アグネス・チャンさん(歌手) 食事通じて家族の絆育む

アグネス・チャンさん

 幼い頃に私の母は「医食同源だから」と食事の重要性を教えてくれました。「先祖さまからいただいた体を生かすのも壊すのも、自分次第。効能良く食べなさい」とよくいわれました。

 その教えを思い出して、自分が子どもを育てる時には、手料理を中心にしたんです。コンビニには行かない、インスタント食品や冷凍食品は使わないと決め、食材は信用できる質の高いものを取り寄せるようにしました。
 

男の子を台所に


 仕事もあってすごく忙しかったんですけど、毎朝早く起きて朝ご飯を用意し、子どもたちのお弁当を作りました。夜は7時前に仕事を終わらせて大急ぎで帰り、まず炊飯器のスイッチを押して、ご飯ができるまでにスープとおかずを少なくても4品作りました。子どもたちが、まるでひながアーンと口を開けて親鳥からの餌を待っているように見えたから、急がないといけないと思って。

 お菓子もほとんど手作りでした。誕生日のケーキは自分で焼きましたし、ハロウィーンのパンプキンパイもたくさん作りました。

 年間を通じた行事での料理は手作りし、それを頂くことで行事の意味を皆で考えました。サンクスギビング(感謝祭)では七面鳥を焼き、収穫や家族全員の健康に感謝の気持ちを持ちました。

 3人の子どもは全員男でしたが、台所に立たせ、一緒に料理することで成長を促しました。切ったり炒めたりする時に油断をするとけがをしますから、それを避けるため集中力が付きます。やり通すことの大切さも学べます。失敗を経験することも大事ですし、だからこそ成功した時の喜びも感じられます。一緒に食べてる人と喜びを分かち合えることの素晴らしさを教えました。

 私は子どもが1人で食べることがないように気を使いました。1人で食べることは、精神的によくないと思うからです。3人の子のうち2人が友達と約束があるので出掛け、1人だけが家に残る日もあります。そんな日にたまたま夫も私も仕事で一緒に食べられないという時は、1人残る子どものため、事務所のスタッフに一緒に食事してもらったこともあります。
 

共食で愛伝える


 3番目の子が中学の時のことです。2人の兄はもう家を出ていました。夫は仕事で外食をする、息子は友達と約束して夜に出掛け、私1人だけ家で夕飯を食べるという日があったんです。

 そろそろ夕飯を食べようかという時、息子が帰ってきました。「ママ、夕飯食べよう」って。私に1人で食事をさせないために、いったん戻ってきたというんです。私、あまりにうれしくて泣きそうになりました。急いでご飯を食べ終え、息子を玄関まで見送ったことを鮮明に覚えています。

 わが家の味を覚えた子は、必ず家に戻ってきます。その味を食べた時に、自分は親から愛されているんだという安心感を得るからだと思います。

 子どもはもう33、30、23歳になり、全員アメリカに住んでいますけど、家に帰ってきた時には喜んで私の料理を食べてくれます。

 スペアリブ、栗と鶏の煮込み、カレー味の春巻き、野菜の中華風の炒め物など。子どもの頃に好きだった料理を並べ、楽しく会話をしながらいただきます。

 食事というのは、親が子どもに愛情を伝える一番早い方法だと思います。子育てをしている若いお母さんには、食事を通じて良い思い出を作ってあげてほしいですね。(聞き手・写真=菊地武顕)

 アグネス・チャン 1955年、香港生まれ。72年、「ひなげしの花」で日本で歌手デビュー。「草原の輝き」「小さな恋の物語」などのヒット曲を出した。ボランティア活動にも注力し、2016年、国連児童基金(ユニセフ)・アジア親善大使に就任。18年に旭日小綬章を受章した。「未知に勝つ子育て:AI時代への準備」など教育本を多数出版。
 

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