すのはタイミング勝負」と並里さん。「他では出せない色。スタッフのおかげだ」と胸を張る。
商品が誕生したのは2013年。当時入社2年目の並里さんが単身、東京都内へ出張したのがきっかけになった。ふと目にしたスムージーに着想を得た並里さんが社内でアイデアを共有し、商品化。爆発的に売れ、すぐに同社の“看板”に成長した。酒造や乳業などの大手と協力した商品開発も同時期に進み、会社は勢いを増していった。
ただ、並里さんにとっては必ずしも順風満帆ではなかった。同社は亡き父が30年前に設立。並里さんは大学を卒業した12年に入社したが、当初は「社長の息子だという色眼鏡で見られていた」。取引先や社員らの信頼を得るため、謙虚でいようと心掛けた並里さん。会社の後継ぎではなく「一営業マン」として、率先して営業に汗を流した結果、周囲の並里さんを見る目が徐々に変わった。
社長に就いた今年は新商品を打ち出した。知人のシェフの協力を得てアセロラの皮や種とカラシナの種を使ったマスタードなどを商品化。「イチゴの『あまおう』のようにしたい」と、「美ら実(ちゅらみ)」というブランドも発表した。県と協力して酸味の強い新品種も開発中だ。
同社の売上高は入社当初の4500万円から7000万円に成長した。「多くの人の支えがあった。もっと力を付け、契約農家から多く仕入れたい」と話す並里さん。赤い果実で地域を盛り上げる。(松本大輔)
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2019年12月15日

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日

イノシシ捕獲に手引 環境、農水省 ウイルス拡散を防止
環境省と農水省は、豚コレラ(CSF)、アフリカ豚コレラ(ASF)対策として野生イノシシの捕獲に関する防疫措置の手引を作成した。国がイノシシ捕獲の手引を作成するのは初めて。野生イノシシの捕獲を強化する必要がある一方で、捕獲でウイルス拡散の恐れがあることから、狩猟者に防疫の手法を徹底する。
手引では、これまで農水省がイノシシ捕獲に関して通知していた文言や特定家畜伝染病防疫指針などを踏まえ、捕獲作業の事前準備から帰宅後の対応までを写真と共に掲載した。
現地に到着し、わなの設置や見回りをする前に手袋や長靴を装着するなど、作業ごとのポイントを解説。手袋は二重に装着し、内側のゴム手袋は洋服の袖口を覆うように着用するなど詳細に注意を呼び掛けた。
防護服や靴底の泥落としに使うブラシなどの持ち物チェックリストも併記している。環境省は「イノシシを捕獲する中で、豚コレラが拡大してしまうことを防ぐため、あらゆる捕獲に関する防疫手法をまとめた。手引を参考に、各地域で必要な防疫対策をしっかり行ってほしい」(野生生物課)と呼び掛ける。
手引は、アフリカ豚コレラが発生した際にも活用できる。
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2019年12月13日

GA×BA 植調剤組み合わせるだけ コチョウラン高品質に 花茎伸び花数が増 愛知県農総試
愛知県農業総合試験場は、植物成長調整剤のジベレリン(GA)とベンジルアデニン(BA)の処理を組み合わせることでコチョウランの花茎を伸ばし、花数を増やす技術を確立した。1週間おきに、花茎にGA、花茎先端部にBAを噴霧することで、比較的簡単に高品質なコチョウランを生産できる。
コチョウランは、贈答用需要があり、花数が重要だ。計画的な開花に向け、5~10月の高温期の冷房処理が一般的だが、維持管理が難しく、花数の減少や花茎の伸長不良など品質低下対策が求められていた。
今回の技術はGA処理で花茎を伸ばし、BA処理で花数を増やす。GA処理は、長さ5~20ミリの花茎に1週間おきに、GA(濃度100ppm)を2回散布する。無処理に比べ、花茎長を6~7センチ伸ばせた。
BA処理は、つぼみが7個ほど付いた後、花茎の先端に1週間おきに、BA(濃度30ppm)を5回以上噴霧する。無処理では10輪程度だが、BA処理を3~5週続けると、3輪ほど増える。BA処理は続けるだけ花数が増えるが、花が小さくなることがあるので注意が必要だ。
同試験場は「12月にBAがコチョウランで農薬登録され、現場での普及が進みそうだ。技術の利用で生産者の所得向上が期待できる」としている。
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2019年12月13日
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[活写] 真の白でお正月
静岡県浜松市で正月飾りなどに使われる「ウラジロ」の収穫がピークを迎えている。ウラジロ科のシダ植物で、その名の通り葉の裏が白い。JA遠州中央の「遠州・山の香部会」に所属する農家のうち10戸が出荷に携わり、各自が所有したり借りたりする山の斜面の草を刈り、自然に生えたものを収穫する。
農家は持ち帰った形の良い葉を大きさで4段階に選別。「大」は50枚、他は100枚ずつ箱詰めし、東京・大田市場や豊洲市場に送り出す。
今季は、昨シーズンの731ケースを上回る1000ケースの出荷を目指し、来年1月まで収穫を続ける予定。同部会役員の金指勝郎さん(44)は「最近はプラスチック製の葉を料理に添えることも多いが、お正月には本物で彩ってほしい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月15日

良い年純国産で 「大門のしめ縄」最盛 愛知県岡崎市
愛知県岡崎市大門地区で作られる工芸品「大門のしめ縄」の生産が、最盛期を迎えている。鮮やかな青色の稲わらが特徴で、夏に専用品種を青田刈りして年末需要に備えてきた。地域に根差し、需要は堅調。今年は「地域団体商標」の登録も受けて、しめ縄産地のブランド維持に努める。
大門のしめ縄は明治時代に生産が始まった。いまは5戸で構成する大門〆縄(しめなわ)協同組合が、年間30万本を生産する。12月にピークを迎え、近隣のスーパーやホームセンターに並ぶ。
水稲は、しめ縄専用に品種「東海千本」または黒穂(古代米)を作付けし、7、8月に青刈りをする。大小さまざま25種類あるしめ縄に使うため、高さ1メートルほどで刈った後、追肥して再び50センチほどに伸ばして二番刈り、また三番刈りもして、多様な長さの稲わらを用意する。収穫後はすぐに乾燥させて、年末まで保管する。
組合の代表を務める蜂須賀政幸さん(62)は「暑い盛りに収穫するのは大変だが、きれいな青色を維持するために必要な作業だ」と話す。最盛期には約40戸のしめ縄農家がいたが、徐々に減少。それでも需要は堅調で、正月飾りとして、多くの住民が買い求める。
今年5月には、特許庁の地域団体商標に登録された。輸入品に押される中、稲わら生産からしめ縄作りまで一貫して行う“純国産”をアピールする。蜂須賀さんは「近年は需要に生産が追い付かないほどで、地域の正月には欠かせないもの。作り続けたい」と話す。
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2019年12月14日

台風19号から2カ月 復旧から復興へ 農業の未来どう描く
河川が氾濫し、大きな浸水被害が出た台風19号から2カ月。福島、宮城両県の被災地では農機が水に漬かって使えず、将来への不安を抱える農家も少なくない。農作業の受委託や機械の共同利用、高台への集団移転など対応策を探る動きも出ているが、地域農業の今後についての話し合いは、始まったばかりだ。(音道洋範)
機械共同利用を模索 福島県鏡石町
「来年、代わりに植えてくれないかという話がいくつか来ている」と語るのは福島県鏡石町の農業、圓谷正幸さん(51)だ。台風19号では町内を流れる阿武隈川の堤防が決壊。圓谷さん宅のある成田地区は川沿いの平たん地のため、80世帯のほとんどが被災した。
地区では各農家が、トラクターから精米機までをそろえて作業していたが、水没で多くが利用できなくなっている。現在、圓谷さんには水稲2ヘクタールの作付け依頼がある。被災をきっかけに離農も心配されている。
圓谷さん自身、自宅は床上浸水し、キュウリ栽培のビニールハウスも流された。トラクターやコンバインなどほぼ全ての農機具も全損し「損害額は3000万円以上」と話す。例年2月には促成キュウリの栽培が始まるが、ハウスや暖房器具の再建はこれからだ。
圓谷さんは、国の支援事業などを活用しながら再建を目指しているが、「今後はライスセンターの整備をはじめ、地域で機械の共同利用を行うなど地域農業の在り方を考えなければならない」と話す。
同地区は川が運んだ豊かな水と土で良い作物が取れる半面、約30年前にも住宅再建が必要なほどの大規模水害が起こっている。農家の中には将来への不安や「何回も支援を受けて再建するのはどうか」と苦しい胸の内を話す人もいるという。
台風19号による鏡石町の農業被害額は約11億7900万円に及ぶ。町は「農家からは住居や農業施設などの高台への移設を要望する声も上がっている」(産業課)とし、復興策について住民との話し合いを加速させたい考えだ。
集団移転の議論始動 宮城県大郷町
河川の堤防決壊を受け、集団移転への議論を始めた地区もある。
宮城県大郷町では吉田川が決壊し、床上・床下を合わせて204戸の住宅が浸水被害を受けた。町では川沿いの地区を、川から離れた場所へ移転させる“集団移転”に向けた議論が始まった。
町は11月、被害の大きかった中粕川と土手崎・三十丁の2地区の住民143世帯を対象に対面アンケートを実施。118世帯から回答を得た。
このうち、中粕川地区では、集団移転について「条件次第(受動的)」との回答が29・5%と最多。一方で全壊世帯に限ると「推進」が29・4%と最も多く、「条件次第(積極的)」と合わせると47%と半数近くが移転に前向きであることが分かった。
町の千葉伸吾参事は「住民の意向を復興政策に反映させていきたい」とコメントするが、話し合いは始まったばかりだ。町は12月22日にも復興基本方針を住民に説明する予定だ。
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2019年12月14日

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
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仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
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2019年12月12日

みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

地元でもやりたいことできる “Uターン組”食で催し 新潟県糸魚川市
新潟県糸魚川市にUターンした若者らが、「つなぐKitchen Project(キッチンプロジェクト)」のメンバーとして、食を題材にしたイベントを企画・開催している。プロジェクトを通して、糸魚川を離れた若い世代に「糸魚川でも自分たちのやりたいことができる」ということを伝えていく。
メンバーは市役所職員の杉本晴一さん(26)、イタリアンシェフの渡辺光実さん(28)、米や果実などを栽培する生産者の横井藍さん(28)と、JAひすい営農指導員の小野岬さん(24)。
市の広報紙の取材で若手Uターン経験者として杉本さん、渡辺さん、横井さんが集まり、3人で意見を交わす中で「それぞれのやりたいことが3人ならできる」と意気投合し活動を始めた。
その後、女子メンバーが欲しいという横井さんの希望で、巡回で来ていたJAの小野さんが仲間に加わった。プロジェクトチームの名前には「糸魚川のいろいろなところで人・物・事をキッチンでつなぐ」という願いを込めた。
職種の異なるメンバーが、それぞれの得意分野を生かしながら活動。7月には「ハヤカワ夏のピザまつり」を開いた。親子連れ30人が参加し、夏野菜をトッピングしてピザを作った。11月には「ハヤカワ秋のイモまつり」を開いて親子20人が焼き芋などを楽しんだ。
補助金を頼りにせず、全てを参加費で賄えるよう工夫して企画・運営している。メンバーは7月のイベントに合わせて動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考にピザ窯を手作りし、11月のイベントでも大活躍だった。
横井さんは「畑で作られた野菜を味わって土に触れる感動を子どもたちに伝え、食を通して農を知ってもらえるような活動をしたい」と意欲を見せた。今後は小学校で取り組む「キャリア教育」などを通して農業の現場と教育の現場をつなぐとともに、イベント依頼などに積極的に対応していく。
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2019年12月07日

ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日